高校…受験をしないと入れないそうだ。そして、中学の卒業証書が無い無いと受験出来無いみたいだ。美優を担ぐ一派により、俺は小卒無職の危機にさらされていた。自分の食い扶持は自分でなんとかしようと思い、英里のガード兼助手として、雇って貰った。
「働かないでも、食べていけるでしょ?」
「英里の傍にいたい…」
英里に頼まれて、証言を集めたり、証拠を探したり、ゴロツキからお小遣いを貰ったりして、日々を生活していく。その結果、英里を襲った奴らが判った。お礼参りに行ってくるか。
事務所へ向かうと、女性が連れ込まれ、薬を打たれていた。
「何だ、ガキ!」
首の骨を折ってやった。ドスを抜く数名。首の動脈を潰していく。
「お前、どこの組の者だ?!」
奥の部屋にいたエラそうなやつ。
「妃弁護士事務所の鉄砲玉だよ」
「何?貴様が…」
パチンコ玉を弾くと、大人しくなった。さて、有り金を貰うか。そうそう、証拠品も貰わないと…事務所を出ようとすると、女性が這って来た。
「助けて…」
頼まれた。断る理由は無い。女性を背負い、その場を後にした。
◇
「一弥…佐藤刑事をどこで拾ったの?」
「事務所で薬を打たれていたよ」
証拠品の山をテーブルにぶちまけた。
「組の事務所に行ったの?じゃ、美和子さんが打たれたのって…」
英里が警察へ連絡をしている。俺を突き出すのかな?しかし、英里がそんなことはしない。あの女性、英里の顔見知りの刑事さんだった。彼女を助け出した場所を知らせて、身柄を引き渡していた。
「一弥…危ないマネはもうしないでいいのよ」
「あんな隙のあるヤツラ、暗殺者に比べれば、素人同然だよ」
さすがにナパーム弾とかバズーカ砲だと危険だけど、ドスやチャカ程度なら問題は少ない。だって、俺は盾として育てられてきた。その位対処できないと、盾の役目は務まらない。
「ねぇ、一弥は高校へ通いたく無い?」
英里に訊かれた。
「行って何をするの?」
高校へ通う意味がわからない。
「勉強したり、友達を作ったり、恋をしたり…」
「友達?作った事無いからいらない。恋?それは何?」
どれも、今まで無かったもので、無くても問題が無いだろう。そうだ、鍛錬をしなきゃ。街のゴロツキを掃除していく。目を合わせて、襲ってくる奴らが掃除対象である。返り討ちにして有り金を巻き上げる。これの繰り返しだ。
往来でキスをしているカップルを見かけ、様子を見ていると、
「おい!何見ているんだ」
いつものように定点観測をしていると、彼女を連れた男に声を掛けられた。
「街を見ているだけだ。見られちゃマズイことでもしたのか?」
「なんだとぉ!」
胸ぐらを掴もうとした男の手首を掴み、そのまま投げ捨てた。
「新一!大丈夫?あなた、ちょっとねぇ」
女は空手の構えをしている。コイツ有段者か?面白い。上段ケリを放ってきたので、軽くガードして、懐に飛び込み、唇を重ねてみた。女の動作が一瞬止まったので、意識を刈り取り、有り金を頂く。
「貴様!蘭に何をしやがる」
男の方が掴み掛かって来たので、一本背負いで地面に叩き付け、有り金を巻き上げた。
「優男が、かっこつけるなよ。往来でいちゃつくな」
◇
英里の事務所に戻り、手に入れた情報をまとめていく。狩りは情報収集の合間に行っている。今日は、英里の娘さんが来ているそうだ。なので、別室で作業をしているのだが、会話が聞こえて来た。
「ねぇ、お母さん、ひどいんだよ。意識を刈り取って、有り金を巻き上げられたの。あぁ言うのって、取り締まれないの?」
「因縁を付けてきたの?」
「それは…新一が先に…」
「そうなると、新一君が手を出さなければ、そういう目に遭わなかったんじゃ…まさかねぇ。ねぇ、一弥。今日、アベックを狩らなかった?」
英里に訊かれた。俺の狩りを英里は黙認してくれている。
「狩ったよ。いきなり胸ぐらを掴まれそうになって…」
英里の方へ向かうと、件のアベックの片割れがいた。
「「あっ!」」
「やっぱり…一弥、この子は私の娘の蘭よ。収穫を返してくれる?」
二人から奪った3万円とコンドームを返した。
「うん?なんで、これが?」
「男の財布に入っていたよ。買った事無いから、試そうと思って…」
「使う相手は?」
「いないけど…」
試せないよね…友達いないし。彼女なんて夢のまた夢だし。
「一応、一弥には礼を言っておくわ。娘の貞操の危機を防いでくれて、ありがとうね。で、蘭!これはどういうこと?新一君とそんな仲だったの?」
そういう仲なら、防いだことにならないだろうに。
「知らないわよ。そんな関係じゃないわよ」
いいなぁ、親子げんか…
「どうしたの、一弥?なんか、嬉しそうね」
英里に訊かれた。
「親子げんかが羨ましくて…いいなぁ、本音のぶつかり合い…」
俺はしたくても出来無い。無いモノねだりではある。
「そっか…したくても出来無いのよね」
「出来無い物を考えても仕方ないから、狩りに行っていいですか?」
「情報はまとめてくれたかな?」
まだです…作業部屋へ戻る俺。
◇
毎週日曜日…坂本家に帰宅することが、美優の指示である。
「ただいま…」
「お兄様、おかえりなさい」
「おにいちゃぁぁぁぁぁ~ん!会いたかったよ~。1週間が長すぎる」
宇佐美を抱きかかえ、美優と並んで、リビングへと向かった。
「お変わりありませんか?」
美優がコーヒーを淹れてきてくれた。宇佐美は俺のモモに頭を乗せている。
「補導されていないし、妃先生のガードや助手を務めているよ」
「ねぇ、高校へは通わないのですか?一緒に通いたいです」
「6月に入学試験ってあるのか?」
「無いです」
「中学を卒業した証拠も無いぞ」
卒業証書は灰にされたし。
「そうなんですよね。困りましたわ」
美優は俺と高校へ通いたいようだ。ウザミンと共に中学に通うことは望まないだろうしなぁ。主である美優の意向に沿いたいが、こればっかりは無理だな。
「教育委員会に掛け合ってみます。元はと言えば、大阪府警が悪いんですから」
スマホでどこかへ連絡をしている美優。こんなに活動的だったかな?
