森の小道を素朴な麻の服を着た少女が歩いている。町から馬で向かっても最低半日かかるくらいの小さな田舎村で暮らす彼女は野草やキノコを採りに数日に一度、こうして森の中へ入る。背負っていたカゴにある程度溜まってくると少女は一旦休憩しようといつも行っている川に向かう。
「うっ……」
鼻をつく異臭。嫌な予感がしながら足早に川へ行くと、そこには数体の遺体が流れ着いていた。
「獣人か…ならまだ良かった……」
今は自分達の村も一応属している人間の大国と人外の大国が戦争をしているらしい。川に流れ着いていたのが敵である獣人だったのである程度は気分が楽になるものの、損傷した遺体をみるのは心地良いものではない。
「村のみんなに言って早く片付けないと、川の水が汚れてしまうわ……」
辺境の村であるからか、こうしたことは珍しいことではない。とりあえず半身が川に浸かったままの遺体を引きずって川岸に上げ、元々打ち上げられていた遺体の隣に並べる。
作業を終えて何となく遺体を見回すと、元々打ち上げられていた遺体のひとつに気を取られた。
薄灰色で黒ぶち模様の、犬のような顔で丸っこい耳の獣人は、何かを握りしめながら力尽きていた。
「これは…この人の家族なのかな……」
興味本位で見てみると握られていたのは金色のロケットペンダントで、似たような獣人の大人1人と子供2人が彫られている。どうやらこの獣人は川に打ち上げられた後も生きていて、最期にこれを眺めていたらしい。
敵とはいえ胸に嫌な感じがした彼女は獣人をそっと仰向けにさせようと手を伸ばして、なにもないところで手に生暖かいものが触れて手を引っ込める。
数秒固まって、そっと手のひらを鼻のあたりにかざしてみると、その獣人が弱々しく呼吸していることがはっきりと分かった。
なんとか周りを説得して空き家に運び込んで寝かせていた獣人は2日後、少女が所々ダマになっている毛をほぐしている時にふとみると目を開けていた。
「あっ…その…えっと……」
もちろんその為に看病していたのだが獣人と話したことなんてある訳なく、こんな辺境の田舎に住む少女に獣人に対する知識があるわけもなく、少女の頭が真っ白になる。獣人は部屋の中を見回して、自分が捕らえられた訳ではないと理解した。
「…助けたのか?俺を。」
言葉が通じる、ということがわかった少女は張り詰めた糸が切れたように一気に喋り出した。
「あっ、その、はい!あの、違います、あっ違うっていうのはそうじゃなくて、その、川で倒れてたから、その、えっと、私たちはあなたに何かしようとか、そういうんじゃなくて、えっと、助けたいだけなんです、だから、こっ怖がらないで欲しいなって…」
怖がっているのはどう見ても少女の方だったが、ひとまず敵意が無いことは伝わったらしく獣人はため息をついて目を瞑る。
「ここはどこなんだ?俺たちの…国からどれくらい離れてる。」
「村の名前は無いんです。えっとだから……」
「街から離れた田舎村か。」
「そうです!」
だから人間の兵に見つかる可能性は低い、と伝えると獣人はいくらか安堵したようだった。
「あっ、そうだ、これ……」
少女は机に置いてあった彼のロケットペンダントを差し出し、彼は受け取るとじっとそれを見つめた。
「大事なものなんですよね。」
「そう…なのかもな。よく覚えてない。」
「え?」
「記憶が曖昧だ。どうしてこうなったのかも覚えてない。戦争をしていたのは覚えているが。」
少女がパニックになっている間、獣人は冷静に自分の状態を確認していた。身体の節々は痛み出血箇所はいくらかあるもののそこまで深くは無い。骨は折れていないようだが強い痛みがあるのでヒビが入っているかもしれない。
「よく、俺を助けたな。他の人間は。」
