薄暗いコンクリートの部屋…。忘れたくても忘れられない部屋。
「フン…あっけないね…」
ヤツは不敵な笑みを浮かべて、銃口を蓮の額に押し付けている。しかし、蓮は動じない。まるで玩具だと割り切ったように、ヤツの姿をただ見つめている。
「君のくだらない正義も、ここで終わりだ…」
キリリとトリガーが引かれる音がした。
――パシュッッ…!
空気を裂くような軽い音と共に、銃口から硝煙が立ち昇る。そして、蓮の意識が段々と遠のいていく…即死ではなかったのか?…頭を撃ち抜かれても俺は生きているのか…?
しかし、際限なくだらだらと流れ出てくる鮮血を見て、さっと血の気のひく感じがする。
「死ね…ゴミが」
…
………
………………
「ぐうっ…!」
蓮が飛び起きたのは、寮のベッドの上だった。額と背中にびっしょりと嫌な汗をかいていたので、朝風呂にでも入ろうと、前に使っていたお風呂セットを拾い上げるところで、突然誰かが自室の扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します」
その声の主は幸だった。
彼女は蓮が承諾したわけでもないのに勝手に部屋に侵入し、メイド服のスカートをそっと引っ張ってお辞儀をすると、顔を赤らめながら熱っぽい声で言った。
「ご、ご奉仕メイドサービスです…」
蓮は頭に疑問符を浮かべる。“ご奉仕メイドサービス…?”それって川上のアレみたいなやつか?と一人首を傾げながら彼女の顔をまじまじと見つめる。
「あ、あの…今日はいかがなさいましょう…?」
「いかがなさいますかって…えーっと、何しに来たの?」
「ですから…朝勃ち本舗の小嶺 幸と申し…」
「――だから名前は知ってるよ。ていうか“朝勃ち本舗”って何?」
そう質問すると、幸はモジモジと恥ずかしそうにする。
「雨宮様の朝の“火照り”を鎮めるために参りました…」
「いや、遠慮するよ。これから風呂に行くし…」
「コースは“フェラチオコース”、“本番ゴム無しコース”、“手コキコース”がございますが…」
「――いや、人の話聞いてた?」
幸はわっと顔を更に真っ赤にする。
「すみません…!さっさとヤらせろと言うことですね」
そう言うと、彼女はせっせとメイド服を脱ぎ始めた。
「いや、いいから!帰って!」
「し、しかし…雨宮様の股間がテントを張って…」
「いいから!チェンジ!チェンジでお願いします!」
咄嗟に出た「チェンジ」という言葉。流石に代わりはいないだろうと、蓮は一件落着と言った感じでほっと胸をなでおろした。のもつかの間、幸は「かしこまりました」と答えるとそそくさと部屋から出て行った。
(え、他にいるの…?)
「うっふーん、お呼びかしらぁ?」
(…え?)
数分後、蓮の部屋にやって来たのはとんだ食わせものだった。
腰をクネクネと曲げて、ふにゃふにゃとした声で誘惑しているつもりなのか、貧相な身体を見せつける。
「な、なあマキナ」
「違いますぅん!…“マッキー”でぇす!」
いや、明らかにマキナだ。このちっさい胸、体、身長…どこからどう見てもマキナだ。しかもマッキーとは…源氏名の類だろうかと蓮は思わず「はあ」と大きなため息をつく。
「いや、ガン萎えです。お帰り頂けますか?」
「もー!なんなのよさ、せっかくエッチな女の子を演じてあげたってのによ!」
そう言って憤慨(?)するマキナの背後に迫る一人の影…。
「こらっ!」
「いだっ!…あ、あまねえ?」
背後に忍び寄っていた天音が、強烈なげんこつをマキナの頭頂部に叩き込む。意外と痛そうな音と共に、マキナが「ぎーっ」と唸って両手で頭を押さえる。
「何やってんのあんた!」
「うぅ…サッチンと“でりへる”ゴッコやってただけなのよさ…」
更に、げんこつがマキナの頭に叩き込まれる。
「うわーん!なんでなのよさ!」
「デリヘルゴッコとかどこで覚えたの!…いい?今後デリヘルゴッコは禁止!さっちゃんも相手にしちゃだめだからね!」
天音の忠告に、幸はにこっと笑って「かしこまりました」と頷いた。蓮はちょっと期待していただけあってがっかりしないようなするような気分だった。
「ちょっと、蓮からもなんとか言ってやってよ」
「ま、まあ…その…気を付けようね」
「それだけかーい!」
そんな突っ込みをスルーして、マキナと幸が部屋に戻った頃、急に天音が色っぽい声を出してきた。
「そ、その。彼氏なんだからそういう事は私が…」
「遠慮するよ。それじゃあ…」
「――ちょっと待てー!」
「…えーっと」
「“えーっと”…じゃなくてそこは“頼む”とかじゃないの?」
蓮はまだ面倒なのが残っていたかと、頭をボリボリ掻きむしりながら静かに説き伏せる。
「一人で満足してるし、天音にそういう迷惑をかけるつもりはないよ」
「め、迷惑じゃないよ…」
「――って事で俺は風呂に」
「ちょーっ!!」
天音の呼び止める声から逃げるようにして、蓮は大浴場へと入っていった。