※この作品はR-18です。

血界戦線Lovers 改稿   作:九折

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お久しぶりです。
今回はまぁ他のこと色々やって忙しいんですがその息抜きにかきました。
前半部分は正直チェレオ・レオチェ感ないので飛ばしてもらって結構です。


第11話 Would you please dance with me alone?

「潜入任務?」

 

フカフカとした上質なシミひとつないカーペットに佇みながらレオは自身の身長の何倍もあるであろう天井を仰ぎ見た。

 

「そうだ。永久下降概念超強酸(コンセプツディスィデリィッド)が秘密裏にグレゴリオ・カルペツィーノ・コパカヴァーナに渡るという情報が入った。よってその品評会に潜入し、奪取する。」

 

タブレット端末をきれいな姿勢で持ち、読み上げるスティーブンには仲間が見れば分かる程度の諦観があった。その面持ちは「またか……。」といった様子でツッこむ気には誰もなれなかった。

幾人かが集まって真面目に拝聴している中ソファーで携帯ゲームに勤しんでいる白髪の男はめんどくさそうに質問する。

 

「フラペチーノだかペペロンチーノだか知らねぇっすけどそいつ誰っすか。」

 

まじか……、と周囲がゴミを見る目で彼を見やる。

 

「あんた……いや、こいつに期待するのも間違いか。」

「あ?」

「えーっと、あれですよね。世界有数の製薬会社で1,2を争う大企業のCEO。たしかこっち側の人間だった気が。」

 

レオが2人の喧嘩を仲裁するように割って入って説明する。

こっち側、と表現したのは、彼は人族。つまりなんの能力も持たないただの金持ちということだ。

 

「そうだ。ただ最近妙な噂が絶えない。眉唾ものもあるが不老不死を実現した薬を持っているとかもある。諜報部にも動いてもらっているが裏側でどんな異界存在と関わっているかわからん。」

「その……コンセプト?なんとかはなんなんです?」

「ああ、なんでも超強力な酸らしい。ただ当然あちら側の技術で作られたものだ。外見は小さな小瓶サイズのものでかわいいもんだ。ただ効果は………甘くない。」

 

レオが無意識に生唾を飲み込む。

先程まで諦観の面持ちだったスティーブンは人でも殺せそうなキッとした目で資料を見たからだ。

 

「一度そのガラスから垂れ落ちれば永遠に障害物を溶かし続け惑星を貫通させる。」

 

耳を疑う。

まるでSFフィクションに出てきそうなエイリアンの唾液っぽいが、スティーブンがその手の冗談をこの場で言うとは思えない。

 

「しかし貫通と言っても地球の下という概念はいわば核に対して感じる引力のことですよね?確かに驚異的ですが核で止まるのでは?」

 

ツェッドが顎に当てた手を外して答える。

 

「ああ、ただコンセプツディスィデリィッドはその容器、ガラス瓶という結界から解き放たれた瞬間を座標として宇宙規模の観念から下降する。つまり垂らした本人が地球上のどこにいようと必ず下に落ちる。」

 

言わんとしていることが約1名を覗いて理解でき、言葉を失う。

地球に穴をあける。

そんなのはプライマリーの考える戯言だが、それを実行できたらどうなることだろう。

地球の岩盤内の圧力は凄まじい。

完全に穴が空いたとして何千度というマグマが吹き出す可能性もある。

海水が流れ込めば水蒸気爆発。

地球の環境を一変させるかもしれない小さな小瓶。

 

「なぜかはわからないがまだ世界崩壊幇助器具として認定されていない。だがそんなことは関係ない。グレゴリオがすぐに使用するとも考えられないから急ぐわけではないが、今回はできれば奪取して破壊なり保管なりしたい。」

 

スティーブンは急ぐわけではないといったので少しだけ肩の荷が降りた気もしたが、その分絶対に奪取することを固く意識したライブラの面々だった。

 

「あ、あとチェインにだけドレスコードがあってだな?」

「えっ」

 

緊迫した空気が一気に弛緩した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

会場のビル。

57階の別室。

 

「………。」

「ゔぁぁっひゃっひゃあぁっああっはぁあっ!」

 

床で転げ回る白いタキシードを着た男。ザップは大爆笑していた。

彼の見たものはいささか場にそぐわなかった。有り体に言えば浮いていた。この場にいるのはレオ、ザップ、クラウス、スティーブン、そしてチェインだった。

レオも着替えたあとすぐにザップに笑われたのだが、それ以上にザップの腹筋を崩壊幇助させている要因が今できた。

女性専用の試着室のカーテンを開けて出てきたのは、きらびやかな装飾を施されたどこか民族的印象を与えるドレスを着たチェイン。紅で統一された光に反射するきれいな生地。腰まで入ったスリット。

