---司波達也---
近藤一弥…彼について調べて見た。高校1年生にして、前科1犯。過剰防衛にて、実刑3ヶ月をくらっていた。
未成年で、刑務所に収監された?少年刑務所では無く…そこに、なんらかの作為を感じた。叔母に報告しておくかな。
俺達の叔母は、母の双子の姉に当たる人物の四葉真夜。四葉財閥の当主である。叔母は若い頃に事件に遭い、子供の産めない身体になった為、次期後継者を俺達分家から選ぶそうだ。その第一候補が俺の妹である司波深雪であるそうだ。
『達也さん、どうしたのかしら?緊急用件?』
テレビ電話で叔母へ連絡をした。
「えぇ、深雪が恋患いにかかったみたいなので、ご報告をしようと思いました」
『スーパーブラコンの深雪さんが恋患い?お相手は達也さん、あなたでは無いってことかしら?』
「うさん臭い人物に心が揺れています。近藤一弥という前科者です」
叔母の表情が崩れた気がする。いつもは無表情な叔母なのだが、一瞬、表情に感情が蘇った気がした。
『そう…彼に…』
叔母はアイツを知っているようだ。
「アイツは何者なんですか?」
『坂本家の次期当主なの。表向きは坂本家から追い出されているけどね』
坂本家…坂本龍馬を始祖とする家系である。海援隊という海運業で成功し、財と縁を得た家系である。現在も海運業、不動産業などで、財をなしているそうだ。
『深雪さんの恋をバックアップしてあげてくださいね』
それは深雪の将来の伴侶にしたいってことか?
「しかし、彼は前科者ですよ」
『表向きはね。どんな事象にも裏事情ってあるんですよ、達也さん』
叔母の表情はどこか嬉しそうである。
『彼はいずれ、表舞台に立ちます。その時は、この国は彼の物かもね』
そこで、通信が途絶えた。どういう意味だ?坂本財閥と四葉財閥が手を組んでも、世界的な財閥である鈴木家には勝て無いはずだ。裏があるのか…
---工藤新一---
冬休みが終わり、学校へ…何故か蘭と一弥の距離が近い気がする。
「あら、旦那様。嫁を放置しすぎですよ。寝取られましたね」
俺に声を掛けてきたのは鈴木園子である。俺、蘭と園子は幼なじみであり、園子は鈴木財閥のご令嬢になるのだが、コイツ見た目も中身もチャラいのが難点だな。
「寝取られた?どういう意味だ?!」
蘭が一弥に取られた?あり得ないだろ、そんなことは。
「一弥君は、今どこに住んでいるか、知っているかな?どうかな、名探偵くん」
どこに住んでいる?家にだろ?いや、この訊き方は…まさか…
「正解です。蘭の家に下宿しています。それも蘭の部屋の隣の部屋だってさぁ~」
あり得ない…なんで、一弥が蘭と同居しているんだ?
「蘭が一弥君に捧げる日は近いかもね。うん?既に捧げたか?お年玉として」
ふざけるな!蘭は俺の物だ!
俺は発作的に一弥に襲い掛かり、返り討ちに遭い、地面に叩き付けられた。
「新一!いきなり何?」
蘭が俺を見下ろしている。
「蘭に手を出すことは許さない」
「蘭は君の物か?」
「そうだよ。俺の物だ。手を出すな!」
ドスン!
蘭に額を踏み込まれた。スカートの中が丸見えだが、真っ暗でよく見えない。
「いつ、私が、あなたの物になったのよ!私を物扱いする時点で、私は新一になびく訳ないでしょ!」
バキ!
星が見えた。俺の額に、蘭のかかと落としが炸裂した。
◇
目覚めると、目の前には呆れた顔の父さんと母さんがいた。
「お前、始業式の日に何をしているんだ?」
「蘭を寝取られたから、抗議をしに行っただけだよ」
なんで、俺がこんな目に遭うんだ?
