こちらは、お題箱によるリクエストとなります。
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再会したことで、改めてお互い実感する。あれは、幼さという熱に浮かされていただけだったのだと。
もちろん、好ましい相手だとは感じていた。しかし、恋人――となると、どこか違う。
だから、『友達』として。
「本当に、勝手に色々してくれたわよね」
「それはお互い様だろ」
いまでは彼女の方が歳上だとわかってはいるものの、あえてあの頃のままに。この遠慮のない距離感も、そこから先を望んでいないからこそ。
とある日曜日、ふたりは家でお茶を楽しんでいる。当時の話、いまの話、そして、この先の展望に至るまで、話題が尽きることはない。
そんな関係だからこそ、三葉も遠慮のない言葉選びとなる。
「ところで、瀧君って……ロリコン?」
「はぁ!?」
心当たりがあるだけに、男子は思わず素っ頓狂な声を上げた。
とはいえ、心当たりがあるだけで――本当に
何故ならば――
七年前も、いまも、
***
いつまで経っても姉離れできない――それが、妹に対する三葉からの印象である。だが、姉は気づいていない。そこに熱っぽい期待が含まれていることを。
四葉にとって、当面の危機は去った。何せ、突然姉がどこぞの男を連れてきたのである。最愛の人を奪われてしまう、と危惧するのも無理はない。しかし、姉にも、相手の男にも、友人として以上の関係を深める様子はなく――それで安心してしまったことで、四葉もまた、見逃していた。男の視線の先にあったのは、他ならぬ自分自身であったことを。
それを、姉たる三葉は傍観者としてすぐに勘づき、見守っていた。少しだけ、危うい心持ちで。
とはいえ。
いつまで経っても姉離れできない――そんな妹にとって、良い契機となるはずだ。彼の人格は、自信をもって保証できる。
だからこそ。
「ごめんね~、私、ちょっとお祖母ちゃんを迎えに行かなきゃならなくて」
「あ、あぁ……」
これは、客人を蔑ろにしているのでない。それは瀧にもよくわかっているし、むしろ、その逆。親友が、わざわざ背中を押してくれているのだ。
「多分、一・二時間で帰ってくると思うよ」
「そ、そうか」
買い物に行っていた祖母の手荷物が、予想外に膨らんでしまったらしい。だが、旧友を家に招いている最中であれば、三葉自ら車を出すほどでもないはずだ。
ゆえに、これは彼女なりの気遣いである。
瀧とは気も合うし、共に過ごしていてとても楽しい。けれど、彼が宮水邸に訪れたがる理由の多くは他にあった。
ひとり残された瀧は、ふぅ……と大きく息を
糸守で起こった不思議な非日常――真実を知るのは、三葉だけ。もしくは、四葉だけ。しかし、瀧しか知らない真実もある。彼はズボンのポケットに、祈るような気持ちで手を当てた。あのコがそれを覚えているのなら――この気持ちは抑えきれなくなるかもしれない。
そうあって欲しいのか――あって欲しくないのか――瀧は思考を停止させる。仮定の先に目を瞑り、男子にできるのは、淡々と想い人を迎えることだけだった。
***
ちょっと面白い男子、だと思っていただけのに。四葉は今日も告白された。実のところ、異性という存在に対して、それなりに関心はある。だが、いまは気持ちが動かない。
私たち、そういう関係にはなれないと思う――それだけ告げて、彼女はクラスメイトに踵を返した。本当は夕飯も外で済ませてくる予定だったが、事情が事情となればふたりきりではいられない。そもそも、一緒に遊びに出ていた他の友人たちが次々と不自然な急用で席を外していったことからおかしかったのだ。
姉に、今夜は家で食べるとスマホで告げたのは三〇分前。すべてを察し、そんなことだろうと思った、との返信が来ていた。わかっていながら、自分を男のコのところへ送り出したのか、と思うと気持ちが沈む。糸守に居たころは、あんなに
