連休も終わり、学校生活が再開した。美優は社交界デビューしたようだ。一緒にデビューした園子が霞んだらしい。来年はウザミンがデビューするのかな?
「転校生がいます。それも3名も…一人は驚きました。他人の空似ってあるんですね」
担任の先生が何かを言っている。
「はい!入って…」
なんか急に教室内がざわめきだした。
「お兄様、深雪さんとエリカさんです」
美優が状況の説明をしてくれた。目の前に深雪とエリカがいた。
「転校してきました。叔母様におねだりしたら、許可がでました」
「深雪達が転校するって言うから、一緒に来たぜ」
教卓の横には達也が立っている。
「これで、毎日、お会いできますね」
美優が二人…毎日、深雪と会っている感覚とも言え無くも無いのだが…
放課後、喫茶ポワロに…京都旅行で、園子以外は顔みしりである。美優とウザミンは家で会っているし。
「おいしいです」
深雪、エリカにも好評な安室さんのケーキ。
「で、家は?」
「近藤邸を間借りします」
あっ、離れを使うのか。まぁ、問題は無いか。
「使ってくれ。誰かが住まないと、家ってダメだからな」
不思議と空き家になると朽ちるのが早い。
「エリカも」
「当然だ」
「今度、遊びに行っていいかな?一弥の実家、興味あるし」
って、真純。
「京都の母屋より少し新しめな感じだよ」
「そうには思えませんでしたよ」
と、深雪。達也はダンマリで、俺を冷たい視線で睨んでいる。そうだ、コイツの正体が問題だな。国防軍の特務兵ってことだが、何をしてくるんだ?深雪も絡んでいるのかな?
「一弥君、味見してくれるかな?君にもらった熊の肉でカレーをつくってみたんだよ」
安室さんが、俺、美優、深雪の前にカレーを置いた。どういう人選だ?
「おいしい」
「おいしいです。肉がホロホロですね」
俺も一口食べた。確かにスパイスにより、熊臭さが感じにくい上、熟成させた熊肉かな?旨みもあるし、肉が柔らかく煮込まれている。
「でも、熊肉は手に入りにくいだろうに」
「無くなった頃に、また狩りに連れて行って欲しいかな」
なるほど、熊肉の利用法だな。定期的に間引けば、熊被害は減るからな。
◇
夜、狩りに出た。安室さん、風見さんもいる。昼間は狩りの効率が悪くなったので、夜にシフトした。繁華街、女性をナンパする男達。
「酔っ払い目当ての恐喝が、増えているみたいなんだよ」
「美人局?」
「それもあるだろうな」
ホテル街も見回るのかな?ホテル街を巡回していると、道ばたで美和子と高木って刑事がいちゃついていた。一瞬、俺と美和子の視線が交差したが、俺は気にせずに、スルーして巡回を続けた。好きとか愛とか意味の分からない俺が、美和子に言える立場では無いと思うからだ。
「一弥!待って!これ、違うのよ~!」
って、美和子が追って来た。
「ディープキスだったよね?」
月明かりにより輝いていた唾液ブリッジ。
「だから、違うの!張り込みをしていたら、高木がカップルのように見せないとダメって言って…まさかディープキスをしてくるとは思わなくて」
「ふ~ん、刑事さんは大変な仕事ですね」
少し拗ねてみた。
「ごめんなさい。だから、ねぇ、見限らないで…」
高木って刑事さんとディープキスをした直後に、俺にディープキスって…間接キスになりそうだ。安室さん達と目が合うと、笑っているし。
「俺も巡回中だよ。安室さんと風見さんが一緒だ」
「そうなんだ…」
「そっちはどういう事件?」
「美人局…」
「美和子が?」
「私じゃないわよ!それの現場を押さえる為の張り込み…」
「じゃ、同じヤマかもな。こっちはヨッパ狙いの恐喝だって」