その下から長く除くこれまた多くの刺繍の入った白いスカート。

前述でドレスと言ったが、どちらかといえばハンフーといったほうがいいだろう。

 

「ザップはともかく私は美麗な様相だと思う。似合っているよ。」

「あっありがとぅございます。」

 

直球で褒めるクラウスはやはりさすがだと思った。

チェインも妙にかしこまって落ち着きがなさそうだった。

スティーブンも何か言いたそうにしていたが、口をつぐんだのはもしかすると2人に気を使ったのかもしれない。

レオはしばらく黙ったまま目をそらしていた。

そんな彼をチラッと覗くチェインは反応示さないレオに対してモヤッとしたものを抱えつつ転げ回る猿を踏んづける。

 

「はぐぁっ……はっははは!靴もうっすい布でいつもよりダメージ半減だぜっ!」

「うっさいっ死ね!」

「あらあらー?言葉遣いを気になさったほうがよろしいのでは「お姫様」?」

 

ザップが顔をサッカーボールのように蹴られたのは言うまでもない。

 

●

 

「さて、切り替えていこう。」

 

スティーブンがうるさくならない程度に拍手で注目を集める。

 

「俺達はコンセプツディスィデリィッド、皆噛むのでCDと訳す。CDを奪取する。レオは会場に怪しい存在(明言はしていないがBB)がいないかばれない程度に確認。俺とクラウスは上客、もといグレゴリオとの直接対談・交渉。ザップは外のツェッドと連携して事態がまずくなったら参戦。」

 

そして、と言葉を区切りスティーブンはまっすぐチェインを見る。

チェインはウッと顎を引いて少し顔を朱に染めた。

 

「今回一番の痛手だがチェインは動けない。参加条件として民族衣装を纏った綺麗な女性を伴わなければ会場にすら入れてもらえないからだ。あいにくうちには戦闘面で今日動ける見目のいい女性はチェインしかいない。よって彼女は軽率に行動できない。」

「……。」

 

スティーブンの口から直接、作戦の説明とはいえ「見目が良い」と評されるのにむず痒くなるチェインだった。

安全面という意味ではクラウスの横に常にいるだけなので一番安全だろうと特にレオも気にしてはいなかった。

 

「予測不能な事態もありえる。みんな心して臨機応変に対応していくぞ。」

「はい」「おう」「うむ」「了解」

「ではチェイン、失礼する。」

「はい。」

 

チェインに手を差し伸べるクラウス。

彼には気品があった。女性を建てる、恥をかかせない品性を持った動きで優しく手を取る。クラウス事態の衣装は別の国のものだがチェインと合わせて違和感ないようなデザインになっていた。

2人以外はその場にいる者たちが「お似合い」だと心から思った。

 

 

会場にクラウスとチェインが入ると拍手が巻き起こる。

彼らはもちろんクラウスたちのことをライブラとは思っていない。

あくまでいち出資者として呼ばれたに過ぎない。

グレゴリオもクラウスたちのことを自身の会社に多大なる出資をしてくれた大きな会社としか見ていないだろう。

 

しばらくして会場にすべての来賓が入ったところでステージにライトが当てられる。

レオは義眼から漏れ出る光を端末で隠しつつ、会場を確認するが今の所怪しいものはいないようだった。

 

『タイムスケジュールに変更があった。すぐにCDがステージに現れる。』

 

スティーブンからインカムで連絡が入る。

ステージの中央の床が割れ、下からガラスケースでできた直方体がゆっくりと現れる。

完全に目線の高さ程度まで上がったところで、中を隠すための曇りガラス部分が一気にクリアになった。

会場からどよめきが聞こえる。

透明な液体を内包した成人男性の手で覆えるほどの小瓶。奇っ怪な幾何学文様が施された札が貼り付けられ煤汚れていた。

 

「お集まりのみなさん。」

 

男性の野太い重たい声がスピーカーから会場全体へ響く。

 

「本日は私の友人からのプレゼントのお披露目会に来ていただきありがとうございます。」

 

スティーブンはCDが現れたときが一番危ないと警戒していたがそれはどうやら杞憂に終わったらしい。

 

