体を鍛えるにはまず、食わねばならぬ。これは親父から教えられた事だ。特にこの小僧は痩せ過ぎている。
「良いか小僧、まずは朝、昼、夜にしっかり食って貰う。金?小僧を食わせるぐらいの金はある。まずは鍛錬に耐えれる体を作らねばな」
「俺は今からでも出来る」
「たわけ。そんな貧弱な体では武術など極められん。まずは小僧の体づくりからだ」
1ヶ月を掛けて基礎体力向上、筋力強化のみに絞って行わせ、食事をしっかり食わせた。
「だいぶ肉が付いてきたな。そろそろ本格的にしごいてやるか」
「ようやくか。待ちわびた」
さて、体術は習うより慣れろって言うしな、型を覚えるより確実に動ける体捌きと、確実に殺せる技を見い出せってな
「小僧、お前の好きな様に殴りかかってきな。遠慮はいらんぞ」
「わかった」
獣の如く体勢を低くし、地を蹴り、突進してくる。猪よりも速い動きではあるが所詮はガキだ
「ほっ」
ちょうど良い位置に来た小僧の顎を蹴りあげる。
「があっ!?」
「体勢を低くするのは良いが蹴りの餌食だな」
脳を揺さぶられた小僧は地面に大の字で倒れる。
「おらどうした?1発で終わりか」
「う…がああ!!」
立ち上がりと同時に拳を振り回すが当たるわけがない。張り手で頬を張り飛ばし、服を掴んで投げる。
「飯が食えなくなっては困るな。顔はやめとくか」
「ハアハアハアハア」
「って訳で腹な」
拳が小僧の腹にめり込む
「うごっ!?」
「痛いよな?痛くなくするにはどうすれば良い」
わざとゆっくり蹴りを放つと、無意識だろうが両腕で防いで見せた。
「そうだ!よし、ここまで。防御の大切さはこれでわかっただろう?ちなみに無手以外の、刀は斬られたら死ぬ」
「抜刀斎の前にお前を殺す」
ふらつきながら立ち上がった小僧の白髪に手を置く
「へっ、やれるもんならやってみろ小僧」
そこからの月日は少年を成長させるには充分だった
「はあああ!!」
突き、打つ、払う、蹴り、明らかな高威力の打撃が巻藁に打ち込まれる。
「おう、小僧。精が出るじゃねぇか」
「師よ、俺の名は縁です」
「はっはっは…俺に勝てたら呼んでやるって言ったろ」
健康的な食事と鍛錬法により、背丈も急成長を遂げた小僧は既に少年から青年へと至っていた。
「師よ、そろそろ日本を出て大陸へ行ってみたいと思っている」
「ほぉ?まあ、そこらの輩には敵じゃねぇしな。これ以上は野暮か…既に免許皆伝はやってもいい技量だ」
小僧は今では俺とまともに打ち合える程度にはなっていた。それこそ緋村と良い勝負が出来そうだ。今の段階なら死ぬことはないだろ
「ほんじゃあ、卒業試験と洒落込むか」
「師よ、今までの恩を返させて頂きます」
いつも通りに倒れ伏した小僧を、上から見下ろす
「頑張ったじゃないか」
「はあ…いまだ師に至らず…か」
「充分過ぎるぜ…縁。世界を見てこい」
その言葉を聞いた小僧、縁は目を見開いてニヤッと笑いながら
「ありがとうございました。師よ」
「へっ、次に会う時を楽しみにしてるぜ」
翌日、俺が起きた時には既に縁は居なかった。
あばよ…我が弟子。