「ねぇ、一弥君、五月の連休はどうする?」
蘭に訊かれた。遊園地へ行った日以来、蘭との距離が更に縮まった気がする。ここは喫茶ポワロ、学年を上がってから、ここが放課後の過ごす場所になっていた。相席で園子と真純がいるし。
「ここのケーキセット、人気だよね。雑誌でも取り上げられていたし」
口にケーキを頬張り、しゃべりまくる園子。口に物を入れて話すのは、鈴木家のお嬢様としてどうなんだ?
「連休かぁ~。山に行こうと思っている。冬眠明けの熊を、少し間引こうと思うんだ」
修験の山は問題は無いのだが、麓近くの一般登山客のいる場所に、エサを求めて現れると大事件になる。
「私も行っていい?」
「狩りだよ。危険だと思う」
蘭の戦闘力では、熊を屠れない。
「じゃ、ボクも行こうかな?」
真純もか?
「園子はお断りだよ」
先に言っておく。
「ふん、行かないわよ。社交界パーティーがあるのよ。あぁ~、面倒だわ」
そんなのがあるのか。そうなると美優もダメだな。
「熊狩りか、一弥君、俺も行っていいかな?連休中はポワロも休みだからね」
安室さんが参加か。戦力アップだな。
「そうだ!シュウ兄も誘おう」
なんか、参加者が増えそうな予感。
◇
真純が秀一を誘った結果、先生と志保も参加するそうだ。
「一弥君、大けがしても志保が看病するわよ」
そうなのか?志保の視線が冷たいんだけど。
「志保、良かったわね。一弥君と旅行出来て…」
明美は連休明けに、仕事場に監査が入るらしく、休めないそうだ。
「お姉ちゃんは、来ても戦力外でしょ?ライフルを撃てないし」
「そうなんだけど…シュウも行くのに…もぅぅぅぅぅ~」
ご機嫌が斜めだ。
「先生、厚司さんは?」
厚司さんとは、先生の旦那様のことだ。
「あの人は、研究よ。研究と家族以外、興味無いからね」
研究者って大変だな。
◇
家に帰る途中、スマホに着信があった。何故、このタイミングで…
「深雪…さん?何か用ですか?」
『一弥君、さん付けはいりません。で、用件というか、真由美先輩から聞きました。京都に旅行に行かれるそうですね』
どこから話が漏れたのだ?
「旅行というか、近藤家の所有する山々の手入れです」
『是非参加させてください?違うなぁ…参加します。私とお兄様と真由美先輩とエリカの4名です』
エリカ?あ?あぁ、千葉道場の娘か。真由美先輩って、弘一さんの娘だっけ。
「う~ん…猟銃使える方いますか?」
『それなら、真由美先輩と先輩のお父様が扱える資格があるそうです』
う~ん…弘一さんも来るパターンなのか。断りづらいパターンだな。結局、深雪達も参加になった。団体旅行か?
◇
新幹線で京都へ、京都からはレンターカー3台で山の麓の近藤家の家に向かう。
「結構、道無き道だね」
弘一さんの声が無線を通して聞こえた。このレンタカーには無線が搭載されおり、仲間内での会話が出来るようになっていた。替わりにというと語弊があるが、携帯・スマホでの通話は難しい。基地局となるアンテナが無いのだ。
「これでも週一で、手入れをして貰っているんですよ」
弘一さんの車には、真由美さん、深雪、深雪の兄、エリカが乗っている。安室さんの車には俺、先生、志保で、秀一さんの車には真純と蘭が乗っていた。
山を走ること30分ほどで、近藤家の家に到着した。麓というが、3合目程度である。
「ここかね?」
古びた門構えである。ツタの絡まる屋敷である。
「ここです」
門を通り抜け、屋敷の中に入る。古びた家、特有の臭いがむんっと漂っていた。
「窓を全部開けて、空気の入れ換えをします。みなさんは、離れへどうぞ」
廊下を通り、離れへと案内した。そこは、一転木の香りのする空間である。俺が山籠もりを始めたころ、建てられた物件である。
「こっちは、新築ぽいなぁ」
「ここは客間みたいな物です。俺は母屋で暮らしていて、ここは俺以外が泊まる時に利用していたんです」
先生とか志保とか、俺を見守ってくれる方々が使う場所である。
「一弥君、猟銃の確認をしておこうか」
先生に言われ、武器庫へと案内した。武器庫は、離れの地下にある。母屋ではセキュリティー面に不安があったので、離れを建てる際に、地下に作ったそうだ。母屋と離れを繋ぐ廊下の壁に隠し扉があり、認証コードを打ち、カギを解錠して、扉を開けると、武器庫に通じる階段が現れた。
武器庫にはそれぞれのロッカーがある。ゲスト用のロッカーを開けて、安室さんと秀一さんにライフルを手渡した。
