ホワイトデー。それは所謂バレンタインデーと対をなす、年に一度の、そしてバレンタインデーに続いて二度目の甘い予感がする日。
お返しする物によって意味が変わってくるとかなんとか。そんな日に当の立香が用意したのは…。
(よし、うまく出来た。……と思う!)
想定していた時間よりかなり早く予定を切り上げる。初めて作る割には手間取らなかった"それ"は思ったより簡単で、自分でも上手に出来たと思う。手伝ってくれた英霊たちに礼を述べ、キッチンを後にする。
(…喜んでくれると良いけど。)
珍しく自信のない様子。彼女を想うばかりに考え込み、若干マイナス思考になるのは立香の悪い癖とも言えよう。
部屋に戻り、扉を開けようとすると中から歌声が聞こえた。扉越しの為か、小さな声だが、確かに聞こえたのだ。
恐らく待っているであろう、(同棲相手とも言える)虞美人の姿を拝みに扉を開ける。
「〜♪………ッ!?」
なんか、ヒナ先輩に似た眼鏡の小さな女の子が人の部屋で歌ってる。
「えっ」
「早っ、えっ!?」
慌てた様子の女の子は腰を抜かし、その場でよろけてしまう。手にしていた箱をその場に置き、咄嗟に少女を支える。
「君、大丈夫…?」
「帰ってくるの…早っ……?」
先ほどと似たような事を言う少女。そのまま抱えて、ベッドに腰掛けさせる立香。彼の想い相手、虞美人に似た少女の顔をじっと見つめては謎の発想に至る立香。
自分の部屋に居た、彼女に似た子。これってつまり。
(あれ、もしかしてこの子って俺と先輩の…?嬉しいけど困るような、どうしよう。あれからそんなに時間経ったっけ?)
「……いつ産んだんだろ、先輩。」
「馬鹿ッ!」
スパンッ!と頭を叩かれる。しかし手加減されていたのか、さほど痛くはない。流石にわかっていた事だが、そう言う妄想もしてみたくなる。年頃だし。
「なんでこんなに早いのよ。予定より三時間も。急に帰ってくるんじゃないわよ、私にだって都合があるんだし、そもそも今日は休みの予定なのに朝いきなり飛び出して行ったのはどこの誰よ。いい加減にしなさいよねこの馬鹿。」
うん、本人だ。どう考えても。怒涛の言葉責めは彼女だと言う事を再確認させる一方だが、それを聞きつつ入り口付近に置いた箱を取りに行く立香。
「…とりあえず、これ受け取ってください。頑張って作ったんです。…せめて、一口だけでも。」
「は?何これ。…甘い匂いがするけど。」
「ホワイトデーってヤツです。聞いたことありますよね?」
「…嗚呼、そう言うこと。良いわよ、受け取ってあげる。」
「っ…!有難う、ヒナ先輩!」
箱を手渡し、笑顔で喜ぶ立香を他所に、虞美人は座ったままため息を一つ零す。
「…はぁ、こんな事ならさっさと戻しておけば良かった。」
「そう言えば、なんで小さいんです?身体大丈夫ですか…?」
反射する様に問い掛け、案ずる立香。然しそんな立香に対し、虞美人は淡々とした様子で答える。
「私は平気よ。…ちょっと、宝具の再生で手を抜いただけ。後でもう一回シミュレータするから、その時で良いかなって思ってたら、急にお前が…。」
「へぇ…でも珍しいですね、ヒナ先輩がシミュレータなんて。」
「お前が私に魔力リソースを沢山注ぐからでしょ。働かない訳にも行かないし、リソースだけ持っていってはいおしまい、じゃ他の奴らになんて言われるか。」
確かに彼女は今受けられる魔力リソースの全てを最大限まで受けており、突出した状況でなければどの戦線でも戦えられる力を有している。そんな彼女の力を放っておくのは確かに無駄なようにも見える。だが立香は…
「……これ言うと他のサーヴァントに間違いなく殺されそうだけど…俺、先輩には傷付いて欲しくないんです。だから本当は宝具も…、」
