天衣ドルマスター 作:りりーまるれーん
古びたアパートのこれまた古ぼけた扉。この扉を開けるようになって早丸4年が経過した。扉を引き開ければもはや見慣れたという感慨さえ湧かないいつもの我が部屋。そしてそこには天使がいた。扉の開く音につられてぴょこっとこちらを振り返った天使が。
んがわいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!
染めていない天然混じりっけなしの金髪で、目はグリーンで、小っさくて。マジえんじぇる! ……な幼女。
何これ!? なんでこんな天使幼女が我が家に!? 神様からの贈り物!? 俺の日頃の行いの賜物なの!!?
あまりのことに動揺を隠せない俺はどもりながらも「君は誰かな?」とその天使に聞いてみた。
「しゃうおっとぃずぁーうだよー」
きゅん!
舌っ足らずなしゃべり方も天使すなぁ……。けれど名前だけでは何も分からない。まあその名前もよく聞き取れなかったのだが。どこから来たのかやなぜうちにいるのか等、あれこれ聞いてみるがどれも要領を得ない。見た目通りの外国人な上にこうも幼くては仕方がないが。
その時、部屋の奥から「九頭竜先生がお帰りになったのですー?」と聞き覚えのある声。綾乃ちゃんだ。さらに澪ちゃんの声も聞こえてくる。二人は去年の暮れから定期的にやってくるようになっていた。天衣と研究会の真似事のようなことをしているらしい。時折俺もタイミングがあえば指導していた。
今日もその日だ。所用があって俺と彼女は揃って出ているところに到着の連絡があったので先にうちに入ってもらっていた。外でJSたちを待たせるのも不安だしね。どうやらこの天使は二人の連れらしい。
しゃうおっとぃずぁーう改めシャルロット・イゾアールちゃん。それが天使ちゃんの名前だった。御年5つ。シャルちゃんは綾乃ちゃんが連れてきたそうで、俺に無断でシャルちゃんをうちに入れたことを謝罪するとともに(美幼女を連れてきて謝ることなど何もないが)、シャルちゃんとの馴れ初めを教えてくれた。
シャルちゃんは綾乃ちゃんが通っている京都の将棋道場にある日ふらっと現れた迷子だったらしい。道場の大人たちがシャルちゃんのご両親を探しに行ってる間、シャルちゃんの面倒を綾乃ちゃんが見ていたそうな。その時に将棋を教えたことでシャルちゃんは将棋が好きになるとともに綾乃ちゃんに懐き、以後よく連むようになったとのこと。
偶然から生まれたフレンズに「すっごーい!」と歓声を上げるのは澪ちゃん。澪ちゃんも今日、連盟道場で初めてシャルちゃんに引き合わせられたらしく、このエピソードも今初めて聞いたらしい。
一通り俺の疑問を解決したところで綾乃ちゃんは逆に俺のことをシャルちゃんに紹介してくれる。さすがに竜王とは何ぞやということは伝わらなかったようだが、とにかく将棋の強い人ということは理解したらしい。シャルちゃんは「
何これ超可愛いんですけど? ドキドキするんですけど?
動揺していた俺はけれどその時背後からの刺すようなプレッシャーを感じ取った。ここまで蚊帳の外状態だった彼女だ。振り返れば「なに5歳児に興奮しているんだ。このペド野郎」と言わんばかりの無言の圧力を感じる視線を受けることになった。
あたふたと「これは違うんだ。俺はペドじゃない。5歳児に興味なんてないから」とボディランゲージで返せば、あからさまな嘘をつくんじゃないとばかりにかえって怒りが増す。なぜだ。
…………あ。そういえば彼女を買ったのが5歳の時だったわ。そんで5歳の彼女にいろいろヤったわ。
5歳児を性欲の対象にしていた前科がある俺にもはや抗弁できない。けれどそんな俺たちを見かねたのか綾乃ちゃんが割って入ってくれた。彼女のことを紹介する。彼女の名前とそしてあだ名を。
「おー? てんしゃん?」
「誰が天●飯よ!?」
即座にブチ切れる彼女。というかよく知ってたな。俺の知らないところで意外とアニメとか見てたのだろうか。ドラ●ンボール超とか。怒れる天衣の反応もシャルちゃんとっては面白いだけなのか「てんしゃーん♪」とノリノリだ。彼女も「このチビ! 泣かすわよ!?」とますますヒートアップする。
慌てて綾乃ちゃんが二人を引き離した。澪ちゃんが彼女を必死になだめ、どうにか事なきを得ることができた。そして同時に俺への怒りも忘れてくれたらしい。思わぬ僥倖だった。こんなところまでシャルちゃんは天使。はっきりわかんだね。
JS棋士とJS未満棋士が3人も集まればやることは一つしかない。そう将棋だね。俺とそれにこの中では棋力が飛び抜けている彼女がそれぞれ指導対局を受け持つ形で進めていく。指導対局と短い感想戦、メンバー交代、また指導対局とローテーションにして重ねる。澪ちゃん綾乃ちゃんが定期的に来るようになってから定番のやり方だ。
シャルちゃんは思いのほかしっかりとした将棋を指した。アマ四級くらいはありそうだった。それ以上に以前の天衣がそうしていたように、小さな体格を補うために重ねた座布団の上にちょこんと正座する姿は激カワだった。それに俺と対局するときはなぜか俺の膝の上に座ろうとするの、この子。ちちょちちょ言いながら。やばカワじゃない?
