テレビ、新聞などが一斉に、昨夜未明に起きた、カリオストロ公国大使館事件を報道していた。大使館に謎の組織が襲撃し、後から来た捜査機関により、大使館の地下に、大規模な偽札工場を見つけ、多くの国の偽札の版を見つけたそうだ。
尚、謎の組織は名乗っていないが、カリオストロ公国の王女であるクラリスが、『正義の騎士団』と呼んでいたとある。
「これは、王女派の有志連合の仕業だな」
蘭の父親が、新聞を手にして呟いた。
「お父さん、食べながら新聞は良くないよ」
蘭が注意をするが、一向に態度を改めない。まだ、目がチカチカしている。閃光弾使うなら、サングラスきぼんぬだよ。不二子さん、大胆過ぎる。ダブっている証拠品をかすめていったし。あれ、足が付くと思うんだけど。
籠城戦を攻めるのはいいけど、ファルコン師匠とは組みたくない。全身粉塵塗れで、実家に寄って風呂に入って帰って来たら、風邪引いたかも…
「うん?一弥、熱有るの?」
俺の額に自分の額を当てて、熱を測る蘭。
「う~ん、熱いよ。今日は学校はだめだね。お医者さんに行って来た方がいいよ」
「そうするよ」
「夜遊びもほどほどにした方がいいよ」
「はい」
遊びではないんだけど…残業はつくかな?宮野医院に行こうっと。
宮野医院…看板には小児科しかあげていない。でも、知り合いなら、大人でも大丈夫である。
「湯冷め?」
先生の診察。志保は嬉しそうに注射の用意をしている。それ、風邪に訊く薬液だよな?
「ちょっと、昨夜未明に…色々あって…お風呂入って、帰ったら…」
「それは風邪を引くわね。寝床にある風呂を使いなさいね」
「無理ですって。俺、蘭の家に下宿しているんですよ」
「それなら、うちのお風呂を使って、入院棟で寝ていけばいいでしょ?」
俺の腕に注射を打っている志保に言われた。そうか、その手があったか…
「なんなら、志保の寝床に夜這いでもいいのよ」
「ちょっと、お母さん、なんてことを言うのよ~」
先生のつっこみに、顔を真っ赤にして怒る志保。仲の良い親子だ。いいなぁ…
「どうしたの、一弥?熱が酷いの?」
俺が温かい目で見ていたら、志保に訊かれた。
「いや。志保と先生の親子関係が、羨ましいなって、思ってね。俺、俺を産んだ母親の記憶がまるで無いから…どんな人だったんだろうな」
俺が物心付く前に亡くなった俺の母親。名前は知らない。俺もウザミンも、母子手帳に両親の名前が気されていなかったのだ。もしかすると、近藤家にも養子縁組だったのかもしれない。
「あなたの父、近藤長作さんは、とても優しい人だったわ」
先生と厚司さんは、戸籍上の俺の実父である近藤長作を知っていた。
「当時の学会でつまはじきにされていた厚司さんの研究を後押ししてくれたのよ」
立場の弱い研究者を後押ししていたらしい。それは、今では日の目を見ている万能細胞ってやつだそうだ。厚司さんが研究していた頃は、道徳感、倫理感が問題視されていたそうで、移植用クローンの研究も実父が世間の批判を寄せ付けず、研究の後押しをしていたとか。
「この国の研究者に、夢と希望を見せてくれた人なの。あなたのお父様の長作さんは」
俺の実父は色々な人々を助け続けた人生だったらしい。
「一弥も負けないような人物になりなさいね」
先生に背中を押された。どんな人物になればいいんだ?
---来生瞳---
取り戻してくれた。何も言わずに、手渡して帰って行った彼…
「姉さん、どうしたの?」
妹の愛に訊かれた。あれ?何をしていたんだっけ?蛇口から水が出ている。そうだ、洗い物だったわね。
「あの子が気になるのかな?」
「あの子?」
「宝石を取り戻してくれた彼だよ」
「そんなんじゃない…」
「気になるなら、伊集院さんに、情報を貰えばどうかな?彼と知り合いなんでしょ?」
そう言っていたわね。
「あの、姉さん」
「行ってきなさい。もの凄く気になるんでしょ?」
姉の泪姉さんは、お見通しなのかもしれない。外着に着替えて、伊集院さんのお店に向かった。外装は同じお店であるが、内装は少し違うお店。窓ガラスには戦車の主砲でも砕けない強化ガラスがはめ込まれているとか。戦場の喫茶店とか、裏の世界で呼ばれていたりする。
「どうしたんだ、瞳。珍しいじゃないか」
見た目、海坊主のような大男のマスター、伊集院隼人さん。私達三姉妹の後ろ盾になってくれたナンバーワンクラスの傭兵である。裏の世界では『ファルコン』と呼ばれる有名人でもある。
「いえ…あの…伺いたいことが…」
「一弥のことか?」
一弥?彼の名前かな?
