童貞がインキュバス(仮)に転生したのでレビュアーズに入ります。 作:ナットーごはん
突然だが、食酒亭には二人の給仕係がいる。
まず有翼人のメイドリー。
常に笑顔を忘れず、明るく元気。一部の変態なお客……主にS氏からは「ちょっとセクハラしたぐらいで暴力が過ぎるぞー!」なんて言われたりもしているが、基本的には優しくコミュ力もあって、しかもスタイル抜群な彼女は、食酒亭を代表する看板ウェイトレスである。
次に天使のクリムヴェール。
少女のような可愛らしい顔立ちの割に、実はご立派なモノをお持ちだと噂の彼は、男女問わず、一部のマニアなお客達からそれはそれは絶大な人気を誇っている。
常連客であるK氏に向ける視線が、まるで恋する乙女のようだと噂されており、そういう男同士の恋愛が好きなお客達からも人気を集めているとかなんとか……
以上食酒亭で働く給仕係二名。
そして……本日より食酒亭に、新たな給仕係が追加される事となった……
「お、おお、お待たせ、い、いたしました……!」
その給仕係の娘は一つ目であった。
「く、黒エールに黒ボアステーキです……!」
小さな一つ目に、自信無さ気な表情、華奢な体つき、だけど胸だけは巨乳……
「えっと……ごゆっくりどうぞっ……!」
顔を赤らめ、恥ずかしそうにそそくさと引っ込んで行ってしまう彼女の姿に、食事中だった何人かのお客の手が止まる。
「え……誰っスか!?あの娘!?」
「見ない顔だべ。」
「新人さんだっちゃ?」
「可憐です……」
食酒亭に来ていた何人かのお客が、その新人の給仕娘の愛らしさに、思わず見惚れてしまっていたとかなんとか……
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その日の夜。食酒亭営業時間終了後。
店内のテーブル席にて、軽い新人歓迎会のようなものが行われていた。
歓迎会の参加メンバーは食酒亭女将のツタ、給仕係のメイドリーとクリム。そして新人の四人だ。
「お疲れ様。メイちゃん。今日はよく頑張ったわね。」
「お疲れ様メイちゃん。これからよろしくね。分かんない事があったら何でも聞いてくれていいからね。」
「よろしくお願いします。メイちゃんさん。」
「ひゃいっ!よ、よろしくお願いし、し……ます……!」
さて、もう分かっていた方もいるだろうが、食酒亭の給仕係として新たに雇われたこの娘……実は前回カズオに救われた単眼少女のメイである。
サキュバス嬢をやめる事となったメイは、たちまちの仕事が見つからなかったので、カズオの紹介にてここ食酒亭で働く事となったのである。
「あ、あの……この度は……こんな私なんかを雇っていただき……ほ、本当にありがとうございます……!」
椅子から立ちあがり、ペコリと頭を下げるメイ。
「ううん。こちらこそ来てくれてありがと。メイちゃんがんばり屋さんで割と何でも出来るから助かるよ。料理とかも手伝ってもらっちゃって、今日はお客も多かったから助かったわ。」
「ありがとうございます女将さん。……で、でも私みたいな貧眼を、こんな素敵な飲食店で雇ってしまって……本当に良かったんですか……?」
「うん?どういう事だい?」
「私のこの……容姿の醜さで……お、お客様の数が減ってしまったら、どど、どうしようかと……」
「あはは、それは無い無い。メイドリーちゃん、今日のお客の様子はどうだった?」
「ふふ、それはもう女将さん。皆可愛い新人の娘が入ったって喜んでましたよ。」
「えっ……!?」
「ははは、ほらね。メイちゃんはもっと自分に自信を持った方がいいよ。」
「うう……そ、そんなはずはぁ……」
顔を赤くしながらもじもじと自分の小さな一つ目を隠すメイ。
「メイちゃんさえ良ければ、これからもうちで働いてほしいな。ほら、うちは今人手不足でね……スケベ共に誘われて、仕事ほっぽりだして遊びに行っちゃうようなスタッフもいるからさ。」
「あ、あはは~……」
ツタにニヤニヤと暗い笑顔を向けられて、クリムは居心地悪そうに視線を反らした。
「そ、そういえばメイちゃんさんてカズオさんに紹介されて来たんですよね。ボクと同じですね。あはは。」
そしてあからさまに話題を反らした。
「クリム先輩もカズオさんに紹介されて来たんですか?」
「はい。正確に言うとカズオさん“達”にですね。頭の輪っかが欠けちゃって、天界から落ちて帰れなくなっていたところをカズオさん、スタンクさん、ゼルさんに助けて貰ったんです。」
「て、天界から落ちてって……だ、大丈夫なんですかそれ!? 詳しくは知りませんけど、天界ってお空の上にあるんですよね? その……お、落ちた時に怪我とか……」