美優が掛け合った結果、俺は美優と同じ高校へ通うことになった。
「学費…払えないけど…」
「お兄様は、坂本家の長男なんです。勿論、坂本家で出しますわ。お父様、いいですね!」
「もちろんだよ、美優…」
この家で美優が一番エライようだ。
「私はお兄様の傍にいたいだけです。どんどん、私を頼ってくださいね。美優はお兄様の為に、何でも出来る女性になりたいのですから」
坂本家と縁を切りたいと言え無い雰囲気である。俺は英里の養子になりたいんだけど…ダメだよな。美優が豹変しそうで怖い。
◇
期末テストと言う物が始まる前日、俺は美優の通う帝丹高校に編入した。そのクラスには英里の娘とその彼氏もいた。
「お前!あの時の追い剥ぎじゃねぇか!」
俺に襲い掛かる男、軽くいなした。
「よぉ、コンドーム男」
「お前…蘭の母親に何をいいやがった…」
「事実を言っただけだ。お前の財布にコンドームが入っていたってな」
「貴様…」
「工藤君!お兄様に手を上げることを許しませんよ」
美優が声を上げた。
「なんだと…坂本のアニキだと?名字が違うだろ?」
「家庭の事情ですよ。そんなことを毛利さんに言えますか?」
毛利さんって誰?
自己紹介が終わり、俺は美優の隣の席に着席をした。逆隣は蘭であった。
「美優、期末テストって何だ?訊いていないぞ」
「夏休み前の学力の確認ですよ、お兄様」
学力?何も習っていないのに…理不尽である。
放課後…蘭は部活だと言う。
「何部?」
「空手部よ。見学する?」
まぁ、ヒマだし。美優は生徒会という会議に出るらしい。蘭と一緒に空手部の練習の場へ赴いた。空手着の蘭…普通である。
「ねえ、組手の相手をしてくれる?」
蘭に声を掛けられた。
「俺、総合格闘技だけど…」
「いいわよ。でも、投げないでね。受け身は出来無いから」
そうだな。空手家相手の場合、投げて極めで終わるからな。蘭の攻撃を軽くガードしていく。しなやかな脚…抱きつきたい。そんな誘惑に駆られるが、抱きつかない。ピンクトラップは敵である。
◇
期末テストが終わった。身構えていたが、わかる範囲の問題で良かった。
「お兄様、どうでした?」
「まぁ、どうにか…」
「夏休みはどうされますか?」
「修行かな。都会だと修行がしづらいからな」
京都の山奥に籠もるかな。気兼ねせずに過ごせるし。
久しぶりに英里の事務所へと向かう。
「テストはどうだったの?」
開口一番にその話題…
「どうにかね。で、仕事はありますか?」
「公判がいくつかあるけど、危険そうな弁護は無いわよ。そうだ。夕食を食べて行って。蘭が来てくれる日だから」
「ごちそうになります」
英里の手料理が楽しみである。坂本家の食事は、手料理って言われるメニューである。一般家庭とは違うのだろう。専属の料理人の料理は、洗練されているが、気軽に食べる物では無い気がする。
たらふくごちそうになり、蘭を送って行くことになった。
「一弥君といるお母さんは楽しそうだよ」
「そうか?俺も英里の養子になりたいんだけど、坂本家から出られないんだよ」
「そうなんだ…って、お母さんの養子?どういうこと?」
蘭に俺の身の上話をした。
「児童虐待をする家ならば、養子にしたいって、英里が言ってくれたんだ」
「そうだったんだ…そうなると、私がお姉ちゃんだね」
そうなるのか…
「あのね…もう一つ手があるの。私と結婚すれば、お母さんの子供になれるよ」
恥ずかしそうに言う蘭。
「蘭には彼氏がいるだろ?」
「アイツは幼なじみなだけ。他の子にも鼻の下を伸ばしているし。この前だって、一弥君が介入してなかったら…きっと、」
流されて、流れで、コンドームのお世話になっていたか。
「なぁ、どうすれば結婚出来るんだ?俺…愛とか恋って判らないんだ。そもそも友達もいないし」
「じゃ、私が友達になってあげる。まずは友達付き合いから始めましょうよ」
見つめ合う蘭と俺。引力だろうか、どちらとも無く、唇が重なっていった。