俺と井上織姫は、幼馴染みである。
昔からというよりも、彼女が引っ越してきた頃からの付き合いだ。
そんな昔からの付き合いで、彼女と一緒に過ごす事が多かった。
故にだろうか。
幼い子供で、好きな子には意地悪したくなるのか。
彼女によく悪戯をしてしまったものだ。
例えばスカートをめくったり、ランドセルにカエルを入れたり。今思うと本当に恥ずかしい。
けれど、そんな幼稚な悪戯にも、織姫は笑ってくれた。
怒られた記憶は無い。ただ悲しげな顔をして、ごめんなさいと言ってきただけだ。
「……何やってんだろ」
そう呟きながら、僕はベッドの上で寝返りを打つ。
時計を見ると、もう午前二時を過ぎていた。
今日は日曜日。仕事も休みなのでゆっくり寝ていたかったのだが、どうやら目が覚めてしまったらしい。
原因ははっきりしている。先ほど見た夢が原因だろう。
幼い頃の夢だった。懐かしい思い出だ。
子供の頃は良かった。何も考えず、無邪気に過ごしていた。
今は、後悔している。
先日、そんな後悔をしている最中、俺は井上に告白を行った。
高校に入って、一年経った頃だ。
今までずっと言えなかった言葉を、ようやく言えた。
その結果は。
「その、今まで、幼馴染みだったから。けど、これからは……」
顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で答えてくれた。
つまりは、OKということだ。
正直言って信じられない。あの頃の自分からは想像できない。
そして、俺は、今日、彼女の家に遊びに行く約束をしたのだ。
デートなどではなく、単なる勉強の為である。
しかしそれでも嬉しいものは嬉しかった。
昨日の夜はあまり眠れなかった。興奮していたからだ。
朝九時に待ち合わせをして、それから二人で家で勉強を行った。
「「……」」
互いに、黙っている。
俺は何をすればいいのか分からない。ただじっとしているだけしかできなかった。
「えっとね……」
織姫の声が小さく聞こえた。何かを言い出そうとしているが、言葉にならないようだ。
やがて織姫は、そっと体を離す。
「あのさ……」
今度ははっきりと声を出す。顔はまだ赤いままだった。
正面から見つめる。
机越しでも見つめる。
高校の制服を身に纏った少女は、俺の目をじっと見つめ返してくる。
緊張しているのか、少し顔が強張っていた。
頬が赤く染まっている。それがまた可愛らしい。
思わず笑みが溢れてしまう。それを見た織姫も微笑んだ。
可愛い笑顔だ。見ているだけで癒される。
いつまでもこうしていたい気分だった。
だが、そういうわけにもいかない。そろそろ勉強を始めなければ。
名残惜しいが、手を離すことにする。
すると、寂しそうな顔をされてしまった。
そんな顔をしないでくれ。俺だって辛いんだ。
「そのね、あのね?」
井上は、ゆっくりと俺の方を見つめる。
「今更、告白を、受け止めても、良い?」
そう、井上は聞いてきた。
ああ、そうか……そうだったな。
確かにまだ俺達は恋人同士ではない。だから改めて伝える必要があるのだ。
それを理解した上で、もう一度告げる。
今度こそは絶対に間違えない為に。
この想いを確かなものにする為の言葉を。
「ありがとう、井上」
それと共に、俺達は、改めて、恋人同士となった。
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