「しかし残念ながら我が友人は今日は急遽欠席となり、皆様とこの永久下降概念超強酸を見守りつつご歓談をしようという会に変更となりました。もちろん豪勢なお食事とともに各会社とのつながりを作れる生産的な場としたい。」

 

グレゴリオの友人が一体どんな存在なのか、少しでも把握しておきたかったスティーブンではあったが欠席なら諦めるしかない。

これから先グレゴリオに危険物を渡した伝手を調べるいいきっかけになるかもしれないと思ったのだ。

 

「さぁ、まずは私がこのコンセプツディスィデリィッドを手中に収めるまでの流れですが……」

 

しばらくグレゴリオのどうでもいい半生が語られる。

それ自体はすでに持っていた情報と大して変わらなかったので聞き流していた。

 

30分ほどひとり語りが続き、そしてしばしご歓談となったところでクラウスは動き始めた。

 

「失礼Mr.グレゴリオ、少々時間をいただけないだろうか?」

「ん?おっおおこれはこれは御曹司!」

 

グレゴリオは一応名簿にある顔と立場を暗記しているようでクラウスが会話に割って入っても嫌な顔はしていなかった。

クラウスは今日、とある会社の御曹司として正式な参加者として呼ばれている。もちろん顔写真以外すべて偽造だが。

軽く先程まで話していた相手に挨拶して分かれるとクラウスに向き合った。が、すぐに視線は横に移る。

 

「これはこれは美しい美姫を携えていらっしゃる。」

 

クラウスは一瞬目を細めた。

 

チェインを、いや女性を「物」としてしか判断できぬ男に少しだけ苛立ったのだ。

 

「はい、彼女は非常に美麗だ。私にはもったいないほどに。」

「いえいえそんな事はありませんよ。まぁ挨拶はこれくらいにして、私になにか用ですかな?」

 

クラウスは話がとんとんと進むことに安堵しつつ担当得入に伝える。

 

「私は世界崩壊を止めるべく暗躍する秘密結社ライブラの代表を努めているクラウス・フォン・ラインヘルツというものです。貴殿が今回お披露目した永久下降概念超強酸(コンセプツディスィデリィッド)を渡してもらいたい。」

 

目線がスッと下がる。

グレゴリオの先程までの柔和な態度とは一線を画す冷たさをチェインは感じた。

 

「ふむ、フレデリック鉄道会社の理事、エドワード・カサンドラ氏ではないということですね……ライブラ…。そうかあなたが。」

「はい、貴殿が所持するものは貴殿が望むようなものではありません。然るべき機関に託すべきです。」

 

クラウスは少し驚いていた。

たいてい真摯に自己紹介をしてもすぐに戦闘になる局面が多い。相手からすれば目の前の男が突然、秘密結社の者だと明かすのだから戸惑うのも理解できる。しかし目前の男にはそんな焦りは一切感じられない。

 

「断る。」

「なぜっ!」

 

クラウスは騒ぎにならないギリギリの声量で異議を申し立てる。

 

「確かに、こんな強酸あったところで私の手に余るだろう。だがこれを欲するものは多い。」

 

グレゴリオはステージにゆっくり歩いていきケースに手を置く。

まるでかわいい我が子を撫でるように。

 

「これを交渉材料にし新たに私が望むものを要求することは容易い。」

 

ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる壮年の男性。

 

「………巷では不老不死に憧れていらっしゃるとか。」

「そうだ。よく調べている。秘密結社の名も伊達ではないということか。」

 

言葉を切って、つぶやくように話し始める。

 

「私は長生きしたい。そのために我が友が一つ手伝ってくれた。その友はこのコンセプツディスィデリィッドを要らないと言って私に手渡した。もちろん私だってただの酸などいらん。だがそこで一言言われたのだ。「それは不老不死の薬の対価に十分足りえる」と。」

 

グレゴリオの後ろからシャンパンの入ったグラスを持ってきたウェイター。彼からシャンパンを受け取りぐびっと飲む。

一服したように息を吐いた。

チェインはその視線の先、自身の大きく主張された胸部にいっているのを感じ取った。未だ状況はわからないために顔には出さないが内心では「またか……。」と悪態をつく。

 

「そもそも、これは私が正当に手に入れたものだ。それを明け渡せとは随分と礼儀がなってないんじゃないかね?それとも代わりを寄越すかね?」

 

チェインでなくとも当然クラウスは何を暗喩しているのか理解してチェインがいる側とは反対の手を強く握りしめた。

 

