「えっ……ちょっ、僕は一言も行くなんて言ってないんだけど!」
「んふふ〜っ! 善は急げです!」
善は急げと言いながらナース服のコスプレ? 姿をしている彼女、健屋さんに引っ張られるように靴箱まで一緒に来てしまった。
「八舞先輩は歩きですか? 自転車ですか?」
「え? ぼ、僕? 僕は電車通学だから歩きに入るんだったら歩きだと思う?」
「○○駅より後ですか? 先ですか?」
さっきから彼女はなんの話をしているんだろう。学校の最寄駅から自宅の最寄り駅が健屋さんの言った○○駅より遠いか遠くないかってことでいいんだよね? たぶん。なら……。
「ここからだと乗り継ぎして六か七駅目だったはずだから多分後だと思うよ」
僕のその言葉を聞いた途端、彼女はまたテンションが上がったのか、靴を履き替え終わった直後、今度は腕ではなく恋人同士がすると聞いた恋人繋ぎというものをしてくれて、それと同時に手の温もりを感じてしまった。
今頃になって思い出したんだけど、彼は大丈夫なんだろうか? 僕の存在には見向きもしなかったけど、行為中だったにも関わらず、相手役をやっていた健屋さんが急にこっちに来たんだから、今頃は教室で我を忘れて健屋さんを探してそう。
恐怖のあまり、身震いしちゃう。バレないように早いとこ離れそう。
「先輩? どうしました? 身震いして」
「ま、まぁちょっとね……こっちの話。あと、今は離れてくれると僕個人としては嬉しかったり」
「……あの人のこと気にしてるんですか?」
あの人という言葉についビクッと反応してしまい、ププッと笑われた後、僕の二、三歩先に出て僕を見ながら満遍の笑みでこう答えた。
「それなら気にしないで大丈夫ですよ先輩。手出すと切る約束なので」
……切る? いったい約束を破ったら何を切ると言うんだ? 先ほどの恐怖とは別格の今日が押し寄せ、背筋が凍る。
「そ、その……ちなみに何を切るのかって言うのはお聞きしても?」
嫌な予感がするのは僕だけなのかな? 縁を切るとかならまだ優しすぎるけど、さっきの行為を見た後だとそっちを切るとしか思えない。
それに彼女のことだから本気で実行しそうなんだよね。
「あ、いや。やっぱりいい。言わなくて大丈夫」
「? わかりました」
ついでに今だから言えるんだけど健屋さんの家に一歩一歩近付くにつれて嫌な予感がするのは気のせいかな?
流石に初対面の僕が彼女の家に一泊するとかはないよね?
結局、僕が健屋さんの家に呼ばれた理由が明確化されないまま今現在、彼女の家つまるところ、玄関先まで来てしまった。
「先輩。ここがすこやの家です。一週間くらいは一人なので好きにしていいですよ」
好きにしていいですよと言われたものの、僕の中では一週間家に両親がいないので居てくださいねとしか脳内変換されない。
「ご両親はどこに?」
つい健屋さんの両親について気になった僕はそうやって尋ねると、一瞬苦虫を噛んだような顔をさせてしまった。
「ごめん。気持ちも考えないで言っちゃって」
「いえ。先輩にはいずれ話したいと思っていたので。これ以上の関係を先輩が望むならですが」
僕は安易に踏み込んではならない領域に踏み込んでしまったらしい。
先程のテンションが上がった状態から反転し、声色もワントーン以上下がり、彼女が放つ異様な雰囲気に圧倒されて言葉を濁らすどころか、詰まらせてしまう。
「……聞く勇気はないっていうのが僕の正直な意見。それでも、君が初めてだからちゃんと向き合わないといけない気がするから聞くよ。僕でいいなら」
「とりあえず上がってください。話はそれからです」
これは僕のような半端者が突っ込んでいいような出来事なのか?
でももう引き返すことなどできない。既に踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったんだから……。
「先輩はここで少し待っててください。すこやは着替えてくるので」
そう言って二階に上がっていった。玄関を見るにどこの家庭でもあるような普通の玄関だが、何が違うって言うんだ?