「有り金全部で勘弁してやるのにゃ!」
「はぁ?」
俺が驚きの声を上げているにも関わらず、まったく気にする様子もなく逆にフフンと誇らしげに胸を張るミーニャ。
そして当然のことながらミノタウロスが片付けた大斧に近づいていった。なにせミーニャの要求は、もはや盗賊のような要求にも聞こえる。警戒だってするだろう。
「いやいやミーニャ、いきなり何言ってんの? カツアゲなの? それとも盗賊なの?」
突然の盗賊宣言に妄想していたお医者さんごっこもスライム前立腺アハンケツイクも吹き飛び、焦りながら口を挟んだ。
「ニャ? もしかしてブレイク盗賊相手に活躍できなかったにゃ? にゃあ~……そうしたら有り金全部は諦めるにゃあ……」
しゅんと落ち込むミーニャ。
「いや活躍はしたよ? がっつり捕まえる手伝いしたし、いや、むしろ手伝いって言うよりは彼らには拘束する時ぐらいしか手伝ってもらってないくらいには活躍したよ?」
「にゃ! なら有り金全部で勘弁してやるにゃ!」
またも胸を張るミーニャ。
「いやいやいやいや! だからソレ完全に盗賊の要求になってない?」
「盗賊じゃないにゃ。交渉にゃ。んにゃ? 交渉に見えないかにゃ?」
首を傾げるミーニャに俺も思わず首を傾げる。どうやったらカツアゲ以外に見えると?
「ブレイクはんブレイクはん、まぁ、ちょい待ちぃな。とりあえず要求は一旦置いといてやな。まずはお互いに現状を把握しーひんか?」
無茶な要求をされたにもかかわらず人懐っこい笑顔で口を挟んできたソフィー。ソフィーの様子から、とりあえず場をこじれさせる気はないのだろうことが伺い知れる。
そもそもソフィーの立場に立てば、実力が未知数ながらも相当ヤバイ力量を持っているであろう俺が、これをきっかけに居直り強盗に変化し敵対するかもしれないという事態だけは避けたいはず。できる限りうまく場を治めるという意思が働いても不思議ではない。
そして逆にミーニャ・アヤワスカの立場にしてみれば、そんなある意味『核のボタン』のような俺の立場を活用して絞れるだけ絞りたい。なんだかんだ言っても暴力は最も通用する言語だし、力のある者が要求を通すのはどこの世界でも一緒の事だから、最大限の要求を考えてもおかしくはないと思える。
どちらにしろ、俺の胸三寸にあるということだが。
「まぁ、ミーニャさん? まずはウチの立場の話なんやけど、盗賊に襲われるところをブレイクはんに助けてもろたことは確かに助けてもろたで? でもな? そもそもウチはそこそこ腕に自信があるからこそ、こんなんやってるワケや。実際襲われることを想定してウチの仲間も構えててん。」
「にゃ? そうなのにゃ?」
ミーニャが素直に首を傾げる。
「せやで。ウチの仲間も全員奇襲警戒してたしな。ブレイクはんが突然来たから、わやになってもうたけど。」
「あれ? ソフィー達は奇襲に気づいてたのか?」
「兎は耳いいんやで?」
ソフィーが顎でサキュ嬢の兎獣人を指すので目を送ると、兎獣人サキュ嬢は器用に耳をピコピコ動かした。
ただ俺は首をひねる。
「にゃ? ブレイクどしたにゃ?」
「いや気づいてたにしては対応が微妙だったような気がしないでもなくてな。」
実際に奇襲の時に放たれた矢は俺の結界で止まっていたのだからミノタウロス達がサクっと射られていた可能性は高い気がしないでもない。
「ハッキリしてへん状態やったしな。それにウチの男どもは頑丈やねん。」
ソフィーの言葉に突如マッチョマンポーズを決めるミノタウロス達。
矢が刺されば怪我はしたと思うが、ひょっとすると怪我をしたとしても回復させるような手札を持っていたということなのかもしれない。
