こちら日本国行政特区魔界風俗街2丁目8番地リサイクルショップ【大慈大悲館】 作:一条和馬
1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。
『百詩篇』 第10巻72番より抜粋
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はい、こちら現場です!
私は現在、行方不明になった女性が最後に目撃された行政特区魔界風俗街の『魔界乳業』本社の裏路地に来ております!
『魔界乳業』社長のポイズン・パラディン氏は依然として関与を否定しておりますが、匿名の証言からも行方不明になった女性がこの路地で『魔界乳業』の社員と接触していたのは間違いないようです。
あ! あそこに『魔界乳業』の従業員らしき男性を発見しました!
すいません! ○○放送の……という者ですけど!
ちょっと! 何するんですか!?
やめて! 離して!!
助けて! 助けて!! いやあぁあぁああぁぁぁぁぁぁあぁ!!
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「……」
日本に二か所存在する『行政特区魔界』の内の片方。
通称『風俗街』
10年前、この街で母は失踪した。
いや、はっきりとテレビに映ったのだ。母が“拉致”された瞬間を。
母はニュースキャスターだった。
私を生んで、育ててくれて。
物心ついた頃に母はニュースキャスターの仕事に復職。
そして、そのまま帰ってこなかった。
当時、日本ではその話題で持ちきりだった。
少なくとも私の記憶ではそうだったはずなのだ。
だけど、その“事件”に関する情報はその後一切報道されなかった。
父は私を大学に入るまでは支えてくれたが、母の事が忘れられなかったのか、一人でこの街に入り、そして消息を絶った。
20年前の1999年に『門』が開いてからというもの、この国の、否。この世界の情勢は大きく動いた。
『魔法』という技術に加え、多種多様な種族との文化交流によって、今の地球は『門』が開かなかった“if”の世界よりも豊かになった、という。『門』が開かなかった国がその領地を求めて戦争が起きるという事もあったが、その国は『魔法』によってあっさり制圧され、今は歴史の教科書に名前を残すのみとなった。
とまれ、世界は平和になったのだ。
私の母さんを拉致し、父さんも奪ったこの『街』が、世界を救ったという。
「ふざけるな……」
そんなの許すものか。
私から全てを奪ったこの街の『闇』を必ず暴いてやるのだ。
それで世界が再び戦乱の渦に巻き込まれようが知った事か。
私は、私の為に一人でこの『戦争』を始めるのだ……!
「枢木美代です。職業はその……作家、です」
この街は日本の中にありながら日本ではなかった。
周囲は高い壁に覆われ、ゲートをくぐるにはパスポートと持ち物検査が必要だった。
私は駆け出し作家『枢木美代』としてこの『街』に観光に訪れた、という設定だ。
「この町を題材に……って事は官能小説かな?」
「えぇ。そんな所です」
パスポートを確認した職員の男がニヤニヤ顔で質問してきたので、ゴミを見る様な目で見返してやった。
こんなゲスな事を年下の女に平気で聞いてくるなんて、この『街』に住んでいたら人間でも腐ってしまう様だ。
「掛けたら教えてくれよ。ちゃんと買って感想送るからさ!」
「楽しみにしてます」
こんな所で止まる訳にはいかないので、湧き出る殺気を抑えて、ゲートをくぐる。
「……!!」
トンネルを超えると、そこは銀世界でした。という言葉がある。
これはまさしく、そうとも言えよう。
ゲートを超えると、そこはピンクな世界でした。
見渡す限りのビッチ、ビッチ。ビッチ!!
一歩踏み入れただけでやって来てしまった異世界感。
尻尾やら羽やら尖った耳やら、とにかく「人間でそんなのいる?」みたいな装飾が生えた亜人類の皆々様が、ほとんど裸と見まがう姿で昼間から街を往来しているのだ!