「お前、馬鹿なの?それならリソース分けずに側に置いておけば良いじゃない。そうすれば、今よりかなり楽に私を制する事が出来るかもしれないわよ?」
「それはほら、俺なりの愛と言うか…先輩にやれる事は全部やりたい、的なヤツですよ。それに、先輩には酷い事しないって言ったじゃないですか。」
形は似通って居ても、価値観の違いはそう簡単に拭えない。だが、彼女の思考もまた不老不死だから、から英霊の持つ考えに近づいている様で。
「はぁ…まあ良いわ。とりあえず体は面倒だからこのままね。…で、これ開けて良いの?」
「はい、大丈夫ですよ。開けて下さい。ほんの少しですけど…自信、ありますから。」
彼女が手にして居た箱を開けるとそこには一つの菓子が。卵をふんだんに使い、中心に穴の開いたドイツで作られるケーキのその名は…
「………ばーむくーへん、ってやつ?これ。」
「はい、そうです。大きく作って、切って来ました。残りは他の皆にもお裾分けしようと思って。」
「ふぅん…。食べた事ないのよね。見知っては居たけれど。」
「そうなんですか?初めてなんて光栄です。」
じっと菓子を見つめた後、立香の顔を見つめるとニヤリ。企む様な笑みを浮かべて、箱を置いて立ち上がる。
一連の行動に疑問符を浮かべる立香だが、虞美人はそんな彼に。
「ほら、座りなさい。早く。」
「え…こう、ですか?」
言われるがままにベッドに腰掛ける立香。
「ええ。もう少し深く座って、靴を脱いだら足をこうして…。」
そのまま彼女にされるがままに体を動かす。いつもより少し深く座った立香はそのまま胡座の体勢になって。
「ん、これでよし。…さてと。」
そうして当たり前のように立香の足の上に座る虞美人。なんだこれ可愛い。小さめな身体も相まって、思ったよりフィットする。
そうして再び箱を手にし、早速バウムクーヘンを一口、口にする虞美人。
「これ、奶糖…キャラメル、ってやつ?」
「はい、そのままでも良かったんですけど、ちょっと思うところあったので入れてみました。…如何ですか?」
「…及第点ね、悪くないわよ。…はむっ。」
微笑みながら、身相応の子供の様に口にし続ける虞美人。言葉ではそう言われるも、食べ続けていると言う実質の合格通知を受け取った立香は彼女の腹部に手を回し、軽く抱きしめる。
「ってか、歌上手いんですね。知らなかったです。」
「…やっぱり聞いてたのね。はぁ…、別にどうだって良いでしょ。」
「今度歌って下さい。俺の為に。」
「調子に乗るな、ばか。」
こつん、と額に拳の感覚。所謂裏拳だが、立香はそのまま彼女の手を掴んでじっとその手を見つめる。
「…何よ、目が怖いわよ。また変な事考えてるんじゃないでしょうね。」
彼女の手についたバウムクーヘンの欠片に目が移り、思わず舐め取る。
「ひゃっ…!ちょっと、立香…!」
名を呼ばれるが耳に入らない。夢中で彼女の指を咥え、その甘さを口の中へ広がらせる。然し粉物と言う訳でもない為、その味は直ぐに消える。
「…ん、丁度良い甘さかな。」
「変態。んもう…。」
側から見ると只のバカップルなのかもしれないが、勿論それとは型が違う。寄り添うのは形だけ、想いはほぼ一方通行。それでも、と少年は願い続ける。いつまで続くかも分からない、そんな日々の繰り返し。
「ほら、口開けなさいよ。」
「ん…?こう…?」
物思いに耽る立香の意識を呼び戻した、彼女のそんな声。手には小さくなったバウムクーヘン。そのまま口を開くと放られる。キャラメルの風味と卵と牛乳の柔らかく甘い食感が口の中を覆う。我ながら良い出来な気がしてきた立香。
