※この作品はR-18です。

虞美人との日常。   作:雛穹

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 サマーキャンプを終え、いつもの日常へと戻ろうとしていた立香。

 今度こそ何事もなく、次の出撃まで訓練等のみで穏やかに過ごせると思っていたのだが、そんな事が叶うわけもなく。また厄介事になる様で…。




虞美人との日常(幼)。

 

 

 

 

「不味い。」

 

 

 時計の針が二時を指す頃。暗闇に包まれた部屋で不満そうな彼女の呟きが零れ落ちる。

 

 

「…えっ?」

 

 

 普段と違うその態度に思わず素っ頓狂な反応をしては戸惑う立香。その首元から離れ、手で血の滴る口を拭いながら、立香をじっと見つめ、吐き捨てる様に続けるのは暗殺者の英霊、虞美人であった。

 

 

「変なものでも食べたのかしら。昨日はいつも通りだったのに、たった1日でなんでこんなに不味くなるのよ。」

 

「心当たりはないんですけど…強いて言うならレイシフト終わりだから、とかですかね?…ほら、昨日まで出先でだったし。」

 

 

 夏の風物詩であるキャンプを終えて帰ってきた立香は先の疑問に対して呟き返す。

 レイシフト中はマスターである立香のヘルスケアの為に常に状態が監視されてる為に、そ(・)う(・)言(・)っ(・)た(・)事(・)は薦められたものではないので、出先では断り続ける。監視されてない場合、どうなっているかはご想像にお任せする。…つまるところ、久方ぶりの交わりだったのだが。

 

 

「人間って無駄に繊細でこれだから困るのよね…。心当たりがなくても、現に不味いんだから何かあるんでしょ。」

 

「そんな無茶苦茶な…。俺自身はなんともないですし、急に何かが変わったわけでも…。」

 

「何かの予兆だったりしないわよね?朝になって変な事になってたら承知しないわよ。」

 

「それでも一時間近く離さなかったのはヒナ先輩の方で」

 

「うっさい。早く寝ろ。」

 

「扱いが軽いなぁ…。」

 

「……ッ、これで良いだろ。」

 

「…!大満足です。おやすみなさい、ヒナ先輩。」

 

 

 誤魔化すかの様に唇を重ねては、布団に潜る立香の横で彼を見送る様に見つめ続ける虞美人。暫くしてから彼女もまた横になり、瞳を閉じる。

 そうして夜は明け、いつも通りの新たな日々が始まる筈だったのだが…。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「いやぁ…参ったね。バイタル値はなんの問題もないから油断してたよ。」

 

「…で、この原因は何なのよ。知らないだなんて言わないわよね?」

 

 

 翌朝。管制室にて言い争う虞美人と少女ダヴィンチの姿があった。苦虫を噛み潰したような表情でダヴィンチに問い詰める虞美人には何処か焦った様な様子も見受けられた。

 

 

「本当に分からないんだってばぁ、現に数値では何の問題もないし、異常が起きてるとしたらそれは魔術だとかその範疇だよ。」

 

「だからって、こんな……。」

 

「朝一番に駆け込んで来たと思ったらこれだったんだもん、私の方こそ驚きだよ。…いや、別に夜を共にしてる事には何も言わないけどさ。」

 

 

 その時、管制室の扉が開いてマシュが入室してくるが、管制室のスタッフは彼女を見て驚いたり、現実を見て頭を抱えたりしている。それは、

 

 

「マシュ・キリエライト、只今戻りました。先輩もお着替えを済まされてご一緒です。…ね?」

 

 

 繋いだ手の先に、幼い少年が居るからだ。その少年をあやす様に目を合わせるマシュは何処か楽しそうにも見える。

 …そう、この幼い少年こそ今朝から姿が幼くなっている立香本人であると推測される者である。

 

 

「だからって、このまま放っては置けないでしょ。天才を自称するなら何とかしなさいよ…!」

 

 

 声を荒げる虞美人。それに驚いたのか、マシュと手を繋いでいる立香はビクッと体を震わせ、マシュの後ろへと身を隠してしまう。

 

 

「うぅ…、」

 

「あっ…大丈夫ですよ、せんぱ…藤丸君、怖くないですからね。」

 

 

 チラリと立香の方を一瞥した虞美人はどうしようもない事を悟ったのか、ため息を吐いては諦めた様にダヴィンチへと問い掛ける。

 

 

「……で、私に何をさせたいのよ。」

 

「おっ、その気になってくれたかい?本当はマシュでも良かったんだけれど、今なら君の方が適任かと思ってね。」

 

「何の話よ。一人で納得してないで結論から話しなさい。」

 

「まあ詰まるところ、藤丸君が元に戻るまで、彼の側に居て、マスター代行をして欲しいんだ。」

 

「……は?何で私がマスター代行なんかを」

 

 

 と戸惑う虞美人だが、ダヴィンチ、マシュ、その場に居たムニエル氏たちは

 

 

(側に居るのは拒否しないんだ…)

 

(側に居るのは拒否しないんですね…)

 

(側に居るのはいつもの事だからかな…)

 

 

 と、とても口にはできない事を思っていた。

 

 

「まあ形だけで良いからさ。ほら、今のカルデアにマスター経験があるのは君とジーク君、天草四郎、賢王のギルガメッシュ、それと一部記憶を持っている擬似サーヴァントの諸君…などなどなんだけれど、なんにせよ君が一番藤丸君と距離が近かっただろう?」

