「へぇ……アンタ、面白い技を使うね。」
「あ?」
唐突にかけられた声に視線を向けると、そこにあったのは馬車から顔を覗かせる幼女の姿。
日本生まれの為、どうしても外見で印象を決めてしまいがちになるが、おおよそ状況を考えれば普通の幼女ではなくハーフリングだろう。
ハーフリングはドワーフやホビットのような小柄な種族で、人間の俺から見ると大人でも人間の子供のような体型や見た目をしているというのが最も大きな特徴と言える。身体は子供、頭脳は大人! という感じの種族だ。
外見以外の特徴としては小さな手を器用に操るので細かい作業が得意な者が多い。そして大抵のハーフリングは用心深い性格をしている。
臆病遺伝子を強く持っているとされる日本人としては『備えをきちんとしないと落ち着かない』とか細かなところで共通する感覚をもっているように思えるので話は合いやすく気の合う種族の一人だ。
ただ、ハーフリングは話していると、年を重ねても子供の外見という持前の特徴を活かす狡猾さもしっかり持っていると感じないでもない。
これまでの人生ならぬハーフリング生で積んだ経験をフルに活かし、尚且つ外見の特徴もフルに活かして、とことん損をせず生き抜いてやる。そんな意思を感じる種族でもある。なので、人間よりも長く生きている者が多いし、そこそこ仲良くなると大抵の場合は話の中でかなり年上であることを、やんわりと匂わせてくる。
ただし、その匂わせた年齢が本当にそうなのか、それとも
可愛らしいだけでなく、いざという時には利用できるものは、なんでも利用するくらいの狡猾さを兼ね備えた種族。それが俺の感想だ。
「あー……ハーフリングのアンタが、この淫魔店の主人か?」
「主人っていうよりも交渉役だよ。想定外の事態とか面倒な交渉は、あたしみたいな鉄火場で矢面に出れないヤツがする。その方が公平だし話もスムーズに進むからね。」
戦闘要員ではないという事を全面に出しながら人懐っこい笑顔を浮かべ馬車から降りてくるハーフリング。
そして俺は、その姿を見て膝をついた。
女児用のワンピースに身を包み、その無邪気な天真爛漫さを笑顔とともに表現することを忘れない。子供の持つ穢れの無い純真さのような物を、しっかりと武器として、その身に纏わりつかせているのだ。
このハーフリングは
自分の事をしっかりと知っていて、相手が求めるモノもしっかりと知っている。
そして自分の持っている武器を使うことに何のためらいもない。
そういう奴は強い。
こういう分かっているヤツと交渉するのは百戦錬磨の手練れでなければ相手に良いように扱われてしまうのがオチ。そしてコイツは他人を良いように扱うことに楽しみを見出しかねないタイプのヤツだ。姿を見て、すぐに悟った。
コイツと話したら、きっと俺は『よしよしわかったわかった』と言ってしまうかもしれないと。『何が欲しいんだいおじょうちゃん』と言ってしまいかねないと。だから話すべきではない。
「ね? おにーちゃん。わたしとおはなししよ?」
「うん!」
子供のような言葉遣いで声をかけてきたハーフリングに、俺はただ笑顔で快く応える事しかできなかった。
なぜなら可愛いは正義だからだ。
こんな
「って、つられてたまるかい!」
「こっちかて、こんなんで引っ掛かると思ってないわ。」
まさかのジャブでノックアウトされかけたが、なんとか堪え、額を拭って立ち上がる。
若干ハーフリングが笑ってる気がしないでもないが気にしない。
「え~っと、まぁ俺の仲間もこっち向かってるから交渉なら後から来た方と話してくれ。俺はただの制圧係だからな。交渉は別だ。」
アヤワスカが色々言っていたけれど完全に理解しきれているかと言われたら怪しいし、適当に話を進めてアヤワスカの望むことと俺のやる事が食い違ってたら面倒だからな。
追っかけてくると言っていたのだから、それなら最初から話を全部任せるのが一番賢い選択だ。
それに俺は別に今回の旅で報酬をメインに考えていないしな。どうせ移動先の高難度クエストで報酬を稼げるし、今回のお小遣い稼ぎはアヤワスカ達の取り分になる契約になっている。彼女たちが話すのが道理だろう。
なにしろ彼女たち主導でやりたいようにさせていれば、夜のサービスもずっと良くなるであろう可能性が高いからな。これが最良の選択なのだ。
