その少女との出会いは偶然に近かった。
転生した俺は、この世界の理不尽な構造に絶望しながら、その身に宿った巨人の力で、とにかく前へ前へと進んでいた。
途中に、光るムカデのような何かがいたが、すぐに殺した。
しかし、その戦いは俺に思った以上にダメージを受け、そのまま倒れ込み、そのまま眠っていた。
そんな俺の前に突如として現れたのが、今目の前にいる少女だったのだ。
既に何もかもどうでもよくなり、無気力だった俺にとって、少女がなぜ、この場にいたのか疑問だった。
しかし、少女は喋る事はできなかった。
それは、舌を抜かれていたからだ。
俺はゆっくりと、手の平の上で俺の存在を知らずに眠る少女の思考を読んだ。
少女の名はユミル。
年端もいかぬ彼女は親を殺され舌を引き抜かれ奴隷として強制労働に課せられていた。
ある日ユミルは豚の飼われている柵の入口を開けたまま放置し、その結果豚を逃してしまった。
その罪を問う初代フリッツ王に対し、他の奴隷達は迷うことなくユミルを指差す。
そして罰として王から自由という名の追放を言い渡され、野犬や同族達に追われて重傷を負いながら、ここで力尽きた。
それは、俺にとっては怒りを感じる事だが、その怒りのままそいつらを殺しても、きっとユミルという少女はただ悲しむだけだろう。
眠り続け、意識を失っている彼女に対して、俺は語るように話しかける。
「可愛そうなユミル。
今のお前はきっと様々な感情がなく、怒りを感じる自由もないだろう。
だから、君に僅かだが俺の力を分けよう。
これからの人生ではその力は幸福な人生になるのか、それとも不幸になるかは君次第だ。
しかし、もしも、君がどうしようもない憎しみを抱いた時、俺を呼ぶと良い。
俺がその憎しみを晴らそう。
だけど、その後は、君をこの闇の中で永遠に共にいて貰う」
それはどのような考えで実行したのか分からない。
それでも、俺は巨人の力の一部をゆっくりと彼女の中に注ぎ込んだ。
そうする事によって、彼女は巨人の力を手にする事ができ、舌を生え、喋る事ができるようになった。
一体何が起きたのか、困惑しかないユミル。
俺の姿を見ても、今は石像でしかない俺には、先程までの声の主だとはきっと思わないだろう。
そうして、ユミルは巨人の力を手にした。
そして、彼女はその以降、フリッツ王に言われるがままエルディアの領地を拡大し、否応なしに巨人の力を欲した王の妻とされ、三人の娘を産み、敵国マーレと戦う。
そしてある時、投降した敵が謁見した際、敵が隠し持っていた投げ槍から身を挺してフリッツ王を守って致命傷を負う。
しかし、フリッツ王の、その目は最期まで自分の事を奴隷としか見ていなかったことに気づく。
「っ」
ユミルはその瞬間、悲しみよりも憎しみに思考が支配された。
このような奴の為に、人生を費やしたのか。
このような奴の為に、命を賭けたのか。
このような奴のために……私は!
ユミルから流れ込んでくる怒りが、俺に伝わってくる。
「あぁ、どうか。
誰でも良いから、お願いします」
聞こえてくるユミルの声が俺の元に届く。
それはあの時の約束を結ぶように。
「私が永劫の闇の中に落ちても良い。
だから、どうか」
それと共にフリッツ王を睨み付ける。
「この男を地獄に堕として下さい」
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