 

「だからって、そんなの…」

 

「藤丸くんも、このお姉さんと一緒が良いよね?」

 

 

 そんな無茶振りに対し、幼い立香はこくん、と頷くことで肯定を示す。目覚めた時は環境の変化に驚いていた立香だが、最初に会ったのが虞美人だった為に、心のどこかで頼りにしているらしく。

 

 

「……分かったわよ、やれば良いんでしょ、やれば!」

 

(距離が近いのは否定しないんだね…)

 

「うん、じゃあお願いするよ。ちょっと作業が要るから工房に来て欲しいな。」

 

 

 そうして虞美人がダヴィンチと共に部屋を後にしてから数十分後。ダヴィンチと右手の甲を睨みつけながらの虞美人が再び管制室に戻ってきては。

 

 

「藤丸くん、困ったことがあったらこのお姉さんに言ってね。ちゃんと聞いてくれるから、仲良くするんだよ?」

 

 

 こくん、と肯定の頷き。不安そうにマシュの足元へ隠れる様にしていた立香も、いつの間にか虞美人の側へと駆け寄っており、そっと裾を掴んで。

 

 

「…ほら、行くわよ。そんなとこよりこっち。」

 

 

 そう述べつつ、手を繋ぐ様促した虞美人に答えるように手を繋ぐ立香。先程まで散々優しくする様言われた虞美人は半ば諦めつつもなるべくそうする様心に響かせて。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

「…何でこんな事になるのかしら。」

 

 

 ベッドに腰掛けながら、右手の甲に再び宿った赤き証を見つめつつ、虞美人は呟く。

 軈て部屋に戻るなり、入り口から動かずに辺りを見たり下を見るなりして動かない立香に対し、痺れを切らしたのか。

 

 

「早く座りなさいよ。別に何もしないから。…ってか、ここお前の部屋だし。」

 

 

 その言葉を耳にしては恐る恐ると言った様子で歩み寄り、ベッドへと腰掛けようとする幼い立香。だが少し高さがあるからか、あと少しと言ったところで登り切れずに居る。

 

 

「世話が焼けるわね…ほら。」

 

 

 立ち上がっては立香を腰掛けさせ、今一度座る虞美人。彼女が座ったあと、その横顔をバレない様にそっと眺める立香。だがその視線は隠せたものではなく、思わず立香の方へ目を向けてしまう虞美人。

 

 

「…何よ。」

 

「え、えっと…おねえさん、おなまえは…?」

 

「…虞美人。そう呼ばれてるわ。」

 

「ぐび…?」

 

「虞美人よ。…言い辛いのかしら。」

 

「あぅ…ごめんなさい…。」

 

 

 上手く言えずに落ち込む立香。そんな様子を目にしてはため息一つ落とし、暫しの葛藤の後に諦めた様に虞美人は

 

 

「はぁ……。……、芥ヒナコよ。これなら呼べるでしょ。」

 

「ヒナコ…?えっと、ヒナねえちゃん…?…うん、おぼえた!」

 

「その呼び方…!…全く、人間の…それも子供だなんて。何で私が…。」

 

 

 今までにない呼ばれ方に虞美人は刹那戸惑うも、呟く様子を見ては少し不安そうに立香は口を開いて

 

 

「ヒナねえちゃん、ぼくのこときらい…?」

 

「…何でそう思うのよ。」

 

「ずっと、おこってるみたい…ぼく、ちょっとこわい…」

 

「…別に嫌いじゃないわよ。怒ってもないわ。…お前は悪くないから、気にしないことね。」

 

「…うん、分かった……。」

 

 

 明らかに落ち込む立香を見ては良心が痛んだのか、小さな声で呟く虞美人。

 

 

「…なるべく、そう言う顔しない様にするから。元気出しなさい。」

 

「…!うん!ヒナねえちゃんありがと!」

 

「ちょっと、その呼び方……もう良いわ、好きにしなさい。」

 

 

先程から妥協と諦めを繰り返す虞美人の苦労は少しずつ募っていくものの、こうして新しい日々が始まっていくのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「ヒナねえちゃん、おなかへった…。」

 

「そう言えば朝食べてなかったわね、お前。仕方ないわね…ほら、食堂行くわよ。今の時間なら空いてるだろうし。」

 

 

 あれから一時間もしない頃、他愛もない話をしていれば空腹を訴える立香。

 ベッドから立ち上がっては立香を下ろし、身支度を整えさせて一緒に部屋を出る虞美人。時刻は11時、人混みを嫌う彼女にとっては有り難い時間でもあった。

 

 

「…話には聞いていたが、まさか本当に小さくなっているとはな…。」

 

 

 食堂で出迎えたのは赤い外套を身に纏う弓兵、皆にエミヤと呼ばれている英霊だった。

 

 

「マスターが混乱するから会いにいくなとの通告が有ったが、其方から来るのなら大丈夫だろう。…と思いたいが。」

 

「おにいさん、おっきいね。おなまえおしえてください!」

 

「…ふむ、では改めて自己紹介でもしようか。私はエミヤ、君を手助けする弓兵だ。」

 

「きゅーへ…?…えっと、エミヤさん!おぼえた!」

 

「賢いな、君は。ではご馳走を用意しようか。…と言っても、急な話で用意出来たのはこれだけなのだが。」

 

 