「隣に試射場があります。照準のブレを調節しておいてください」
二人に弾薬を渡し、帳簿に数値を書き残す。同様の動作を先生と志保が行っている。二人と俺には専用のロッカーがあるのだ。
「私も試射をして良いかな?」
「どうぞ、隣の部屋へ」
弘一さん、真由美さんもライフルのようだ。ケースから取り出し、組み立てていく。俺も照準の調整をする。
「この44口径はなんだ?」
安室さんが、マグナムとパイソンを見ていた。
「接近用です。ライフルだと接近戦で使えないですから。38口径と22口径もあります。ただ、山からの持ち出しは不可ですよ」
ここから持ち出すと、銃刀法違反になる。ここなら、狩りの道具扱いだ。
「バズーカもあるのか?」
「あぁ、それは俺の師匠のヤツです。預かっていると言うか…」
盾になるための鍛錬の師匠は暗殺者だけでなく、テロリストもいれば、傭兵もいた。その名残である。
「まさか、一弥君の師匠って、ファルコンか?」
秀一さんに訊かれた。国際指名手配は食らっていないはずだが…
「そうです。そのバズーカ砲はファルコン師匠のですよ」
「そうなるとパイソンは…」
「もっこり師匠に憧れ…」
同じヤツを手に入れた。
「一流どころに鍛えられたのかね?」
弘一さんが、話に加わった。
「あの人達って、一流なんですか?」
ファルコン師匠は猫に弱いし、もっこり師匠は女性に弱いし。
「一流の師匠だと、次元師匠とか石川師匠かな」
0.3秒の早撃ちガンマンの次元大介、何でも真っ二つにきり裂く達人、石川五右衛門。
「裏の世界で、顔が広そうだな」
弘一さんの言葉に、反応した約3名。FBIの秀一、公安の安室さんが反応するのはわかるが、何故アイツが反応するんだ?って言うか、弘一さんって何者だ?只の投資家には思えないのだが。
「食事はどうするの?」
蘭に訊かれた。
「母屋の地下に干し肉があるけど…しょっと、肉と山菜を採って来るよ。志保と先生はみんなを、屋敷内の案内しておいて」
俺はライフルとナイフ、マグナムを手にして、バックパックを背負い、武器庫を出て行く。
「俺も行くよ。PPK借りるよ」
安室さんがライフルとナイフとPPKを手にして、バックパックを背負い、俺の後に続いた。
「どこで狩るんだ?」
「安室さん、あの弘一さんって何者ですか?」
「お前、知らないのか?」
呆れている安室さん。
「七草弘一…公安警察の次長だぞ」
公安警察のナンバー2?
「投資家って…」
「表の仕事は別にあるんだよ。お前だって、表向き高校生だろ?」
なるほど…
「後、司波達也は?」
「俺の調べでは、国防軍の関係者までは分かった。予備兵って感じでなく、特務兵ぽい。注意しろよ」
なるほど…パーン!
俺が熊の眉間を撃ち抜いた。辺りに熊さんの脳が飛び散っている。
「いきなり出たな」
安室さんが驚いていた。気配を消した熊の出現には、安室さんでも驚いたようだ。
「油断は死ですよ。ここではね」
死と隣合わせの鍛錬場である。ナイフ片手で、熊をバラしていく。熊の内臓を傷つけないように取り出し、容器に入れていく。
「手際が良いな?」
「時間を掛けると、血の匂いで、次の客が来ますからね」
大雑把だけど丁寧に切り分けて、骨は遠くへと投げ捨てておく。肉のこびりついた骨は、囮になってくれる。獣たちは、喰っている時、他の獲物は狙わないのだ。
「一旦、戻りましょう。熊を置いてきたら、山菜採りですよ」
「あぁ。一弥君は無人島生活向きだな」
いや、無人島は、真水の確保が大変なので、嫌いです。
◇
熊鍋を志保、先生を中心に調理している。熊の肝は乾燥処理して、先生が持ち帰るようだ。手の平はコラーゲンたっぷりなので、鍋に投入されている。
「味噌樽があるんだ?」
蘭が調味料置き場でアレコレと見ていて、味噌樽に魅入っていた。
「山に味噌は欠かせないよ。臭みのある食材を食べられるレベルにしてくれるし」
後、マヨがあれば最高であるが、マヨの原材料は山で採れない。
「この水は源泉から?」
エリカに訊かれた。
「井戸だよ。源泉はもっと奥で、水路を作るのが困難なんだよ。ただ、風呂は温泉で源泉掛け流しだよ」
湧き出る物は、基本掛け流しである。噴出量を調整するには、大がかりな機材がいるから、ここには持ち込まないのだった。
「まぁ、米とか卵とか醤油など、最低限の食材は、注文すれば持って来てくれるんだよ。坂本家所有の山の麓に売店があるからね」
「そうなんだ」
蘭、深雪、真由美、エリカは、熊鍋の調理を見始めた。
