イナンナの獅子 ショタがTSスーパーヒーロー(金髪褐色おねえさん)に変身して同級生のショタとチュッチュする話。 作:古井京魚堂
「なんだこれ。腕輪?」
出会いは納屋でのことだった。
夕食後、玄翁と釘を取って来るよう祖父から言いつけられたユウタは、意気揚々と納屋へと出向いた。お手伝いを頼まれたのが嬉しかったのだ。
釘や螺子の収納場所を求めて納屋の中を探してまわる。目についた箱や缶を手当たり次第に開いては閉じしているうちに、それに行き当たったのは必然だった。何個目かのクッキー缶の中に緑がかったくすんだ青色の金属の輪っかが無造作に入れられていた。典型的な錆びた青銅の色。大きさからして腕輪だろう。
無造作に右手で掴み上げると、上下左右からしげしげと眺める。
土俗的で飾り気のない、ユウタの語彙にはない表現になるが、プリミティブなデザインだった。言い換えると古くさい。博物館の展示品と言われても違和感がない。
「おじいちゃんに骨董品の趣味はないから、おばあちゃんのアクセサリーかな」
そう当たりをつける。子供らしい無邪気さで、未だ五十手前の祖母をして、あたかも若い頃は古代人だったかのような物言いをする。
自分なりの解答を得たユウタは、戯れに左手に腕輪をはめてみたりもした。だが、すぐに興味を失って、缶の中に戻すことにした。
「あれ? なんでだ。……うそだろっ!」
腕輪が外れない。
えいっ、やっ、せいっと悪戦苦闘するも、あたかも見えない障壁に阻まれているかのように、青緑の金輪は手首から先へは頑として動かせなかった。
不可解な現象に薄気味悪さを覚えたが、それ以上に腹が立った。また一層憎らしいことに、手首より太いはずの肘は楽々と通過する始末。
まるでRPGの呪われた装備だとユウタは思った。
埒が明かない。見切りをつけると、天性の思い切りの良さを発揮して、工具箱から取り出したペンチでねじ切ってやろうと心に決めた。輪の中にペンチの先を差し込む。
『これ巫女よ。もそっと丁寧に扱わんか』
美しく尊大な声だった。
まるで聞き覚えがなかったが奇妙なくらいに耳に馴染んだ。
そして、それ以上に力強い声であった。
ただの一片の言辞で空気が変わった。神聖で、厳粛で、鮮烈で、甘く、蠱惑的な力がその場を満たした。
急転直下。
いまやその地は納屋ではなく御稜威満てる神殿であった。
神言が少年の心を犯す。
女神の託宣に従うことこそ信徒の喜び。彼女から命じられる言葉には唯々諾々と従わなければならない。そんな心の働きが、とめどなく湧き起こって来る。
いますぐにペンチを放り捨て、跪いて、女神を称える賛美歌を捧げよ。
そんな気色の悪い情動に、ユウタは激昂した。
「覚悟しろ。呪いの腕輪! いまぶった切ってやるからな」
いよいよこの腕輪は破壊しなければならないとユウタは確信した。
ペンチを握る右手に一層の力をこめて青銅の輪の切断を試みる。
『おお。余の神言に揺らがぬか。感心感心。善き哉善き哉』
ただびとならば、たちまちのうちに木偶へと変じるだけの『力』を篭めた勅宣であった。それに意にも介さず逆らってくる。声の主は密かに驚喜した。神代の昔にも稀なる資質の持ち主と巡り合った己の幸運を自ら言祝ぐ。
『玉器たるそなたをして、土器(かわらけ)を扱うが如き、あのようなつまらぬ口先の術で誑かそうとは、くくっ余としたことが、なんともつまらぬ仕儀であった』
「うぎぎぎぎっ……あぁーダメだあっ! そんな気はしたけど、やっぱ、ぜんっぜん、切れねえー!」
女神は自身の失敗を認めて反省し、そんなこと知るかとばかりに少年は怒鳴った。
お互いがお互いに相手の言葉をまるで聞いていない。
『切るなと言うておろうが。どのみち人界の鋼で『青銅』を傷つけるのは不可能じゃ、諦めよ』
「なんでだよ。スチールが青銅より弱いわけないだろ」
窘める言葉に反駁する。鉄器が青銅器に負けるのは道理があわない。
『いやはや、さしもの余もそなたほど肝の据わった巫女とは初めて見える。直答を許す……さっきからしておるな。まあ良い。巫女よ。そなた名はなんと申す』
「ユウタだけど。てか、さっきから巫女巫女言ってるけどさあ、オレのどこが巫女さんなわけ? ウチは寺でも神社でもないぞ」
第一、自分は男だ。ユウタは訝しんだ。
『これは異なことを。神の声を聞く者が巫女ではなくてなんだと言うのじゃ』
「え? ……サニワ? てか、アンタ、神様なわけ?」
だいぶうろ覚えのゲーム知識である。あとだいぶ今さらな確認だった。
『いかにも。余こそメソポタミアに名高きイナンナ女神ぞ。覚えておけ。それがそなたの主神の御名である。あとな。巫女よ。そなた気づいておらぬようじゃが……見た方が早いな。この蔵には鏡はないのか』
言われてユウタがスマホのインカメラを起動すると、画面には見知らぬ女性が写っていた。
理屈ではなく、それが自分自身の姿だと直観した。
だいぶ間が空いてしまいましたが、どうにか続きを更新できました。
本当はFGOがレクイエムコラボをやっていた時に更新して「ボイジャーくんをレベル100、金フォウ、スキルマにしました!」って言うつもりでいたんですけどね(何ヶ月前の話なの)。
ままならないものです。
その空白の間にもお気に入り・評価をつけてくださる方がいたようで、ありがたい話です。今回更新する際に確認したら10名を越えていて、驚くやら喜ぶやらです。
あと活動報告には書いていたのですが、タイトルを変更しました。
『イナンナの獅子』を正題にして、従来の『ショタがTSスーパーヒーロー(金髪褐色おねえさん)に変身して同級生のショタとチュッチュする話。』は副題となりました。略して『イナ子』をこれからもよろしくお願いします。