 椅子に座る立香の前に、可愛らしい旗の立ったカレーライスが置かれる。

 

 

「わぁ…!ありがとう!エミヤさん!」

 

「なに、容易い事だ。ではゆっくりしていくと良い。また顔を出してくれ、マスター。」

 

 

 珍しく柔らかい笑顔で子をあやすように対応した彼に対し、虞美人は訝しんだ目付きで、珍しく話しかける。

 

 

「…随分と慣れてるのね、子供の扱いに。経験でもあるのかしら。」

 

「さて、その辺りは想像にお任せするさ。それより、今の君はマスターの保護者なんだ。くれぐれも怖がらせたりしない様に。」

 

「な……んの事かしら。でもまあ覚えておくわ。下手に扱うと周りが何するか分からないし。…どんだけ人望あるのよ、コイツ。」

 

「私もその一人だと言う事を覚えておいて貰いたいものだ。…ではまた。空腹の時はいつでも尋ねると良い。」

 

 

 そうして場を後にするエミヤ。立香の対面に座って居る虞美人は、ため息混じりに彼を見送ってはカレーを頬張る立香を見つめて。

 

 

(幸せそうな顔しちゃって。起きた時は何処かも分からずに泣いてた癖に。)

 

「ああほら、此処ついてる。焦らないで良いから。」

 

 

 指で頬の米粒を拭い取り、口にする。それを見た立香は嬉しそうに。

 

 

「ヒナねえちゃん、これおいしーね!いっしょにたべる?」

 

 

 と、スプーンを差し出す。

 

 

「私は要らないから、食べちゃいなさい。美味しいのは分かってるから。」

 

「うぅ…。」

 

「そんな目したら何でも思い通りになるなんて、思わない事ね。…一口だけよ。」

 

 

 虞美人がスプーンを受け取るとぱあっ、と表情が明るくなる立香。そっと一口、口にしてはスプーンを返す虞美人。

 

 

「…ええ、美味しいわね。ありがとう、立香。」

 

「うん!ぼくといっしょ!」

 

「…ふっ、はいはい。」

 

 

 自分にとっての幸せを相手と分け合う。優しさから成すそれには虞美人も思わず頬が緩くなる様で。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、目を伏せなさい。流すわよ。」

 

「ん!」

 

 

 その掛け声の後、頭上から湯を掛ける虞美人。

 入浴を希望した立香だが、マイルームのシャワーでは少し狭いと言う事もあり、大浴場を貸し切る事にしたのである。

 

 

「…これで終わり。温まったら出るわよ。」

 

「うん、わかった!おっきいおふろ、たのしいね!」

 

「はいはい、分かったから早くしなさい。」

 

 

 二人で湯船へと足を踏み入れる。大浴場とだけあって二人で入るには広過ぎる程だ。

 普段は立香の部屋のシャワーで済ませる事が多い虞美人にとっても久々の湯船であり、寛いでいる様子。

 

 

「…偶には良いわね、こっちも。」

 

「ヒナねえちゃんっ!」

 

「ちょっ、鬱陶しい!大人しくしてなさい!」

 

 

 広い浴場が楽しいのか、湯船に入ってははしゃいで虞美人の元へ歩み寄る立香。

 落ち着かせようと立香を後ろ抱きで抱き留め、再びゆったりとする虞美人。

 

 

「ぽかぽかだね!」

 

「そうね、ぽかぽかね。」

 

 

 そんな他愛無い返事をしていると、ふと下から目線を感じる。虞美人が目線を下にやると、目が合ったのが嬉しかったのか、屈託のない笑顔を浮かべる立香。

 

 

「ヒナねえちゃんは、すきなひといるの?」

 

「居るわよ。項羽様こそ、私の全てなんだから。…本来ならこうして名を挙げさせて頂くことすら尊い御方。」

 

「こーうさま…?」

 

「そうよ、私を愛し、認め、望まれた御方よ。あの方にお会いする為に、下らない日常にも耐えてきたの。」

 

「……?」

 

 

 首を傾げる立香。どうやら理解が追いつかないらしい。…それもそうだろうが。

 

 

「…立香、お前こそ如何なのよ。想い人は居るのかしら。」

 

「いるよ!かぞくのみんなと、マシュねえちゃんと、エミヤさんと、あとは…ヒナねえちゃんも!」

 

「……あのね、家族たちは兎も角、何で私なのよ。」

 

「だって…ぼく、さいしょはひとりでこわかったけど、ヒナねえちゃんがいてくれたからうれしかったの。」

 

「…根っこから変わってないのね、お前。」

 

「だからだいすき!ずっといっしょがいいなぁ…」

 

「大きくなってから出直して来なさい。その時、また考えてあげる。」

 

「じゃあ、はやくおっきくなる!まっててね、ヒナねえちゃん!」

 

「……ほら、出るわよ。」

 

「はーい!」

 

 

 身体が温もったところで元気よく答える立香の手を引き、脱衣所へと向かう虞美人。こうしていると、保護者代わりは立派に務めて居られるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 21時を過ぎた頃。帰り道に鉢合わせたサーヴァントたちに揉みくちゃにされては部屋へと戻ってきた二人だったが、どうやら立香は既に眠たい様で。

 

 

「眠たいなら早く寝なさい。お前も今日は疲れたでしょ。」

 

「うぅ…ひとりはヤ。」

 

 