「合同捜査にして…」
涙を溜めた目で俺を見ている美和子…かわいい…
『おい、あのホテルを張れば、いいんだな。一弥は佐藤刑事とホテル前でいちゃつけ』
「了解」
安室さんから指示が出た。俺と美和子はホテル前に移動して、周囲を警戒しながら、いちゃついた。
「右斜め後ろの車両、カメラのファインダーが見えます」
『うん?あぁ、確認した。今、風見がナンバー照会している』
「一弥、捜査員が板に着いてきたじゃない」
美和子に褒められた。
「あっ!出ていたわ」
ホテルから、千葉って刑事と女性が出てきた。千葉って刑事は、ほろ酔いって感じである。二人がホテルの敷地を出ると、厳つい男性が3名近づいて行く。
「おっさん、俺のナオンに何してくれたんだ?おい!」
『美人局確定だ。確保する』
俺は飛び出して、素早く男達を制圧した。
「何?」
「アンタ、誰?」
「はい、警察…『こちら巡回チームアルファ、美人局、女1男4確保、PCをお願いします』」
風見さんが素早く指揮車へ連絡をした。車は安室さんが制圧したようだ。
---司波達也---
深雪のわがままを許した叔母。一般の高校へ転校って…前例がない。ナンバーズと呼ばれる家系は、あの国立高校へ通うように言われている。なのに…どうして?
「えっ!一弥君…蘭さんと同居されているのですか?」
「まぁ…」
「なんで、実家には住まないのですか?」
「それは、坂本家の使用人の一部が、お兄様を蔑むからです」
「私のお兄様も、本家へ行くとそうです」
アイツと俺の境遇、似ている。どう関係しているんだ?
「一弥君は蘭さんと付き合っていらっしゃるのですか?」
「どうなんだろ?なぁ、蘭、どう答えればいいかな?」
「う~ん、そうねぇ…深雪さん、一弥は好きと愛しているが、どういう物かを理解できていないの」
「そ、そうなんですか?」
「ボッチで生きてきたから。こうして、みんなと話す経験も、まだ1年しかしていないし。だから、蘭も深雪も美優もみんな好きだと思うんだけど、こういうのって、付き合っているになるのかな?」
「難しい問題だな」
エリカの言う通り難しい問題だ。彼は、俺よりも感情が豊かな反面、愛情に関してのセンサーがまるで無いのか。俺でさえ、好きとか愛しているって感情はあるのに。
「言葉では説明は難しいですね」
「だから、好きとか、愛しているって訊かれても、分からないんだよ」
「そうだな、付き合っているっていうのは、距離感が近くて、長く時間を過ごしている相手だな」
「それだと、美優になるが…妹は無しだと…う~ん」
そうなるよな。妹といる時間は長いし、距離感は誰よりも近い。
---坂本一弥---
週末、宮野医院の庭で、真純、蘭、深雪、達也と組手…エリカ、達也と剣の稽古。
「ここなら、ケガしても安心だよね?」
まぁ、先生と志保がいるからな。
「おい、一弥、先に破傷風の予防接種しないか?」
志保が俺の腕を掴んでいる。
「やだよ。破傷風の予防接種って痛いもん」
「遠慮するな、タダでいいぞ」
志保の顔に笑みが浮かんでいる。これは絶対に痛いやつである。必死に拒否をする。
「一弥、もう一本頼む」
志保から離れ、エリカと対峙し、エリカの特殊警棒を絡み取って、首元に切っ先を触れさせた。
「う~ん、悔しいなぁ。一本も取れないとは…」
「多分、エリカの戦法は特殊警棒を前提だろ?」
「そうだけど…」
「特殊警棒だと、あの技、巻き上げは無理だよ」
「そうか、無理だから、防げないってこと?」
「そうなる。だから、あの技を食らわないように、下段の構えがいいかな。慣れない内は、きっと死ぬけど…」