「あ…その…怪我が治るまではいて良いって……その首飾りを見て、きっと悪い人じゃないって…」
「そうか。…もちろん人間とて命の恩人に手を出したりしない。動けるようになったらすぐ出ていく。」
でも記憶の一部が欠けてしまっているのにどうやって帰るのかと聞こうと思ったが、獣人はかなり疲れている様子だったので後にしよう、と立ち上がった。
「あ、あの、なにを食べるんですか?」
何故そんなことを聞くのかと一瞬疑問に思って、この人間が獣人に対して無知であると理解する。
「人間と変わらないと思う。…水をもらっても良いか。」
「あっ、はい。水差しここに置いておきますね。あの、私、エフィヤって言います。外にいるので、何かあったら呼んでください。」
少女はそそくさと家を出て行き獣人は辺りをもう一度見回した。素朴な石造りの家の中は殺風景で、ベッドとその周辺の水差しや包帯などの小物以外は何もない。部屋は仕切られていて蝶番はあるものの扉は外されていて奥に見える暖炉は埃を被っている。しばらくは使われていないことが見て取れた。
「まさか、人間に拾われるとは…」
彼らが自分をどうしようが今の自分では何もできない。彼女が何も言わないからきっと生き残ったのは自分だけ。解決しないことを考えても無駄だと、獣人は水を少し飲んでから再び眠った。
それから2週間ほど獣人は看病されて、歩けるようになった彼は例の少女に連れられ村を見てまわる。小さな農村の住人達はその様子を好奇の目で見ていた。
「メス…女ばかりだな。男は子供しかいない。」
見た限り彼女より歳下の少女が数人とまだ幼そうな男児が2人、あとはその母親らしき者ばかりで男が見当たらない。それに気づいた彼に、少女は頷いた。
「みんな徴兵されました。こんな小さな村だから…14歳になったらみんな。元々そんなにたくさんの人がいた訳じゃないので余計に寂しくなりました。」
「そうか…愚問だった。忘れてくれ。」
女と幼子だけ残すとは酷なことをする、という言葉は胸にしまって歩く。
「あの、何か思い出せましたか?」
「そうだな。少しずつ…もやが晴れてくような、そんな感じだ。」
たまたま通りすがった、干し草の束を重そうに運んでいる女性を手伝うと、女性は狐につままれたような顔をして礼を言った。
「ガウルさん、私、キノコとか食べられる草を採りに行ってくるので家で休んでいてください。」
「…ひとりで行くのか?関心しないな。獣が出たらどうする。」
彼女の野草採りに彼も同行して、2人で森の中を歩く。荷物は彼が持った。
「ガウルさん、大丈夫ですか?」
「むしろ身体を動かしたかった。傷は問題ない。エフィヤ、改めて礼を言わせてもらうよ。でもどうして助けた。お前の父親も戦争の為に駆り出されたんだろ?」
「なんというか…言葉にできないです。ただあのペンダントをみて、助かって欲しいなって……」
そう言われて彼は首に下げていたそのペンダントのロケットを開く。
「これか。これは母の形見だ。それは思い出した。」
「あ、お母さんのだったんですね…てっきり……」
「俺の妻子だって?嫁はいないな。多分。これのことを覚えてるんだから流石に忘れてないだろう。」
不意に彼が立ち止まって、口元に人差し指を当てる。
「ちょうど良い土産だ。」
口角を吊り上げ牙を見せて笑うと、懐からそっと短剣を取り出した。
「ママ!エフィ姉さんと"ジュウジンサン"が帰ってきた!」
獣人の青年と2人で森に入った少女を心配していた彼女の母親をはじめとする村の女性達が急いで向かうと、獣人が引きずっていた首無しの大鹿を見て驚きの声を上げる。
「今からさばいてやる。血抜きはしてある。家畜潰すよりずっと良いだろ?」