 と、虞美人の服の裾を掴み、心細そうにする立香。幼い彼にとって見慣れぬ環境に置かれただけでも苦かもしれないと言うのに、そこで眠ると言うのは大きなストレスになるとも思える。

 そんな彼を一蹴するのは流石に心が痛むのか、ベッドに腰掛けて居た虞美人は振り返って。

 

 

「…ほら、これで寂しくないでしょ。」

 

 

 いつもは彼の膝に乗りその首に牙を当てて居た彼女が、今夜は彼を膝に乗せ、背を摩り、慰める様に落ち着かせる。次第に立香の目も閉じて来る。首がかくん、とし始めたところで立香を寝かせ、布団をかける虞美人。

 

 

「ヒナねえちゃん…おへや、まっくらにしないでね。」

 

「ええ、分かったわ。」

 

「いっしょにねてほしーな…」

 

「はいはい。」

 

「ぎゅってしてくれる…?」

 

「お前、此処ぞとばかりに…」

 

 

 と呟きつつも立香を抱き締める虞美人。呆れつつ顔を覗き込んだ時には、しっかりと虞美人に抱き着いては居るものの、立香は既に寝息を立てていた。

 普段の立香も夜は稀にこうして悉く甘えるが、それこそ滅多になかった。マスターとしての責任か、男としてのプライドか。何が理由かはわからないが、それこそ数えるほどしか。そんな彼が幼くなったとはいえ、こうして甘える。そんな現実を受け止めきれずに。

 

 

(…馬鹿馬鹿しい夢の様ね。私がこんな子供を……ふん。)

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

「あらマスター、こんにちは。今日も元気ね。昼食は済ませたのかしら。」

 

「イシュタルこんにちは!ごはんたべたよ!」

 

「そう、それは良かった。よく食べ、よく眠り、よく育ちなさい。…遊びなさいだったかしら?…まあ良いわ、今日も素敵な1日をね。」

 

「うん!ありがと!またね!」

 

「…貴女、マスターの事ちゃんと見てるのね。…保護者姿が少しは様になって来たんじゃないかしら。」

 

「嬉しくないわね、それ。代わってくれても良いのよ?」

 

「あら、マスターを頂けるのは魅力的だけれど…お生憎様、私は自由が好きなの。」

 

 

 そう告げるとふわふわと浮く金星の女神は飛び去る。右手を振って見送る立香は繋いだ左手に引かれる形で歩み始め、虞美人と共に食堂を後にする。

 

 

「ハンバーグ、おいしかったね!」

 

「そうね、あの狐耳の腕、認めざるを得ないわね…。」

 

「きょうはどこいくの?」

 

「マシュのところよ。好きでしょ、マシュ。」

 

「うん!いつもあそんでくれるからすき!」

 

 

 そのまま管制室へと向かう二人。立香に分かりやすいように伝えた虞美人だったが、如何やら目的はそちらではなく。

 

 

「こんにちは!」

 

「おや、マスター君じゃないですか。本日は何用ですかね?」

 

「マシュねえちゃんにあいにきたの!」

 

「成る程…マシュさんならあっちに居ますよ。」

 

「はーい!」

 

 

 二人を出迎えたのはシオンだったが、短い会話の後に立香は虞美人の手を離してマシュの方へ駆け寄る。その背中を転けないか見守り届けた虞美人は小さく安堵の溜息を吐いては。

 

 

「ダヴィンチはどこよ。」

 

「ああ、もうすぐ戻って来られますけど…急ぎの用事です?」

 

「来るなら良いわ、待つから。」

 

 

 近くにあった椅子に腰掛け、遠目に立香を見守る虞美人。マシュと戯れる様子を見つめるその瞳は何処か遠くを見つめる様で穏やかでもあった。その時、管制室の扉が開いて天才少女が戻って来た。

 

 

「ただいまーっと…あれ、虞美人?如何したの?マスター君に何かあった?」

 

 

 歩み寄るダヴィンチに視線をやると虞美人は立ち上がり声を荒げて。

 

 

「あのねぇ!今日で一週間よ!?いつになったら戻るのよ!良い加減何か策はないの!?」

 

「あ〜…それかぁ…」

 

「それかじゃないわよ!何とかしなさいよ!」

 

「それなんだけど、一つだけわかったことがあって…」

 

「…あまり期待しないで聞いてあげるから言ってみなさい。」

 

 

 少し落ち着いたのか、再び腰を下ろしてじっ、とダヴィンチを見つめる虞美人。ダヴィンチはほんの少し恐る恐る、と言った感じで口を開き。

 

 

「とりあえず有志のキャスター組と話し合いをしたんだけど、やっぱり毒性は見受けられないから、放っておけば治る、としか…。」

 

「……、」

 

 

 絶句する虞美人。然しダヴィンチは続けて

 

 

「で、でもね!流石に一週間だからそろそろ戻っても良いと思うんだよね…。もしかしたら何かき(・)っ(・)か(・)け(・)が必要なのかもしれないけれど…。」

 

「きっかけって…あのねぇ…。」

 

 

 思わず頭を抱える虞美人とバツが悪そうなダヴィンチ。そしてそれを離れた位置から見守るシオンとスタッフたち。

 

 

「お陰でこっちは子供の生活ルーチンが身について来たところよ…いつまで保護者代わりをしたら良いのかしらね。」

 

「それについては本当に感謝しかないよ、ありがとうね。…でも、きっともう少しだから。あと少し頑張って欲しいな。」

 

