---四葉真夜---
鈴木財閥が、あの事を外部の人間に漏らしたらしい。長作さんの息の掛かった者以外に知らせることは禁止したはずなのに…なのに、したり顔で自慢げに
無関係な工藤優作に話したそうだ。鈴木家に放っているモグラからの報告である。
一人に漏らせば、それは知る者がねずみ算式に増えていく。自称正義の味方である工藤優作に漏れた。こういう者はたちが悪い。自らの正義を掲げ、他人の秘密を暴き、暴かれた者がどうなろうと知らん顔である。
そして案の定、工藤優作から目暮十三に、そして警視庁の上層部へ。情報の漏洩は止まらない。内閣調査室から四葉家、七草家、九島家に問い合わせがあり、事の真偽を訊かれ、長作さんの宝を総て提出しろという。きっと、研究対象というモルモットにされるのだろう。YY染色体持ちの一弥、完全なるクローン体である美優、深雪。幸い、宇佐美の存在まではバレていないようだが。
「弘一さん、どういうことですか?」
「まさか、鈴木財閥の相談役が知っていたとは、想定外だ」
弘一さんの顔色は悪い。公安警察の上層部である彼は、報告の義務があるのだ。
「やはり、あの害虫、九島烈が自慢げに話したのでしょうね」
長作さんの思いを踏みにじった大罪人の九島烈。
「しられた以上、ラムは消す方向に動くだろうな」
日本の中枢が一気に消えたら、混乱が起きる。どうする気かしら…
---ラム---
工藤優作…息子と同じで碌な者では無いようだ。俺はミサカシステムでクローン体を作り、弘一経由で政府に渡して貰った。俺のクローン体は、バイオハザードレベル5の研究機関でバラバラにされ、政府の研究機関に送られた。一部は極秘理に、米国、中国、ロシアなどに政治の取引の材料として分割されていく。こうしてYY染色体は世界各地にバラ蒔かれた。それがどういう特性かも知らずに…
バラ蒔かれたクローン達は、バラ蒔かれた先で細胞分裂を繰り返し、何かになっていく。そして、人外なるそれは、ミサカネットワークに接続し、これから為すべき事を理解していく。
---宮野エレーナ
一弥が世界中に散らばっていく。一弥本体を護る為、敵を消し去る為。一弥本体は目の前のベッドで眠っている。ラムが散らばったクローン体達と交信をし、為すべき事を伝え、スタミナ切れで、静かに眠っている。
「ねぇ、死なないよね?」
心配そうに志保が一弥の寝顔を見つめていた。
「死なないわよ。ただ、表で生きにくくなったわね」
名前と顔はばれた。家族構成もだ。今は四葉家と七草家と坂本家の踏ん張りに掛けるしかない。
現状の敵認定は、九島家、工藤家、警察庁、日本政府である。一弥が何をしたと言うの。彼は被害者なのよ。なのに、表で生きられないなんて…表では近藤一弥は死んだ事になった。バケモノを人間として認めない、って言うのが日本政府の見解である。長作さんが悪者にされていく。連日、ワイドショーでマッドな科学者として取り上げられている。日本政府の方針なのだろう。その批判の矛先は、四葉家、坂本家にも向かっていった。
---藤林 響子---
九島烈の孫である。所属していた部隊の拠点が襲われ、私は謎の集団に拉致をされた。
「どうして、あなたが…」
目の前には同じ部隊の特務である司波達也君がいた。
「妹の為です。あなたには人質になってもらいます」
妹さん?意味が分からない。
「九島烈の犯した大罪のツケを払って貰います」
達也君の隣に、もう一人青年が立っていた。
「じゃ、一弥のリビングダッチワイフになってもらうか。アイツ、ストレスが溜まり過ぎているんだ」
「まぁ、いいんじゃ無いですか?アイツがアイツでなくなると深雪が哀しみますから」
アイツって誰?
声が出ない。身体が動かない。着ている物を総て剥ぎ取られ、真っ暗な部屋に閉じ込められた。