---降谷零---
今年は、ある組織に潜ることになっていたのだが、中止になった。その組織のボスが代替わりをしてそうで、組織の方針がソフト路線になったそうだ。
「どんな感じです?」
上司に訊いてみた。
「ボスとラムが消え、ボスが後継指名をした人物がトップになったそうだ。コードネームは二代目ラムだ。顔を知っている者は、ジン、ウォッカ、ベルモット辺りだそうだよ」
その組織には既に、俺の同期である諸伏景光が、コードネームスコッチを貰い、モグラをしていた。
「どうソフト路線になったのですか?」
「死体検案時に検出出来無い毒薬とかを開発、製造していたが、新しい組織の方針は、新エネルギーの開発と、自然との共存を目的にしたそうだ」
まるで、環境保護団体のようだ。
「上の判断なんだが、危険性は薄まったと判断し、現状通りスコッチだけ潜らせる」
潜らせているってことは、未だ危険性があるのだろう。
「新しいボスはどんなヤツですか?」
「全くわからない。ただ、ジン、ウォッカ、ベルモットが認めているそうで、組織内での不満分子は少ないらしい」
「アイツらが認めるとは…凄腕ってことですかね?」
「それは、これからの展開次第だろうな」
上司と別れ、街中を探索する。そういえば、一弥は楽しい正月を過ごせているかな?そんなことを考えながら歩いていると、
「レイ君?ねぇ、レイ君だよね?」
唐突に聞こえて来た女性の声。俺の本名を知っている?誰だ?声を掛けた人物を見ると…遠い昔の記憶が掘り起こされ、目尻に温かい物が浸み出してきた。彼女は、俺の初恋相手…いや、憧れの相手…歳上ではある女医さんである。確か、彼女の娘さんと俺が同い年だっけ?
「宮野…先生…」
「あはっ、レイ君、大きくなったねぇ。元気だったかな?」
「先生はいかがでした?」
「研究漬けだったよ。そうだ、今週末に、米花町2丁目に引っ越しするの。明美もいるわよ」
明美とは俺と同い年くらいの娘さんのことだ。先生がメモ帳に地図を書いてくれ、その地図を俺に手渡してくれた。
「そうなんだ。また医院を開業するんですか?」
「小児科だよ。でも、レイ君なら、診察してあげるわ」
「わかりました。引っ越しの日に、お伺いします」
「楽しみにしているわよ」
先生が去って行った。貰った手書きの地図を見ると、この場所は…確か、発明家で有名な阿笠博士の家の隣のようだ。
◇
週末、先生の元に向かうと…なんで、彼がいるんだ?そこには、何故か全裸の一弥がいた。何しているんだ?露出狂に目覚めたのか?
「あれ?安室さん?」
「一弥、服を着なさい」
知らない女性が、一弥に詰め寄っている。
「だって、全身を診察するんだよね?」
「はぁ~?お前、うら若き女性の前で、チンケな物をぶら下げ、全裸になるなぁ~!」
「そのチンケな物を剥いてくれたのは志保だろ?経過観察してよ~」
何をしているんだ、一弥は?唖然する俺…
「あら、レイ君、いらっしゃい。明美、レイ君が来てくれたわよ」
「わぁ~、こんなに立派になったんだ」
奥から女性が出てきた。昔の面影が残っている彼女。
「明美ちゃんだって、見違えるようになったね」
「それは、私の幼い時は、ちんちくりんだって言うの?!」
笑顔の彼女、幸せそうだ。
「それよりも、先生。なんで、一弥君がいるんですか?」
「彼の山ごもり生活の時、月に一度、健康診断をしていたのよ」
そうなると、先生達の研究のスポンサーは坂本家か?
「で、一弥君の包茎手術をしたのが、次女の志保なの。レイ君は初めて会うかな」
「えぇ、初めてですね」
「志保!ねぇ、術後経過はどう?」
「やること、やったんでしょ?なら、大丈夫よ」
「あらあら、志保はツンデレ系かな?一弥君に会うのを楽しみにしていたのにねぇ~」
「お母さん!一弥がつけあがるから、そんなことを言わないでね」
なんか、賑やかな家庭である。まさか、一弥が知り合いだったとは…世の中は狭いなぁ。
「明美さんは、いらっしゃいますか?」
背後に知らない男性が立っていた。まるで、気配を感じなかった。何者だ、コイツ…
「あっ!シュウ。遅いわよ」
明美が男性の腕に抱きつき、奥の部屋に連れ込んだ。
「彼は?」
「レイ君、気になるのかな?彼は赤井秀一、私の姉の子供よ。だから、明美の従姉妹なんだけど…恋人関係なの」
複雑な人間関係のようだ。
「レイ君、悪いけど、手伝ってくれる?」
「はい、喜んで…」
医学書を運ぶのを手伝った。
---宮野エレーナ---
まさか、レイ君が公安になっていたとは…ラムからの指示は、『気づかれないように』だけだ。普通に接すれば良いのね。
「お母さん、叔母さんはどうするの?」
姉のメアリー・世良は、志保の作った薬で幼児化していた。
「いずれ戻さないとね。まぁ、ラムに丸投げでもいいけど…問題は、姉さんがどこにいるかね。秀一も居場所を知らないみたいだし」
解毒剤は出来ている。ラムの知識により、あの薬は目的の性能を得て、ボスと初代ラムが使い、組織を現在のラムに譲り、引退してしまった。
「ラムのおかげで、のんびりと、研究できるわね」
「彼、キレすぎるわ。でも、あの閃きは嫌いじゃない」
「付き合っちゃう?」
「えっ…」
顔を真っ赤にして、戸惑っている志保。ツンデレ娘である。
「シュウはコチラ側についてくれたけど、レイ君はどうかな…」
「ダメなら消すの?」
「ラム次第ね。一弥君のアニキ分だし、判断は難しいかな」
初代ラムは冷酷で厳格だった。ただそれだけの人物である。2代目ラムは、資金を持って来てくれた。組織の目的を変える際、ジン、ウォッカと納得するまで話し合いを重ね、味方に引き釣り込んだ。あのベルモットすらも、味方にしている。冷酷さは感じられない。厳格さもない。だけど、一線は引いており、ルールを破れば、消すことになっている。
新しい組織に賛同出来無い者達の組織からの離脱を認めている。ラムと最後の話をして離脱が決定するのだが、次の瞬間、その者の生は終わっているのだ。
ラム曰く『秘密は口外しないから秘密なんだよ。秘密を持ったまま、放す訳ないだろ?』
訂正しよう。彼も冷徹で厳格な時もある。
原作と違い、宮野家の皆さんは生きてます。
描写の難しい先代ボスと先代ラムには退場してもらいました。(^^;