「口移しでくれても良いんですよ?」
「舌を噛み切られたいの?そんな意味のない事、する訳ないでしょ。」
「意味なくは無いですよ。」
「少なくとも私にはないの。」
黙々と食べ続ける虞美人。先ほどから見られるその姿は、何も知らない人が見ると確かに子供の様に見えるだろう。だが現実は…言うまい。
「この後、シミュレータ行くんですか?なら俺も付き合いますけど。」
「気が変わったからパスよ。それに元々はお前を待つ為の暇潰しの様なものだったし、居るなら話は別。今日はこのまま部屋に居るわ。」
「じゃ、お部屋デートですね、今日は。まだ昼過ぎですし。」
「変な言い方するな。…勝手にそう思ってろ。」
気が付くと空になったバウムクーヘンの箱。小さく畳んでゴミ箱にそれを投げ入れては座ったまま振り返る虞美人。その目線はじっと立香に合わせられて。
「…少し寒いわ。温めなさい。」
「じゃあエアコンの温度、上げます?」
素なのか態となのか。そう返す立香に溜息をつく虞美人は黙ってそのまましがみつくように。
「……いつもより甘えたがりなのは、身体のせいですか?」
「どうかしらね。…素直なのは嫌いかしら?」
「まさか。好きですよ。…ま、どんな先輩でも俺は受け入れますけど。」
「調子良いんだから。」
口に残る微かな甘さは過ごす時間のように甘く在り続ける。軈て自然と唇を重ね、交わるその甘味は最早どちらの物なのかも曖昧になり、そのまま溶け合いそうになる。
「…こんな身体でも反応するのね、お前。病気じゃないの?」
「ヒナ先輩はヒナ先輩じゃないですか。…我慢はしますけど。」
「我慢?いつもならとっくに貪っているお前が?…一体どう言うつもりかしら。」
立香の首に手を回し、煽るように見上げつつ問い掛ける。だが返ってきた答えは彼らしいと言うか、生真面目と言うか。
「小さいんですから、無理はさせられませんよ。…辛い思いはさせたくないから。」
「今更何よ。ここまで熱くさせておいて。…このロリコン。」
最後の煽る呟きは彼の耳元で囁くように。そんな煽りを受けて無反応で居られる筈もない立香の身体は正直に反応し、背筋に冷汗が流れる。
「…責任取ってくださいよ。俺、悪くないですから。」
「ふん、まだまだ餓鬼ね。…仕方ないわね。」
その良い草に"煽ったのはそっちだろ"、と言いかけるも既にいつもより小さな虞美人の手は立香のモノを捉えていた。器用にいつの間にかソレを取り出しては撫で回すように触れる。
「良い反応するじゃない。期待してたの?」
「っ…、し、ましたっ。してました。本当はハグだけでも良かったんですけど、先輩が煽るから…っ。」
「言い訳しないの。ヒトの世の中、結果が全てよ。…ほら、こんなにもビクビクしてる。イク時はちゃんと言うのよ、変態駄目マスター。」
虞美人が告げる通り、立香のモノは素直な反応を繰り返す。いつもより小さく、ほんの少し冷たいその手は刺激が強く。立香の思考を鈍らせていき。
「…キス、したいです。もう一回…。」
「…ん、舌出しなさい。」
マスターとしての誇りなどないかの様に素直に従う立香。口を開いて舌を出すと虞美人の小さな口がそれに吸い付く。上下から襲う快感は遠慮なく立香の脳内を塗り潰していって。
「…ぷはっ。良い反応ね、立香。虐め甲斐があるわ。」
「先輩、俺…イキそう、でっ…。」
そう口にした瞬間、彼女の手の動きがピタッと止まる。対面座位のままじっと見上げられる立香は思わず声を洩らして。
「なん、でっ…?」
「嗚呼…良い顔するじゃない。ゾクゾクするわ。…イかせて欲しいの?」
「っ…、はい、っ。お願い、しますっ…。」