そう言って身体に全く傷がない大鹿を地面に寝かせてあっという間に皮を剥ぐと綺麗に内臓を取り除き、食べられるものは剥いだ皮の上に乗せ、慣れた手つきで残りを解体した。
豚や牛も半分以上国に納めたため、久方ぶりのご馳走に子供達はあっという間に彼に懐き、これには大人も喜びを隠しきれなかった。
ガウルはその後も記憶が戻らないことを理由に村に滞在することになり、初めは彼をあまり好意的に思っていなかった大人達もあまり時間が経たないうちに彼を受け入れ打ち解けた。彼の穏やかな性格も要因の一つだが、力仕事を進んで手伝ってくれることが女性達の心を掴んだのだ。
「ガウルさん、収穫を手伝ってくれないかい?」
「分かった。」
「ワン兄!後で遊んで!」
「こら失礼でしょ…」
農作業を手伝っていると度々幼子が寄ってたかる。ワンワン(犬)のお兄さんということで子供達は彼をそう呼んだ。
「俺はハイエナなんだが…」
「はいえなって何?」
「あー……なんでも良いよ…」
何ヶ所かの畑の収穫を手伝って正午を過ぎるとエフィヤがパンと牛乳を持って休憩を持ちかける。
「いやぁガウルさんが来てくれて本当助かってるよ。男はみーんな国に取られちまったからねぇ…」
この村の男児はあと2人。その内の歳上は10歳。その子が14になる前に戦争が終わって欲しいと母親達は口々に言った。
その狩り出された男達を殺したかもしれない獣人と、仲間の仇の家族かもしれない人間が一緒に地面に座り込んでいる。奇妙な光景だ。
「きっと負け戦なのよ。こんなちっぽけな村から根こそぎ男を連れて行だちゃうんだもの。勝っても負けてもこんな村は変わらないだろうし、みんなが帰ってくる訳でもない…」
「…民兵の捕虜なら解放されるかもしれない。無駄なことはあまりしない主義の奴が多いからな。ここに帰ってくるかどうかはわからんが、俺の国にも人間の血が流れてるやつはたくさんいる。暮らしてはいけるだろ。」
顔を見合わせた女達をよそに、彼は立ち上がった。
「先に倉庫に野菜を運んでおく。干し草を束ねててくれ。そうすりゃそれも俺が運ぶ。」
もうじき冬が来る。雪は滅多に降らないものの作物が育ちにくくなるので冬籠りの支度は大事だ。ガウルのおかげでその日の夕方には大方の作業は終わり、重労働を続けていた彼は人目をはばからず裸体になって井戸水で身体を流した。もう見慣れた光景なので誰も何も言わない。
「水、冷たくないですか。」
「冷たいな。そろそろこれも終わりの時期だ。」
エフィヤから渡された布を受け取り水気を取る。普段上裸になることもよくありその時は毛のせいであまりよくわからないが、湿って毛が身体に張り付いている時は戦士らしい体つきがあらわになるので通りすがった人がそれをほめることもよくある。
人間とは明らかに違う彼の男根は、そもそもあまり露出しておらず陰部周りは毛も長く見えにくいので彼が裸体を晒すことを悪く思う者はいなかった。
その日、村人全員が集まって宴を開いた。
「ガウルにーちゃん、魔法見せてよー!」
「俺はあまり得意じゃないな。」
「魔族なのに?」
「得意不得意はあるんだよ。」
正確にいうと、子供が見て楽しめるような魔法は使えないということ。
「私、小さい頃に魔術師様に会ったことがあります。人間には魔法は使えないっていうけど、あぁいう人たちは特別なの?」
その子供の母親の質問にガウルは少し顔を曇らせ、躊躇しながら話し始める。
「純血の人間に魔術は使えない。不可能だ。だが、血縁の何処かに魔族がいれば使えることがある。昔混ざったやつの末裔とかなんだろう。近頃お前達の国のお偉いさんは魔族と人間の間に子供を作らせて、その子供を魔術師として育てたり密偵としてこっちに潜り込ませたりしてるらしい。」
話し終わってから後半は忘れろ、と言った。