振り下ろすのではなく、振り上げる下段の構え。中段の構えのエリカにとって、無防備に近いと感じる構えになる。
「じゃ、一弥、下段で相手して」
「いやだ。木刀の下段で、エリカが中段で特殊警棒だと、エリカの方が早く打てるし」
不利すぎる。エリカの剣の特徴は素早く動けて、どんな体勢になっても体幹がブレ無いことである。それは、どんな体勢になっても、中段の構えと同じ速度
で打てるってことだ。
「ぷぅ~」
お怒りのポーズはエリカがやっても、かわいいと思わない。
「ねぇねぇ、じゃ、下段の構えの練習方法を教えて」
切り替えの速さも早いエリカ。
「バトミントンのラケットでの素振りだよ。あれって、空気抵抗をかなり受けるし。それに振り抜く感覚は特殊警棒に近いよ」
「なるほど」
「エリカだけずるいです。私にも練習方法を伝授してください」
とは言うが、深雪の格闘術は、九重流だよな。
「達也に習えよ。同じ流派だし」
「え…そんな…」
って、言われても。俺の流派と違う為、効率的な練習方法が浮かばない。あの流派は忍者系のものだが、俺のは肉弾戦系だからな。
「蘭の空手とか、真純のジークンドーなら、教えられるけど、深雪のは忍びだろ?」
「そうですね。じゃ、空手を教えてください」
「忍びと空手では系統が違う。百歩譲って、少林寺拳法か、太極拳かな」
「教えてください。一弥君に習いたいんです」
「じゃ、ステップだな」
「ステップ?」
「足さばきと言えばいいのかな?四方八方に動き回るんだけど、基準点を決めて、その基準点の周囲を滑らかに回るんだ。例えば、闘牛士をイメージして、牛を捌くようなステップを踏むんだよ。こんな風にね」
闘牛士のステップを実演した。
「なるほど…」
「ステップをマスターすれば、素人相手に対して、避けることは出来る。たいてい素人は直線的なヤツが多いからね。で、攻撃を躱すステップが出来るようになったら、上半身の裁き方を覚えるんだ。その場合、大事なポイントは体幹だ。どんな体勢になっても身体の軸をぶらさないようにすれば、確実に攻撃が出せるようになる。真純、来いよ」
真純と組手を再開させた。真純の攻撃を躱しながら、真純をおちょくる。
「胸を狙うなよ!気にしているんだからさぁ~」
真純の胸はちっぱいでありブラのサイズが合わないらしく、ノーブラの時が多いのだった。これが蘭相手だと完全にセクハラと言われるであろう。
「あっ、シュウ兄。ねぇ、仇を取ってよ~」
うっ!真純が秀一に泣きついた。
「また、妹を虐めたのか?」
「いや…組手ですって…」
現役のFBI捜査官との組手って…手強すぎるって…適度に受け流す。かするだけで痛いし。志保がおいでおいでいしている。ミミズ腫れが増えていく。破傷風の予防接種は避けたい。蹴り技も繰り出していくが、秀一の体勢を崩せない。上段狙いのキックが、ことごとくガードされている。なら、水面蹴りは?
「何!」
防御出来無く、前につんのめった。チャンスだ。バックを取って、バックドロップ…勝った。漸く勝った。だけど、
「プロレス技は反則じゃないかな?」
ですよね…
◇
久しぶりに警察庁へと出向いた。呼び出されたのだ。会議室に通されると、安室さんと弘一さんが待っていた。
「一弥君に、総合格闘技の試合に出て欲しい」
弘一さんがそう言いながら、パンフレットのような物を持って来た。
「裏の組織が運営する興業の一つなんだが、君に出て欲しい。賞金のカラクリとか、興業システムとか、運営サイドの黒幕なんかが分かると助かる」
こういう興業って、負けると日の目は見られないのでは無いだろうか?