「………ごもっともではあります。しかし貴殿はそれの危うさを知らない。それ自体は確かに強い酸かもしれない。しかしそれはただの人間が所持するにはあまりにも不幸を招く。」

「ふっ、君たちのように少しは話せるものがいる、がそういった者たちばかりではない。そう言いたいのだな?」

「ええ。」

「安心しろ。多重カーボン耐衝撃層を50万も兼ね備えた術式結界がこのケースには施されている。この会場には武器を持ち込むことはできない。それに今日はこうやって見せびらかしてはいるが、明日からは厳重にロックされた金庫に保存する予定だ。私の生体電位以外が半径5m以内に近づけば警報がなりガードが駆けつけかつ部屋が防衛機構として……」

 

グレゴリオが自信満々に防衛設備の説明をしていけばしていくほどクラウスもチェインも辟易とした顔をしていく。

まさしくいつもの展開として蔑まれた目だった。

グレゴリオは思った反応は得られなかったものの相手を黙らせることには成功したと前向きに捉える。ところで首が滑り落ちた。

まるでガラスの上に水を薄く貼って豆腐を滑らせるように綺麗に床に頭部が転がる。

 

「なっ!?」

『ぅラウスさんッ!』

 

インカムから普段人を労り、大きな声で叫ぶことなどしない彼の慌てようを示す絶叫。

コンマ以下の反応速度でクラウスは攻撃に耐える。

薄暗い会場に火花が花火のように煌めいた。

事態に気づいた客たちが顔を青ざめる暇もなく一斉に外へと通ずる扉へ駆け出した。

 

「……牙…狩ぃ……か。」

 

クラウスがずっと凄まじい力で応戦しているにも関わらず、飄々とした声音でかすれる声がクラウスの耳に届いた。

 

「ワタシの一撃を防いだ男ぁ久しぶりだ。」

「………。」

 

赤黒いマントをひらひらと棚びかせ、真紅の剣を引っ込めるBB。

クラウスは体勢を戻し、ファイティングポーズを取る。

 

「チェイン……もはや会は中止。引くのだ。」

「……はい。」

 

戦闘力的には未知数だが少なくとも足手まといはこの場から去るべきだ。チェインはその評価を甘んじて受け入れる。

衣服ごとスッと消える。

 

「人狼ぅ……さぞ美味しそうな肉だろうに。」

 

クラウスは左肩を落とし盾のようにBBへ体をそらす。

まるで銃の引き金のようにも見える動作で右手を脇へ引き、締める。

 

「ブレングリード流血闘術、推して参るっ!」

 

一瞬にして距離を詰めるクラウス。

しかし視界の先に目標はいない。

 

獣の如き聴覚で空気の流れを読み、クラウスは失策を理解した。

背後で後退するチェインの背に下卑た笑みを浮かべるBBがいるのを脇目で確認する。

しかし、慌てることはなかった。

 

バンッ

 

床にひびが入るほどの体重をかけて半歩、身を反転させる。当然そんな動作BBにはあくびの出る遅さだ。

しかし彼は一人ではない。頼れる歴戦の相棒がいるのだから。

 

「絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート)っ!」

 

一瞬にして室温が下がる。

BBは獲物に舌なめずりをしていたためか、油断し膝下まで完全に凍る。

 

「僕は礼儀なんて知らないんでね、名乗る気などないよ。」

 

後退する非戦闘員(この場では直接的にBBに攻撃することができないという意)を後ろから襲おうとした相手に慈悲もなにもない。それが自身を真摯に慕ってくれる部下であるならばスティーブンの気分が氷点下にまで下がるのも理解できる。

 

「かっ!?こんなーー」

 

背中にドッと衝撃が走る。

彼はとっさに胸を見た。まるで刃でも突き立てられたかのように衝撃が走ったからだ。

 

「貴公にとっては些事だろう。だがその『間』こそ我々の勝機。」

 

クラウスの端末にメールが届く。

 

「カラクルルゥエルディ・ベル・ラ・クラルエン・トランツェ、貴公をーー密封する。」

「真っ名っ!?」

 

今回は運が良かった。本当に。

相手が油断して、無駄に喋り、かつチェインを狙って隙をつくったから。

 

「999式久遠棺封縛獄(エーヴィッヒカイトゲフェングニス)!!」

 