「そういえばガウルさんの国にも人間の血を持ってる人がいるって言ってたけど、人間もいるの?」
「ほぼいないな。昔はいたらしいが混血になっていなくなった。ただ最近、占領地で人間の女に惚れる野郎がチラホラ出始めてるからこれから増えるだろう。」
「それってそっちでは問題ないの?」
「いや別に?亜人なら沢山いるし。そもそも亜人も獣人もだいたいが混血だからな。見かけは純粋でも両親は違う種族ってことが多い。だから混血に抵抗はないんだ。」
その宴からちょうど1週間経つと一気に冷え込んでいく。ガウルは冬も時々狩りに出ては鹿や猪を仕留めて村人に振る舞った。また村にいる時は村の少年に剣術の指導をするなど充実した日々を送り、3ヶ月の冬はあっという間に過ぎ去った。
「だいぶあったかくなってきましたね。」
「あぁ。」
「冬に週に一度もお肉を食べられたのは今年が初めてです。」
「そりゃ良かった。」
ガウルは他の村人と一緒に畑を耕して、農業の再開に備える。結局冬も村で越えたことでここに腰を落ち着けてしまっても良いのではという考えも思い浮かぶくらいガウルはこの村の住人と仲良くなっていた。
「エフィヤ、ちょっと掃除手伝ってくれないか。」
ガウルに言われて家畜小屋の掃除を手伝い、水と干し草を取り替える。彼を拾ったこともあって今では毎日食事を共にする仲だ。農作業しかしていなかった彼女にとって、空いた時間にガウルに勉強を教わることは日々の楽しみになっていた。
「悪いな、こんな時間まで。」
「いえ、私は大丈夫です。」
日没前ギリギリ作業を終えて、久しぶりに井戸水で身体を洗った彼の身体を拭くのを手伝う。
「尻尾も頼めるか。優しくな。」
水をたっぷり含んだ尻尾を布で包んでそっと水気を吸い取る。相変わらずがっしりした身体を間近で見た彼女は胸をドキドキさせながら彼が下半身の衣を纏うのを待っていた。
「エフィヤ、もう少し付き合ってくれるか。」
ガウルがそう言って2人は畑を見下ろせる丘に腰を下ろす。ガウルは毛を完全に乾かす為によくこの場所で上裸まま座っていたり子供の相手をしていた。
「この村に来て随分経つ。すっかり慣れてしまった。居心地が良くて帰れる自信がないくらいだ。」
「…きっと、みんなここにいて良いっていうと思います。もしまた国の兵士がきても、その間森とかに隠れてれば良いですし。」
「そうだな。まさか、こんなに馴染めるとは思ってもいなかった。人間も色々なんだな。ただ……」
エフィヤが彼を見上げると、彼は彼女を立ち上がらせて思い切り抱きしめた。
「わわっ」
まだ少し湿っている毛に包まれて冷たいのか暖かいのか分からくなる。エフィヤは頬を真っ赤にさせた。
「お前、普段しっかりしてるからもっと大きく見えるけど案外小さいんだな。」
胸に顔を押し付けられて固まっている彼女の様子を笑いながらその顔をペロリと舐めた。
「人間はあんまりこういうことしないよな。俺たちにとっちゃ親しい間柄の挨拶代わりだから、最近誰とも抱き合ってなくて少し寂しかった。」
「そ、そうなんですか。」
彼女を離し、また2人並んで座る。彼女はまだ心臓が落ち着いていなかった。
「もうじき、ここに俺たちの…いや俺の戦士達が来る。俺を迎えにな。」
「えっ?」
「定期的に連絡をとっていたんだ。魔術で。」
ガウルは右手に紫色の光を浮かべて見せる。彼が村で初めて見せる魔力だった。
「誤解しないでほしい。俺はこの村に救われたことも言ってある。占領されるようなことはまずない。」
「そ、そうですか…じゃあ…お別れなんですか?」
ガウルは魔力を収めて微笑した。
「俺を救ってくれたこと、心から礼を言う。」
「私はただ…たまたま通りかかって…」
ガウルは自分が皇族であること、今は軍の要職で戦地から領地に戻るため橋を渡っているときに奇襲されて橋を壊されここまで流れ着いたことを話す。
