天衣ドルマスター 作:りりーまるれーん
そろそろストーリーを動かしていかねばならぬ。
食卓を囲む相手がいるというのはいいものだ。その相手が自分好みの美少女なら言うことはない。食卓を彩るのが近くのファミレスから出前でとったものというのが少々寂しくはあるが。とはいえ積極的にサラダなども頼むようにしているので栄養バランス的にはそこまで悪くはないだろう。これから成長期を迎える彼女のことを気遣ってはいるのだ。
思い返せば師匠の家で並んでいた桂香さんの料理もよく栄養バランスを考えられたものだった気がする。俺や姉弟子のことを気遣ってくれていたのだろう。姉弟子の偏食を考慮しながらあれを為していたのだから、桂香さんの努力を思うと頭が下がる。自分がその立場になったからこそ分かるというものだ。
彼女は俺の愛玩具ではあるが食卓を囲めば普通に世間話もする。まあ、その格好は相変わらず薄手のベビードールであるし、下着は履かせていないので彼女のかわいい姫割れがのぞいていたりはするのだが、会話の内容は別にえろいことではない。
ここ数日の話題はもっぱら学校でのことだ。春になり彼女は小学校へ入学した。壁際には赤く四角いトラディショナルなランドセルが置かれている。年明けに百貨店で彼女とともに選んだものだ。
彼女にはもっと洒落たデザインのものの方が似合うと思ったのだが、これがいいとのことだった。まあモデルがいいのだ。どのようなものでも彼女にあわないということはない。実際、真四角のランドセルは服を着た彼女にも、裸の彼女にもよく似合った。
ちなみに彼女を小学校に入れるための書類もろもろは、彼女を買ったあのヤクザ屋がすべて用立ててくれた。未成年の俺が彼女の後見人に問題なく収まっている魔法の書類だ。保証人も完備され、仮に学校の人間が怪しんでコンタクトを取ろうとしても問題なく応対してくれる。そういったアフターサポートも万全なのだから彼らは存外良心的な取引相手だといえるのかもしれない。
さて彼女の学校での話題だが、まずはクラスメイトがみんな子供っぽいという愚痴だった。まあそうだろうなとは思う。彼女はもともと大人びたところがある子供だったし、今では自分自身の身を俺のような変態に売って日々の生活を購っている。ある意味自分は自立しているという歪んだ誇りが芽生え始めている。生まれつき何不自由ない暮らしをしているクラスメイトたちが幼く見えても仕方ないだろう。
では周囲とうまくいっていないのかというとそうでもないらしい。何せ彼女はとびきりの美少女だ。彼女からアクションしなくとも周囲の方が放っておかない。彼女自身にも周囲とうまくやるくらいの要領の良さはある。ちらほら友達と呼べる相手もできはじめているらしかった。
そんな中でよく聞くのが水越澪ちゃんという名前だ。元気いっぱいの女の子でよく天衣にも絡んでくれているらしい。彼女曰く馴れ馴れしくて鬱陶しいとのことだが、ツンデレの気が強い彼女のことだ。言葉に反して気に入ってはいるのだろう。澪ちゃんの話が出てくることが多いのは、彼女が陽属性で積極的に天衣に話しかけてくるからだけではなく趣味もあうかららしい。どうやら澪ちゃんも将棋を指すらしいのだ。
彼女に同好の士ができたことは微笑ましいことだが問題も発生した。澪ちゃんから研修会に一緒に入ろうと誘われたらしいのだ。澪ちゃんは暮坂七段の開く将棋教室に通っており、師匠から研修会入会試験を受けるよう勧められたらしい。ということは小学校入学直後の現時点で既にアマ2段に近い実力があるということで、これはかなりすごいことだ。
研修会とは日本将棋連盟が運営しているもので、少年少女の健全な育成を目指すというお題目を掲げてはいるものの入会のハードルは結構高い。そこへ入会を勧められるということは、おそらく澪ちゃんは通う将棋教室の中で同級生相手なら敵なしなのではなかろうか。