「情けない声出しちゃって。…イかせて欲しいのならもっと囁きなさい。私にその愛が届いたらイかせてあげるわ。」
どんなに囁いても返って来る事のない、彼女への愛。普段なら何食わぬ顔で呟けても状況が状況。今の立香にまともな判断など出来るわけもなく。
「好き、ですっ。ヒナ先輩が。大好きなんです。いつも頭の中に貴女が居て、ずっと、考えてて…っ、」
「…それで?」
「側に、居られるならっ…俺、なんだって…っ、!」
「ふぅん…そう。…それだけかしら。」
「俺、頑張るから…っ、認めて貰える様に…っ。だから…っ!」
それは褒美を強請る子どもの様なか弱い声。聞き届けた虞美人は口角を微かに上げて呟く。
「…私のこと、愛してるの?」
それがどんなつもりで呟かれたかは彼女自身も判らなかった。だが、立香は蕩けつつも真っ直ぐな目で応える。
「世界で、一番…、愛して、ます…っ!」
瞬間。彼女の手は再び動き出し、立香の唇も塞がる。身体を襲う急な快感に、立香は呆気なく達してしまい。彼女の小さなその手は白濁に染まってしまう。
「…ん、くっ。…こっちも及第点ね。悪い気はしなかったわよ。相手がお前みたいな変態でもね。」
「っ……恥ずかし、過ぎる……っ。」
手中の白濁を小さな口で飲み込んではそう呟く虞美人。対する立香は顔を真っ赤にして目を伏せるが隠す事も許されず、舐め回す様に見上げられる。
「弱い奴は嫌いよ。口だけじゃなく、態度で示しなさい。私が欲しいならもっと力尽くで来ることね。」
聞き届けた立香はそのまま強く彼女を抱き締める。いつもより幾分小さな身体はその両腕の中にすっぽりと収まって。
「これが精一杯なのかしら。」
「…暖かい愛は嫌いですか?」
「そんなの…お前が初めてだからなんとも言えないわよ。」
再び唇を重ねる。そのまま静かに彼女の眼鏡を取り、机の上に置く。彼女の小さな掌は立香の両頬を捉えており。
「…初めて会った時に比べたら、少しは成長したのかしら。」
「そりゃ…、俺、まだまだ強くならないと駄目ですし。」
「ま、そう考えてるだけでもマシね。怠惰は人の本性を殺すわ。……ほら、行くわよ。」
一度達した後のモノは萎える事なく彼女の寵愛を求めようと聳り立つ。だが彼女が興味を示したのは日常的な事、彼の首筋への興味だった。
「…お好きなだけ、いつでもどうぞ。」
「ふふっ、素直なお前は好きよ。」
牙が首筋に当たり、かぷっと小さな口が吸い付く。立香から見て左の首筋は初めは多くの痕が有ったものの、今では彼女も少し気を使っているのか、一つの痕に重ねる様に吸い付いている。きっとその傷痕は今後消える事なく残り続けるのだろうが、そんなのは立香にとって些細な問題であり。
「…ぷはっ。身体が小さい所為かしら。もう良いわ。」
「身体の大きさの影響って、案外あるんですね。」
「物理だけじゃなく魔力量もね。…ふふん、今一杯だから肌艶も良いわよ。」
どやっ、と(可愛らしい)顔で示しつつ腕を立香の前に差し出す虞美人。可憐な細腕を目の当たりにした立香は先程までの彼女と同じように、然して牙を立てずに吸い付いて。
「…じゃあ、今日はここに付けますから。今晩は俺の抱き枕になって下さいね。」
「まだ夕刻だってのに、言ってくれるわね。…分かったわよ、全く。」
淡い甘さを感じる会話を行いつつも、立香のソレは収まる様子を見せない。目線を下に移した虞美人は溜息と共に。
「…ホント、何でこの身体に反応してるの?しかも二回目。」
「綺麗な髪見てたらつい…。」
「…また一つ無駄な知識が付いてしまったわ。」
彼の趣味を理解したのか、彼女は長い黒髪を後ろで一括りにする。そのままぱっ、と魔力で衣服を放っては全てを曝け出して。両手を胸に当てて呟く。