ナックルガードから一気に真紅の奔流がBBを包み込む。

苦し紛れに放った一発。

BBは容赦ない本気の一撃で剣を振るうが紙一重、クラウスにもライブラの面々にも当たることはなかった。

凄まじい勢いで引き込まれ、手のひらサイズの十字架に集約される彼に少しだけ哀れみの目を向けたクラウスだった。

 

キンッ

 

静寂が訪れた一室に金属が転がる音が短く鳴った。

 

●

 

その後は大まかに警察に任せる形となり少しだけスティーブンの胃がキリキリと痛んだ。

貸しは作りたくない性分だ。

現場の保管と検証、証拠の収集をしながらクラウスは現場を仰ぎ見る。

最後の一撃で半壊し、現場保全のために帰るに帰れず朝日が登る景色を眺めていた。

 

「おい、今回もやってくれたな。」

「むっ……ご迷惑をおかけする。」

 

ダニエル・ロウ警部は呆れたようにクラウスを少したしなめる。だがそこで割って入るようにスティーブンが待ったをかける。

「まぁまぁ良いじゃないか。1名死亡してしまった事実はたしかに遺憾だがこうして準世界崩壊幇助器具を守り通すことができたわけだ。仮に使用されていたら二桁じゃ足りない人が死んでいた。」

「……まぁ、な。」

 

クラウスはあまり納得できないでいた。

スティーブンの理屈は柔らかく表現して入るものの大を守るために小を切り捨てる考えだからだ。しかしそれはロウ警部も同意しているので丸く収めるためにも何も言わなかった。

警察の鑑識たちがいまいちケースにどう手を付けていいか手をこまねいているのをちらりと覗く。

 

ザップが「今回も俺の出番はねぇのか!?ざっけんな!」と騒ぎ地胆打を踏んだ。

 

ピシッ

 

何かを聞いた。

クラウスは視線をスティーブンへ向ける。

クラウスの聴覚でなくともはっきりと聞こえたようでなにか不穏な顔をするスティーブンを見て確信する。

 

「はぁああぁっ!!?」

 

レオの絶叫が聞こえた。

永久下降概念超強酸(コンセプツディスィデリィッド)を覆ったケースが一刀両断されたのだ。思い当たることは戦闘現場にいた全員がわかっていた。

BBが封棺間際に行った苦し紛れの一発がケースを両断したのだ。

当然ケースを両断されれば中身も無事ではすまない。

中の小瓶が真ん中で斜めにずれる。

ザップがとっさに血法で接着を試みようと血の手をのばすが到底間に合わない。

 

中身がこぼれ落ちる。

 

周囲の人間がもはやこれまでだと諦めを見せ、こぼれた液体が床に触れる。

起こりうる最悪の事態。このビルを完全に貫通し、地面を貫き内核を抉る。

災害では済まないかもしれない結末。

 

が、一向に床が溶ける気配はない。

 

「……偽物?」

 

スティーブンがいち早く冷静になりつぶやく。絞り出した小さなつぶやきにひとり意を唱えた。

 

「……いや、なんかわからないんですけど…本物っぽいと思います。」

 

曖昧な表現で語ったのはレオ。

周囲の人間はなぜ彼がそれを理解できるのかと視線を向けるがすぐに理解した。見ることにおいて長けているその義眼をはっきりと使用している。

 

「おそらく、正規の方法で取り出されていないため効果が発揮していないのではないだろうか?」

「……そんなちゃちなもんか?」

 

ザップの反応は至極まっとうなもので。チェインですら苦し紛れに「確かに。」とつぶやいた。

 

「まぁでもだから世界崩壊幇助器具に連なってないという可能性もありますよね。」

 

警察関係の人が恐る恐るピンセットで液体に触れる。

もちろんロウ警部の支持だ。

ピンセットが触れた瞬間それは何も怒らずただの水のようにしか見えない。

 

「眼で見てもそこまで詳細にわかるわけじゃないんですけど、下に落ちた液体より小瓶のほうが凄まじい色彩です。」

「……小瓶の口から中の液体をこぼさねば発動しない術式の類………。」

 

スティーブンが顎に手を当てて見下すように液体を見る。

鑑識が分析すると成分はそこらの水と何ら変わらなかった。硬度が高いだけのただの水。

 

「まぁなんにせよ、小瓶は破壊。中の液体も無害。一件落着でいいだろう。」

 

先程まで鋭かった目つきが一変、場をまとめるようにカラッと変わる。

残骸は警察が押収するということでそこは丸く収まった。

ライブラの面々はおのおの解散してその場をあとにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いつもとは別のおしゃれなバーでレオナルドは烏龍茶を飲んでいた。