「負けるとどうなるの?」
「負ける心配はしていない。君が負けるわけないだろ?」
買いかぶり過ぎである。最強だなんで自負していないし。
「まぁ、ウチからモグラが数名出している。万が一の際は、腕一本は覚悟してくれ。命は必ず救うからね」
腕が無くなるケガって何?志保が喜びそうだ。
興業の行われるのは、豪華客船の中であった。ワンナイトクルーズの目玉のショウの1つだと言う。行われるのは公海の上なので、治外法権に近いことが出来るそうだ。俺の対戦相手なのだが、当日発表だといい、とりあえず、ゲスト扱いで船に乗船した。試合は明日の昼から。平日だと言うのに、岸壁には多くの高級車が乗り付けている。金持ちは暇なのか?
船の中はスゴイ。いつ行っても、バイキング料理が食べられる食堂。好きなだけ使って良いジムとスパ。ここに住みたいなぁ。
たらふく食べ、たらふく運動をし、思いっきり寝た翌日、対戦相手が発表になった。俺の相手は川神百代とある。プロフィールを見て、思い出した。コイツ、立ち技最強女で、軍神って呼ばれているバトルジャンキーだ。身体能力と肉体の頑強さは、もはや人間離れと言われ、放たれた銃弾をデコピンで撃ち返したり、ケガを治す再生能力持ちとか、都市伝説化しているやつである。
これ、勝て無いんじゃないのか?いや、倒して、グランドテクニックに走れば、勝てるのか?もらったパンフに目を通す。
禁止事項は、相手を殺すこと、飛び道具の使用の禁止くらいで、鎧を着込むのはあり、刀剣類の使用はあり、相手の辱めるのもあり、服を脱がすのは禁止されていない、敗者への性行為はありって、犯罪だよな。公海上ならセーフなのか?
って、俺のプロフィールには前科2犯ってある。現役高校生と言う文字はない。これは悪人サイドからの出場になるのか?百代はベビーフェイスってことかな。
運営スタッフにマスクを借りた。被っても良いそうだから。特に前科者の場合、被る人が多いと言われた。衣装はマーシャルアーツ風にした。道着系だとエリを掴まれての膝蹴りが怖いし。
◇
試合会場は、円形のマットで、金網で囲まれている。金網デスマッチって感じなのか?既にマットは誰かの血で塗れている。足が滑ると厄介だな。俺と川神百代がゲージに入り、開始の合図を待っている。賭けの対象になっているようで、川神百代の倍率は1.2で、俺は9.5だった。自分に掛ければ良かったな。大穴狙いで…
そして、運命のゴングが打ち鳴らされた。
序盤、お互いに相手の攻撃レンジを模索しあうはずだ。案の定、百代が確かめるような中途半端な蹴りを繰り出してきた。俺は瞬動術で飛び込み、軸足の膝裏をカックンさせて、腹ばいにして倒し、背中の上に乗り、片腕と首を極めに行く。所謂チキンウィングフェースロックである。本来は顎に沿って極めるのだが、チョークスリーパ気味に首に決めて行く。いくら、再生能力があろうと、意識を狩れば、ただのマグロである。
あれ?再生能力があるってことは、処女膜は破っても再生されるのかな?などと考えていると、百代はぐったりしていた。落ちたかな?帯を外し、道着を脱がせ、下着姿にするが、意識はない。もう少しダメージを入れるかな?ブラを奪い取り、ブラで目隠しをして、キャメルクラッチで固めた。肩と腰へダメージを蓄積させていく。
「貴様…」
意識が戻った百代。親指一本で首の動脈を押さえ、意識を刈り取り、引き起こして、コブラツイストで固め、胸の感触を確かめていく。柔らかい。大きさも程ほどある。それよりも、どうすれば試合は終わるのだ?しまった、訊いていないぞ。
周囲を見回し、リングに棺のような物が置いてあるのに気づいた。アレに入れレば終わるのかな?蓋を開けて、百代を放り込み、蓋を閉じたら、終了ゴングが打ち鳴らされた。