「わかったでー、でも、ある程度は話きいてるんやろ? わざわざ追っかけてきて盗賊を拘束してるくらいやしな。やることに納得してないはずないし。とりあえず拘束するんなら手伝ったるさかい、そいつら縛りながらでも少しだけ話くらい聞かせてーな。あ、ちなみにウチはソフィー言うんや宜しくな。おーい、お前ら、はよこいつら縛るもんだしーや。」
俺の交渉を断る言葉を聞いても、まったく話を切らせる気は無かったらしく、ソフィーと名乗ったハーフリングは口を動かしながらテキパキと行動を始めた。
そしてソフィーは透明牢獄に押し込まれている盗賊たちに目を向けて首を傾げる。
「なぁ、アンタ。アレはなんかギッチギチになってるけど一人ずつ出せるん? 一人出そうとして全員ぼーんと襲ってきたりせぇへんの?」
「あぁ、俺が引っ張りだせば一人ずつ出せるな。」
「ほーん……でもあいつらめっちゃ元気やけど、そんなん引っ張り出して怪我しーひんの?」
「怪我しーひんわ。」
言葉が移った。
なにこの訛りのクセの強さ。
俺の変になった言葉使いに対して、関西人なら『急に気持ちわるぅ!』とか不機嫌になりそうなところだが、ソフィーは一向に気にするような素振りもなく口を開いた。
「わかった。ほなちゃっちゃと出して縛ってこか。アンタらも手伝ったりーや。」
男ミノタウロス2人がソフィーに顎で使われたが、大人しく大斧を仕舞い俺に『どうしたらいい?』的なボディランゲージを見せてきた。
「そんじゃあ、俺が一人ずつそっちに引っ張り出すから連行できるように服とか剥いて縛ってもらっていいか? 暴れたら遠慮なくぶん殴って黙らせる感じで。」
「おう。」
「わかった。」
ミノタウロス達の了解を得たので、早速、結界に穴をあけ、盗賊の一人の襟首を掴んで透明牢獄から引きずりだす。
当然、武器を手に持っていてまだまだ元気な盗賊は反撃してくるが、すまんな。俺、チート持ちやねん。と、適当にいなして武器を落とさせて、そのままミノタウロス達の方へと腕だけで一本背負いする。
背中から落ちた盗賊は背中を激しく打ち付けて悶えるが、その隙にミノタウロス二人に服を剥かれ始めた。
「や、いやぁー!」
「うるせぇ!」
「ぐえ」
筋骨隆々のムキムキミノタウロス。しかも二人がかりで裸に剥かれれば盗賊だって乙女のような叫び声をあげることもあるだろう。なにせムキムキマッチョメンなミノタウロスに無理矢理脱がされるのだ。貞操の危機を感じた声が出ても違和感はない。
だが当然のことだが男ミノタウロスも別に男の裸を見たいが為に脱がしているのではないのだから反応にイラっとすれば殴りもする。
何故盗賊の服を
そして副次的な効果として、ある程度、文化に触れている者であれば裸にされてしまうと極端に不安になり易い状態になり逃げ出しにくくなるという効果もあったりする。それに盗賊の服でも物によっては金になるから、よりお得。
どっちが
剥かれた第一盗賊は人族だったようで、後ろ手に縛られ足も必要以上に開かない程度に縛られて転がされた。盗賊を全員同じ状態にしたら、最後に全員の首をロープでつないで縛って連行縛りの完成だ。
早速、次に剥くのを誰にしようか盗賊を見回す。流石に総勢12人の盗賊ともなれば色んな種族が入り乱れバラエティに富んでいる。パッと見ただけで獣人、悪魔、単眼、ゴーレム、リザードマンなんかも目につく。悪魔と単眼は魔法を使いそうに思えるし連行を考えると、さて、どうしたものか。
「魔法使い用の拘束具もあるでー。」
「おぉ、用意がいいんだな。使っていいなら使わせてくれ。もしかして転送魔法とか魔法陣もあったりするか?」
「ははは、あるわけないやろ。」
「ですよねー。」
拘束具がミノタウロスの手に渡るまで待機もなんなので、その間に魔法を使わなそうな獣人を一本釣り&一本背負いでミノタウロスにご献上。
「はー豪快やなぁ……暴れる獣人を気にもせんとか、やっぱり強いんやねぇ。」
「まぁそこそこ強い方だな。」
「で? で? わざわざ助太刀して拘束してるんやから、この後どうする気なん?」
「だから俺の仲間もこっちに向かってるし、こいつら全員を拘束し終わるくらいには多分合流するだろうから、もうちょっと待っててもらえないか?」
剥かれる獣人の様子を眺めながら適当に答える。
フッサフサの犬獣人。フッサフサやんか。
「おしえてよう、おにいちゃぁん。ちょっとだけでいいからぁ。」
「盗賊買わない? って話するらしい。」
「ほかほか、なるほどなぁ。まぁそうやろなとは思うてたわ。」
「はっ!? 俺は今いったい何を……」