「…小さい方が好みかしら?」
「あまり大きさには拘りませんよ。大きさ毎に愛し方がありますから。」
「…お前、そんなに遊び慣れてるのか?」
「そんな事ないですよ。…先輩、気付いてないのかもしれませんけど、毎回結構サイズ違いますから。」
そう言いつつ、彼女の胸に手を伸ばす。ほぼ平坦とも言える彼女の双丘は立香にその動悸を十二分に伝えて。
「ドキドキしてます?」
「…こんな身体で、お前が興奮してるから…。」
「どんな先輩でも、俺は…」
「…聞き飽きたわよ、それ。」
言い終わる前に唇を塞がれる。舌を絡めつつ、腰を少し上げた彼女はそのまま立香のモノを充てがい、膣内のへと挿入していく。…然し、一筋縄で行くわけがなく。
「んぅっ…、痛いじゃない!少しは加減しなさいよ!あーもう、焦るんじゃ無かったわ。」
「俺の所為ですか!?いや、加減って言ったって何を…!?」
「もっと…、もっと蕩して見せなさいよ。やって見せなさい、私のマスターなんでしょ。」
向かい合ったまま、片手で彼女の胸に触れ、唇を重ねる。ありふれた愛撫だが、全く意味を為さないという訳でもなく。
吐息が溢れ、部屋に蜜音が響きだす。片方の手で彼女の秘部に触れ、膣内から刺激を与える。唇を離し、酸素を取り込みつつ、小さな声で呟く彼女。
「っ……、やれるじゃない。少しは見直したわ。」
初めは指一本がやっとだった、あまりにもキツい中はゆっくりと蕩けだし、軈て少しずつ余裕が出来る。
「…行きますよ、先輩。」
対して虞美人は答える事なく、小さく頷く事で応える。再び秘部を充てがい、ゆっくりと腰を下ろす虞美人。小さな身体は、ソレを何とか受け入れて。
「やっぱり、変態よ、お前。」
「変態は嫌いですか?」
答えは返ってこない。答える余裕もないのかも知れない。必死に呼吸を整え、軈てゆっくりと身体を動かす虞美人。小さな膣内の感覚は、いつにも増して立香を締め付けて。
「変態っ、ロリコンっ、ばかますたーっ♡!」
「……っ、好きですよ、ヒナ先輩。」
彼女の発する言葉が段々とふわふわし、浮いてくる。それは普段、外で話す時とは違う夜の声。それを更にか弱く…要は幼い声を溢しつつ、身体を重ね合う。
愛を囁くと中が締め付けるように反応する。その刺激は立香にとってリビドーを加速させる。この時が長く続くように願う立香にとってはマイナスな事だが、愛を囁くことを辞められずに。
「好きですっ、ヒナ先輩…っ、」
「もうやめろっ、これ以上、言うなっ…♡」
叫ぶような彼女の否定の言葉。然し小さな手は精一杯伸ばされ、立香の背に回される事で本心からの否定で無いことが分かる。
「…だめっ…♡、もうっ……♡」
「っ……!」
急激に彼女の膣内が畝り、立香のモノを強く刺激する。言葉を発する余裕もなく、呆気なく達した立香はそのまま彼女の小さな身体を抱きしめて。
「っ…、痛いわよ、強く抱き過ぎ。」
軽く呼吸を整え、小さくそう囁いた虞美人。身体を離し、立香の膝の上に座り込んだ虞美人は立香の胸元にもたれ掛かり、ゆっくりと呼吸を整えて。
「…出し過ぎよ、溢れて来たじゃない。二回目だって言うのに、お前…。」
「……愛、ですかね?」
顔をあげては立香にそう訴える虞美人。返って来た答えに対してはこつん、と額に軽く拳を当てて。
「…シャワー浴びるわ。覗かないでよね。」
「覗きませんよ。先輩の身体、全部知ってるのに覗く必要ないじゃないですか。」
「馬鹿っ、変な事言うなっ!」
すたすたとタオルを身に巻いてシャワールームへ向かう虞美人。立香も衣服を整え、彼女の飲み物を用意する。氷を用意し、コーヒーを淹れる。グラスに注ぎ、ゆっくりとかき混ぜる。二つ用意したグラスのうち、片方にミルクとガムシロップを入れ、口にする。
