※この作品はR-18です。

グリザイアの幻影   作:unknownname

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10.demand

 蓮は深々とお辞儀をする。その姿は、さながらショーを演じるマ(・)ジ(・)シ(・)ャ(・)ン(・)のようだ。が、どうやらそれは“始まり”のあいさつではなく、“終わり”のものの様だった。不気味な笑みを浮かべ、榊の予想の範疇を超えた彼の行動は、彼女からしたら異常でしかなかった。

 

 ――“ピ(・)エ(・)ロ(・)”

 

 奇想天外な行動で観衆を楽しませる“道化師”。狼狽する彼女の目には、雨宮蓮という男がピエロに見えていた。自分はこの男に感情を揺さぶられている。掌で、いいように転がされている。彼女がそう気づいた時にはもう遅かった。“ショー”は終わりを迎え、蓮は深々とお辞儀をする。「楽しんで頂けたかな?」というセリフが今にも彼から聞こえてきそうだが、彼女は何よりも終始彼の独壇場であったのが許せなかった。

 

 ――なんなの、この男…。

 

 丁寧な姿勢から直る彼の顔は、前にみた「雨宮 蓮」の顔に変わっていた。それは、まるで今まで被っていたマスクを脱いだように、コロッと呆気なく変わっていた。さっきの“悪魔のような笑み”はどこに…?

 

 「あなた…どういうつもり?」

 

 榊は食い下がる。ここは何としても一矢報いてやらないと気が済まない。が、咄嗟に出たのは曖昧な質問。

 

 「…どういうことだ?」

 

 もちろん疑問形で帰ってくる。榊は勢いを、自ら湧き上がる、彼に対する畏怖と怒りに託す。

 

 「なぜ、“自供”したの?バカなの?」

 

 「馬鹿とは…心外だ」

 

 「だって貴方は自ら正体をバラした。私の根拠のない“憶測”なんて“それは気のせいだ”とか“杞憂だ”とかで有耶無耶にできたじゃない…」

 

 「確かに。でもそうする理(・)由(・)がない」

 

 「っ!!…何それ、あなたこの秘密がバレたらここには居られなくなるんじゃ…」

 

 「――“バラさない”…だろ?」

 

 「なにっ!」

 

 彼女自身、蓮が何を言おうとしているかは薄々気が付いていた。しかし、彼女に芽生えた“反骨精神”が思わず彼のキザなセリフに噛みついてしまう。

 

 「交換条件もなしに、いきなり脅し。どうせ口から出まかせだろう」

 

 「そ、それはっ…」

 

 「本当に俺を消したいなら、何も言わず立ち去り、そのまま学園長に届け出ていただろう」

 

 「…」

 

 榊は完全に黙る。再びペースは蓮へと戻る。

 

 「別に喧嘩を売るつもりはないが、今は証拠不十分。届け出たとしても相手にされないのがオチ。かといって学園側で調べても何も出て来やしない。警察と東京地検が総力を挙げても無理だったからな」

 

 すると、蓮は硬直する榊の横を通り過ぎる。

 

 「…他人の事を詮索するのは頂けないな」

 

 「そんなの…私の勝手でしょ?」

 

 「それじゃあ俺は君の事情に突っ込んでもいいのかい?」

 

 「事情…?」

 

 一瞬、榊の表情が曇る。もちろん蓮はそれを見逃さない。

 

 「それじゃあ、俺は寝るから」

 

 ただその一言を残して、蓮は屋上の扉から出ていった。

 

 

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