このヘルサレムズ・ロットは奇々怪々な街。料理や飲料一つでも新鮮な体験ばかりで、目の前のグラスに入ったウォッカのような色をした烏龍茶を飲むとどこか落ち着いた。

実家の味というやつだ。

もちろん烏龍茶の起源とレオの実家はなんの関係もないが気分の問題。

まだ早朝ということもあって客足は少ない。いや、「もう」というべきか。

そろそろ店も閉まる頃だろう。

 

「よっ!」

 

背中を軽く叩かれて後ろを見る。

聞き覚えのある声なのだからいちいち見る必要はないかもしれないが、純粋にこのバーにいることがバレて驚いた。

レオが振り向いた先とは逆方向にチェインはいた。

 

「なんでわかったんすか?」

「なんとなく。」

 

答えは得られない。

ただ、嬉しくはある。見つけてほしいような、見つけてほしくないような。

そんな矛盾を溶かすような気さくさにレオは嬉しかった。同時に自己嫌悪もしたが。

 

「なんだか今日は随分と静かじゃない?」

 

レオがチェインの言葉に耳を傾けつつもマスターにお酒を頼む。

チェインが愛飲してる酒だ。

頭が異形の形をしたマスターが3本の腕を巧みに使ってものの30秒で最高の仕上がりの酒が出された。自分だけカウンターに座りながら烏龍茶を飲んでいたレオはその腕を無駄にしていたという意味で申し訳なく思った。

普段来ない店だからこそこういった発見もあってよかったと思えた。

レオが心底どうでもいいことを考えて、チェインの質問に答えずにいるとしびれを切らしたのかチェインから切り出す。

実は表に出さないようにすつつもチェインはレオの顔をチラチラと伺って焦ってはいた。とうぜん青年には理解できていなかったが。

 

「……ま、いつもの?」

「わかってるなら聞かないでくださいよぉ~。」

 

レオがグラスをカウンターに置いて椅子を支えにのけぞる。

長い髪が重力に引かれて逆立った。

先程までじっと体を動かさずにうつむきがちな姿勢でいたのに、途端に空気が晴れた。

 

「今日は誰?」

「……Mr.クラウス。」

 

口をへの字にして自嘲気味に答えるレオ。

 

「あーまぁ………紳士的だったよねぇ?」

 

チェインはチラッとグラスを仰いでレオを見る。

少し心配はしていたのだが落ち込んでいる、というよりはナイーブ程度。安心した。

レオが気にする他人との「男らしさ」の差異。それはいつものことなので今回の中でどこが彼の中で引っかかっているのかを的確にチェインは理解していた。

 

「てかなんでその服なんですか?」

 

強引に話を逸らすレオ。

それも一興かと乗るチェイン。

 

「え?これ?」

 

チェインの服。

今日、いや昨日の夜の任務で着た民族衣装。

アメリカンなこのバーには随分と浮いた服装だった。

客はもういないので誰も笑うものはいないが、いつものバーでいつもの時間帯に行ったら誰から構わず聞かれることは間違いないだろう。

もちろんザップのように「変だ。」なんて口が裂けても言わないだろうし、むしろ褒める声が多いかもしれない。浮いてはいるが、チェインは素材がいいので普通に似合っているのだ。

 

「どうせグレゴリオ?の貸服なんだからパクってきただけよ。質屋に入れたら酒代になるかなって。」

「うわーぉ。」

 

チェインは別段金に困っているわけではないし、普段からこんなこすい真似をする性格ではなかった。ただ昨晩のグレゴリオの下卑た視線に嫌気が差していたのでその腹いせにしてやったに過ぎない。

ちょびっと酒を飲んでレオから視線を外す。

 

「まぁそれは表向きな理由…ね。」

「裏は?」

「…………。」

 

先程までひょうひょうと語ってガブガブと酒を飲んでいたチェインに問いかけるも反応がない。レオはそろそろ頭に血が上ってきたこともあって姿勢を戻した。

左隣を見ると視線を落として気まずそうにしてる彼女が目に入った。

レオはその顔を最近良く、知っていた。

 

「チェインさん。」

「ん。」

 

レオはきれいに背筋を伸ばしてチェインをまっすぐ見る。

チェインはその様相と態度に少し驚いて慌てて歪んだ体勢を整えた。

 

「すごく美しいと思います。」

 