「あと少しってねぇ…、だからって訓練やレイシフトの度にアレを同行させてたら持つものも持たないわよ。」

 

「ほ、ほら!この問題が全て解決したら君にリソースなりなんなりを優遇するからさ!何でも聞くから!…………多分マスター君が。」

 

 

 ぴくっ、と反応する…否、反応してしまった虞美人。人も真祖も、"なんでも"と言う言葉に弱いのは共通点らしい。

 

「…あと三日。それでダメだったら良い加減好きにさせて貰うから。良いわね。」

 

「うん、有難う。それまでマスター君をお願いするね。」

 

「…ホント、世話が焼けるんだから。」

 

 

 ここ数日、立香との生活で小さい子への対応が慣れて来たのか。立ち上がってはぽん、とダヴィンチを軽く撫で、立香を呼び寄せる虞美人。ダヴィンチは一瞬の出来事に首を傾げて居たが、軈てその撫でられた部分を嬉しそうに自分で触れては二人を見送ろうと。

 

 

「立香!部屋に戻るわよ。…早くしないとおやつはなしよ。」

 

 

 との掛け声に対し、マシュに手を振って別れを告げ、駆け寄る立香。然しあと少しと言うところで転びそうになり。

 

 

「ッ…!」

 

 

 思わず駆け寄っては抱き留める虞美人。ダヴィンチをはじめとした周りの人々も思わず駆け寄ったが、それより抱き留めた虞美人に目が行き。

 

 

「全く…気をつけなさい!怪我でもしたら如何するの!」

 

「あぅ…ごめんなさい、ヒナねえちゃん…。」

 

「次からは気をつけなさいよね。…ほら、行くわよ。」

 

 

 立香を下ろしては手を繋ぎ直し、三つ編みを揺らしつつ管制室を後にする虞美人。残された人々は彼女が俗世に染まってるのを実感しつつも、黙って見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 日が上り始める直前、暁の時間帯。森の中に二人は居た。

 残りエネミーの数も分からず、同行するサーヴァントもなしに単独の状況。所謂最悪な状況、と言うやつだ。

 

 なぜこんな事になったのか。それは単純明快。その最悪な状況をシミュレートしているから、である。

 

 虞美人本人一人ならばどうって事ない状況でも、今はマスター、それも幼い子が同行している。迂闊に動けば敵に見つかる恐れもある。サーヴァントなら兎も角、マスターである立香は怪我を瞬時に治したりなど出来ない。

 

 

「良いわね、何があっても静かに。手は離しちゃダメよ。」

 

 

 彼女の言いつけに対し、こくん、と大人しく頷く立香。虞美人と手を繋いだまま緊張した様子で。

 

 

「念の為持ってきたけど…使わない事を願うばかりね。」

 

 

 立香と手を繋ぐその反対の手は、夏の霊基の際手にして居た、最愛の御方の槍が。霊基は通常のままだが、いつもの剣よりはこちらの方が今は良いだろうと思ったらしく。

 

 

「…にしても何よ、令呪を灯したまま戦うって。普通逆でしょうに。」

 

 

 ぶつくさと文句を垂れつつ、立香の手を引く。シミュレーターの終了条件は目的地への到達。故に戦わずに済めば御の字なのだろうが。

 

 

「…子供に血とか首とか見せるのも良くないって言われたし、なら何でこんな事させるのよ…人間め…」

 

 

 彼女の愚痴は止まらない。手を引かれる立香もくらいもりのなかで不安を感じているのか、辺りを見渡しながら、必死に着いていく。

 

 

「ッ…!…良い?此処に隠れてなさい。私が良いと言うまで動いちゃダメよ。」

 

 

 再びこくん、と頷く立香。木陰に隠れ、座り込んでは耳を塞いで丸くなる。

 一方の虞美人は槍を手にエネミーの気配を察知して居た。シミュレータが始まってしまった以上、立香を守るべくして立ち回る事に専念する。

 

 

(数は一…ならすぐ終わらせられるわね。)

 

 

 察知したのは魔猪タイプのエネミー。然らば先手必勝。槍を構えたまま突貫し、そのまま必殺の一撃。なんとか倒す事は出来たものの、今の音で新たなエネミーが寄ってくる。

 

 

(今度は二か…。なんて厄介な。)

 

 

 魔術で短剣を取り出しては投擲して威嚇する。二つのエネミーが離れた事で何とか怠慢に持ち込み、一体ずつ抉って仕留める。二体目に手を掛けたその時、立香の方へと駆け寄るもう一つの敵の影。

 

 

(しまった、見落としていた…!)

 

「立香ッ!」

 

 

 掴んでいた魔猪を締めては蹴り飛ばし、立香の方へ向かった狼タイプのエネミーを追う。然し四足の獣に追い付くのは至難の様で。

 

 

(項羽様、御恕しを…!)