(…甘いな。)
特別そんな習慣があるわけでもないが、何故だかコーヒーが飲みたくなった。甘いと言う感想はコーヒーに対してだけなのだろうか。そう考えてると虞美人が戻って来て。
「空いたわよ。…コーヒー?選択が謎だけど、その心意気は買ってあげるわ。」
「それはどうも。…じゃ、行って来ます。」
タオルを手に、シャワールームへ向かう。明日のことやこの後の事を考えつつ、水音は耳元を流れていく。だが手をしっかり動かし、早く部屋に戻ろうと。
部屋に戻るといつもの部屋着を見に纏った虞美人がベッドで横になっており。
「…ほら、抱き枕よ。」
(ヤケに素直になった気がする。)
とは言える訳もなく。髪も乾かさずそのままベッドで横になり、両手で彼女を後ろから抱き寄せる。
「同じシャンプーの匂いがするって、なんか良いですよね。」
「何が良いのよ。人の価値観は分からないわ。」
彼女の長い髪を手に取り、キスをする。美しい黒髪は今の彼女の身体には長過ぎる程で。
「髪フェチの匂いフェチのロリコンマスター。…碌な人間じゃないわね。」
「酷い言い様ですね。これくらい普通ですよ。」
「うっわ…人間ってやっぱ嫌いだわ。無理ね。」
「そんなにですか…?うーん…」
「…私じゃなきゃ、とっくに切られててもおかしくないわよ。」
呟きの中に含まれた、微かなデレ。嬉しくなった立香は想いが溢れて彼女の首裏に顔を埋めて。
「…いきなり強く抱くのは辞めて。……ほら、また垂れてくるじゃない。」
「…俺が悪かったので一々言うのやめてください。心臓に悪いです。」
「あら。悪いのは心臓にだけ、かしら。それとも人間の雄らしくソレが心臓とでも言いたいの?」
頑張ってスルーする。三回戦なんて洒落にならないし流石に身体がもたない。自分も、彼女も。
「…やっぱり不便ね、これ。今度からはもう少し真面目に再生するわ。」
「小さいの、俺好きですけど。」
こうして抱き枕になってくれるし、抱えやすいし、と言おうとするが時既に遅しとはこの事で。
「やっぱロリコンじゃない。離してくれない?」
「いや、そう言う意味じゃなくて…!」
そう言いつつも振り解かないのは彼女の優しさなのか、気紛れなのか。はたまた疲れただけなのか。
「……どんなに変態でも、マスターだもの。一度認めてしまった私の落ち度なのかしら。」
その呟きはとても小さく、立香に届くこともなく流れていく。腹部に回された立香の手をぎゅっと抱き寄せ、瞳を閉じる虞美人。
「もう眠るわ。時間早いけど、眠れるだけ。…おやすみ、立香。」
「…おやすみなさい、ヒナ先輩。」
時刻はまだ19時前後。だがその様子に釣られて立香も静かに目を閉じる。自分でも間違いなく夜中に目が覚めるな、と思いつつ。
*
──── 幾度目だろうか。こうして夢を見るのは。
いつもと同じく、花畑の夢。赤い花と、美しい女性の夢。
あと少しで見えたその顔も思い出せずに途切れる記憶。
だが、今宵はどうやら違う。目の前が暗転しては暗い部屋の中。
身体がなんとか入るサイズの、硝子のケースの中に、見慣れた女性の顔があった。
その肉体は弾け飛び、再生をしようと肉体は再び構築される。
何処からか聞こえる声は、冷酷な、明るさとは無縁な声をしていた。
『人類の未来のために』
確かに聞こえたその声と、見えている景色はどう見ても人の為にはならない。
悲痛な叫びと共に、女性の肉体はまた弾け飛ぶ。そうして再構築される。その繰り返し。
魔術師らしき者と、研究員らしき姿をした者。立香には、彼らが無理矢理女性にそれらをさせてる様にしか見えなかった。