心配そうにクリムの事を見つめるメイ。
母親が重い病気にかかってしまったメイは、人の病気や怪我とかに対して敏感なのである。
「あはは、その時はちょっと羽とか擦りむいちゃいましたけど、今はもう大丈夫です。それより大変だったのは落ちた先に怪物がいた事ですね……」
「か、怪物……!?」
「はい……それはもう山みたいに大きな怪物で、もう絶対死んじゃう……食べられちゃうって思いました……でもですね、カズオさん達がサッと風のように現れて、あっという間にその怪物を倒してくれたんですよ!」
「わあ……!」
「とても怖い顔した怪物が、カズオさんの魔法でカチーンて一瞬で凍っちゃったんです!」
「凄いです!凄いです!」
キラキラと目を輝かせるメイ。クリムも話していて楽しそうだ。
「それでですね、怪物から助けて貰った後に、天界に帰れなくなったので面倒見てくださいって、お願いしたんですよボク。図々しいのは承知の上でしたが、もうこの人達しかいないっ!って思ったんです。」
「ふんふん!」
「そしたら三人の中で……唯一カズオさんだけが……『勿論いいよ!(イケボ)』って!即答してくれたんですよ!」
「きゃー!きゃー!何ですかそれ!?かっこ良すぎませんかそれ!?」
「ですよね!ですよね!かっこ良すぎてもうボクすっごく感動しちゃって!」
きゃーきゃーとはしゃぐクリムとメイを見て、ツタとメイドリーはポカンだった。
「メイちゃんさんはどうやってカズオさんに紹介されて来たんですか?」
「はい。私はですね……お母さんが病気で、それでこの中央街に引っ越してきたんですけど……」
「え……あ……す、すみません……」
「あ、大丈夫!もう大丈夫です!こっちの街のお医者さんに見てもらえたお陰で、お母さんも今はだいぶ良くなってきたので。もうほとんど全回復だそうです。」
「そ、そうでしたか。良かった……」
「はい。ありがとうございます。えっと……それでですね。こっちに引っ越して来たまでは良かったんですけど、お母さんの病気の治療代がどうしても払えなくてですね……」
「は、はい……」
「それで私、体を売る事にしたんです。」
「えええっ!?」
「ふふ、大丈夫ですよ。まあ聞いてください。それでですね、私の最初のお客様がカズオさんだったんですよ。」
「!! この前の単眼店ですね!」
「そうです!それでカズオさんは……こんな貧眼な私を……その優しく……♡」
「うわぁぁぁっ♡♡」
「えへへ……♡ そ、それで、終わった後にですね。母の病気の事とかを話す事になったんですよ。」
「はいはい!」
「そしたらカズオさん、私がサキュバス店で働きたくなかったって事をズバリ言い当ててくださってですね!」
「そ、それで!?」
「カズオさんがお母さんの治療費代を貸してくれたんです! 返すのはいつでもいいから、だから体を売るとか、そういうやりたくない仕事を無理矢理するのはやめときな。って!言ってくださったんですよ!!」
「ふわあああっ!そ、そんな事言ってもらえたんですか!?」
「『お母さんの病気を治して、それで……メイちゃんも、ちゃんと幸せになりなよ。(イケボ)』って!!」
「そ、そんな事言われたら!もうそれだけで幸せになっちゃうじゃないですか!?」
「勿論なっちゃいましたよ!!」
「「ねーっ♡♡」」
パァンと両手を合わせるクリムとメイ。
「………」
何がねーだ。二人ともキャラがおかしい。
メイドリーはそんな二人を見ながら軽く引いていた。ツタの方を見ると、彼女は一人でお酒を飲み始めていた。歓迎会の言い出しっぺのくせに、早くも戦線離脱している。ずるい。
「え、えっと……二人がカズオくんの事が好きなのは分かったけど……そうじゃなくて今日はその……」
このままじゃメイの歓迎会ではなく、カズオを語る会になってしまいそうだったのでなんとか軌道修正を試みるメイドリー。
しかし……
「す、好きっ!?ち、ちち違いますよメイドリーさん!!ぼ、ボクはその……カズオさんが好きとかそういうのじゃなくてですね!?尊敬と言いますか!こ、好意的には思ってますがその……!!」
「そ、そそそうですメイドリー先輩!!違います!そ、それに、わ、私なんかがカズオさんを好きになっても、か、カズオさんには迷惑でしょうし……!!」
「……えぇ~~……」
そこ否定するのか。とメイドリーは思った。どう見てもべた惚れなのに。
二人共顔が真っ赤で目がぐるぐるだ。
「落ち着いて二人共。ほら、そんなにカズオくんの……えと、かっこいい所ばかり考えてたら頭パンクしちゃうでしょ。」
「で、でもメイドリー先輩!一度カズオさんの事を考え出したら、私……止まらなくなっちゃうんです!」
