特殊機械を使用しての追跡劇を繰り広げ、佐竹の乱暴すぎる制圧によりなんとか被疑者確保に成功した特機対。
飯島は自身の職務への向き合い方を改めて考え始めるが、果たしてその答えは見つかるのか。
「だから俺のせいじゃないんですよ……」
取調室でひたすらに無罪を主張する男。幾度となく繰り返された問答に疲れ切っているのか、その顔には疲労の色がありありと浮かんでいる。
「いい加減認めろよ……こっちも暇じゃねえんだよ」
被疑者の氏名は錦戸良太。32歳で独身、犯罪歴はなし。都内の運送会社に勤務。
問われている罪状は特殊機械を利用しての傷害、及び窃盗。逃走時の公務執行妨害の三つ。
しかし錦戸は一貫して容疑を否認している。
「だから何度も言ってる通り、スーツが勝手に動き出したんですって、スーツのログを見てもらえばわかりますから…」
「あ?そんなこと起こるわけねえだろ!見え透いた嘘ついてんじゃねえぞ」
「落ち着け飯島。取り調べは録音、録画されてるんだ。」
手で飯島を中野が制する。軽挙妄動は慎め、ということだろう。
「錦戸さん、あなたのスーツはいま鑑識とウチの技術開発室の連中が解析してます。結果が出ればすぐに真偽のほどはわかります。すみませんがもうしばらくここで待っててもらいます……おい、部屋にお連れしろ」
錦戸にこれ以上何を聞いても無駄と判断し、取り調べを切り上げる。
「飯島、ちょっと付き合え」
取調室を後にした中野は飯島を伴って喫煙所へ向かう。
取り出した煙草を口に咥え、ポケットというポケットをまさぐる。
「なんだよ、火忘れたのか?ほれ」
「すんません……どうも」
しばしの無言。紫煙が肺を満たし、ニコチンが身体を巡りはじめた頃に中野が切り出す。
「正直なところどう思う?」
「んー……どうですかねぇ。嘘をついてる感じはしないんすけど、スーツが勝手に動くなんてあり得ないっすからね……クラッキングって線も薄いかなと」
「特に業務用の機体はオフラインなことが多いからなあ、俺も同じ意見だ」
特に個人情報を扱う会社の業務における特殊機械のネットワーク接続は制限が多く、オフラインでの運用がもっぱらとなっている。錦戸の勤め先である鹿野運輸もその例に漏れず、オフライン運用形態を採用している。
「とりあえず解析が終わらんことにはどうにも進まんな、俺はこれから佐竹の事情聴取だから調書作成は任せるぞ」
中野はそう言い残して半分以上残っている煙草をぐしゃぐしゃと灰皿に雑に押し付けて去っていった。
調書作成だりぃな、と口に出すのも億劫になり、無言で煙を吐き出す。徐々に思考が冴えてくるのを感じる。最近では喫煙者への風当たりがかなり強くなり、課内での喫煙者は自分と中野警部補の二人のみとなった。おかげで喫煙所は一人で思慮にふけるにはうってつけの場所となった。白い煙が霧散していくのと裏腹に思考はまとまっていく。いつの間にか煙草は燃え尽き、宙に舞うのが煙でなく白い吐息になった頃、携帯端末が震える。
どうやら解析が終わり、集合がかけられたらしい。
「いやあみんなお待たせ、待望の解析結果だけど、何らかのサードパーティー製のソフトが動いていたらしいってことしかわかりませんでした」
「えっ、なんで」
「ナイス質問佐竹君」
飄々と切り返した栗山がつらつらと説明を始める。
錦戸の使用していた特殊機械は当初の予測通り四菱重工製のYHC-55であり、ハードの改造は行われていなかったこと。ソフトとしては業務用の専用ソフトと詳細不明のプログラムの残滓があったこと。そしてソフトの解析結果が芳しくないのは制御部分を佐竹がテーザーシューターの射撃で損壊してしまったのが原因であるということも。
「お前のせいで捜査進まねえじゃねえか!」
「仕方ないでしょスーツ部分だけに当てられそうなの胸あたりだけだったんだから!」
「仕方あるわボケ!警棒でしばけばよかっただろ!」
「あんたほんとに警官か!?」
「お前が言うなよ!」
「落ち着けお前ら、とりあえず関係各所に当たって裏を取るぞ。課長には俺から話を通しておく」
中野の鶴の一声で皆が一斉に動き出す。
皆に続き部屋を後にしようとしたところ、中野に呼び止められる。
「え、なんすか」
「飯島、佐竹、お前らはウチの車で行け、念の為だ」
何をそんなに警戒しているのか、という疑問より先に何故佐竹を連れていかねばならないのかという不満が湧き出す。そしてそれはどうやら顔にも出ていたらしい。
「お目付け役ってことですよね?」
「よく分かってるじゃないか。狂犬病のワクチンでも打ったか?」
事情聴取で散々絞られたらしい佐竹が忠犬のように中野の意図を察する。
「それに相手は四菱重工だ。一部上場企業に行くからには"正装”でないとな」
「分かりました、でもいいんですか?目立ちますよ?」
「そのための車だからな」
首を振って佐竹に付いて来るよう促す。
駐車場からは覆面パトカーが次々と発車している。遅れをとるまいと佐竹と共にいそいそと乗り込み、安全確認もそこそこにアクセルを踏み込む。
敷地を出た瞬間、黒と白のツートンカラーだった車体が青主体のカラーリングへと変貌する。
「うおっ?」
「マジか……」
『だから言っただろう?そのための車だと』