たった短い一言。

じんわりと顎から首、鎖骨を通って胸骨へ暖かさがはっきりと意識できたチェイン。

下顎が震えていた。

酒の影響だろうか鼻先が熱い。

太ももから足先にかけてじわじわとむず痒い鳥肌が通ったが悪い気分ではなかった。

 

「ぁ……ありがと。」

「はっはは……めちゃ恥ずかしいっすねこれ。」

 

レオは今の今までの堂々たる男らしさをへにゃっと腰を折って解いた。

普段どおりポリポリとこめかみをかいて下を向く姿にチェインはキュッと何かを感じた。

チェインが服をパクってきた裏の理由、というより本当の理由は。レオからの感想がなかったことに起因する。

スティーブンからも褒めてもらえてすごく嬉しかったチェインではあったが肝心の親友からは全然何もなかった。何なら目を合わせなかったので、もしかしたら、万一、億が一、どこか気に触ってしまったのかもしれない。そう思った。

 

我ながら随分と女々しくなってしまったなとチェインは自認した。

 

「でもじゃあ、なんであの時言ってくれなかったの?まぁ別にいいんだけどさ。」

「あー……決してこれはその今言った言葉が嘘ってわけじゃないんですけど…。」

 

前置きはレオの癖だなぁとそろそろ慣れ始めたチェイン。

 

「僕は…チェインさんのスーツ姿のほうが……好きっていうか。」

 

 

「」

 

 

「なんだろうたまにっ…そういう服も良いんですけど…はは。」

 

何も言わないチェインを見るのが怖いレオだった。

別に好きだとかそういった甘い言葉をチェインに対して使うのは珍しいことではない。ただいかんせん状況が状況なのでどう言ったら良いのかわからず探り探りになる。

だがレオは、意を決して恐る恐る覗く。

そこには普段の余裕ある表情とは打って変わって目が泳いでアワアワと口をパクパクさせているチェインがいた。

 

「そっそう……なんで?」

「うぇっ!?」

 

よもや理由を聞かれるとは思っていなかったレオナルド。結露してできた水たまりがグラスを伝ってレオの左手を冷やす。

顎をかきながら言葉を選びつつ、正直に語る前にしつこく確認した。

 

「あの、怒らないっすよね?」

「うん。」

「気持ち悪がったりとか。」

「ないない。」

「ほっ本当にですよね!?」

「はよ。」

 

レオは少し深呼吸をする。

動揺したとはいえチェインはむしろなぜこんな慌てているのかわからなかった。

 

「その、僕チェインさんの……脚が好きなんで……。」

「脚ぃ!?」

 

思いがけない友人の秘めたる性癖を聞いてしまったかもしれない。チェインは恥ずかしい気持ちを飛び越えて声を上げてしまった。そりゃめっちゃ確認するわな。と納得してしまう。

もじもじとスカートの中で膝をすり合わせる。

妙に椅子と太ももの間が蒸れている気がした。

 

「いやっそのスーツって結構ラインでるじゃないっすか!高身長の女性のスラッとした脚って綺麗だなっとか、かっこいいなって……思って。」

「キモ。」

「きっ!?気持ち悪がったりしないって言ったのにぃ!」

 

レオがチェインを非難の目で見る。

もちろんレオだってチェインが本当に引いているわけではないとわかっているのでそこまで傷ついてはいない。……そこまでは。

 

「んー性欲に忠実だね少年。」

 

場の雰囲気が壊れていく。こういった時は茶化すほうが得策だと心得ている。

お互いの距離を知っているからこそのブレイクタイム。

 

「ふーん…そっかー…ふーんふーんふーんほーんふーん。」

「な……なんすか。」

 

意味ありげに繰り返すチェインにレオが問う。

 

「いやぁ、ならたしかに脚が完全に隠れるコレは好きじゃないかぁ。」

 

チェインが親指で自身の纏う服を指す。

ぐっと酒を仰ぐ。

レオもなんだか恥ずかしさと理不尽からのストレスで目の前の烏龍茶をウィスキーロックに変えたかった。

 

「まぁ勘違いしてほしくないんですけど脚フェチってわけじゃないですよ?どっちかって言うとバランス見てって感じですね。なんでその服もまたバランス的にはその……めっちゃ綺麗だと思います。」

「ほぉ、じゃあ普段の私は?どう?」

 

スーツも民族衣装も来てない普段のチェイン。

ガサツで半袖とショートパンツでボサボサの頭をかきながらあくびするチェインなんてくさるほどレオは見ているはずだ。さっきの理屈で言えば確かにショートパンツはラインどころか生足が出ているのでもしかするとレオは十分喜んでいたのかもしれないと、チェインはどこか納得した。