が。今喋ってるのはハーフリングだ。ハーフリングならハッタリもよく使うから、どこまで本当のところが分からない。
「ちゅーわけで襲われるのも日常茶飯事やから奇襲対策はできてたんよ。」
「そーかい、そりゃ余計なお世話おかけしましたねー。」
「いやいやいやいやちゃうで! 気ぃ悪うせんでなブレイクはん! 実際助けてもろたとは思てるんや。それにウチらやったら全員無傷での拘束は無理やったやろし。」
どこまでがハッタリか分からないまま向こうの言い分を飲み込むのも気持ち悪いので嫌みくらいは返しておくと、あからさまなご機嫌取りをしてくるソフィー。
おおよそ最低限の謝礼程度はするつもりであるということと敵対する気が微塵もないことは伝わってきた。だが必要以上の譲歩もしないということも伝わってくる。
「おにいちゃんのおかげなの。ありがと。」
「いいってことよ!」
そして、こう、ハーフリングから露骨にご機嫌取りさせてると小さい子に気を使わせているような気になってきて心地が悪く、なかなか拗ねた態度を継続させるのは難しい。
俺の態度から、すっぱり嫌みが消えたのを見計らってミーニャに向き直るソフィー。
「ちゅーわけで、ウチらはもうすぐ街につくんやし
『こっちの最大限のラインは引いたけど、そっちの要望はどないや?』と言わんばかりの顔でミーニャの言葉を待つソフィー。
ミーニャは『うん!』と頷いて笑顔になった。
「わかったにゃ! そんにゃら
ルンルン笑顔でダガーに手を伸ばすミーニャ。
「ちょっ!」
「ちょ待ちぃな!」
流石に俺もソフィーと一緒になってミーニャを止める。
「ちょ、ちょっと待とうかミーニャ! なんでそうなった!? 理解がついてけてないから俺に教えてくれ!」
「にゃ? ミーニャは『有り金全部もらってくる』か『盗賊討伐の成果の山分け』してくるのどっちかしか選んじゃダメって言われたにゃ。でも、そこの子が盗賊達はブレイクなしでも戦えたって言ってたし有り金全部もらえないのも分かったから
「オーライミーニャ。とりあえずわからんから一旦ストップだー!」
再びダガーに手を伸ばしながら縛られている盗賊に足を動かし始めたミーニャを抱きしめて止める。
「ニャー、ブレイク止めちゃダメにゃー。そもそも
ミーニャが俺の抱きしめに抵抗する。だが抵抗する力は思ったより薄い。
俺に抱きしめられて止められたら動けないことを分かっている、ということだろうか?
「ちょい待ちぃな。今の『釣ってきた』ってのはどういうことや?」
「あぁ、俺らが街から出るときに盗賊に襲ってもらいやすいように餌まいてたんだよ。小遣い稼ぎ用に。それで釣った。」
ミーニャを抱きしめていると動く気はなさそうなので、そのままソフィーの質問に答える。
「なんや……てことはウチらが襲われたんはブレイクはんらのせいでもあるってことやないか。」
「あ~。」
相手方の有利な情報を迂闊に出してしまった事に、つい、しくじった声が漏れる。
「にゃ? それは違うにゃ。『恵まれないサキュバスに愛の手を』とか『10,000Gのご寄付で、30分間サキュバスが感謝を捧げます』とか金も女もあるって看板を出してるから襲われるにゃ。」
俺のしくじりへの言及を、スッパリと切るミーニャ。
「それに淫魔店は正式な店以外でやるのはご法度にゃ。どうみても違法にゃ。違法は金が貯まるにゃ。そのせいだにゃ。」
スッパリと切っただけでなく返す刀まで振るうミーニャ。
なんだこのミーニャ。頼りになる。