微妙な関西っぽいノリに乗せられてしまった気がしてならない。
まさか魔法で思考誘導が……
「いや別にウチ特になにもしてへんで。」
「うん。知ってる。」
魔力系の催眠だの思考誘導だのであれば、俺は普通に弾く。
単純に『おにいちゃん』という言葉に魅力があっただけのことだ。
「まぁアンタらは、これから遠出、ウチらはもうすぐ到着やしな。どうせなら連行させて儲けたろってなるわな。んで――」
「なぁ、俺が盗賊の仲間とか、別の盗賊って見方はしないのか? 全員縛り終わったらあとに襲うかもしれんと。」
ソフィーの話のペースに乗せられそうな気がしてきたので不穏な言葉で会話をぶった切っておく。
警戒心を煽るような言葉を言っておけば多少なりと言葉も詰まるだろう。
現にミノタウロス達から向けられる注意が、さっきよりも増している。
「あっはっはっは! んなわけないやろ!」
だがミノタウロス達とは真逆にソフィーは面白そうに笑い始めた。
「アンタが盗賊やったら最初すれ違った時に何かしらしてるやろ? どうやったかは知らんけど、わざわざ『そいつら盗賊やでー』って言う為に追っかけてきて、んで今、盗賊縛るん手伝ってるしなぁ。それに襲ってきた連中は、まずアンタにしっかり殺意を向けてたんやし、そいつらの仲間ってことはないやろ。」
ケタケタ笑いながらツッコミを入れてくるソフィー。
「それにアンタが別の盗賊やったらウチらが無傷なのがおかしいんちゃう? やり合ってクタクタになるの待つか、その盗賊と一緒くたにぎゅうぎゅう詰めされてるのが普通やろ。つーか、なによりも敵意も殺気もまるで感じんし明らかにこっち側や。面白い事いうなー。」
ソフィーの言葉でミノタウロス達の注意が『それもそうか』と言わんばかりに霧散した。
「えっ? ……もしかして真面目に『えっ!? おにいちゃんは私たちの敵かもしれないの!? 嘘よね?』とか可愛らしい感じで返した方が良かった? やりなおす?」
『大丈夫? おっぱい揉む?』的な優しい感じで声をかけてくるソフィー。
「いや結構です。」
「『結構です』って言葉はイカン思うでー? どっちとも取れるし。どっちか分からんわ。分からんし言っとこか?」
笑いながらバンバンと叩いてくるソフィー。
俺、わかった。このハーフリング。俺より大分年上だわ。
「はいはい。ややこしい事言ってすみませんでした。そうです。盗賊じゃないですー。ただの冒険者ですー。」
「ただの冒険者ってこともないやろ? そんだけの腕あったら。」
「いーえー、一介の冒険者ですー。」
とりあえずけん制が無理ならやさぐれてみる。
「そない分かりやすう拗ねんでもええやんか?」
「はぁー? 拗ねてないですけどー?」
「おにいちゃん。もしかしておこっちゃったの?」
「そんなことあるわけないじゃないか。」
無理だった。可愛いに抗える男など存在しない。
やさぐれも、けん制もまるっと無視される程度に完全に話のペース握られていることが流石に理解できた。
おおよそ俺の性格も多少読み取り終えたのだろうソフィーは、この拘束中も交渉についての追及の手を緩めることはない気がしてならない。
「はぁ……でもほんと触りしか聞いてないぞ?」
「ありがとなぁ。触りで全然かまへんかまへん」
なので、適当に話を合わせることにする。
決して相手を続けるのが面倒になったわけではない。
どれだけ俺がチート的に強くなっても、口喧嘩とかの強さって別次元の話よね。
「んじゃあ早速聞くけど、とりあえずその後から合流する仲間って、女? すれ違う時いたのは女の猫獣人やったと思うんやけど、男が来たりはせぇへんの?」
「女だぞ。」
アヤワスカが来るかミーニャが来るか分からないが、どっちが来ても女だ。
「そっかー残念やなぁ……もし男が来るんやったら報酬にウチのフルコース接待を組み込むって手も使えたと思うんやけどなぁ。」
「フルコース…………接待……だと?」
「せやで? ウチのサキュ嬢全員でのフルコースや。」
馬車に目を向けると、馬車から降りて様子をうかがっている綺麗な兎獣人と、女ミノタウロスの姿。馬車の中のスライム娘。全員が全員、目が合うだけで扇情的な表情や仕草を返してきた。
「フルコースやからな……当然ウチも相手するで?」
聞こえた声の方に目を向けると、そこには無邪気な微笑みのハーフリング。
「ねぇねぇおにいちゃん。おいしゃさんごっこってなぁに? しってる?」
「知ってる知ってるーっ!」