だが、ここまで見越して何も言わなかったのだろう、と妹は都合のいい方向に気持ちを切り替える。そうせざるを得ないほどに、彼女の心は姉に囚われていた。
それは、一時的な気の迷いだったのかもしれない。あの頃、姉は唐突に
故郷に降りかかった災害とともに、姉から求められることはなくなった。もしかすると、あの隕石の接近によって姉は精神に変調を
だとしても。
四葉は、いまもそれを待っている。もう、自らの指では満たすことなどできないのだから。
男子との気不味さから逃げるように四葉が自宅に戻ってみるも、玄関には誰の靴もない。室内も静まり返っている。姉から出かけるという連絡は受けていないのに。
「ただいまー……」
空虚に向けて呼びかけてみるも、応答は無言。すべて姉の思惑通りだったのであれば――何らかの癒しが待っているかもしれない。それは、些細なことか、それとも――
飲み物で一服しようとキッチンへと向かいながらも、四葉の頭から淫らな妄想が消えることはない。だからこそ――ダイニングのテーブルの前で、彼女の時間は停止した。
それは、ずっと待ち望んでいたことのはず。しかし、あまりに突然すぎて。自分の見間違いか、何かの手違いか。あらゆる否定的な可能性が脳裏を巡っていく。
一頻り悲観的になったところで、四葉はようやく落ち着いた。ともかく、その正体を確かめるしかない。食卓に置かれた、食卓に相応しくないもの。決して、偶然現れるはずのないもの。物音ひとつしないダイニングで、四葉は震える指先をそれに伸ばす。
その外観は、アイマスクのようだ。しかし、それが食事の場に並ぶはずがない。だから、四葉は掴み取る。手に取れば形を変え――紛らわしい畳まれ方をした台拭きかもしれない。そっと二本の指で摘まみ上げれば――丸みを帯びた黒い生地の両側に、輪を描いたゴム紐が括り付けられている。どう見ても――アイマスクに他ならない。
ハッとして、四葉は室内を窺う。誰かがいる気配はないが、きっとこれを置いた者だけはいるはずだ。七年前の感覚が
そのときが来るまでは、何かの間違いだという可能性を引きずりながらも――四葉は浴室へと足を向けた。神様が与えてくれた気まぐれを、取りこぼすことがないように。
それが、ふたりの間のサインだった。姉が妹を求める夜は、ちゃぶ台にアイマスクを置いておく。妹が姉を受け入れるのなら、それをそっと部屋へと持ち帰った。もっとも、拒んだことなど一度もない。むしろ、毎晩心待ちにしていたほどだ。
そして、高校生となった今も――シャワーを浴びながら、四葉は脱衣所へと続く磨りガラスから目が離せない。姉の到来を待ち侘びて。ただ、祖母に苦言を呈されてからは浴室で肌を合わせる機会もなくなっている。大人しく自分で自分の身体を――触れられるであろうところは、なお入念に。だが、きっと姉はどこかですでに待ってくれている。あまり待たせるわけにもいかず、四葉は早々に湯から上がった。
そして、服は着直さない。タオル一枚だけ身体に巻いて、二階の自室へと戻ってきた。ふわりと裸身を露にすると、バスタオルは椅子の背もたれにかけておく。
鏡に映るのは、成長した自分の身体。子供の頃とは勝手が違うかもしれない。けれど、変わらないところもある。懐かしい指先がこの肌に何をもたらしてくれるのか。そっと自分で触れてみても、虚しさだけが軌跡に残る。
動悸は当時とは比べ物にならないほどに激しい。それは、あまりにも長い年月独りで燻っていたからか。それとも、己の性徴的な変化によるものか。このまま、何事がなくてもいい。四葉は、何も考えないようにしながらベッドへ背中から倒れ込んだ。
天井へ向けて掲げられた両手の間に架けられているのはアイマスク。薄暗い部屋から、限られた視界さえ奪うもの。それを用いて、ゆっくりと両目を覆っていった。もう、四葉にできることは何もない。
それは、永遠のような一瞬。彼女の部屋の戸が敲かれることはない。ただ、そっと開かれていく
“来る――!”
