イナンナの獅子 ショタがTSスーパーヒーロー(金髪褐色おねえさん)に変身して同級生のショタとチュッチュする話。 作:古井京魚堂
ヤタニワトリだとショウヤは思った。
少年が近所の小路を歩いていると、道の向こうから三本足の黒いニワトリが歩いてきた。
一人と一羽は互いに小さく会釈し合うと、そしてそのまま何事もなくすれ違った。
次に出くわしたのは飛び跳ねる透明のビニール傘で、更にその次は象ほどもある山椒魚のお化けだった。
どちらも明らかに超自然の存在だったが、これらとも特にイベントは起こらない。
魔法の視力をおしつけられて以来、ショウヤはヘンテコなモノたちを目にするようになっていた。
最初は混乱し戸惑ったが、特段、危害を加えてくるわけでもなかったので、すぐに慣れてしまった。
それらを妖怪と呼ぶべきなのかは定かではないが、慣れてしまえば日常の一部に過ぎなかった。
そのままショウヤは歩き続けて、ほどなくユウタの家に到着した。
スマホから『着いたよ』とメッセージを送る。
土地の旧家である黒崎邸は、母屋である江戸後期建築の古民家と幾つかの離れ座敷とから構成されている。その離れのうちの一軒、築十年の現代的な住宅にユウタは母親と寝起きしている。
「ごめんください」
心得たもので、ショウヤは門をくぐると、向かって左に建てられたそちらに直行し、インターホンを鳴らして来訪を告げる。
田舎特有の不用心さで鍵はかかっていなかったが、律儀な性格の少年は、ユウタが扉を開けて招き入れるまで勝手に入ることはしなかった。逆は普通にある。
玄関が開いて見慣れた美女が顔を出す。
「あれ? ユウちゃん。変し……シヅルさん!」
「おっす。ショウくんじゃん、久しぶりっ……て、どうしたのさ、そんなおかしな声出して」
意外な人物の登場に驚くショウヤを、コロコロと女は笑った。
すらっと背の高い二十代半ばの美女だ。切れ長の瞳と癖のないショートボブが怜悧な印象を与えるが、実際には明朗快活な人柄なのをショウヤは知っている。
変身後のユウタとは身長や体格、髪の色に肌の色、共通するパーツはまるでないのだが、にもかかわらず驚くほど似ていた。
黒崎志津留。二十五歳。女子大生。ユウタの母親だ。そしてショウヤの初恋の女性でもある。
「今日は大学はお休みだったんですか?」
「そうだとも言えるしそうではないとも言える。あはは。日中は休講が重なって、6限と7限……あー夕方と夜の講義だけでさ、半日お休みだったのです。なのでもう一時間くらいしたら出かけるんだ」
「そ、そうだったんですね! ……ユウちゃん報せてくれても良いのに」
「そんなわけでお構いもできませんが。いつもアイツと遊んでくれてありがとね。……ユウタァー! ショウくんが遊びに来てくれたわよ」
「おーきこえてたー! あがってこさせてー」
「こらっ横着するな。きちんとお出迎えしなさい」
「いま手が離せないんだって。もうちょいでフルコンできそうなのに一時停止は無っ……っしゃあーー!」
家の奥から歓声が上がった。
どうやら遊んでいたリズムゲームでフルコンボに成功したらしいとショウヤは察した。
ほどなくユウタがドタバタと騒々しく走って来ると、スマホの画面を誇らしげに見せつけてくる。
「へっへーん。見ろよコレ、すごくない?」
「わぁ! 最高難易度の曲じゃないか。すごいじゃないか!」
お世辞や追従でなくショウヤは素直に感心した。
すごいすごいと称賛する。
当該作どころか同じジャンルのアプリの中でも屈指の難しさで知られている曲だった。事実としてショウヤは未だフルコンボどころかクリアすらできていない。
「だろ! っと、こうしちゃいられない、ケロッターに上げとかないと」
「って、戻るんかい。アンタ、何しに来たのよ。出迎えの挨拶は!」
「オレとショウヤの間にそんな他人行儀は必要ないの!」
顔を合わせて会話した。それだけで十分だ。
第一、ほんの数分前までSNS上で会話していたのに、いまさら「こんにちは」「いらっしゃい」もない。
「親しき仲にも礼儀ありって言葉百万回唱えろ! ショウくんはちゃんと言ってたでしょうが。ったく、もう横着しくさって。ごめんねー。さ、あがって、あがって。あ、出迎えもなしで良い御身分だなってひっぱたいてやってくれてもいいからね」
「いえ、そんな」
あたふたと両手を動かしながら気にしないで欲しいと伝えると、勝手知ったる親友の家、迷いのない足取りでユウタの後を追って居間へと進んだ。
幼馴染の少年二人は、肩を寄せ合ってソファに座り、他愛もない雑談に興じあった。
キャッキャと絡み合う子供たちへ、同室の大人はコーヒー片手に呆れとも困惑ともつかない視線を向けた。
「キミたちふたり、仲良しなのは知ってるけど、それでも、そこまでひっついてたっけ。距離感バグってない?」
母親は息子とその友達の密着具合を訝しんだ。