「お前、蘭君との初詣の約束をすっぽかして、俺達と過ごしたそうだな」
「あぁ、それは、オーシャンビューの見える部屋から、初日の出を見たかったからだ、父さん」
うん?頭を抱えている父さん。
「新ちゃん、蘭ちゃんは諦めなさい。新ちゃんに勝ち目は無いわよ」
母さんが妙なことを言う。
「何を言っているんだ、母さん。俺と蘭は大学を卒業したら、ゴールインするんだよ」
「新一、蘭君の気持ちは、そこに存在しているのか?」
「勿論だ。蘭が望んでいることを、俺が叶えるんだからな」
呆れた顔の母さんから1枚の紙キレを手渡された。なんだこれは?なになに…裁判所発行の接近禁止令?
「何、コレ?」
「今後、蘭ちゃんに接近することは禁止だからね。最接近でも5メートルは離れなさい」
なんで、こんな物が?一弥のヤツか?
「嵌められたのか?」
「冷静になってね、新ちゃん。これ、英里が裁判所に求めたのよ」
えっ!蘭の母親が?なんで?
「なんでだよ。母さんも妃弁護士も、俺と蘭が結ばれることを望んでいただろ?」
「新一、事情が変わったんだ。蘭君の心は違う青年に向いているそうだよ。お前、構わなすぎだぞ」
「ちょっと待てよ。アイツ前科者だぞ。蘭にふさわしい訳があるかっ!」
「それでも妃弁護士は彼を認めたんだ。新一、置かれた立場を認めなさい」
激高する俺に、父さんの冷静で冷たい言葉が突き刺さる。俺は、蘭にふられたのか?
◇
退院をして、家に帰ると、隣家の阿笠邸に、アイツと蘭では無い女性が阿笠博士と談笑していた。
「もう少し、エネルギー変換率が良くなりませんか?」
「そうじゃなぁ、これだと商売にはならんなぁ。どうするかな?」
「太陽光発電の方のエネルギー交換率を上げられますか?」
「そうじゃなぁ、そっちを改良してみるかな」
アイツ、阿笠博士に、何を依頼しているようだ。
「そこ!何をこそこそ見ているの?」
アイツの連れの女に見つかった。
「おぉ、新一じゃないか。そうじゃ、紹介しよう。彼は工藤新一じゃ、隣の家に住んでいてなぁ、父親は有名な小説家の工藤優作君で、母親は女優の工藤有希子さんじゃよ。で、こちらの女性が隣に越してきた宮野家の次女の志保さんで、彼は共同研究者の近藤一弥君じゃよ」
共同研究者?何の?そもそも粗暴なアイツが、研究者って嘘くさいんだが。
「あぁ、彼が、一弥の彼女のストーカーくんなのね。私をストーカーしたら、許さないからね!」
こえぇ女だな。うん?待てよ、今なんて言った?一弥の彼女のストーカー…接近禁止令って、俺が蘭のストーカーにされたのか?
「一弥!貴様…」
俺は懲りずに一弥に襲い掛かり、簡単に制圧された。
「コリねぇやつだな。高校生探偵って、こんなヤツばかりなのか?」
どういう意味だ?!