「なんだよ、アイツ、名乗っていないのか?アイツの名前は近藤一弥だ」
近藤一弥…それが彼の名前なのか。
「アイツのことが知りたいのか?」
「え…えぇ…」
「ふぅ~、惚れちゃったか?」
「っえ…」
「惚れない方がおかしいか。だけど、アイツは恋愛に関しては強敵だぞ」
既に相手がいるのか…
「アイツ、恋愛のこと、ド素人だからな」
恋愛のド素人?はぁ?
「好きとか愛しているとか…アイツは感情は豊かな方だが、愛情がすっぽり抜け落ちているんだ」
愛情が抜けている…
「アイツは愛情を知らないで15まで生きちまったんだよ。瞳がアイツに、愛情を教えてくれるなら、俺達は後押しする」
愛情を知らないで育った…
「彼は孤児なんですか?」
「いや、名家の後取りだよ。だけど、15になるまで、山の中で一人で生きて来た、言うなれば野生児だ」
野生児…
「裏の世界で生きるヤツで、アイツは優良物件だと思うぞ」
「それは、彼も裏の世界の?」
「そうだ。ちょっと毛色は違うけどな。警察関係で困ったら、一弥に相談すると良いぞ」
まさか、ダブル…二重スパイ…
「そんな顔するな。言える範囲で言うと、普段は高校二年生だ」
高校生なのか。私よりも歳下になるのか。
「それは表の顔だ。裏の顔は公安警察の特捜だよ」
公安…高校生で…あり得ない。警察官になるには18歳以上と言うルールがあるはずだ。
「でなぁ、肝はここからだ。本当の顔は、公安公認のスィーパーだ」
公安公認の殺し屋…高校生で…
「だから、そんな顔をするな。アイツはそういう教育を人里離れた山奥で受けて来たんだ。講師は俺は勿論、冴羽リョウ、次元大介、石川五右衛門、ルパン三世…そうそうたるメンバーが、アイツの師にあたる。戦闘に関して、一弥はスポンジのようにスキル、能力を吸収していた。俺達本家本元を超えるスィーパーになりつつある」
全身に鳥肌が立っていく。高校二年生で、一流の殺し屋に…狙われたら、命はない。裏切ったと思われたら…
「だから、そんな顔をするな。アイツは友達を殺さない。まぁ、裏切ったら別だが」
裏切ったと思われたら、姉も妹も…私だけの問題ではなくなる。
「一弥の後ろ盾は、俺達一弥の師匠筋は当然として、近藤家は当然として、坂本家、四葉家、七草家、九島家がついている」
この国の闇を支える財閥が付いているのか…闇の世界で生きる者として、その5家を知らぬ者はいない。近藤家…闇の人材ネットワークを持つ。その後ろには烏丸家がいるとも言われている。坂本家…裏では武器商人をしている。四葉家…裏では国際的な諜報活動をしている。七草家…公安の闇を受け持っているとか。九島家…闇の世界で調整を受け持っているとか。
「まぁ、一弥に惚れるってそういうことだ。全部を含めてが一弥なんだ。裏の世界で生きる以上、アイツに惚れない訳がないよな。一弥に敵と思われたら、この国の裏の世界では生きられないからな。珈琲を飲んでいけよ」
---峰不二子---
カリオストロ大使館で手に入れた版。高く売れそうだわ。裏の世界のオークションに出そうかしら?定宿に帰り、まったりと身体を休める。皮のツナギを脱ぎ捨て、シャワーを浴び、バスローブを羽織り、ソファーでブランデーを嗜む。
うっ!何者かに意識を刈り取られた。誰だ?ここはルパンにすらバレていないのに…
ここはどこだ?視界が奪われている。気配をまるで感じ無い。相手の息吹も分からない。腕を背中側に引っ張られ、手首を縛り始めた。これは、拷問するってことか?
「どこまで耐えられるかな?」
変声機を使った声。私の知っている人物ってことか。考える、こんなことをする人物を…ルパンとリョウは、こんな手の込んだことをしない。次元と五右衛門は論外だし。ファルコンは美樹さんにそっこんだよね。あっ!一番ヤバいヤツだ。あははははっ…もう笑うことしか出来無い。
股を大股に開かれて、固定された。
「ねぇ、一弥でしょ?話し合いましょうよ。うっ!」
一番敏感な箇所に注射って…一弥がキレているようだ。
「ねぇ、一弥。なんで、そんなに怒っているの?私、何かしたかしら?」
「くすねたでしょ?」
変声機を通さない一弥の声…版をくすねた事かな。
「証拠品は総て、捜査機関に委ねることにしたよね?」
あぁ、大使館に突入する前に決めたルールね。
「あっ…」
体内に温かい液体が湧き出ている。強力な媚薬かな?耐えられるかも知れない。でも…脇の下に何か差し込まれた。
「いやっ!」
脇の下と橫腹に羽ホウキで撫でられるような感触が生じた。これは、耐えられないかもしれない。太ももが震えている。声が出ない…口元が濡れていく。局所麻酔か、液体タイプの…息苦しい。苦しいのに身体は気持ち良いと感じている。もう、止めて…ごめんなさい…
「なんで、乳首が立っているのかな?乳房に血管が浮き出ているけど、なんでかな?」
乳房が張っていく。苦しい…体内に生じた温かな液体は、体内の容積を超え、体外に浸み出している。お尻の沢を伝わり、お尻の穴に達している。気持ちいい…これが最後の快楽の瞬間かな。
「何をするの…」
「何もしないよ。くすねた物を貸して貰うだけだよ」
思い出した。一弥は巨乳系は萎えるんだ…ヤラレル心配は無いが、もっと酷い目に遭う予感がする。
「ねぇ、熊さんと猪さん、どっちがいい?」
獣姦?