「皇子っつっても元々王位継承権はないに等しい。俺は5番目の皇子だ。父上は何人も妻を娶っているんだ。安否不明だった第3皇子も無事見つかったって話だし。」
彼への奇襲は偶然ではなかった。追い詰められていた人間側は、ようやく育った獣人や亜人などを密偵として彼の国を内部から壊そうとしていたのだ。だからガウルから生存の報告があった際はすぐに迎えに行かず、安全といえるその村に滞在するよう国王が指示した。
「そして戦争には勝った。お前のおかげでこの村は皇族から感謝されてるよ。自覚はないだろうが、事実だ。」
ガウルはそっと彼女の肩に腕を回す。
「俺の母親は人間に殺された。母親も、友も。そして仲が良かった腹違いの兄は人間に攫われ奴隷にされた。だから俺は人間が嫌いだった。人間の捕虜に酷い仕打ちをすることもあった。死ぬことも許さず苦痛を与え続けた。他の腹違いの兄弟に引かれるくらい憎んでた。おかげで武術は兄弟で1番になったが。」
まだ完全に割り切れていないガウルの口調は明らかにいつもとは違う、トゲのあるものになっていた。しかしそれもすぐに元に戻る。
「本当、ここに来たときに記憶が曖昧になっていて良かった。完全に思い出すまでだいたい2ヶ月掛かったが、そのときにはこの村のことが好きになっていた。俺、戦争に勝ったら人間全員を奴隷にしようとか言ってたんだ。今じゃ考えられない。良い人間もいるんだ。俺が見ていたのは一部の悪い人間だったんだ。それと…」
肩を抱いていた彼の手が撫でるように彼女の頬に移動して、彼は顔を近づける。
「人間に惚れる奴の気持ちがわかったしな。」
そのまま、固まったままのエフィヤに口づけをした。彼女は更に身体を固くしたが嫌がりはしなかった。恋をするような歳になる前に異性が皆戦地に行ってしまったため、経験がなくどうすれば良いかわからなかったのだ。
唇が彼の弾力のある口に包まれ、全速力で走った時のように心臓が高鳴る。彼の匂いと獣の匂いにはもう慣れている。確かに人の骨格をしているが人間から見れば獣とさほど変わらず、親しくなってもあくまで異種族、という認識だった。けれど幾度となく言葉を交わし同じ村で生活していた彼は、自分にとってただの異性になっていたことをエフィヤ自覚せざる得なかった。
「…良かった。逃げられたらどうしようかと思ってた。」
少し顔を前に出せばまた唇が触れ合う距離で、優しい微笑で穏やかに言われると何処かもどかしいような、不思議な感覚になる。
「あ、あの、今のも、良くするんですか?」
ガウルはニヤリと笑った。
「額とか頬はあるな。でも口同士は恋人だけだ。」
ガウルは彼女の正面に座ると彼女の背中に手を回してギュッと抱き寄せた。
「エフィヤ、」
「は、はいっ、」
「獣に抱かれるのは嫌か?」
「だ、抱かれるって、その、」
「もちろん子供を作るってことだ。俺の妻になって欲しい。うん。妻にするならお前が良い。」
「わ、私なんかで良いんですか…?私は…こんな田舎者で…」
「村を離れることになるかもしれない。まぁいっそのことここに住んでも良いけど…。どの道お前が何か特別なことをするわけじゃない。多分、お前達が想像する"お妃様"とはちょっと違うかもしれないな。1番の役目は子供を産んで育てること、あとは心の保養。」
ガウルが獣人であるとはいえ、エフィヤだけでなく他の村の女達も彼と年頃のエフィヤは遅かれ早かれ夫婦になるのではと思ってはいた。けれどそれは彼を村の一員として見ているからであって、田舎者のエフィヤが皇族に嫁ぐとなると別の話である。
「でも私より良い人はいるんじゃ…」
「俺が、お前が良いって言ってるんだ。おまえは嫌じゃないんだろ?」