三つ四つの幼児や、同じ小学生でも低学年の頃ならいざしらず、どう見ても高学年になった男子のパーソナルスペースではない。
「いいけどさ。そろそろお母さん出かけるから。晩御飯はいつも通りお祖父ちゃん家で食べて、お風呂も入っとくのよ。ショウくんもまたね」
それだけ言うと予告した通り彼女は家を出て行った。
大人の居なくなった室内に残された十一歳の少年たちは、しばらくはそれまで通り子供らしい遊びに興じていたが、それはどこかアリバイ作りめいていた。
やがてどちらからともなく互いに顔を近づけるとキスを交わしはじめた。
頬と頬を擦り付け、唇をくっつけ合う。
焦らされた分、ふたりの性感は一息に盛り上がった。
小鳥のついばむようなソフトな口付けから、またたくうちに勢いはいや増して、舌をからませ、口腔内の粘膜を舐り合う過激なベロチューへと変わっていく。
「ユウちゃん、がっつきすぎ」
「ショウヤこそ手加減しろよ」
お互いがお互いに相手の余裕のなさを笑い合う。
正気を失した酩酊者さながらの、とろけきった瞳を覗きこめば、同じかそれ以上にぼんやりとした自分の顔が映りこんでいた。
「ユウちゃんって美人だよね」
「……くはっオマエいきなり何言いだすんだよ。いまは男だぜオレ?」
「関係ないよ。ユウちゃんは美人だよ。男のユウちゃんも女のユウちゃんもどっちもそれぞれすごく綺麗だ。今だって火照った頬は色っぽいし、照れてる顔は抜群にかわ……ひぷっ」
真顔で賛美の言葉を並べ立てるショウヤの口を、羞恥に耐えかねたユウタは物理的に塞いだ。
唇を貪り黙らせる。
ビチャピチャと艶めいた水音が響く。その合間に挟まる興奮と酸欠に乱された荒い息遣いの呼吸音。
まずい。このままでは押し切られる。
遠からぬ敗北を悟ったショウヤは「それならこうだ」と盤外戦術に打って出た。
「あひゃっ……♥」
思わぬ反撃を喰らったユウタが甘い悲鳴を上げる。
ぐいっと伸ばされたショウヤの手指が、布地の上からユウタの股間を撫でさすった。
「オマ……いきなり、それは……! 反則だろ」
「仕返しだよ」
いきなり加えられた下からの性感に翻弄されるユウタに、ショウヤはさらに畳みかける。
舌と手で口と股間を同時に愛撫しながら、ボタンをはずし、ファスナーを開いて、かたく勃起したチンポを露出させる。先走りの露で濡れた歳相応の皮被りの幼茎を、ショウヤの小さな手が激しく扱きたてる。
脳幹を侵す甘い快楽に涙目になりながら悶え喘いだ。
「あれー。もう出ちゃいそうなのかなあ」
「ちょっ。やめ、やめろって」
白く繊細な手から繰り出される容赦のない手業に、いや、いやと両手で顔を覆い、だだっこのように首を振りたくる。
その姿があまりにも可愛らしく、煽情的で、ショウヤは美少女然とした顔に嗜虐的な笑顔を浮かべるのだった。
だからついついイジワルをしたくなる。
「じゃ。やーめたっ……!」
言葉通り、ピタッと停止する。
呆然と「え? なんで止めるの」と言わんばかりの色を浮かべるユウタの表情に、ショウヤは得も言われぬ興奮と悦楽が脳天を発し、背筋を伝って、股間に集まるのを感じた。
「あれれー。やめて! って言ったのはユウちゃんでしょ。なんでそんな切ない顔をしてるのかなあ」
「いや。だってそれは……」
しどろもどろになって言い訳を重ねるユウタに、ショウヤは言葉で嬲った。
あの日保健室で自分を家畜のように扱った女王様とユウタは別人だと承知の上で、肉体の持ち主への意趣返しを通じてショウヤは仄暗い喜びを感じていた。
「うそうそ。じょーだん。ほら、イっちゃえ!」
だしぬけに再開された手コキの刺激にユウタのペニスはたちまちザーメンを吐き出したのだった。
現時点での性的な力関係
イナンナ>>>ショウヤ>>>>>>>>>>>>>>ユウタ
最初は「かわいいショタと男の娘がディープキスをしながら手コキし合っているのが見たいー!(じたばた)」という欲望を小説に叩きつけんとして身悶えながら書きだしたのですが、書いててどうしてもユウタがショウヤに勝てる光景がまるで見えなくてこうなりました。
2020/05/07追記
ユウタが利用しているSNSサービスの名称を「ツイッター」から「ケロッター」に変更しました。
ツイッターに年齢制限があることを失念していました。
きっとアイコンは小鳥ではなく蛙だと思います。
いざ架空のサービス名を考えるにあたって、tweet に倣って動物の鳴き声の擬音から引っ張ってくれば良いやと安直に考えた作者ですが、いざ選定の段になって本家 Twitter の名付けの絶妙さに唸らされました。
ああでもないこうでもないと悩んだ末にカエルの鳴き声の ribbit に落ち着きました。
その過程で、本国でのサービス名は ribbitter で、日本語版サービス名が「ケロッター」であるという、わりとどうでもいい裏設定が生えました。