「やめて、反省してますから…ねぇ、一弥君。聞いている?ねぇぇぇぇぇぇ~」
返事がない。放置プレイか?このまま、放置なのか?誰か助けてぇぇぇぇ~!
「あれれ、不二子ちゃん、すごいことになっているな」
ルパンの声だ。助かったのか?待てよ、この姿を見られているのか…
「今回は欲をかきすぎたな。一弥をキレさせるなんて、不二子ちゃんくらいだよ。俺達は小心者だから、そんなマネできないぜ」
「反省しています。助けて…ルパン…」
「助けてやるが、これは厄介だな。一弥のヤツ、トラップを仕込んでいったぞ。それもファルコン直伝のヤツだ」
ファルコン直伝って…マズイじゃないの。
「ねぇ、外せるの?」
「中央銀行の大金庫を開けるより、厄介だな。しくじると、不二子ちゃんが背負っている爆弾が起動みたいだな」
背中側で手首を縛った際に、爆弾を仕掛けたのか。まさか、目隠ししたのって、これもトラップなのか。
「おっ、トラップの説明書があった。なになに…ふむふむ…不二子ちゃんとヤルと信管が外れるみたいだけど…」
私とヤルと?アイツ、マジ切れしたのね。麻酔効果もあったのか。羽ホウキの刺激に気を取られている隙に、体内にスイッチを埋め込んだのか。エグい…
「ルパン…ヤッテもいいわよ」
「悪いなぁ、不二子ちゃん。正攻法で外すよ。不二子ちゃんと性交すると、相手の男は死ぬみたいだ」
ルパンの声は真剣な物になっている。一弥のヤツ、私の体内に、何を埋め込んだのよ~。いつか、逆に襲ってやる。
---坂本一弥---
ルパンから連絡があった。外すのに5時間掛かったそうだ。外した後に、不二子と数ラウンドしたらしい。こちらも、返して貰った証拠品を安室さん経由で、捜査陣に渡して貰った。王女の結婚相手だった伯爵は、警察に逮捕され、偽造紙幣を作られた国々で捜査を受け、裁判を受け、生きている間に釈放される見込みがないそうだ。これにより王女は、禁じられた愛を楽しまれて、国に帰られたそうだ。
翌日も熱が下がらず…まぁ、お仕事をしていたもんな。今日は大人しくしておこう。
「風邪はまだ治らないのか?」
昼飯を喫茶ポワロに食べに来た俺に、安室さんが声を掛けてきた。
「治る訳ないでしょ?昨日、仕事をさせたから…」
「粕汁を作ったから、たっぷり温まっていくといいよ」
喫茶店で粕汁かぁ。
「ナポリタンセットください」
志保のヤツ…のみ薬を処方しないで、毎日注射を打たせろって…アイツ今日は3本打っていたな。風邪薬と栄養剤と生理食塩水って…生理食塩水って、点滴で入れるんじゃないのか?腕に注射タコ出来たら、マズイって…
カランコロン
誰かが入って来た。入って来た客は、俺の前に座った。相席をするほど混でいないだろうに。顔を上げると、笑顔の彼女と目が合った。
「この前は、ありがとう…」
瞳だった。なんで、ここがバレたんだ?
「どうして、ここに?」
「伊集院さんに聞いたの」
ファルコン師匠か…
食事を終え、瞳と店を出て、そのまま、お城のような建物にチェックインした。聞かれてはダメな会話の場合、こういう場所は最適なようだ。
「お礼とか入らないよ。困っている人を助けるのは当然だろ?」
「うん」
目の前で全裸になる瞳。
「身体を暖めてあげます。今度は私が…」
瞳と一緒にお風呂に入り、ベッドへ…瞳の身体と密着…
「気持ちはどう?」
「何もしないで、寝ていいかな。気持ちが良いんだよ」
「うん、いいよ。添い寝します」
瞳に抱きついて、瞳の体温を感じながら、睡魔に飲まれて行った。