忍び寄る足音に、四葉のふとももはゆっくりと開かれていく。欲しい――欲しい――! けれど、その手は昔と変わらず。
「……はんっ❤」
こんな声が出るなんて、四葉自身思わなかった。あの頃だって、こうして鳴いたことはない。いくら唐突だったとしても――ただ、乳首を撫でられただけ。それが、ゾクゾクするほど心地よい。
「ん、ん……はぁ……」
明らかに、子供の頃より
「あっ、あ……いい……っ」
当時は、まるで赤ちゃんのようだと思ったこともある。しかし、その唇による吸引は、指で摘まむよりも心地よい。ノイズのように入り混じったむず痒さも、いまでは快楽として受け入れていた。ペロリ、ヌルリと弾かれる度、彼女の腹部にも力が籠る。
「あぁん……やぁん……早くぅ……♪」
ここまで、あの頃と変わらない。だから、しばらくは胸への愛撫が続くのだろう。彼女が、次を求めるまで。
「ぉ……おまんこ、欲しい……」
久々に口にすると、思った以上に恥ずかしかった。もう、何度もおねだりしてきた言葉だとしても。だが、四葉の
あの頃は、悪い意味で純粋だったんだな、と四葉は思う。こんな恥ずかしいことを、恥ずかしげもなく求めていたなんて。けれど、これはふたりだけの秘密だから。暗闇の向こうの相手だけに秘めていてもらうつもりで。
「もっと……もっと強くぅ……」
名前の知らなかった部位の名前も、歳を重ねて知ってしまった。
「く……クリトリスに……欲しい……」
割れ目に沿って上下する指に、滞在場所を指定する。
「はぁっ! あ、ぁ……んあぁ……」
丹念に指で開かれ、覆いを剥いたところに……チョコン、チョコンと。触れるか触れないか、という指先に、四葉は激しく
「そこ……好き……クリトリス……好きぃ……❤」
自分の
けれど――
期待を超える違和感に、四葉の理性は解かされていく。どうして、こんなに
「ん、ん……ぁんんん~~~っ!?」
すっかり熟しているからか、肉ひだを掻き回す舌がどこまでも熱い。ジュルジュルと音を立てる唇も。
「ほ、ほ……欲しい……」
うっすらと思い描いていることが事実なら、それを口にすればとんでもないことになってしまうだろう。しかし、ここまでの手つきは姉のもの。それは、身体に刻まれた快楽が肯定してくれている。
だから――
「お――
姉の身体にそれはない。だが、妹が求めるとき、姉はそれを請わせた。本当のところは、ペニスバンドと呼ばれるものだったと、四葉もいまなら察しがつく。ただ、ディルドやバイブでも構わなかったのでは、とも思っていた。わざわざ腰を振ることへの拘り――そして、視界を閉ざした訳。それらを、ほんのりと感じながら――四葉はそれを受け入れる。
「ん、ん……あんんんんん~~~~~❤❤❤」
それは、ずっと待ち望んでいたものだから。姉の股間に括り付けられ、自分の股間を乱していくもの。何度も、何度も、刻まれて、四葉の
だからこそ、断言できる。これは、それとは違うものだと。
確かに、形だけはよく似ている。しかし、一辺倒だった硬さだけではない柔らかさ。何より、熱い。そして、ムクリ、ムクリと鼓動を
「はっ、あっ、あうぅぅぅぅ……」
ここまでの愛撫は、ずっと姉のものだった。なのに、いまだけは間違いなく姉ではない。だとしても――
「パ……パンパンしてぇっ!」
これが、流されるという感覚なのかもしれない。自分の
しかし、疑いようもなく脈打っている。それに何より、温かい。ここまでされるがままだった四葉は、初めて相手の身体を求める。
だらりと広げていた両足で――ぐい、と相手の腰回りを包み込んだ。そこに、女性らしい滑らかさはない。どうしよう――という懸念は、そのひと撞きひと撞きによって押し流されていく。
いまは、ただ――
「もっと! もっとパンパン! パンパンいいのぉ……っ!」
これまで長い間――それこそ、毎晩のように――求めて、その寸前で鎮まってしまう情熱。その壁を乗り越えるのは、いましかない。
しかし――
グンと引き抜かれていく感覚に対して、四葉は反射的に踵を強めた。ダメ! どこへ行こうというの? 私を
ふたり分の力が加わった激しい一撞き。それが――
ドクッ、ドクン、ドクン……っ
あり得ない流入に、四葉の
「はっ、あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁっ!?」
ビクっ! ビクっ! ビクっ! ビクゥ……っ!
