人里離れた奥深い渓谷の底にしっかりへばりついた、執拗な貝殻のかたまりのような旅館。
その旅館に二人の人物が訪れていた。
黒い艶のある長髪を一つに結んでおり、胴着を身に纏い、凜とした雰囲気を持つ人物。
彼女の名はアキラ。魔化魍と呼ばれる存在から人々を守る鬼と呼ばれる人物である。
その彼女がここに訪れた理由は一つである。
「やはり、あの毒は、未だに身体に残っていますか」
そう言いながら、自身の身体を握り締める。
「といっても、本当にこんな所の温泉に効果があるのか?」
そう言いながら、彼女に付き添っている人物の名は歌舞鬼。
鬼の中では異端の存在と呼ばれた鬼の名を受け継ぐ者であり、現在は鬼の中でも最強の存在である響鬼と同等の力を持つ人物である。
そんな二人がこの旅館に訪れたのには理由がある。
数日前、とある魔化魍との戦いでの出来事だった。
これまで戦った事のない蛸の魔化魍との戦いの中で、その毒を受けた。
危機的状況であったが、魔化魍をすぐに倒す事ができたが、その毒は未だに解毒はできていない。
その解毒の為に、この旅館に向かっていたのだが
「本当に効果があるのか、その、毒が?」
それと共に歌舞鬼が今の自身の身に回っている毒に対しての疑問を呟く。
「しっ仕方ないじゃないですか!!
この毒の解毒にはっ、そのここしかないのでっ!!」
そう言いながら顔を赤くしながらアキラは呟く。
「そのっ、まさかっ、魔化魍の毒が、媚薬だなんて、誰が思いますか!!」
その言葉に対して、思わず言う。
彼らが戦った魔化魍とは、かつて葛飾北総が描いた蛸が女性を犯す絵を再現したような存在であり、その口から吐き出した墨には媚薬と似た毒を吐き出した。
それを正面から受けた事によって、その毒が未だに全身に回り続けていた。
彼らは今は鬼の修業によって身に付けた精神力によって、それを保つ事ができているが、何時までもその状態では鬼としての仕事を全うできない。
その治療として、魔化魍の毒を浄化する事ができる温泉がある旅館へと二人は来ていた。
だが、その場所というのが……
「まさか、男女混浴だとは……」
そう言いながら、目の前にある光景を見て呆然としていた。
そこにあったのは一つの木造の建物があり、入り口の上には大きな木の看板に『男』の文字が書かれている。
それはまさしく女湯ではなく、『男』と書かれた文字が書かれた看板であった。
(なんというか、これはこれで凄いな)
そう思いながらも、中に入る。
旅館は既に準備ができているのか、その部屋に入る。
「というよりも、なんで相部屋なんだ?」
「あっ当たり前でしょう!! 今の状態で私と一緒に入れる訳がないじゃないですか!?」
確かに彼女の言う通りである。
現状では彼女はまだ完全に回復していない状態なのだ。
そんな中で一緒に風呂に入るとなれば、間違いなく襲ってしまうかもしれない。
「はぁ、まったく、この旅館では何が起きるのやら」
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