「よーし、今日からはルーの苦手克服目指してやってくぞ」
朝。約束通りティナから人格の変わっていたルーに対して俺は高らかにそう宣言した。
「そ、それは良いんですけど……この間みたいなこと言わないですよね……?」
「この間って?」
「だ、だから、そのぉ……ええ、えっ……」
「えっ?」
「いい、言わせないでください……!!」
恥ずかしそうに身じろいで近くに置いてあった枕で顔を覆い隠し、こちらに背を向けてしまう。
反応が可愛いからついつい虐めたくなる。だが、今日はそんなことをしたいわけじゃない。
「この間は悪かった……冗談のつもりだったが反省してる。ちゃんと段階を踏んでいこう」
「本当ですか?」
枕からちょこんと瞳から上の部分だけ出し、疑惑の目を向けてくる。
「ほんとほんと。今日は基本中の基本、キスからやろうと思って」
基本中の基本なんて言ったが、俺もしたことない。
童貞の俺には最初はこれくらいしか思いつかなかった。経験不足はノリで誤魔化す。
「きき、キスって……チューのお、大人な言い方ですよね……。で、出来ません! そそ、そんなの!!」
ルーは驚き、顔を覆っていた枕を膝の上に落っことした。
「大人な言い方じゃないぞ、別に。むしろルーの呼び方が子供っぽ過ぎる」
「子供っぽくなんかないです!」
ついさっきまで驚いてたと思えば、今度は枕をポカポカと両手で叩きながら怒りを露わにする。
「じゃあキスだって出来るはずだよなぁ?」
「それとこれとは話が違います……」
やっぱりエッチなことに対するガードは堅いな⋯⋯どうするか。
「そうだ、やってくれたらご褒美あげちゃおっかな〜」
「ご褒美!? 何をくれるんですか?」
目を輝かせながらこちらへ急に距離を詰めてくる。さっきまでの驚いたり、怒ったりとは大違いにご機嫌だ。
さすがに釣り方が幼すぎて引っかからないと思ったが、むしろ効果抜群なくらいで驚く。子供っぽくないとはなんだったのか。
「ルーの好きな物でいいぞ」
「それじゃあ、ダークサンダーでお願いします!」
「えっ? そんなんでいいのか?」
ダークサンダーなんてコンビニで30円程で買えるチョコ菓子だ。
「そんなんじゃありません! 私が初めてこちらでお仕事した時のご主人が買ってくれたんです! もうそれは美味しくて美味しくて……」
「分かった分かったから。ダークサンダーならいくらでも食わせてやる」
話が長くなりそうだったので無理やり中断させる。
「そ、それなら頑張れそうです……!」
ようやく先に進めそうだ。
深呼吸して逸る気持ちを落ち着かせる。
「⋯⋯よし。それじゃ、瞳閉じてくれ」
「ひゃ、ひゃい!」
緊張で震えるルーの肩を両手で抑え、ゆっくりと顔を近付ける。近付くにつれ顔が熱くなっていく。
ルーの緊張が移って唇寸前で動きが止まってしまう。ここに来て童貞臭さ全開でどうする。
「どうしたんですか? 早くしてくれないと耐えられなくなっちゃいます……」
しびれを切らしたルーが目をぱちくりとさせながら、急かしてくる。その瞳は揺らぎがなく、覚悟を決めている瞳だった。
ルーはもう覚悟を決めているというのに俺はなんて情けないんだ。男になれ木菅凪緒……!
パチン……! と、頬を叩き気合を入れ、キスを待つルーに再び顔を近付ける。
「ちゅ……」
ついばむような軽い口づけ……。柔らかな口唇がお互いの体温を伝え合い、火照ってしまいそうな程に全身が熱を帯びる。
それはルーも同じらしく、湯気が出そうな程に顔を真っ赤に染めて恍惚な表情を浮かべていた。
「これがきしゅ……? す、すごい、です……! んちゅ、んぅ⋯⋯」
俺は肯定するようにルーの唇を再び奪った。先程のついばむような口付けから一変、お互い求め合うような濃厚なものになる。
ただのキスのはずなのに気持ちが良い。
俺はその勢いのまま、ルーの口内に舌を押し付けた。
「んん……っ! ちゅぱぁ、んれるぅ⋯⋯れるれぅ……」
驚きながらも顔を蕩けさせ、俺の舌を受け入れ絡めてくる。
熱くなった体温を分け合うように手を繋ぎ、指を絡ませ、深く深く快楽に没頭する⋯⋯。
徐々に理性を失いつつある俺は調子に乗ってルーをベッドに押し倒し、胸を服の上から軽く揉んでみせた。
「ぷぁっ……!? や、やぁ……そ、そこはダメれす……っ! あっ……」
控えめながらも可愛く鳴き、少し抵抗するルーに対して俺は抵抗出来ないようキスで封じる。
「ん、ちゅっ⋯⋯! んちゅぅ⋯⋯ちぅ、ちゅむ⋯⋯んれるれぅ⋯⋯」
快感を貪るような乱暴なディープキス⋯⋯。暫くするとルーは抵抗することをやめ、俺へ完全に身を委ねた。
たががとっくに外れていた俺は止まること等知らず、とうとうルーの性器に手を伸ばした。その時だった──パシン! と大きな音が部屋にこだました。
「えっ……? 痛い……」
右頬にじんわりと痛みが広がっていく。
ビンタされたのか、俺……。
あまりに急すぎてエッチな気持ちなど吹っ飛び、呆気に取られてしまう。
「ルー、どうして……?」
「もうルーじゃありませ〜ん、間抜け凪緒! っべー!」
ウザったらしく舌を出し、バカにしてくる様はルーではなく完全にティナだ。何故だか分からないが、いつの間にかルーからティナに人格が変わっていた。
「は? どうゆうことだよ」
「お間抜けな凪緒がレイプ紛いなことするからルーが耐えられなくなってウチに変わっちゃったの!」
わざわざご丁寧に説明してくれた。
どうやら、理性の無くなった俺の行きすぎた行動のせいでティナに変わってしまって目を覚めさせるためにビンタしたって訳らしい。
ビンタは必要だったのか……これ。まだ少し痛いし。
「悪い、理性が吹っ飛んじまって」
とは言え、悪いのは俺なわけだからそこは素直に謝る。
「この間といい、トラウマになっちゃったらどうすんの!?」
「いや、でも満更でもなさそうだったぞ」
「満更でもないって……そんなわけないから。今度からは気を付けてよね、ほんとに」
「へいへい」