見られる際には十分に注意して、読んで下さい。
現実ではあり得ないような幻想的な空間の中、彼女は立っていた。
右目が赤で左目が紫と、左右で瞳の色が違う虹彩異色の目は、真っ直ぐと殺意を込めて、俺を睨んでいた。
だが、やがて彼女の瞳は赤く染められ、純真無垢な笑みを浮かべながら、俺を見つめる。
「さよなら、純真な○○○○さん。
あなたの教義には輪廻転生って残ってた?
なら、次の命で会いましょ!」
そう言いながら、ゆっくりと目の前に開いた穴に向けて、ゆっくりと歩いて行く。
ふと、何かを思い出したように、俺の方へと振り返った。
「そこのあなた。
意識が無かったとはいえ、やってくれたみたいね。
殺されかけたなんて、二回目よ?
懐かしい気持ちにしてもらったお礼はちゃんと返してあげる」
その屈託のない笑みを見ながらも
「その気があるなら、私を探しなさい。
その時は、私を倒した責任をとってもらうんだから」
にっこりと微笑み、彼女は言った。
「また会いましょ。
じゃあね」
まるで友達でもするかのように手を振り、彼女は踵を帰す。
「っ!!」
その瞬間、俺は起き上がり、息を吐く。
周りを見ても、そこには幻想的な空間も、正体が分からない女性もなく、俺が長年住み続けた自室だった。
「はぁ、またあの夢か」
それと共に俺の脳裏に未だに離れない謎の夢に頭を押さえる。
中学を卒業し、高校に入学した頃から見始めたその夢は、何度も見続けた。
初めこそ、ただの夢だと思っていたが、身体に感じた感触は本物を思う程にリアルであった。
1度、とある知り合いの紹介で診察してもらったが、まるで異常はなく、問題なく日常生活は送れるようだった。
「それにしても、可笑しすぎるだろ」
そう言いながらも、俺は自分の手の甲にある模様を見つめる。
何時の頃か、タトゥーをした訳でもなく浮かび上がった模様。
家から帰ってきたい親に言われて、初めて気づいた時には驚きを隠せず、タトゥーを彫ったのではないかと疑われた。
だが、俺の手の甲にこの模様が浮かび上がる1時間前には何も無かったのは親も知っており、気味が悪く感じながらも、触れないようにしてくれた。
「なんだか、目が覚めたな」
時計を見れば、既に4時になりかけていた。
今から二度寝を行うには遅すぎず、ただ単にこのまま何もせずに過ごすのも退屈だ。
「たまには、散歩、してみるか」
親からの言いつけはなく、深夜の外出も特に止められていない。
この時間での外出はこれまでしたことなく、窓の外に見える綺麗な満月に惹かれ、俺は立ち上がった。
幸い、今日は休みという事もあって、多少眠くなっても問題なく、すぐに寝間着から日常着に着替え、外へと出掛ける。
都会というにはあまり発展せず、田舎という割には自然は多くない。
どちらの特徴もあって、素晴らしい街という人もいれば、中途半端な街だと言う人もいる。
そんな街の中で、俺はゆっくりと夜道を歩きながら、ただ月を見るように歩いていた。
(本当に、凄いな)
ただ歩いているだけなのに、心の中では感動する自分がいる。
別に、星が輝く空が特別だとか、普段の街灯りや家の明かりが消えているからとかではなく、単純に今夜見える景色が美しく見えたからだ。
だが、そんな街中を歩く中で、ふと何か違和感を感じる。
「なんだ?」
近くの路地裏にて、奇妙な音が響き渡る。
ぐちゃぐちゃと、何かを食い散らす音が聞こえ、俺は唾を飲み込む。
頭の中で、警報が鳴り止まない。
今すぐにでも、そこから逃げろ。
そんな警報とは裏腹に、俺は好奇心に負けるように、ゆっくりと路地裏に近づく。
しかしそこには誰もいなかった。
そこにあるはずの死体もなく、ただの血痕のみが残っているだけだ。
はっと我に返り、踵返そうとした時だった。
"何を怖気づいている?"
不意に背後より声をかけられ振り向く。
しかし、そこには誰もいなかった。
恐怖で頭が可笑しくなったのか、それとも幻覚を見ているのか、それとも未だに夢の中なのか。
正常な判断ができない中で、ぴちゃという音が再び聞こえた。
それは先程までの血溜まりがあった場所であった。
同時に、俺は振り向く事なく、走り出した。
それに合わせるように聞こえてきたのはコンクリートが潰される音であり、俺を追いかけるように走っていた。
曲がり角に通る中、カーブミラーが見え、俺はそこを見つめた。
そこにいたのは、人間だった。
だが、明らかに普通の人間とは違い、まるで映画に出てくるようなゾンビ。
それも1人ではなく3人も俺を追いかけ、走って行く。
この悪夢はまだ終わらないと実感しながら、必死に逃げ惑うしかなかった。
どうにかして、打開策を考えなくてはならない。
そう思いながらも、どうしようもない状況の中、ひたすらに走る。
しかし、そんな俺の努力はまるで嘲笑うように、道の先は行き止まりになっていた。
背中には壁があり、奴らは俺を狙うように徐々に迫っていった。
「―――終われない!」
最悪な状況の中で、俺はふと思い浮かんだのは、あの夢の光景だった。
「ここは違う。これは違う。
ここはまだ、結末ではないと思う。
呆れてしまう。結局のところ、この心はソレだけはできないらしい。
何故ならっ」
あの時の女性が何を言いたかったのか、未だに分からない。
それでも俺はまだ答えを見つけていない。
だからこそ
「何故なら。まだ、俺は何も知らないからっ」
最後の瞬間まで諦めるつもりはない。
そう願いながら、俺はそのまま脚に力を込める。
傷ついても良い、逃げる為に奴らに突っ込む。
このまま命を散らすよりもずっと良い。
そんな覚悟と共に現れた奴らを睨みながら、脚に力を入れようとした。
「なんだか、分からないけど、こっちに来てみたら、珍しいのがいるじゃない」
そうここではあまりにも場違いな明るい声が響き渡る。
同時に俺に襲い掛かろうとしていた奴らは一瞬で血の塊になり、代わりに目の前に現れたのは一人の女性だった。
月明かりしかない暗闇の中でも分かる整った顔立ちと美しい金色の髪が特徴の女性だと思った時には既に彼女は俺の方へと向く。
「久し振り?いや、この場合は初めましてかな?
私も君も特に接点はないけど、お互い知っているはずだよね?」
不思議な雰囲気を持つ女性は何故か少し嬉しげに語りかけてくる。
一体どういう意味なのか全く理解できない。
だが、不思議と彼女の容姿には見覚えがあった。
それは高校に入った時から見続ける不思議な夢。
その夢に出てきた彼女にとても似ていたからだ。
小さな違いや服装などの違いもあり、声もどこか違う。
それでも、彼女によく似ていた。
「初めまして。君が私を呼んでいたマスター?だよね。
私はアルクェイド・ブリュンスタッド。
あなたの名前は」
そう、彼女は血溜まりの中で、背中の月に照らし出されながら言う。
「岸波白野」
「そう、よろしくね、白野!」
俺の名前を聞くと満足そうに頷き、手を差し出す。
ゆっくりと手を繋ぎながら、立ち上がる。
この光景が果たして、現実なのか、それとも未だに夢の中なのか。
それは俺にもまだ、分からない。
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