「いやいや、そもそもウチは襲われても対応できる言うてるやんか? それに別に『淫魔店です』なんて言ってないで? 看板は見ての通り『恵まれないサキュバスに愛の手を』やし『寄付のお願い』してるだけやしな。そのお礼は感謝を捧げる言うてるだけやし、これをどう見たら淫魔店に見えるっちゅーんや? 寄付をお願いする看板掲げたら問題なんか?」
「にゃー? それなら仕方ないにゃ。」
「いやいやいやいやミーニャ! 全然屁理屈じゃん! 納得したらダメだろ!」
ミーニャが納得したように頷いたので、たまらず口を開く。
「でもその通りみたいにゃん。」
看板を指さして『ほら見てみ』と言わんばかりのミーニャ。一瞬でも頼りになると感じたのは幻想だった。
確かにソフィー達の看板に淫魔店とは書いてない。書いてないが『金でサキュ嬢がサービスします』と認識させるには十分だ。わざわざ誤認させる書き方をしているのだからツッコミようはどれだけでもある。
たまらず口を開く。
「盗賊を釣ってきたのは俺らだが、そもそもの話として、俺らだって狙われやすくなる程度の振舞いくらいしかしてない。つまり実際に盗賊が追ってくるかは不透明だったし運任せなところがあったんだ。そして奴らの目的は俺らだったはずで、行きがけの駄賃とばかりに狙われるなら狙われるだけの理由がある。ミーニャの言うように盗賊と遭って奇襲されるソフィー達は、その見た目に原因があったのは明白だろ。」
「そうやなそれも一理ある。せやから今回のところは、助けてもろた礼として連行してもらえる3分の1くらいの金額でドヤ? それで丸く収まらんかな?」
結論を見越していたかのようなソフィーの提案。
俺は妥当といえば妥当な気がしてミーニャに目を向ける。
「にゃ? それだと街の盗賊の拠点のお宝も丸儲けにゃからダメにゃ。もらうなら有り金全部にゃ。ダメなら丸儲けさせない為に全員狩るにゃ。」
「あっ、そっか盗賊の拠点のお宝ってのがあったか。」
ここにきて、なぜミーニャが盗賊全員をキュっと締めようとしたのか理由が推測できた。
この盗賊は俺たちが街から釣ってきた盗賊であり、街に拠点を持っている可能性が高い盗賊どもだ。つまり生かしたまま情報を吐かせれば拠点への襲撃が可能となるし、その襲撃を成功させれば連行した報酬だけでなく、それ以上に稼げる可能性がある。
この可能性を考えれば、確かに有り金全部でも悪くない賭けになるようにも思える。
有り金全部でも盗賊の連行報酬は確定しているし、その後の追加報酬は未知数。もちろん未知数だから追加報酬がない場合もある。ソフィー達の有り金がどれくらいかは分からないが、今回襲ってきたのは商隊を偽装するだけの準備ができて、それなりの人数を動員できる盗賊だ。分が悪い賭けとまではいかないだろう。
今のところ盗賊どもは一人残らず捕まえてあるし、拠点に向けて連絡員が走ったということも無いので、うまく情報を聞き出して拠点を襲撃すれば盗賊どもが溜めたお宝を手にできる可能性は高い。
もちろん、襲撃を成功させる為には当然のことながらこれだけの人数を連行して街に入るわけにはいかない。もしこのまま連行すれば盗賊の仲間に全員が捕まえられたことが知られる可能性も跳ね上がり、情報を得た拠点の残党どもは逃げ出したり解散したりする可能性がある。
襲撃や連行方法など、準備もそこそこに必要になるが、それでもやりようはある。
ソフィー達が拠点を襲撃をする気がないのであれば、俺たちが盗賊全員の口を塞いでおくというのは重要になる。