この集まりはいつも基本泊まりがけ。今日もシャルちゃんを含めしっかりと外泊許可をとってきているとのことで、今回も皆が寝落ちするまでのエクストリーム将棋とあいなった。彼女を含め幼子が4人も雑魚寝する和室はまるで小学生の生け簀のようだった。もちろん俺と彼女の夜はそこで終わらないのだが。こっそりと和室を抜け出してトイレでイチャイチャ、いろいろすっきりしてから眠りについた。
楽しい時間が過ぎるのは早い。JSたちにとってはより一層そうだろう。翌朝。みんなが帰る段になって。いかにも名残惜しそうな天使ちゃんに感想を聞いてみた。
「おー? てんたんとってもとってもちゅよかったんだよー」
まあシャルちゃんに限らず、澪ちゃんも綾乃ちゃんも平手じゃ歯が立たないからな。
つい先日、彼女はとうとう入品まで果たしたのでそれも当然だが。近頃では椚創多に続く第二の小学生プロ棋士になるのではとか、姉弟子を抜いて女性初プロ棋士の栄冠を勝ち取るのは彼女ではないかという声もちらほらと聞こえてくるようになった。
まあ、三段リーグ入りするまで制限は続けさせるつもりなのでさすがにそろそろ段位は停滞することになるとは思うが、それでも実現の可能性がないではない。そう思わせるだけの才気を彼女は見せつけている。
そんなことを考えている間に、澪ちゃん・綾乃ちゃんがシャルちゃんへ、彼女の強さの秘訣を竜王が師匠だからだと教えていた。いや何より彼女の才能があってこそなのだが……同世代間だとそう見えるのだろうか。あるいは自分たちと彼女との間に生まれ持ったものの差があるとは考えたくないのか。いくら何でもこれは邪推か。
「りゅーおー?」
昨日も竜王が何だか理解できなかったシャルちゃん。今朝も変わらず首を捻っている。かわええ。そんなシャルちゃんにどう伝えたものかと頭を悩ませる二人だが、ともかくも単純かつストレートに言ってみることにしたらしい。
「「将棋が世界で一番強い人のこと」」
ちょ!? いやそれはさすがにっ。
目をぱちくりさせた後に言葉の意味を飲み込み大はしゃぎし始めるシャルちゃん。しゅごいしゅごい連呼している。
いや!? 確かに竜王は将棋界の最高位ではあるけれどっ! 順位戦をはじめその他の棋戦ではたいした成績を残せていないんですが…………さすがにこの状況で最強を名乗れるほど俺の面は厚くない。厚くないのだけど──
天使がキラキラした瞳で俺を見上げてくる。くっ……。この顔を曇らせることは俺にはできない。引き攣った笑顔で頷いてみせるしかなかった。その甲斐あってシャルちゃんは「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!」と興奮を高めていた。……これ、もう後に引けないヤツですわ。
内心青くなっている俺を、隣に立つ彼女がにやにや嗤いながら肘で小突いてくる。くそぅ。今晩はお仕置きだからな!
心の中で彼女の調教プランを練っていると、シャルちゃんが勢いよく飛びついてきた。そして俺にお願いがあるんだと舌っ足らずな日本語で呼びかけてくる。うん。こんなの何だって聞いてあげたくなっちゃうよね。続きを促すとシャルちゃんは恥ずかしそうに、けれどウキウキした感じでこんなことを言った。
「しゃうね? ちちょーのね? …………でてぃにちて?」
えっ!?
びっくりしながらもよくよく聞いていくと、シャルちゃんのお願いは天衣と同じく俺の内弟子になりたいというものだった。そんなことを蕩けそうなエンジェルスマイルで言われたら誰でも二つ返事でOKしそうになるものだと思う。
だがそこは
断腸の思いでお断りの言葉をシャルちゃんに伝えた。まさか断られると思っていなかったシャルちゃんはきょとんとした表情をした後、俺の言ったことを咀嚼して。そして大泣きを始めてしまった。
「なんでー!? なんでてんたんはよくて、しゃうはなんでだめー!?」
彼女とは事情が違う。彼女の場合、玩具として手の内に収めた彼女が偶然それだけの才能を持っていただけだ。そしてその才能がシャルちゃんには足りないと思う。もちろん俺の見たて違いである可能性はある。けれど俺は俺の眼力のもとでしか責任を負えない。
もちろんそんな才能云々なんて残酷なこと、シャルちゃんには伝えられない。けれどどうにかしてこの現世の天使を慰めたかった。いっそのこと弟子にはできないけど代わりに俺のお嫁さんになんて言葉も出かかったが。けれどそれもできなかった。
俺のお嫁さんということは、それはもう色々とぬるぐちょにすることは決定事項だ。けれど俺にはこの純真無垢な天使を穢すようなことはできそうになかった。
ん? 天衣はいいのか?
うん。彼女はどちらかと言えばむしろ積極的にどろんどろんに穢したくて仕方がない。いや、別に彼女がシャルちゃんに劣っているというわけではなく、彼女の魅力はそういう方向性というだけだ。
ともかくも俺は必死にシャルちゃんを慰めた。その中で彼女や澪ちゃん、綾乃ちゃんと研究会を作ればいい。それをうちでやれば俺もシャルちゃんに教えてあげられると約束した。後に伝説となるJS研、その前身となるJS未満研結成の瞬間であった。
ちなみにあいは逆レしてきそうなタイプ