ロケーションもロケーションだ。
『魔界乳業』の本社は元々『魔界』で所謂『魔王の城』として数千年君臨していたという。それがどういった経緯で牛乳やチーズ作る会社に魔改造されたのか知らないし、知りたくもないけど、とにかく存在感と威圧感が恐ろしい。
それを囲う様に建造物が立ち並んだ円形の街が、ここの全景だ。
「ねぇお兄さん♡ ここに来るのは初めて?」
「はっ、はい……」
私の横に居た小太りの男性が、猫耳の生えた少女に声を掛けられていた。面倒そうなので、私は一歩後ろに引いて見守る事に。
「じゃあウチのお店にお出でよ♡ サービスするから♡」
「ちょっと待ちなさいよ泥棒猫! アンタ前もそうやって私の得物横取りしたじゃない!!」
そう言いながら飛んできた(!?)のは、両腕から黄色い鳥の羽が生えた少女だ。確かハーピィとかいう有翼人種だった気がする。
「おっとぉ~? この前ってのは彼氏にフラれて自棄酒したせいでお客取れなかった時の話かにゃ~~~ん? ハーピィっていうのは見た目だけじゃなくて頭もトリ頭なのかにゃ???」
「ぶっ殺す!!!!!!」
「鳥が猫に勝てると思わんことにゃーーーーー!!」
「あの、えっと……」
「あ、お兄ちゃん♡ こんなうるさいのは放っておいて、私の店でゆっくりお話しようよ♡」
「あ、待つにゃ蜘蛛女!!」
「横取りなんて卑怯だぞ虫の癖に!!」
「カシャシャシャシャシャ!」
変な笑い声を挙げながら立ち去る八本足の生えた幼女に男性客を持っていかれた猫耳の少女と羽の生えた少女の二人が同時に項垂れる。
まぁ、どうせ他人だから私にはどうでも良いんだけど。
それよりも、だ。
私はこんな真の『闇』とは程遠い、雑魚みたいな風俗店には用はないのだ。
目的地は、ただ一件。
「あの、すいません……」
情けない話だが、私は人見知りだ。
だが怖気ついていては、前には進めない。
「にゃっ!? これは可愛い女の子!!」
「えっと、この場所に行きたいんですけど……」
意を決し、住所の書かれたメモを渡す。
「なんだもう行く場所決めてるのかにゃ……どれどれ……」
客引きしている時と素の差が全く違うのは気まぐれな猫っぽいといえばぽいが、悪い人(?)ではない様で、私のメモを必死に読み解いてくれた。
「ううむ……人間界の、特にこの国の文字は読みにくいのにゃ……えっと、2丁目8番地の……」
そこまで言って、ピタリ、と猫耳の少女。
「おいちょっと、コレ、マジで言ってんのかにゃ?」
明らかに営業スマイルを忘れた恐ろしい剣幕で私の方へと寄りかかってくる猫耳少女。
うわ、獣くさい……。
「え、えぇ……どうしてもここに行かないといけなくて……」
「どうしてもにゃ?」
「どうしてもにゃ」
あ、釣られちゃった。
「ここにかぁ……おい、鳥」
「あ?」
客を取り合っていたハーピィの少女に声を掛ける猫耳少女。先程のやりとりから察するに、案外仲が良いのだろうか、この二人。
「このお嬢ちゃん、『大慈大悲館』に行きたいんだってにゃ。連れて行ってあげなよ」
「はぁ。良いけ……はぁああぁぁぁぁぁ!? 嫌だよイヤイヤ! あんな所近付きたくもない!」
生返事を返していたハーピィ少女が血相変えて否定し、その場から飛び去ろうと……。
「って、逃がすかあぁぁぁぁぁ!!」
「やめろ! 離せ! パンツを掴むな脱げるじゃないか!」
「やーいやい! ハーピィちゃんの公開ストリップショーだにゃー♡」
「お前マジで覚えてろよクソ猫……ッ! お前も離せ! 私は行きたくないんだ!!」
「連れて行ってくれないなら私は意地でもこの紐みたいな下着離しませんから!!」
「やめろ街道での性器露出は補導対象なんだって私もお前も……分かった分かった! 連れていく! 連れていくから一旦離してお願い何でもするからぁ!!」
大慈大悲館。
私が行かねばならない場所。
だがその場所は、現地の住民に嫌われる程の場所らしい。
そういう場所に乗り込まないと、きっと私は手掛かりに辿り着けない。
噂では、その大慈大悲館という施設の主は筋金入りの変態らしい。
どんなヤツかは知らないけど、例えこの身が穢されようとも、私は両親がどうなったかを知りたいのだ………!
(続)