じっと視線を注がれて彼女はうつむく。すると彼は彼女に頬擦りしながら耳元で囁いた。
「俺の妻になってくれ。獣の子を孕むのが嫌ならそう言ってくれて構わない。迎えが来たら素直に別れる。もちろん村には手出ししない。むしろ俺を助けた褒美が贈られるだろう。でも獣の子を孕むのが嫌じゃないなら、俺のそばにいてくれないか。」
「う…わた…わたしは……嫌じゃ…ないです……ガウルさんなら……」
渇いた口で答えて見上げると、彼は微笑んだ。
「ありがとうエフィヤ。今からおまえは俺の妻だ。無理にとは言わないが、今からおまえと身を交えたい。家に来てくれるか。」
「い、今から…ですか…?もう少し……」
「どうせするんだ。早く子供、欲しいし。」
ガウルは彼女を離して立ち上がらさせる。エフィヤが小さく返事をしたので手を握って歩き出し、まず彼女の家に行って彼女の母親にとりあえず一晩泊まることだけを伝えると、察したように了承する。
彼が使っている、手入れされた家に入るとガウルはエフィヤをベッドに座らせ、自分は下半身の衣を脱いで裸体になる。エフィヤは羞恥心から躊躇したものの彼の視線に促されて生まれたままの姿になった。
「綺麗だ。」
「恥ずかしいです…」
「隠さなくて良いだろ。ほら…」
胸を抱えていた両手を解いて抱き合う。乾いてふさふさな毛触りが心地よい。ガウルが彼女の顔を上げさせ、口を重ねる。彼女が身を任せていると押し付けられていただけだった彼の口が乳を吸うように開かれて彼女の唇に彼の牙が当たり、彼の舌が彼女の舌や口内を舐める。
彼が頭を撫でてくるのにつられて彼女も彼の頭を撫で、熱い口づけを続ける。ふとエフィヤは下腹部に何かを感じて、それが彼の男根であることを感じて一気に緊張した。それをわかってかガウルは抱く力を強めて彼女の腹に隆起していく己の雄槍を擦り付ける。これからの行為を宣言するかのように押し付けられて彼女の身体が熱くなり、彼女はそれが自分の興奮であるということに遅れて気づく。
肉棒が完全に固くなるとゆっくりと舌を抜いて接吻を解いた。
「こ、こんな風になるんですね……」
普段ほとんど男根が見えない彼の股間からは濃い桃色の硬く太い肉棒がそそり立っていた。竿の形は人間に似ていて、竿より一回り大きい亀頭は裏側に向かって尖っている。興奮しているためかその根本の睾丸もはっきり形がわかった。
ガウルは彼女の両方の手を取って肉棒に添えさせ軽く握らせた。
「あ、あったかい。」
「あぁ。気持ちいいぞ。」
「ど、どうすれば…」
「そうだな。口で咥えてくれるか。入りきらないところは手で握っててくれ。」
家畜の繁殖くらいの知識しかなく男女の交わりについては無知な彼女は素直に言われた通りにしたのでガウルは笑みを深めた。
「そうだ。上手いぞ。」
ぎこちなかったが好きな相手だと興奮する。ほんの少し腰を前後させながら彼女の精一杯の口淫を堪能した。
口の中に唾液ではないものが少しずつ出されていることは味でわかっていたエフィヤ。彼が腰を動かし始めたので上目で彼を見ると今まで見せたことのないような、欲を孕んだ笑みを返される。
広がりつつある不思議な味を嫌とは思わず彼の視線に促されながらエフィヤがそれをしゃぶり続けていると彼がうめき声を上げる。すると肉棒がドクンと脈を打って彼女の口の中に熱く濃い匂いを放つ粘液が噴き出た。
口の中に出されたものが彼の精液であることをエフィヤはすぐに理解し、口から溢れそうになったので反射的に飲み込んだ。
ガウルはグッと下半身に力を込めて二回の脈動で射精を止めると彼女が自分の精液を飲み込んだことに気づく。
「わざわざ飲んだのか?吐いて良かったのに。」
嬉しげに言うガウルに、エフィヤは喉に引っかかる精液を唾液でなんとか流しながら答えた。
