付けざるを得なかったし、そういう話にしたかった……。
ガラガラという扉を開く音が背後から聞いた時、最初矢口は流石に有り得ないだろうと一瞬気の所為だと決め込んだ。
しかし続けて聞こえてきた濡れたタイルの床を裸足で踏むペタペタという足音がした時は、もう気の所為だとは思わなかった。
「おい?! 日高?!」
考えなしに反射的に取った行動であったが矢口はそれを後悔した。
まだ自分が入浴中でもあるにも拘らず、浴室に入ってきた日高を嗜めるた為に腰掛けていた状態から上半身だけを捻って背後を振り返ったことを。
「…………」
この時矢口は思った。
何故日高は自分が完全に振り返る前に自分を声で制さなかったのかと。
矢口が振り返った先には全裸の日高の姿があった。
「!!」
彼女は黙って矢口の視線を受け止めこそしていたが、やはり感情的には恥じらう気持ちが強いようで、両手で胸や股間を隠そうとする仕草をしていた。
しかし何を思ったのか仕草止まりに留めていたので、振り返った矢口はしっかりと女性的な彼女の膨らんだ乳房と小さな乳首、そして薄く茂った陰毛にピッタリ閉じたワレメまでを視界に収めてしまった。
「お前何やってんだ?!」
慌てて前に向き直った矢口は混乱する頭でなんとか背中越しに日高の予想外の行動を注意する。
しかしそんな言葉を投げかけた矢口に対して帰ってきた日高の答えはこれまた予想外のものだった。
「だって鍵かかってなかったし」
「最初からその扉には鍵なんてなかったよ?! それはお前も知ってんだろ?!」
「ということはここにもう一人入ってきても仕方ないよね」
「なんでそうなる!? 俺が入ってんじゃん?! 男の俺が入ってんだぞ?!」
「えー……でもここってラ○ホじゃん? 矢口君と私が一緒にお風呂を使ったとしても何もおかしいことなんてないよ……」
「いやだから、俺が言いたいことはそういうこと……うおぉぉい?!」
尚も反論しようとした矢口の言葉が途中で潰えたのは、新たに取った日高の行動のせいだった。
彼女は矢口と問答を繰り返しながらいつの間にか彼との距離を詰めており、距離の差が完全になくなったところでなんと今度は屈んで矢口を背後から抱きしめてきたのだ。
「あ……ひ……日高さん……?」
唐突に始まった男女の展開に、まだ焦りつつも矢口の語気は強かったが、この日高の行為には完全に動揺してしまい、声も勢いを失ってしまった。
「はぁ……ついに始めちゃった……」
しっとりとした声でそう言う日高。
始めてしまったというのは一体何のことなのか、この時の矢口にはもうそれに問い返す余裕はなく、ただ口をパクパクとさせていた。
「ずっとこうしたかった……ていうわけじゃないけど、いざやっちゃうと……ふふっ、今凄く幸福感ヤバイ」
ヤバイのは今のお前の行為だ。
だから今直ぐ慎みなさい。
そう言い返したくても背中に感じる男では有り得ない感触と恐らく初めてまともに感じる人の体温、矢口は続いてこれらの衝撃に襲われてたことによりまだ口は言葉を発せない金魚状態だった。
「はぁ……ねぇ……矢口くん、何か言ってよ……? 流石に私だけこの状態で喋り続けるのも恥ずかしいし困っちゃうんだけど?」
恥じらう気持ちがあるなら、その前に回した手で自分を抱き締めるのをやめろ。
身体を余計に押し付けるんじゃないっ。
そう心の中ではしっかり抗議するくらいには落ち着いてきた矢口だったが、実際に口から出た言葉は彼の意思を十分に反映したものではなく、情けないことに完全に日高の勢いに流されたものだった。
「何かって……言われても……な……」
やっと反応してくれた矢口に日高は嬉しそうに彼の顔の真横から訊いた。
「あ、やっと喋ってくれた♪ そう、だなぁ…‥じゃぁ……気持ち良い?」
「エ」
「私の……感触、どう……?」
「ハ……いや、どうって言われても、な……」
「もう、矢口くんさっきと言ってること殆ど変わってないよ? 私は今気持ち良いよ? こうして直接矢口くんを肌で感じられて、今凄く温かい気持ち……」
「……な」
「え?」
日高の声が近い、日高の吐息の温かさすら感じる。
おまけに彼女の体温まで今直に感じている。
そんな状態においての日高からの問いに対して無碍な返事をするほど、流石に矢口は気が利かない男ではなかった。
「ああ、悪くはない……な」
「っ、それ、ホント?」
その言葉に抱き締める腕の力を強める日高。
当然だが彼女の胸の感触を矢口は更に感じることになり、その感触に矢口はびくりと一瞬震えた。
「きゃっ、ごめん苦しかった?」
日高は驚いて腕の力を緩めたが開放はしない。
だが先程と比べたら少し抗えば十分に抜けさせるような力加減だった。
だが矢口はそれを好機と捉え抵抗するような事はしなかった。
寧ろ何故自分でもそんな行動を取ったのか解らないが、回された彼女の腕に触れてこう返した。
「いや、大丈夫。何か日高の圧が強くなって……動揺しただけだ」
「……っ、矢口くん……!」
矢口からしたらほぼ無意識に出た正直な言葉だったが、そんなさり気なく受けた一言が何故か無上に嬉しく感じた日高は再び彼を強く抱きしめると、やがてポツリと言った。
「……ねぇ、しよ?」
その日高の声は、矢口が今まで聞いたことがないほどに熱く、濡れて聴こえた。
日高、やっぱり良いなぁ