彼らに触れようとも、すり抜けてしまい何も出来ない立香。彼らの冷たい目の所為か、声も発する事が出来ず。
『データがまだ足りない。』
『秘密をなんとしても探せ』
『人間の進化の為に』
冷酷な声と、悲痛な叫びが繰り返される部屋。夢だと自覚し、無力を嘆く立香。その女性をどうにかして救おうと。そう思った時。
立香の意識は遠退き、やがて意識の覚醒へと至る。
*
世間一般では、これを悪夢と言うのだろうか。
目を覚ました立香は上半身を起こして居た。全身から身の毛もよだつ思いをしたところで思考をまとめ始める。
あれはどう考えても自分の記憶じゃない。なれば、度々起こるサーヴァントの記憶なのだろうか。
そう仮定した時、答えはひとつだった。
隣で小さく寝息を立てる彼女、虞美人の記憶なのではと。
永遠の時を生きるからこその苦しみと、人間への嫌悪。その一端を見た気がした立香は無意識に涙を流していた。それらを拭い、心を落ち着かせようとした最中。
「…んぅ……立香?」
眼を擦り、立香の方を見る虞美人。声をかけられてハッとし、涙を急いで拭う。そうして半ば誤魔化す様に彼女を抱き寄せて。
「ん……何よ、急に。子供じゃあるまいし。鬱陶しいんだけど。」
「ゴメン、先輩。でも俺……」
若干の涙声。その状態で発せられた言葉に、彼女が気付かない訳もなく。
「悪い夢でも見たの?…全く、これだから弱い生物は。」
そう呟く彼女の声。夢とは違う、しっかりとした声。そう思うだけで、涙がこみ上げる立香。小さな手で、慰める様に撫でる虞美人は静かに聞き続けて。
「俺…俺っ、夢、見たんです。多分、ですけど、先輩の、過去の…っ。」
「嗚呼、良く聞くサーヴァントの記憶ってヤツかしら。……お前まさか。」
手の動きが止まる。彼女としても流石に動揺が隠せなかったらしく。
「俺……っ、もう絶対先輩を苦しめたりしませんから。辛い思いも、悲しい思いも、させませんから…。」
「…馬鹿ね、本当に。あんなの、辛くもなんとも………」
そう言いかけたところで、自分の手が震えてることに気が付いた虞美人。それには二つの理由があった。
一つは、今更その過去を忌むべき物として思い出した恐怖。もう一つは、人間の癖にココまで言われた事への不思議な感情。
「…お前が私に入れ込む程、辛い思いをするのよ。お前の思い出がどんなにあっても、先に死ぬのは立香なんだから。…私を苦しめたくないなら、放っておきなさい。矛盾してるのよ。……それも、今更だけれど。」
「でも俺っ、先輩に…ヒトは、人間は悪だけじゃないって…知って欲しいから…!」
顔を上げ、涙を流しつつも、虞美人に訴える立香。それを見た虞美人は普段決して誰にも見せない様な、穏やかな優しい顔で。
「知ってるわよ。お前が、立香がそうやって教えてくれたのだから。…でも、私は人間が嫌いよ。あの事を忘れるつもりもないし、絶対に忘れられないから。だから私は、ヒトが嫌いなの。…解って、立香。」
慈愛を込めた様な優しい眼差しで、思いを告げる虞美人。立香もまた、ゆっくりと落ち着きを取り戻しては静かに頷き。
「…なら、良かったです。俺、ヒナ先輩の…貴女の傍に居られた価値がありました。」
「お前みたいなヤツの傍に居たら、誰だって思い知らされるわよ。…私なんて、特に近かったんだから。」
よしよし、と立香の背を撫でる虞美人。落ち着きを取り戻した立香はさっきまでの涙を恥ずかしがる様に。
「……泣いて取り乱した事、誰にも言わないで下さい。」
「言わないわよ、話のネタにもならないし。…ほら、早く寝なさい。ちゃんと傍に居るから。」