「ぼ、ボクもです!どうすればいいんですか!?メイドリーさん!」
知るか!!とメイドリーは声を大にして叫びたかった。しかし可愛い後輩達が本当に真剣な目で訴えかけてくるので何とかそれを飲み込んだ。
「えっと……じゃあ……カズオくんの好きじゃない部分、イマイチな部分を考えてみるとか……」
「ありません!!」
即答だった。
メイドリーは頭を抱えた。
「そ、そうなんだメイちゃん……えっと、クリムくんは?カズオくんの好きじゃない所とか、ある?」
「……うーん……強いていえば、やや女性に対して軽い所ですかね?」
「あー……そこはまあ、カズオくんもインキュバスだからね……仕方ないと言えば仕方ない所なのかもね。」
「……この前も結婚しない理由を聞いてみたら……『結婚したら女遊び出来なくなるからやだ。(イケボ)』でしたから。」
クリムはぷぅっと頬を膨らませた。
「……でもクリム先輩。それってつまりカズオさんは……“結婚したら女遊びはする気がない”って考えてるって事じゃないですか?」
「あ……!!」
クリムは目から鱗が落ちたような気分だった。
「い、言われてみれば……」
「ど、どうします?あれでカズオさん、実は凄い愛妻家とかだったりしたら!」
「け、結婚したら自分だけを愛してくれるようになったりするんですかね!?……ごくりっ!」
「冒険から帰ってきたカズオさんに……お、お帰りなさいアナタって言って……それで……」
「ご飯にする?……って言って……」
「お風呂にする?……って言って……」
「「そ、それとも…………ひゃあああああッ♡♡♡」」
机に顔を伏せ、ドタバタと足をバタつかせる二人。
もうダメだ。軌道修正は不可能だ。飲んでもいないのにこの二人は酔っぱらってしまっている。メイドリーは再び頭を抱えた。
「メイドリーちゃぁん……棚から追加のお酒持ってきてぇー……うへへ……」
酔っぱらい女将が何か言ってるが無視だ。植物系の種族なのだから酒じゃなくて水を飲め。というか触手を使って自分で取りに行け。
今この場に酔っぱらいは三人。メイドリーは孤独だ。
(こうなったら、私も飲んでやる……!)
もう飲まなきゃやってられない。メイドリーはグラスとお酒を取りに酒棚へと向かうのだった。
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二時間後。
「カズオさんて、凄く良い匂いしません?」
「分かります!凄く分かります!」
「落ち込んでる時とか、カズオさんてそれとなくギュッて抱き締めて、頭を撫でてくれるんですけど……」
「あ、ありました!あれ凄いですよね!」
「そういう時にボク……実はその……カズオさんの匂いを……た、堪能というかなんというか……」
「な、なんですかそれ!?ずるい!ずるいですよクリム先輩!」
少年(両性)と少女(非処女)は飽きもせず特定の人物について語り合い……
「それでね!スタンクの馬鹿は!いっつも私にセクハラばっかり……!」
「メイドリーちゃんも大変ね~ヒック。」
「そうなの!……でも、悪いやつじゃないって事は知ってるのよ……」
「うんうん。」
「でも口を開けばあいつ!やれおっぱいだ!やれサキュバス店だ!って、エロい事ばっかり!もうフケツ!フケツ!サイテー!」
「そうよね~。メイドリーちゃんは大変ね~。」
「そう!……でもあいつ……悪いやつではないのよ……」
「うんうん。」
酔っぱらい(鳥)はある特定の人物に対しての愚痴を言いまくり、酔っぱらい(植物)はもう何を言ってるのか何を聞いてるのかも分からないくらいべろんべろんだった。
そうして夜は更けていく……
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「あー……あったま痛ぁ……」
次の日の朝。
メイドリーは酷い二日酔いに悩まされていた。
「え?メイドリーさん!?どしたの!?大丈夫?顔色悪いよ……?」
そんなメイドリーを見て、朝一の客であるカズオは心配そうに彼女に声をかけた。
「……」
「メイドリーさん?」
「………あんたのせいよ……」
「なんでッ!?」
解せぬ。とカズオは思った。
「カズオさんおはようございます。」
「お、おは……おはよ……ございます……か、カズオさん……」
「ん、ああ。おはようクリム、メイちゃん。……あれ?二人共なんか、目の下にクマついてない?もしかして昨日夜更かしした?」
「カズオさんのせいです……」
「か、カズオさんの……あぅ……せ、せい……」
「だからなんでだよッ!?」
さらに解せぬ。とカズオは思うのだった。
という訳で食酒亭にニューフェイス誕生。
クリムくんに親友ができました。