 

「それ本人いる前で答えられると思います?」

 

チェインは軽くレオの肩に手を回して密着して、猫なで声で「まぁレオナルドくんじゃあ無理かぁ~!」と茶化した。

 

ただチェインはやはり嬉しかった。

以前も言ったとおり自己評価として自分のスタイルは悪くない。なんなら最近のレオナルドママのおかげで健康的なお肌、髪、顔色。

 

人狼にとって脚は命とまでは言えないがそれでも非常に重要だ。

狼は脚がなければ生きれない。

狩りもできず、姿を消せても意味はない。脚で宇を翔ける存在。

だからこそ大事な脚を好きだといってくれるレオに嬉しさを感じないわけがない。

 

「ちょっ近い近い!」

「いいじゃんおっぱいあててやってんだからさ。」

「ふぁ!?」

 

レオは最初からあたっているのを理解しながら指摘しないでいた点を直球で放り込まれて焦る。

脚が好きだと聞いたとき一瞬で「脚……脚でシてあげたほうがいいのかな…。」と脳裏をよぎったのは隠すことにしたチェイン。

 

「あと……。」

 

レオはなんとか意識をそらすために少し弱音を吐くことにした。

 

「今日、バツが悪かったのは単にクラウスさんの品性?っていうんすか?かっけぇなぁって。」

 

尊敬している年上の男性たちは多い。

普段は尊敬すらできない特定の兄貴分もいるが、でも彼もまた一部かけがえのない尊敬できる部分を持っていることはレオも理解していた。

ただ尊敬できる部分と嫉妬は別だ。

だから相手をこき下ろすとか、自分を殺すとかそういう意味ではない。

すごいと思っているからこそすぐには無理でも追いつきたいと願うのはきっと「漢の子」だからだ。

 

「ああーまぁねぇ。」

 

確かに、とうなずくチェインを見る。

きっと自身と仲良くしてくれているチェインだってもっと自分がかっこよければもっと……もっと……。と思わずにはいられない。

しかしそんな淡い小さなプライドを意識したレオの視界からスッとチェインが消えた。

希釈ではない。チェインが席を立ってレオの手を軽く引いた。

 

「なら踊ろうか。」

「はぇっ!?」

 

チェインはくるっと身を翻してバーの閑散とした空きスペースで姿勢良く立った。

レオは恐る恐るカウンターに空になったグラスを置く。

ドキドキとしていた。

不安と期待が入り混じった喉奥をつばで蓋をして勇気を振り絞る。

 

「そんな固く考えないで、私達に品性なんていらないでしょ?」

「え?」

「伝統作法、礼儀、そんなのわかり合ってる仲なら笑ってるだけで十分じゃない?」

 

『親しき仲にも礼儀あり、されど礼儀過ぎれば親しからず』。

適度な距離感なんてものはない。

人と人を繋ぐのはいつだって誰かが踏み出した一歩のおかげ。

マシュー・カルブレイス・ペリーだって初めての土地に上陸をした。

重要なのはやってみること。

レオは悩みは悩みで持っていていいと思った、でもせっかくなのだからこの場は楽しもう。いつかスティーブンにもクラウスにも追いついて追い抜いてって考えは今はどうでもいい。

「目の前に美姫がいるのだから自分は野獣で十分か……。」そうレオは歩を進めた。

 

「……レディ、お手を拝借しても?」

「あらあら手荒いジェントルだこと。」

 

レオはチェインに手を差し伸べる。

笑って誘いを受け入れるチェインとレオはぎこちない。それこそ無様とも言える知識ゼロのダンス。誰が見ても教養は感じられないだろう。

それでも見たものすべてが笑うだろう。おかしくって面白くって無様で楽しそうなのだから。

2人は客のいないバーで朝から踊り明かした。マスターは軽くため息をついて静かに店外にでるとドアの看板を「Crose」にして奥に消えていった。

 

 

10分後、ホールでチェインがゲロったのは言うまでもない。

 

 

 







完












という冗談はさておき。
次は日常回を書こうかなエロは入れるか入れないか悩む。

実は5月から山形から神奈川に引っ越しまして親のすねをかじりつつ一人暮らしして就活中です。なのでただでさえ忙しい。
次がいつになるのやらわかりませんが、まだまだやっていこうと思います。
次回は50年後かも。(73歳)

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