「…うん。…ヒナ先輩、俺、バッドエンドは嫌いなんです。ハッピーエンドこそ、先輩に相応しいって思いますから。だから、絶対に幸せにしますから。」
言葉にした後に自覚する。これ、プロポーズみたいじゃないかと。だが、そんな様子を気に留めることもなく小さく微笑んだ虞美人は答える。
「はいはい、分かったから。…おやすみ、立香。」
自爆した立香はそのまま口籠もり、顔を真っ赤にして目を閉じる事しか出来なかった。
だが、彼女の温もりは立香に確かに届き、安らかな眠りへと誘うのは呆気なかった。
時計の針は、午前二時を指していた。
*
ほんの少し、顔にくすぐったい感覚が走り、目を覚ました立香の隣に、虞美人の姿はなかった。あれだけあった後に彼女の姿が見えないのは不安で堪らなかったが、そんな立香を他所にシャワールームから謎の爆音と、緊急の通信が入る。
『立香くん!無事かい!?君の部屋から宝具レベルの魔力反応があったんだけれど!』
「ダヴィンチちゃん…!?俺の部屋から…!?」
シャワールームに目を遣る立香。だが、さっきと打って変わり、今度はごく普通なシャワーの音が聞こえる。朝から彼の部屋のシャワーを使うのは彼以外だとただ一人。よって。
「あー…ごめん、こっちは大丈夫。スタッフさんたちにも後で謝りに行くから。」
『うん?君がそう言うなら大丈夫なんだろうけど……ははぁん、そう言うことか。ま、仲良いのは良いことだけれど、営みは程々にね?じゃねー☆』
ぶつっ、と通信が途切れる。小さき天才に謎の誤解を受けたまま、一方的に切られたそれをどう言い訳しようと考えててると。
「嗚呼、起きたの。おはよ、立香。」
「戻ってる……。」
元のサイズに戻った虞美人の姿が現れた。安堵と共に一つのため息。
「何よ、挨拶くらいちゃんとしろって言い始めておきながら、返事はなし?随分偉くなったものね。」
「そんな事ないですよ。無事で何よりです。おはようございます、ヒナ先輩。」
そうして話を聞く所、やはり先程の爆音は彼女がシャワールームで宝具を使用した音だったらしい。身体を再構築し、元のサイズに戻してシャワーを浴びたかったらしく。
「さて、と。じゃあほら。早くしなさい。」
櫛とドライヤーを立香に差し向け、そう告げる虞美人。立香もやれやれと受け取り、"いつもの様に"作業を行う。最早慣れたものだ。
「…ん、良いわよ。合格にしといてあげる。」
「光栄です、頑張った甲斐がありました。」
道具一式を片付けつつ、立香はふと確認をとる。
「…先輩、昨晩の事は…。」
「思い出しても気分の良いものじゃないでしょ。夢のことは忘れなさい。」
「…でも、忘れても傷跡は消えませんよ。ちゃんと受け入れて、それで考えますから。まだまだ弱いですけど、頑張りますから。」
「言う様になったわね。…ええ、それでこそ私のマスターよ。」
すっ、と立ち上がり外出用の服に変わる虞美人。立香も服装を整え、扉へと向かう。
「だって俺、ヒナ先輩の事好きですから。」
「ええ…知ってるわよ、立香。」
そうしてまた、1日が始まる。
お久しぶりです。そろそろ忘れられたであろう悠穹です。
実はこの度大学を卒業し、一人暮らしを終え、その引越し作業や卒業式が中止になったりのドタバタで忙しかったので、一ヶ月ぶりの投稿となりました…。(もし居られたら)待ってくださった方々には本当に申し訳ないです。
実家のあるとある田舎に戻り、細々と生きていこうと思います。
作品についてはまたまちまちに投稿したいと思ってますので、これからも宜しくお願いします。
またまた懲りずに感想等、お待ちしてます。極力お返事は返そうと思うので、どうぞ宜しくお願いします。