短いです。
3話くらいで終わったらいいな。
俺は人間臭い彼女が大好きです。
日高が矢口にファミレスで
(は? こいつ本気で言ってるのか? 流石に冗談……)
「……」
(ま、冗談で言う事ではないよな。それに日高だ。尚更こんな事を冗談で言うわけがないか)
日高の決意を感じさせる真剣な眼差しを見て矢口は直ぐに考えを改めた。
大胆な発言をするも一見緊張している様子は感じられない日高。
ただ黙って矢口の反応を待つその姿には余裕すら感じられた。
(ここは軽く話を逸らす……のはダメだな。俺がそうしたくてもそれは日高にあまりに失礼だ。真面目な話なら俺も相応の受け答えをしないとな)
矢口は取り敢えず一口ストローからジュースを啜って口を湿らせ、気分を落ち着かせると頬を掻きながら言った。
「あー……まぁ雨降ってるからと言って朝までここでダラダラするのは店に悪いっていうのは解るけどよ」
「そ、だからホテル」
「んー……まぁ昔大……」
「は?」
「え? ……あ」
この矢口の迂闊な言葉が発せられた時、二人の心境は全く違った。
(あ、しまった。女と二人きりのときに
矢口は過去に大野とホテルでゲームをして遊んだ記憶を思い出し、懐かしさからついその事が口から漏れたという程度の認識だった。
だが日高の方は矢口ほど軽い心境ではなかった。
というより年頃の男女がホテルに泊まったという話に対して恐らく殆どの人間は大野と同じ事を考えるのではないだろうか。
「わりぃ日高。つい俺大野のなま……」
「矢口くん……」
「ん?」
「……大野さんとホテルに泊まったことあるの?」
「ああ、昔な。って言っても二人でゲームして遊んだだけで、特にその……なんつーか、な? そういうのはなかったからな?」
「……でも行ったのは事実なのよね?」
「まぁ……な」
(また大野さんに先を行かれてた)
常に自分より数歩先にいる恋敵。
そしてそれは今回もそうだった。
しかし今回の『数歩先』は少々日高にはダメージが大きかった。
例えそれが大凡の人がそこに行く目的とする『行為』に及んでいなかったとしても、やはり自分以外の女の名が先に出てきてしまったのは精神的に堪えた。
「日高?」
急に俯いて話さなくなった日高を気遣って声を掛ける矢口。
そんな大好きな男の声すらこの時の日高には逆にじくじくと痛む傷のように心にはしんどく感じられた。
「日高? どうした? あ、気分が悪いのなら今からお前の親に……」
「それはやめて」
「お、おう」
まるで格ゲーの方向キー一回転コマンドを素早く入力した時のような俊敏な反応で日高は矢口にその提案は最後まで言わせなかった。
「うーん…………はぁ、わかったよ」
「え?」
「ホテルで休むんだろ? 行こうぜ」
「え、ほ……本当にいいの?」
「いいのってお前……言い出したのは日高だろ? それに休むだけだろ?」
「え? あ、うん……」
「おい、今返事に詰まらなかったか?」
「べ、別に?」
「こっち見ろよ」
「……今はヤダ」
日高は見れなかった。
何故なら自分の渾身の提案を矢口が受け入れてくれて喜びの感情が極まり口がニヤけそうになっていたからだ。
「でもよーなんでわざわざラ◯ホなんだ? ビジネスホテルの方が部屋も別々に取れそうでその方が良くね?」
「ダブルベッドがある部屋の方が別々の部屋を取るより料金が安くなるでしょ? 割り勘なら尚更じゃん」
「ぐっ……え? いや、俺は床か椅子で寝るし……」
「そ・れ・に」
「ん?」
「矢口君、ホテルのフロントに明らかに未成年の男女二人で部屋を取りに行くつもり?」
「それなら時間差で……」
「例え時間差でも同じくらいの年代の子がホテルを利用しに来たら受付の人は怪しむと思うなぁ。それに未成年がこんな時間に来る時点で怪しまれないと思う?」
「……確かにな」
「ね? だからアッチのホテルなわけ」
「……分かった。だけど当たり前だけど俺はそんな所利用した事ないからな。チェックインの仕方だって知らねーぞ」
「大丈夫。それは私もないから」
「おい?! あ、いや。それは当然か。その、すまん」
「いいよ。でも場所は知ってる。そんなに遠くないよ歩いて直ぐ。周りも声とか人目気にしないで走って行っちゃえば大丈夫だよ」
「……リサーチはしてんのな」
矢口はもうこの時点で日高の強い意思に根負けしていた。
故に目的の場所まで素直に着いていくつもりであったが、そこには確信に近い希望も密かに持っていた。
(まぁ、行ったところでお互い初めて行くわけだし、利用に手間取って周りの目が気になったりしてまたファミマに逆戻りだろ。それに例えラブホだろうと受付はあるはずだ。怪しまれないはずがねぇ)
「よし、そこまで把握してんなら十分だ。金払ってさっさと行こうぜ」
「うん!」
少し頬を染めながらも満面の笑みで日高は頷いた。
「何コレ……」
自動販売機らしき物の前で矢口は絶句して佇んでいた。
一方それとは正反対に隣の日高は、初めてホテルを訪れた事に気分が高揚してはしゃぎ気味だった。
「え、何これ。まさかこの機械のボタンを押すだけ?」
「利用中っていう赤い文字が点ついてるのは使えないんだねぇ。へぇー、今これだけの部屋が使われているのかぁ」
「……あ、えっと……。つまり金は後払いってことなんだ……よな?」
「そうじゃない? あ、矢口君この部屋にしよっ。見た目もまだ大丈夫そうな感じだし、初めての私達向けじゃない?」
「お、おう……。ん? ボタンが2つあるけど……時間か? フレックス?」
「初めてだし、ここは利用時間分にしようよ」
「えっと、つまりフレックス?」
「そ」
「…………」
日高が希望した箇所のボタンを押すと当たり前だが何の抵抗もなく部屋の鍵と思し部屋番号が刻印されたタグが付いた金属片が取り出し口に落ちてきた。
(マジかよ……たったこれだけ……)
矢口は自分の予想に反してあっさりと懸念という名の希望がクリアされた事に半ば呆然とした。
まさかこうも容易く人の目のチェックもなくホテルが利用できてしまうとは思っても居なかった彼は、心の中でラブホテルに対する認識を改めるのだった。
「さ、早く行こ♪」
一方早速エントランスのマップからタグの番号の部屋を把握した日高は、そんな彼の心中を知ってか知らずか、先程から変わらないはしゃぎぶりで矢口の手を取り彼を先へ促すのだった。