注:倫理的、道徳的に、問題がある記述があります。ダメな方は、回避をお願いします。
---四葉真夜---
子供の頃、弘一さんの婚約者だった。だけど、12歳の時、私は誘拐され、犯人達に強姦をされた。まだ初潮を迎えていなかった私の子宮は破壊され、子供の産めない身体になった後、救出された。そのことが原因で、弘一さんとの婚約は解消されてしまった。
将来への不安により、精神が蝕まれ、私は後に恩人になる近藤長作さんの元に預けられた。長作さんは、表では坂本家の懐刀として、辣腕を振るっていた方で、裏世界においては烏丸グループの副総裁に上り詰めていた方だ。その当時の長作さんの元には、マッドサイエンティストと呼ばれる科学者達が集っていた。時代の先端科学…倫理的、道徳的に社会に受け入れられない技術を、積極的に支援し、開発していた。
「いつか、役立つ時がきっと来る。倫理感、道徳感は時代と共に変化はするが、科学は進歩するだけだよ。根幹は1つなんだ」
そう、私に語り、私の心の闇を否定せずに受け入れてくれた。長作さんの元で穏やかになっていく私。私の中の闇は小さくなっていった。だけど、私の双子の姉である深夜が子供を身籠もった時、私の中の悪魔が囁いた。その結果、技術の粋を集めて、あの人との間に子供を作ろうと決心してしまった。私の考えをあの人と長作さんへ伝えた。
青ざめるあの人、手立てを考えてくる長作さん。
「真夜、手立てが見つかったよ。厚司君が卵子の作れない女性の為の技術を開発してくれたんだよ」
それは、一般細胞を卵子にする遺伝子操作であった。私の身体から細胞を取り出し、卵子になる遺伝子情報に操作する日々。やがて、卵子が作られ、あの人の精子を受精させた。
「借り腹は、私の妻にお願いしてある」
長作さんには奥様と娘さんがいた。奥様の名前は宇佐美、娘さんの名前は美優。美優さんは、遺伝子異常の為、長く生きられないそうだった。厚司さんの研究は、元々美優さんのクローンを作る事にあったそうだ。
「妻とは、もう子供が作れない。だから、真夜から産まれてきた子を、美優の弟にしてい良いかな?」
「勿論ですよ。子供の産めない身体で、どうやって産んだかなんて、説明できませんし。ただ、見守ってもいいですか?」
「当たり前じゃないか。君が本当の母親なんだから」
その時は知らなかった。何故、身ごもれるのに、子供が作れないのかを…後日、知る機会が訪れた。長作さんと奥様は、血の繋がった実の兄妹だったそうだ。所謂近親相姦による遺伝子の異常。娘の苦しむ姿を見て、後悔したそうだ。全身の細胞に異常が起きている状態。多分、私よりも辛い身体。なのに、美優さんは、私を慰めてくれた。私の話を聞いて、涙し、アドバイスをくれた。私にとっての姉のような存在、天使にすら見えた。
その美優さんのクローン計画。彼女と言う存在は生き長らえる。だけど、今いる彼女の記憶は受け継げない。そこが長作さんを苦しめていた。厚司さんも長作さんの苦しみを知っていた。なので、なるべく彼女の面影を残す方向で、遺伝子を操作し、異常の起きない細胞へと遺伝子を調整していった。
「長作さん、奥様と重なる遺伝子を除去すれば、大丈夫かもしれませんよ」
厚司さんが、方向性を見つけたことで、長作さんの苦しみは減ったかに見えた。
◇
姉の子供、達也が産まれた。それと時を同じ頃、私達の子供、一弥も産まれた。産まれたのだが、ここでアクシデントが起きた。私達の子供が、長作さんの奥様の身体に異物として認識されたようで、奥様はアレルギー反応を起こして亡くなってしまわれた。四葉家、七草家、両家の当主が招いたことだ。私も弘一さんも、長作さんに掛ける言葉がうかばなかった。
四葉家で、奥様の身体を預かり、アレルギーの発症原因を探ることになった。この原因を解決出来無い場合、美優さんのクローンは産まれ無い。その当時の四葉家には、調整体という遺伝子を調整した子供を作れる技術を確立していた。だが、調整体の寿命は短く、最高齢で20歳であった。
四葉家の技術と厚司さんの技術を融合させ、美優さんのクローンを試作する日々が続く。長作さんは門下生ともいえる、彼の元に集まった科学者達の論文に目を通す日々、なにかヒントが無いか、藁をも掴みたいようだ。
或る日、何かを閃いた長作さんが試験管を2本持って、厚司さんの研究室に現れたそうだ。
「出来た。厚司君。この二人の細胞を高速増殖してくれ。頼む…美優が生きている内に、作りたいんだよ」
厚司さんが、受精卵を調べると、異常を起こしている遺伝子情報は無かったそうだ。後に分かったことは、重なった近親情報を2つに分離し、重なっていない情報だけをコピーして接合させたそうだ。だから、クローンが2体出来てしまったのだった。
だけど、美優さんが生きている間に、クローンは産まれ無かった。美優さんの命の残りが、思っていた以上に短かったのだった。
◇
「長作、すまん、美優をくれ!」
長作さんの心が壊れ始めた瞬間だったと思う。坂本家の若の奥様が流産して、もう子供の産めない身体になったそうだ。その流産した子供は娘だったと。
「二つあるなら、一つくれ。借りはいつか返すからな」
産まれたクローンの子供を、長作さんの返事を聞かずに、持ち去った坂本家の若。ソレを呆然と見ているだけの長作さん。
「一つだと?!美優は物じゃない!!…真夜…頼みがある」
長作さんの姿は、怒りに震えているようだ。目には涙をたくさん抱え込んでいた。こんな長作さんの姿は初めてみた。厚司さんも奥様も、その場にいた門下生達は、この時の長作さんの姿を瞼に焼き付けたであろう。
「何でもおっしゃってください」
「美優姫…みゆきを四葉家に託す。だから、妻のクローンを作ってくれないか」
「わかりました。四葉家が責任を持って、お預かりします。そして、奥様のクローン…必ず…」
私達の目の前で、崩れる様にして倒れた長作さん。医師である厚司さんの奥様が、脈と計り、首を静かに横に振った。
長作さんは、私達の目の前で息を引き取った…
◇
無理をしすぎたようだった。坂本家の仕打ちにより、壊れ始めた心は、必死に魂を繋ぎ留めていたのかもしれない。長作さんの抱えていた責務…それを、私に渡したことで、彼の魂は解放されたのかもしれない。
「俺だけ地獄へ行くのだろうな」
そう呟いていた長作さん…禁じられた兄妹での結婚、そして出産…天は長作さんに罰を与えたのだろうか?学会から異端児認定された者達を、認め、励まし、応援していたのに…
道徳感、倫理感は、時代と共に変化する。彼らの異端児認定はいずれ無くなるかもしれない。
◇
私達の一弥は近藤家の長男として、奥様のクローンである宇佐美は近藤家の長女として戸籍に載り、その上で坂本家へ養子縁組された。美優さんのコピー体の義理の兄妹として…四葉家に預けられた美優姫は深雪と名前を変え、姉の子供になった。
私の子供である一弥に、美優さんの生まれ変わりである深雪さんが一目惚れ…それは私にとって喜ばしいことである。
今作の人間関係の肝の部分です(^^;
「たつや」と「かずや」…似た者同士です。長作の嫁を「みなみ」にしようと思ったのですが、宇佐美との名前の整合性がとれなかったので、嫁も宇佐美になりました。
背後関係編はまだ煮詰まってません。