俺や姉弟子なんかは、師匠清滝九段の内弟子となり小学生名人戦で優勝して奨励会入りしているので研修会はパスしているんだけどな。ちなみに研修会の上位組織にあたる奨励会入会にはアマ四段程度の実力が必要で、小学生名人はだいたいその程度の棋力がある。
話が横道にそれた。では研修会入会試験を天衣が受けたとして通るのか、だが──ほぼ確実に通る。普段彼女の相手をしている俺はそのことを認識していた。そもそも澪ちゃんが彼女を誘ったのも、小学校の休み時間に実際に対局して彼女に負けたかららしい。
俺の見立てでは天衣は小学生名人戦で姉弟子に並べる可能性がある程度には強い。即ち来年2月の予選を勝ち抜き、4月に二年生で小学生名人となる。現実にできれば9月生まれの姉弟子の最年少記録を3ヶ月更新か。あと1年もあればそこまで伸びる。そう思わせるだけの器量がある。況んや研修会試験など、だ。
だが彼女を研修会に入れるには二つほど問題があった。どちらも俺の勝手な問題だが。
一つ目。今は彼女の棋風を俺好みに染め上げている段階なのだ。もともと彼女は、俺のことを買ってくれていた父親の影響で、将棋を始めた最初期から俺の過去の棋譜に触れていたらしい。そのせいか俺の棋風と親和性がもともと高かった。お義父さんありがとう。
なので今下手に他人の指導を受けて棋風がぶれるのは困る。とはいえこれについては解決の目処も立っている。あと三~四ヶ月もあれば彼女の棋風は確立できるはずだ。そうなれば研修会や道場でのライバルとの研鑽の意味もぐっと増してくる。俺が集中的に鍛えるので夏まで待つように言えばいい。竜王二期ということもあり棋士としての俺は彼女の信頼をそれなりに得ることができているのだから、言えば聞くだろう。ということで深刻な問題はもう一つのほう。
俺が彼女を指導していることが師匠にばれる。
うん。やばいよね。どう考えても。
清滝一門の皆には彼女の存在を伝えていない。当然俺と彼女の不適切な関係も知らない。姉弟子とのVSは彼女を迎えることが決まってからは毎回姉弟子の家へこちらから出向くようにして彼女とのニアミスを徹底的に避けてきた。(今後は姉弟子の家で練習対局をしたいと告げたとき妙にすんなり了承された)
安心ヤクザサポートを用いれば俺との師弟関係を隠したまま研修会に入れることもできないではなかったが、女流棋士になるとき、または奨励会に上がるときにどうしたって師匠は必要になる。後になって皆にばれるほうがまずいし、他の棋士に彼女を預ける気もなかった。また彼女ほどの才能、将棋の道を諦めさせる気もない。
何とか師匠に話を通すしかないだろう。俺と彼女のアレな関係は伏せながらだ。まあ、彼女の父親と俺が関係を持っていたことは師匠も知っているし、彼女の境遇を告げれば同情もするはずだ。幸い彼女の将棋の才も本物であるわけだし。
もっともらしいストーリーが整っていれば、まさか俺と彼女に肉体関係があるなんて想像もしないだろう。それでも彼女を内弟子とすることを認めるかは予想が難しいところではあるが。愉しい性活を守るため努力するしかない。
決行日は慎重に選ばねばなるまい。まず姉弟子がいない日であることはMustだ。遠地で宿泊が必要になる対局が組まれている日なら言うことはない。いそいそとスマホで姉弟子の対局予定を調べる。おそらく最近開幕した女王戦が一番近い候補になるはずだ。調べてみると5月に埼玉での対局が組まれていた。女王戦の第三局。
候補日が決まった。師匠へのアポイントは直前でいいだろう。あまり早くに約束を取り付けて姉弟子の耳に入ったら元も子もない。彼女には5月に入ったら師匠へ挨拶に行くことを告げておく。一門への紹介など、それどころか一門入りなど想像もしていなかったのだろう。彼女はきょとんとしていた。そんな彼女を余所に俺は来る試練に気合いを入れるため、今晩は彼女を徹底的に可愛がろうと心に決めていた。