 

 

 一つ願いと共に、槍を投擲。狼を一瞬だが鈍らせ、距離が少し縮まる。然しそれでも足りない。狼が立香に牙を剥く前に、地面を蹴って間に割り込む虞美人。

 

 

「…!ヒナねえちゃん!」

 

「别动(動くな)!じっとしてなさい!」

 

 

 虞美人の右腕に、狼の牙が刺さる。軽く飛び上がって回転を加えつつ、地面に叩きつける。衝撃によって離れた狼は森の奥へと逃げて行って。

 残された虞美人の腕からは血が流れ続け、思わず膝をつく。周囲にエネミーの気配がないのを察知しては安堵して。

 

 

「ヒナねえちゃん…!」

 

「私は平気だから。こっち見ちゃダメよ。」

 

「でも…!」

 

「あーもう…痛いのは嫌だってのに…。…立香、ここ掴んで着いて来なさい。」

 

 

 虞美人が左手で服の裾に捕まる様述べては立香も黙って従い、そのまま槍を拾ってなんとか両腕で持ち帰る。

 

 日の刺す方へと二人で歩き、それから僅かな時間で森を抜ける。

 

 

「いたくない…?」

 

「痛いわよ。…でも、泣き言は言ってられないの。お前を守るのが私の為すべきことなのだから。」

 

 

 チラッと立香の様子を見ると、左手で涙を拭いつつ、右手で彼女に掴まって着いてきている。出口はすぐそこの為、改めて安堵しては、虞美人は疑問を投げ掛けて。

 

 

「怖かったのかしら。…もう平気よ。帰れるから。」

 

「ううん、ヒナねえちゃんがいたそうなのが、いやなの…」

 

 

 思わず足が止まる。こんなにも幼いのに、自らの恐怖よりも側に居る者の心配をする。それがほんの少し不気味に感じつつも、根っこは幾つになっても変わらないのだなと思っては。

 

 

「…優しい子。こんな傷すぐ治るから、気にしないで良いから。」

 

「……うん。」

 

 

 忌み嫌う人間の子を守る。そんな自らを内心で嘲笑いつつもその在り方に不思議と不快感は感じない事に、彼女は混乱していた。…が、今は別に良いと。思考を放棄するのもいつものことで。

 シミュレーションを終え、礼装の力で傷を癒し、部屋に戻る。その時の立香の手はいつもより強く握られており、"矢張り子供だな"と虞美人も思いつつ、優しく握り返して居た。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 そうして、七度目の夜を迎える二人。然し立香は今夜はまだ眠りたく無い様子でソワソワとしており。

 

 

「もういたくない?おてつだいすることもない?」

 

「無いって言ってるでしょ。私は平気だから。」

 

 

 それでも落ち着かない様子の立香は部屋にある棚を開き、一つの小箱を見つけた様で取り出して。

 

 

「おい、勝手に……って、お前のだったわね。ならま、好きにさせておけば良いわね。」

 

「ヒナねえちゃん、これなぁに?」

 

「ん……嗚呼、これは…」

 

 

 立香から小箱を受け取り、開ける虞美人。中には宝石が一つ入っており。

 

 

「わぁ…!きれいだね、これ!きらきらしてる!」

 

「項羽様からの贈り物、紫水晶よ。…アメジスト、と呼んでたわね、お前は。」

 

「こーうさま、やさしいね!きらきらのいしくれるの!」

 

「そうよ、この世で一番素敵な御方なんだから当たり前よ。項羽様への讃美を忘れないその心、褒めてあげるわ。」

 

 

 虞美人の手伝いでベッドへ腰掛け、輝く瞳で嬉しそうに小箱を眺める立香。隣で同じく穏やかな瞳でそれを見つめる虞美人。自らも棚から色違いの小箱を取り出して。

 

 

「…ほら、これが私のよ。お前と同じく頂いたもの。綺麗でしょう。」

 

「うん、きれい!おそろいだね!」

 

「ええそうよ、お揃い。項羽様が気を遣ってくださったの。…感謝してもしきれないわ。」

 

 

 自らの小箱を閉じ、ぎゅっと大切そうに抱きしめる虞美人。その顔はとても穏やかでそれこそその名に偽りなしと言ったように。

 

 

「ヒナねえちゃん…?」

 

「…なに?立香。」

 

「えっと…ううん、なんでもない。」

 

「子供が遠慮する事ないわよ、言ってみなさい。」

 

「いいの?…じゃあ、ぎゅってして。」

 

「……ほら、おいで。」

 

 

 小箱を隣の卓に置き、手を広げる虞美人。同じく小箱を置いてから彼女の腕の中へと収まる立香。

 

 

「ヒナねえちゃん…やさしいけど、こわいかおしてたから…。」

 

「優しいけど怖い…?…純粋な子供だからこそ分かるのかしら。」

 

「こわくないよ、みんないっしょだし、ぼくもいっしょ。さみしくないよ。」

 

「…慰めてるの?生意気ね。でもそうね…ありがと。」

 

 

 お礼と言わんばかりに頬にキスをする虞美人。終わってから子供には刺激が強かったのではと思ったが、時既に遅し。立香は顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

 

「ひ、ヒナねえちゃん……」

 

「驚き過ぎよ。…それとも嫌だったのかしら。」

 

「う、ううん…いやじゃない。いっぱいどきどきする…」

 

「…ふぅん、可愛いこと。」

 

 

 普段の彼と違って動揺して顔を真っ赤にする子供の姿。心のどこかを擽られるような感覚に襲われた虞美人は舌舐めずりをしては部屋の明かりを消して。

 

 

「ヒナねえちゃん…?まっくらにするの…?」

 

「そうよ。気が向いたから遊んであげるわ。私なりのやり方でね。」

 

 

 立香が身に纏っていた服を脱がし、首筋へと唇を当て、痕を付ける。立香は抵抗することもなく、自らの心拍数が上がることに不安を抱くと同時に虞美人から来る暖かさに心地良さを感じていた。