「昔、粗末にしちゃいけないって……」
家畜を繁殖させるところを見ていた幼い日の彼女は、採取された精液を汚いと言って怒られたことを思い出したと話し、ガウルはますます上機嫌そうに彼女を抱き寄せる。
「じゃあその大切な俺の子種を、今からたっぷりお前の腹に出してやるからな。」
「あれ…まだ勃ってる…」
「まだまだいっぱい溜まってるぞ?」
ガウルは彼女を仰向けに押し倒してその上に覆いかぶさり、肉棒の狙いを定める。彼女も興奮しているからかまだ雄を経験したことがない縦割れは既に湿り気を帯びている。
「深呼吸してな。」
ガタイの良い獣人に覆いかぶさられてエフィヤは不安も感じるが言われた通り深呼吸をする。秘部に固いものが当たり、それが肉をかき分けて入ってきた。
「うっ……」
「そのまま力を抜いてろ。」
今すぐ腰を突き出したい衝動を抑え、ガウルはゆっくり己を沈めていく。突っかかっても構わずそのままのペースで彼女の中を進み、奥を少し押し上げて下腹部を密着させた。
「ほぅら入った。苦しいか?」
「大、丈夫、です。」
しかし顔に出ていたのでガウルは微笑むと彼女を包み込むように抱く。彼の男根に腹を内側から押し広げられる圧迫感に徐々に慣れてくると、彼女は慣れない感覚に呻きながらしきりに身をよじる。
「感じるか?」
「はい、すごく、入ってるって、わかります、ガウルさんのあったかいし、大きいから、お腹の奥が押されてるのが分かります。」
「そうかそうか、いい女だよお前。」
無知ゆえか丁寧に実況する彼女にガウルは笑って深く口づけしながらグリグリと腰を押し付ける。異形ながらも受け入れようと降りてきた子宮が押し戻されて彼女は少し苦しそうにうめいた。
「ずっとこうしたかった。もっと早く告白していれば良かった。」
お前の中も気持ち良いよ、と耳打ちして彼女の呼吸が整うまで抱きしめたままでいる。そしてもう一度彼女に口づけをして、膣の締め付けが少し緩んだところで口づけをしたまま腰を動かし始めた。
繋がっている口から彼女のくぐもった声が漏れる。彼の背中にまわされた手に力がこもったのは苦痛からというより未知の快楽に耐えるため。腰を引く時に亀頭が膣襞に引っかかって膣全体が持っていかれる。その時のまとわりついてくるような感覚にガウルも鼻息を荒くして、より大きく腰を振った。
人間の女を抱いて快感と多幸感を感じることをガウルは何となく不思議に思いつつなおも口づけしながら掘るように突いたり腹側をえぐるように突いたりしながら彼女の身体を味わった。
一方身体が慣れてきたエフィヤは彼に様々な角度で膣をかき回されて何かを考える余裕がないほど快感を感じていた。彼の男根が腹の奥にグッと挿し込まれるたび足がピクピクと痙攣し、引かれれば背中がゾクゾクする。それらの快感がどんどん重なってこれ以上は何かいけない気がするところまでたどり着いたが接吻を続けているので彼に伝えられず、すぐに耐えられなくなり、彼女は派手に痙攣してはじめての絶頂を迎えた。
ガウルは彼女が達したことに気づいたが動きを止めず、彼女は止まない快楽にしばらく目を白黒させていた。
「…気持ち良いなぁ。なぁ?」
ようやく彼の口から解放された彼女は思い切り息を吸い込む。獣欲を健気に受け入れている彼女に自分の頬を押し付けならがもう一度呟いた。
「気持ちいいなぁ、エフィー、」
「は、い、」
彼女は嬌声を必死に堪えているらしかった。
「声出していいんだぞ。ほら…」
「んっ…あっ……」
大きく腰を引いて一気に最奥まで突き入れると彼女は声を漏らした。
「お前には貰ってばかりだな。しまいには身体まで貰っちまった。大事にするからな。」
「んっ…はいっ…私も…んっ…んんっ…!」