「本当は捌いて直ぐより、熟成させた方が上手いんだけど、山だと熟成させている間に餓え死になる」
「苦労していたのね、一弥」
蘭が肩を揉んでくれた。あぁ、気持ちが良い。
「一弥君、明日からどの辺りを狩るんだ?」
弘一さんに訊かれた。
「この辺りだったら、大人の熊、猪です。猿は殺さない程度にケガを負わせてください。野犬は見かけ次第、瞬殺でいいです。で、熊、猪はなるべく解体して、持って帰ってきてください。その他のヤツはその場放置でいいですから。一般の登山道付近では、小熊でも、うりぼうでも、狩ってください。人里に来たやつは、大人になって戻って来て危険ですから」
「注意事項はあるかな?」
秀一さんに訊かれた。
「一部の極悪ハンターは人でも平気で撃ちます。アイツらは禁止されている登山道方向への射撃をします。注意してください」
数年に数回、事故が起きている。たいていは容疑者が府警関係者の為、有耶無耶にされることが多い。特に、大岡家と坂本家を敬うヤツラに多い。俺は標的だと言ってのけたヤツもいたな。
「今回は、ウチの若い衆に、登山を楽しむように伝えて有る。取り締まるのも良いと思う」
弘一さんの口元が緩む。摘発する為の囮なのか、俺は…
食後の後は、カラオケタイムでは無く、女性陣は美肌の湯で温泉三昧、大人達は、地酒を楽しみ、俺は修験の山で鍛錬をする。先に魑魅魍魎を退治していく。
---黒羽快斗---
坂本家について調べる。鈴木家のように金でねじ伏せるような派手さは無いようだ。現当主は控えめな人物のようだ。宝石や絵画などに投資せず、堅実にグループの発展に寄与しているようだ。この家から盗む物ってあるのか?
鈴木家には無く、坂本家に有る物を考えるか。両家の歴史本を見比べる。おっ!坂本家は、あの坂本龍馬の末裔なのか。
「快斗…」
母さんが意識を取り戻した。
「母さん…何をしたんだ?」
「わからない。坂本家からは何も盗っていないのよ。アイツらの狙いは何かしら?」
やはり、警告なのか?
「ここは、どこ?」
「宮野医院に入院したんだよ」
「宮野?まさか、宮野エレーナ?」
「主治医の先生は、そうだけど…」
「ヘルエンジェル…」
「先生は確かに天使みたいだけど…ヘルって?」
「地獄に落とされた天使よ…彼女はここにいるの?」
なんか取り乱している母さん。盛んに周囲を警戒している。
「先生と何かあるのか?」
「快斗…逃げて…」
逃げる?ここが一番安全だと言われたけど。
「でも、ここは、シャロン・ヴィンヤードさんに紹介された医者だよ」
「えっ!ベルモットに連絡をしたの?」
がっくりと肩を落とした母さん。どういうことだ?
「そう…手遅れね。ファントムレディもヤキが回ったわ」
「どういうことだよ、母さん」
ガチャ
「それは儂から話そうか、ファントムレディよ」
タイミングを読んで入って来たような阿笠博士…監視されていたのか?
「アガサ…」
二人共、知り合いなのか?
「お主の知っておる組織は、既に無くなったのじゃ」
「無くなった?あの組織が?どうして?」
「代替わりをした。トップの座を次世代に譲り渡したんじゃよ」
「え…トップが替わった…?」
「そうじゃ…死んだ者は生き返らない。同じ過ちを繰り返すでないぞ」
「うっ…うぅぅぅぅ」
母さんが泣いている。同じ過ち?死人を蘇らせる秘法か?まさか、坂本家にある物って…
「アガサ…教えて。ベルモットは味方なの?」
「儂と同じ立場じゃよ。ヘルエンジェルもな。長作さんの恩に報いる時じゃよ」
長作って誰だ?
---服部平次---
何の悪いジョークなのだろうか?世の中はゴールデンウィークっていう連休の始まりである。それなのに、なんで牢に入れられておるんや?
「なぁ、ここから出してや~」
「平ちゃん、悪い事は言わない。ここで大人しくしていてくれや」
和葉のおとんに、ここに入れられた俺。
「なんか悪いことしたか?」
「反省は無いんでっか?はぁ~、しゃあないなぁ。何度、ウチの娘を泣かせば気が済むんですか?」
「うん?和葉か?泣かしたことは無いでぇ~」
「昨年の暮れ…和葉との約束を蹴って、東京へ行って、和葉の恩人である一弥君を襲ったでしょ?」
「襲って無いわ。あれは勝負やでぇ~」
「そですか。では、連休が終わるまで、そこにいてください。本部長の意向も同じです」
おとんの命令なのか?なんでやぁぁぁぁぁ~!
絡み合う縁の糸…
コナンが出ないので、元太達も出ない予定です。