 

 

「抵抗しないとは…良い子ね。悪い様にはしないから、おとなしく我慢してなさい。」

 

「うん…わかった。がまんする。」

 

 

 小さくなっても首筋にある牙を当てていた痕は消えておらず、然して立香の身体に小さく残っていた。

 彼女の中で芽生え始めていた独占欲がグッと増し、どうにかしてこの少年を手中に収めようと思考しつつも、幼い身体に複数の痕を付ける。世が世なら虐待と言われ…いや、普通に立派な虐待と言われるかも知れないが。

 

 

「からだにちゅーするの、すきなの…?」

 

「そうね。これでお前は私の物と言う"証"になるのだから。」

 

「…?ぼく、ヒナねえちゃんのものなの…?」

 

「ええ、少なくとも今この瞬間はそうよ。お前が…あの時のお前が、私をそうさせたの。」

 

 

 自らも身を纏っていた衣服を脱ぎ捨て、全身で立香を包み込む様に抱き締める虞美人。痕を付けつつも、その手は優しく立香を撫でて。

 

 

「好きでしょ、これ。触って良いのよ。」

 

「え…っ!…はずかしいよぉ…」

 

「…初々しいわね、本当に。」

 

 

 恥ずかしがる立香の小さな手を自らの胸に誘導する虞美人。伝わる温もりと柔らかな感覚は幼い立香を夢中にさせるまで一瞬だった。年端も行かない少年を快楽で堕落させ、無意識のうちに心が悦ぶ事を疑問にすら思わず、ただその思いは加速するばかりで。

 

 

「…ほら、吸いたい?」

 

「う、ん……」

 

 

 言葉の後、胸に吸い付く立香。昼間は気丈に振る舞っていたとしても、まだ幼い少年である事に変わりはなく、心のどこかで家族に会えない不安を感じていたのだろう。虞美人の胸を吸いつつ、彼女から感じる母性の様なものに安らぎを感じ始めていた。

 

 

「…子ども、か。」

 

 

 立香をそっと撫でつつ、思わず言葉が溢れる。胸を吸われることで身体が熱くなり、思考も少しずつ鈍くなっていく。彼女が微かに抱く慈愛の想い、それが母性だと気付くことはないのかも知れないが、今この時、彼女が穏やかな気で居られるのは間違いないだろう。

 心のどこかにあった数千年分の寂しさ。それを少し、ほんの少しだけ自覚しつつも、今この時、この瞬間の彼女は、いつもよりも優しくて、温かな顔をしているのだろう。

 

 

「…いいこ、いいこね。」

 

 

 そうして、気がつくと立香は寝息を立てていた。そんな立香にそっと口付けしては、虞美人も瞳を閉じる。

 

 

「…おやすみ、立香。」

 

 

暖かな世界と、確かな明日を夢見て。

 

 

 

 

 いずれ訪れる死を謳(・)歌(・)す(・)る(・)人間と、生を謳(・)歌(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)虞美人。二人の時が、長い歴史の中でほんの些細な時間だけ絡み合う奇跡。

 

 

 ──── その日々は、夢のようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 人は何故、こうも無駄なことばかり繰り返し、精神と寿命を浪費するのだろうか。

 

 

 そう思ったことがあった。其れどころか、思うだけで人間の事を理解しようとすら思わなかった。

 だが、過日愛し続けたあの御方との再会を夢見、その人間たちを利用してやると決めた日。あの日から自分の周りは喧しく、無駄に色の付いた日が始まった。それでも結局、あの御方と再会出来たのだから、なんの問題もなかった。

 

 筈なのに、そこに居た一人の人間は、私を歪めた。これまでに私を恐れた人間とも、崇拝した人間とも違う、直線的で、莫迦の一つ覚えの様な奴。そいつに全部狂わされた。そいつのおかげであの御方と再会出来た事には感謝してやらないこともないが、納得がいかない。

 

 

 何故こいつは、こんなにも真っ直ぐなのか。

 何故こいつは、こんなにも私を求めるのか。

 何故こいつは、こんなにも夢を語り続けるのか。

 

 

 莫迦らしくて考えるのをやめた。だから、どうでも良い。

 

 この莫迦の想いに応えたのはただの暇潰し。これまでに比べたらどうって事ない、気が付けば過去になってるであろう、くだらない物。

 

 

 

 その筈だ(・)っ(・)た(・)の(・)に(・)。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「…寝てしまってたか。」

 

 

 目を覚ました虞美人は、布団を纏ったまま身を起こして伸びをする。夢を見た気がするが、サーヴァントである以上そのはずはないと思い込むことにし、違和感を感じて辺りを見渡す。

 

 

「立香?…まさか…!」

 

 

 共に眠った筈の立香の姿が見えない。勝手に外を出歩いてるのだろうか。それともまた意味のわからない理由で今度は消えてしまったのではないか。妙な焦りと不安が彼女の思考を揺らす。然しその刹那。

 

 

「おはようございます、ヒナ先輩。」

 

 

 扉が開き、入室して来たのは元の姿に戻ってる立香だった。何事もなかったかの様に挨拶をしては歩み寄ってベッドへ腰掛ける。

 

 

「…ヒナ先輩?どうかしました?」

 

「……、」

 

 

 さっきまでの焦りが無駄だと分かっては急に馬鹿馬鹿しくなってきた虞美人。空いた口が塞がらないとはこの事か。

 