「ここが良いのか?良い身体してるじゃないか。」
腹の最奥…子宮口の裏側を突くと彼女が良く反応することに気付いて、初めてだからと今までは少し遠慮していたが最奥を体重をかけて突き始める。尖った亀頭がその空間に入り込んで子宮口に密着しつつ押し上げるので彼女に至高の快感を与えた。
腹の奥をコリコリ押す感覚を愉しみながらガウルも少しずつ高まっていく。気に入った雌と一つになって擦れる快感に独り笑みを浮かべながら腰の動きを少し早くする。
彼女がまだ達して痙攣する。結合部からは濃厚な雌の匂いと微かな雄の匂いが漂う。彼の方からも結構な量の先走りが出ている。そしてそれらが擦れる水音がなんとなく耳に心地良い。
ここまでくれば、あとは力を抜いてしまえば射精できる。いつもならそうしてしまうがこの行為を心から愉しんでいたガウルは腰を動かし続けた。
「ガウルさんっ…私っ……またっ……」
「おう、思いっきりいっちまえ。」
彼に見つめられたまま達して彼の男根を締め付ける。彼の下腹部の熱も着実に大きくなっていった。
「ふぅ…エフィー、愛してるからな。」
「あっ…私も……んんっ!」
ガウルが口で呼吸し始め、腰振りが少し雑になる。そして彼女をギュッと抱きしめて下腹部を強く押し付けた。尖った先端が最奥を押し上げ子宮口が掬い上げられるようにして亀頭に密着する。
「うっ…」
ドクンと肉棒が脈動し、熱い精液が最奥を一瞬で埋める。続けてドクンドクンと注がれた精液は亀頭で塞がれた膣の最奥で行き場を失い、快楽と興奮で普段より口を開けていた子宮口に流れ込む。
「あっ…」
その気になれば止めて行為を再開できる。けれど彼女はもう息絶え絶えだし最後まで出し切りたいという思いが強かったのでガウルは深く息をついて射精に集中する。
獣の雄槍はエフィヤの中で何度も何度も脈動して熱い子種を注ぎ続け、彼女は彼の高い体温が自分のお腹に溜まっていくのをはっきりを感じた。
「ふぅっ…感じるか?俺の精液…」
「はい…んっ…どくどくしてて…お腹があったかいです…んっ…」
「まだまだ出るぞ…」
温もりに加えて重みも感じてくる。人間よりもずっと長く続いている大量射精の間、エフィヤはなんとなく彼の尻尾の付け根あたりを撫でていたがそれが彼に快楽と射精を促していた。
油送を終えるとゆっくり引き抜いて、溢れてきた白濁をそっと布で拭き取る。
「こっ…これで…ガウルさんの赤ちゃん…できるんですよね…」
「かもな。…一応言っとくけど、決まった発情期があるわけでもない人間が一回の交尾で必ず孕むなんてことはないぞ。」
「で、ですよね。」
「ふっ、腹いっぱいにされて孕んだ気になっちまったか?」
ガウルも寝そべって自分と彼女に薄い毛布をかけてからまた抱き合ってお互いを愛撫する。
「愛してるよエフィヤ。」
「わ、私もです。」
「気持ち良かった?」
「は、はい。とても…」
「俺もだ。ところでエフィー、お前今年で18だったな。」
「はい。ちゃんとこの歳までにお嫁に行けてよかったです。」
「俺、もうすぐ16だ。種族違うから分かりにくいかもしれないが、歳下だぞ。」
「えっ、」
「ベスティア国第5皇子ガウラ=ヤハール、お前を妻にして、生涯愛すと誓う。」
ガウルが彼女に手を添えて自分の口で彼女の口を塞ぐ。エフィヤは彼が自分よりずっと歳上だと思っていたので驚きながらその口づけを受ける。
「おやすみエフィヤ。これからよろしくな。」
それからしばらく日にちが経ってガウルは他の皇族とも話し合った結果この村で暮らすことに決まり、他にも人間と獣人の夫婦が数組移り住んだので二国間で初めて両種族が共に暮らす村になった。そして毎晩たっぷり種付けされていたエフィヤは翌年子供を授かり、2人はその後も穏やかに暮らしたのだった。
おわり