――今日は大変な一日だった。と蓮は振り返る。半ツンデレ少女みちるにたゆんと揺れる天音、律儀で可愛いが恐らく機嫌を損ねてしまった幸、後はコミュニケーション能力を疑うマキナに極めつけは“カッター少女榊”…。大変なのは“今日”ではない、この“学園生活”だ。彼はとんでもない誤解をしていたと頭を抱える。
中庭を通り過ぎ、真っ白な学生寮の建物が見えてくる。白なだけあって、良く夕日の色に染まっている。
嗚呼、人肌が恋しくなる。蓮は久しく会っていない側室…じゃなくて愛人…でもなくて“彼女”達を思い出す。バレンタインデーは散々だったと彼は記憶している。何せ全員でルブランに乗り込んできて、好き放題俺のことを滅多打ちにして帰っていったからな。と、蓮は苦虫を噛み潰したような顔をする。…まあ元はと言えば、彼の失態が原因なのだが。それはともかくとして、彼女たちは元気にしているだろうか。また顔が見たい。
学生寮のガラス扉を押し開け、靴を仕舞う。そして札を“在籍”に反してから自室へと向かおうとした時、彼はある異変に気が付く。
――扉が少し開いている…?
即座に忍び足に切り替え、ドアの横に張り付く。中の様子を伺うと、蓮は思わず目を見開く。そう、中に“裸”の天音がいたのだ。しかも、何か作業をしている。こうしてはいられない。と、蓮の“ライオンハート”の様な“度胸”が、彼を鼓舞する。すべての戸惑いを捨て去った彼は、なんの躊躇もなく、扉を開け放つ。
「きゃっ!」
天音は扉が急に開いたことに驚いたが、はだけた胸を隠そうとしない。…というか、隠すつもりも無さそうだった。
「急に開けないでよ~」
蓮は何を言われるかと内心ヒヤヒヤしていたが、彼女からはその一声だけ。その後はまた黙々と着替えを進める。なので、蓮も何も言わずに部屋に入る。バッグをフックに掛け、制服を片付ける。まるで天音がそこにいないかのように作業を進める蓮に、天音は戸惑う。
「ちょ、入ってくるの…?」
「そう言われたって…ここは俺の部屋だ」
「でも女の子が着替えてるんだよ?」
「別にいいよ。見てて悪い気はしないし」
「いや、見られてる方の心配もしてよ!!」
(めんどくさそう…)と一瞬これ以上の議論を止めにしようとするが、蓮はあえて続ける。
「嫌ならしばらく外に居ようか?」
「別に…そこまでしてもらわなくていいわ」
それなら…と蓮はワイシャツもズボンも脱ぎ、パンツ一つで彼女の真横を通り過ぎ、ベッドに腰を掛ける。そしてクロスワードパズルの本を拾い上げて解き始める。
「なんかみょーに女慣れしてない?」
「なぜそう思う?」
「だってホラ、私の体見ても何にも言わないじゃん」
「…いい体だと思う」
「いや、そういう感想とか要らないから!」
蓮にとって女性の裸は別に驚くに値するものではなかった。まあ、天音の“大きさ”には息を呑んだ彼だが…。彼女の言う通り、彼は女慣れしていた。しかも、“とても”。東京で九股を敢行し、挙句の果てにその九人の女性と夜を共にした…。
「やっぱり女慣れしてるわね…。家族に女の子とかいるの?」
一瞬、蓮の表情が引きつる。当然天音はそれを見逃さない。
「いない…一人っ子だ」
「へぇ~。じゃあ“彼女”かぁ」
天音は嬉しそうにクスクスと笑う。蓮にはなんで笑っているのか理解できなかった。
「お待たせ~!」
着替え終わった天音は、蓮と一緒にベッドに腰かける。
「待ってない…けど」
「ねえ…一人っ子って嘘でしょ」
その追及に、蓮は答えない。表情一つ変えずに黙々とクロスワードパズルを解き続ける。が、しばらくして本とペンを置くと静かに口を開いた。
「今はいない。…“かずき”と言う姉がいた」
「っ!」
天音の表情が一瞬こわばる。
「へぇ~…そうなんだ」
それだけ言うと、彼女はぐぐっと腕を伸ばし、わざとらしく胸を強調する。
「どう、似合う?」
蓮は何も言わない。その代わりに、怪我をした右手で天音の大きな胸を揉む。突然の出来事に、天音は思わずその手を払いのける。
「な、何すんのよ!」
「…すまない。久しく揉んでなかったからな」
コイツ…野暮ったいただの“イケメン”パーマかと思ったけど、油断できないむっつりスケベかも。と、天音の彼に対する評価がひっくり返る。が、彼女も彼の悪魔のような“魅力”の前では、ただのメス同然だった。
「別に…好きならもっとしてもらって構わないわよ」
魔性の男と呼ばれる程の魅力が、彼女の羞恥心を蝕む。
「いや、十分だ。ありがとう」
それだけ言うと、蓮は再びクロスワードパズルの本に視線を落とす。なんだか期待して損した…と、天音は肩を落とすと、そのまま蓮の部屋を後にする。彼女が完全に出ていったのを確認すると、彼はクロスワードパズルの本を仕舞い、ベッドに寝そべる。
――なんで部屋の鍵が開いていたんだ。
部屋の扉を開けた時から、彼の頭の中はその疑問で一杯だった。そう、彼は確かに出かける前に部屋の鍵を閉めたのだが…天音はそれを無視したように部屋の中へと入れた。無論、鍵はずっと蓮のポケットの中にあった。
――何だよ…それ。
不可解な現象が、彼を悩ませる。
そんな蓮は、出ていったはずの天音が、蓮の部屋の前で不気味な笑みを浮かべながら、しばらく立ち尽くしていたのを知る由もなかった。
※ペルソナ会議室 茶番
――ブロロロォォ…
「周防君ってバイク乗ってたんだね」
「キタロー君も乗ってるんじゃないのか?」
「あれは…美鶴のだから」
「え、君のじゃないの?」
「うん」
「そうなんだ…」
「乗らないよ、あんな物騒な乗り物」
「――何か言ったか?」
「!?」
「!?」
「物騒な乗り物がなんとかって言ってたな、番長君」
「い、いや…キタロー君が言ったんだよ。うん」
((なんでここに周防君がいるんだよ!))
「ぼ、僕しらない…」
「それじゃあ二人とも…“メギドラオンでございます”!」
――R.I.P