なぜなら、今回盗賊を捕まえたのはあくまでも俺だ。拘束を手伝ってもらったが、捕まえたのは俺。生殺与奪の権利は俺が一番持っているからこそ、ここで全員きっちり締めておけば拠点の盗賊に情報が入るのが遅れ、また俺たちが街に戻った時に盗賊を釣ったりして拠点を襲撃してお宝を得られるチャンスがあるかもしれないからだ。
12人も減れば解散してお宝がなくなる可能性も有るけれど、可能性がゼロじゃない以上チャンスを増やしておくに越したことはない。
なるほど。だから『有り金全部もらってくる』か『
ここにきて、ようやくアヤワスカの言っていたことの全容が把握できた。
「なるほどな。ようやく理解できた。なぁソフィー。やっぱりこっちの要望はソフィーには悪いけれど『有り金全部』か『盗賊全員殺した上で成果分け』のどっちかしかないみたいだ。一応、有り金全部の場合には、そっちのメリットとして連行した報酬の他、盗賊の街の拠点襲撃チャンスが手に入る。」
「いやいやブレイクはんまで、ちょい待ちぃな。そもそもの話やけど
「どうして確信できるのかと言われると俺の能力としか言えないんだけどさ……俺が離れた場所からソフィー達と盗賊が接触するのを分かったように、街からこいつらを追ってくるのを確認してたから断言できるんだ。」
「……ブレイクはんの能力やー言うんなら、そこは納得せんでもないけど、でも流石に有り金全部は無茶やろ。そもそも拠点の情報吐かせたとしても、拠点の規模もわからん以上、そこを襲撃するにも人がいっぱいいるやん? 人はゼニでしか動かんのに、そのゼニを渡してもうてるんやで? 手持ちもないのに襲撃なんかできんやん。」
「まぁ、それもそうだな。」
「にゃー。だから有り金だけで物は要らないにゃ。そいつらの着てる服も武器も、商隊に偽装する為の品物も全部いらないにゃ。ぱっと見て中々良い物持ってるにゃ。これだけあれば担保のお金くらいにはなると思うにゃ。それにこれだけ偽装させたり装備品を揃える盗賊団の拠点なら、報酬を餌にして仲間を集めるって手も十分期待できると思うにゃ。」
「まぁ、それもそうだな。」
ミーニャとソフィー、どっちの言い分も一理あり、悩む。
なんだかんだ言っても決定権は俺を大きく握っている。俺が舵を取らない限り決着はつかないだろう。
「あ〜……ソフィー。俺はまずミーニャ側の人間だ。だが、どっちの言い分もあってるように思える。正直どっちでもいい。そう考えている上での話だが、ミーニャは『有り金全部もらってくる』か『盗賊討伐の成果の山分け』の二択しか納得しないみたいだし、ソフィーがどっちか選んで済ませるのはどうだ?」
「えぇ? ウチがどっちか決めるんか?」
「おう。拠点の襲撃をするかしないかはそっち次第だしな。成果の山分けでも小遣いは入るだろうし、そっちにマイナスはないだろ? ミーニャは俺の提案をどう思う?」
「ミーニャはどっちかに決まればそれでいいから任せるにゃ。」
ミーニャがニッコリ微笑んで完全に交渉役のお仕事を放り投げた。
「えぇ〜、ちょい待ちぃな……」
全部丸投げされ、ソフィーが嫌そうな顔で思案を始める。
盗賊たちから剥がれた服や物品にも目を向けているので採算が合うかを検討しているのだろう。
俺とミーニャを狙ったように、小者すら取りこぼさないような盗賊団。もしかすると、とんでもない規模の盗賊団の可能性もある。そうなれば情報を聞き出して警らに通報というのがソフィーが選びそうな現実的な選択だろう。
となると、連行と密告での報酬が有り金全部と釣り合うかどうかになるから、それを悩んでいるに違いない。
「にゃー……ミーニャは、この際ブレイクが襲撃手伝ってあげたらいいと思うにゃ。」
「は?」
暇を持て余したミーニャから、また突然、迷言が飛びだした。