 

「でも驚きましたよ。起きたら上裸だったし、ヒナ先輩全裸だし、何より日付が一週間も飛んじゃってるしで。…珍しくヒナ先輩、俺が起きても起きなかったし。」

 

「お前…何も覚えてないの?」

 

「さっき管制室に行って事情は聞いて来ました。ご迷惑をお掛けしたみたいで…申し訳ないです。」

 

「お前ッ…本当よ!お前の世話がどれだけ大変だったと思ってるの!私の苦労を返しなさい!大体どうやって戻ったのよ!」

 

「いや、それは……。…よく分かんないです。気がついたらこれだったので。」

 

 

 はは、と笑うしかない立香。そんな様子の彼を見て虞美人は立香を強引に押し倒して。

 

 

「一週間も経ってるのよ。…覚悟はできてるんでしょうね?」

 

「いや…流石に病み上がりなので手加減はしてほしいかな、なんて…。」

 

「問答無用!」

 

 

 立香に牙を剥く虞美人。倒れたまま腕と足を完全に固められ、身動きが取れないまま血を吸われる。久方振りのこの感覚に少し懐かしく感じる立香だった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 そして、時は少し遡る。

 

 目を覚ました立香は身支度を最低限整え、管制室へと向かう。そこで待っていたのはお馴染み少女ダヴィンチで。

 

 

「……と言うわけで、幼児化してたんだよ、マスター君。」

 

「だからか、なんか少しだけ覚えてるのは…。」

 

「小さかった頃の記憶が残ってるのかい?」

 

「いや、少しだけだけど。…まあ、うん。」

 

「そっかぁ、そういう意味では異常なし、とは行かないねぇ」

 

「それで、ああなってた理由、知ってるの?」

 

「そりゃわかるとも。私は天才だからね。…でもまあ、本人に言えないこともあるから、そこは臨機応変に、だとも。」

 

「へぇ…で、教えて下さいよ、ダヴィンチちゃん。」

 

「虞美人には内緒だよ、約束できる?」

 

「勿論。」

 

「…藤丸くん、彼女に使ったリソースの中に聖杯があるだろう?」

 

「ええ、ヒナ先輩の霊基を強化するために、7個ほど。」

 

「それがねぇ…どうにも少し反応しちゃったらしいんだ。」

 

「反応…?よくわからないけど…それに聖杯を渡したサーヴァントってだけなら、他にも居るし…。」

 

「簡単に言うと、虞美人の霊基の一部になった聖杯が、彼女の深層心理にある願いを叶えてしまったと言うか。」

 

「そんなことがあるの…?ってか、ならどんな願いで俺が小さくなの!?」

 

「彼女の考えまではわからないけど…まあ推測すると、藤丸くんを"独占したい“って言う心理からこんなことになったんじゃないのかな、って。…勿論、こんなこと言っても本人は否定するだろうけどね、これ。」

 

「独占欲ってこと…?そうだとしても、何かきっかけがある筈じゃ……あっ」

 

「まあトリガーとなったのは……うん、君の考えてる通り(キス)だよ。随分とお熱いじゃないか。」

 

「…それで、ヒナ先輩が満足して、またトリガーを引い(キスをし)たから元に戻った、と?」

 

「ご名答!そう言うことさ。」

 

「……これ、他の人に言ったりは…」

 

「してないよ、全部私の持論だからね。キャスター陣ってのも嘘。だから安心して良いよ。」

 

「…ありがと、ダヴィンチちゃん。いずれバレるだろうけど、まあ今暫くは隠しておくよ…。」

 

「うんうん、その方が良いと思うよ、私も。下手すると管制室で自爆されかねないからね…。」

 

 

 

「…でも、悪い夢じゃなかったかな。」

 

 

 そうして立香は、部屋へと向かう。愛する者の所へ帰るために。

 






お久しぶりです。生きてました。一回データが飛んだ時はこのまま逃げようかと思いましたが、何とか書き改めることができました。バックアップは大切ですね。

今回から段落をつけたり、ルビを振ったりしてみましたが、うまく言ってるでしょうか。Pixivの方は訂正したので、こちらも近いうちに挑戦してみたいと思います。歌詞ネタは誤魔化したらセーフだと信じて。
…と色々考えてたらスケベ要素が減りました。次回からまた少し盛り返したいなとかなんとか。いやそれが全てではないのですが。


描き始めたのが夏だったので時系列がアレですが、温かい目で見守ってください。

雷豪一閃まで終わらせたので、そこまでのネタがチラッと入ってますがご容赦ください。6章はいつですかね。待ってます。今年のサンタも。




いつの間にか12月になっており、夏のイベントで配布のパイセンに喜んでたのがそんな前かよ、と驚くと同時に今年一年の早さを実感しました。皆様はお元気でお過ごしでしょうか。


コロナも流行っており、家にいる時間が増えてる方も多いと思うと同時に、医療関係者の方々への感謝常日頃止まりません。皆様も、どうかお体にはお気をつけて。


友人に言われてエゴサした所、感想(の様なもの)がちらほらと見受けられる様になり、励みになるばかりです。

いや本当にマジで嬉しいので、お待ちしてます。そして読んでくださった皆様、有難う御座います。


来年は幸せ…とまでは行かなくても、平凡で何事もない年になると良いなと思います。

それではまたお会いしましょう。有難う御座いました。
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