両手を伸ばせば、腕に当たる。それを胸に引き込めば、下りてくるのは硬い筋肉。そこに、柔らかな優しさはない。
だとしても。
「あむ、はむ、あむぅ……」
短い後ろ髪を掻き分けて、四葉は頭部を唇へ寄せる。そして、貪るような舌と舌。すべては昔のとおりに。けれど、腕の中だけはまるで別物。
「ん、ん……はむん……」
びゅるっ、びゅるっ、と流れ込んでくるものは、我が身に生命を宿らせるものだろう。姉の――女の
ただ、四葉は思う。目隠しをしてきたのは、この日のためだったのかもしれない。
けれど、いまは気持ちの整理がつかない。
「……はぁぁぁぁぁ……」
すべてが終わって、四葉の手足はシーツの上へと落とされる。ここまで隠密にやりきって、いまさら正体を明かすような無粋な真似はしないでほしい。
そのままの姿勢で黙っていると――股の間の部外者はベッドから下りていった。そして、再び扉が開け閉めされる音を聞いて、四葉は自らアイマスクを取り除く。
その天井は、事との前と変わりない。けれど、流れ落ちてシーツを濡らす染みは――どんだけ溜め込んでたのよ、あの
そっと目蓋を閉じると、思い返すのは糸守での日々。姉と肌を合わせてきた夜のこと。しかし、どうしても相手の姿を思い描くことができない。むしろ、姉に対する執着も消えている。自分でも、その薄情さが嫌になるほどに。
だとしても――
それは、自他ともに認める都合のいい妄想。あの男が、被災前の糸守にいたことがあるはずがない。いたどころか、自分の身体を抱き続けていたなど――
記憶と現実のギャップは埋まらないまま、四葉は濡れた
***
少なからぬ罪悪感は、瀧にもあった。思わず、本能のままに求めてしまったことに。彼女はどのあたりで気づいたのだろうか。それともまさか、最後まで気づくことなく……? そのあどけない仕草は、七年前と同じもの。だが、その手に触れていたのは柔らかな肉付き。そして、今度こそ子供を授かってしまう。
あれから、四葉とは言葉を交わしていない。傷心のあまり部屋に引きこもっていたのかもしれないが、三葉からは後日、『良かったね』というショートメッセージが送られてきている。少なくとも、四葉の気分を害したことはないはずだ。と、信じたい。
とはいえ。
次はどんな顔をして会えば良いのだろう。三葉に声をかけて、冷たく拒絶されては絶望するしかない。
何の音信もないまま、平日は刻々と過ぎてゆき――ある晩、瀧の家のチャイムが鳴らされた。何か通販でも注文していたか、と就寝前の男は訝しむ。だが、覗き窓から外を見て――!?
ガチャリ、と扉が開かれるのと同時に、来訪者のコートがはらりと落とされる。その姿で待つのは、本来自室のベッドの上。けれど――彼女の身体は、待ってなどいられなかった。
アイマスクによって塞がれた両目では何も見えない。ゆえに、彼女は愛撫だけを求める。だが――
「乳首を、ちゅっちゅして、おまんこを、くちゅくちゅして、それで……」
四葉はもう、あの頃の愛撫でさえ物足りなくなっている。
「子宮に熱い精液をビュルビュルしてぇ❤」
もう姉を求めることはない。
だが、男を求めることもない。
すべては、暗闇の向こう側よりもたらされるもの。
その外側のことに、四葉は目蓋を閉ざした。