俺は、巡回していた巡査に引き取られ、警察へ連行された。
◇
「新一、いい加減にしろ。駄々っ子じゃ無いだろ?!」
両親に引き取られ、警察から家に戻った俺。
「アイツに嵌められたんだよ」
「何度も言うが、あれは妃弁護士の判断だ。高校生探偵として持ち上げられて、お前は傲慢になったのか?」
久しぶりに、父さんが激高する姿を見た気がする。これはマジに怒っているパターンである。
「更に繰り返すようであれば、お前を米国に連れ帰ることも検討する」
蘭に逢えなくなるじゃねぇか。
「そうよ、新ちゃん…蘭ちゃんのことは諦めなさいね」
諦められない。いや、蘭とゴールインすることにしているんだ。
「その目は、諦められないってことか?わかった。お前を連れて帰る。これは決定事項だ」
「ちょっと待てよ、父さん。一方的だろ?」
「お前を犯罪者にはしたくない。いいな、新一。これ以上、問題は起こすなよ」
問題を起こしているのは、一弥の方だろうが…
---坂本一弥---
塀の中にいる。これで前科2犯である。まったく、もぅ~。俺がいると、工藤新一が犯罪に走りかねないので、しばらく身を隠しておけって、公安の判断である。
その身の隠し場所が塀の中って…今回の罪状も過剰防衛だそうだ。ここの居心地は悪くない。絡まれるけど、返り討ちにして良いって言われている上、ここでは過剰防衛に当たらないので、ストレス発散、運動不足の解消には良い場所だ。難点は、食事が山の中より質素って、どういうことだ?
「また、新入りを返り討ちか?」
声を掛けてきたのは、銀龍会の若頭の雅って親父である。
「降りかかる火の粉は、排除する方針だよ」
雅は、俺のことを気に掛けてくれていた。息子が居れば、俺のようになっていたって。
「俺の息子は、18の時に、鉄砲玉に志願して、返り討ちにあって死んだんだよ」
「自分より、強いヤツを襲うからだよ」
「そうだな…」
どこからか仕入れたタバコを吸う雅。看守を味方にしているのか?
「おい!Gの13番、面会だぞ」
部屋番号で呼ばれる俺。ここでは名前で呼ばれない。面会場所に行くと、分厚アクリル板の向こうに、美和子と英里がいた。英里は俺の担当弁護士になっている。
「元気しているかな?」
美和子の声、久しぶりである。
「食事が恋しい…」
「探偵小僧が、蘭に乱暴をしようとして逮捕されたわ。これで、釈放決定だそうよ」
工藤新一が犯罪者にならないように、俺は収監されたのに、逮捕されたのか?
「何やっているんだ、アイツは…」
「接近禁止令を無視して、蘭に抱きついて、押し倒して、思いの丈をぶつけたそうよ。何をやってんだ、あの探偵小僧は」
あぁ、そうか。接近禁止令を破った時点で、お縄なのに、更に罪を重ねたのか。
「蘭は無事か?」
「股間を蹴り抜いて、意識を刈り取った上で、蘭が通報したのよ」
蘭らしいなぁ。
「手続きがあるから、釈放は2月14日になるそうよ。手作りチョコいる?」
「あ!言って無かったけど、俺、チョコアレルギーだから」
山にチョコは無い。産まれて初めて食べたのは、山を下りてから…身体の免役システムが完成した後に食べたせいか、身体が異物と判断して、アレルギーを発症してしまったようだ。
「食べられないの?じゃ、代わりに何がいい?」
英里がいる前で、美和子とは言え無いよな。流石の俺でも分かる危険シグナル。
「色が似ているから、羊羹がいいなぁ」
餡子系は大丈夫である。たぶん、お雑煮のおかげだろうな。
「羊羹ね。わかったわ、蘭に伝えておくわよ」
◇
身を切るような冷たい風が吹き抜ける日、俺は釈放された。門を出ると、笑顔の美和子が待っていた。俺は無言で、助手席に滑り込むと、車は走り出した。
「身体、冷え切っているの?」
「うん…今日は寒いよな?」
外に出て初めて気づいた。今日は雪だった。車は、いつものお城のような建物に吸い込まれて行った。2時間後、車で再移動を開始した。
「暖まったかな?」
「うん。美和子の身体は温かい。美和子の体温、好きだよ」
これが好きってことなのかな?車は蘭の家の前に停まり、俺だけが降り、美和子は仕事場へ走って行った。
「お帰りなさい、一弥」
蘭が俺を見るなり、抱きついてきた。温かくも柔らかい。美和子とは違う香りと感触である。
「ただいま…俺前科2犯だけど、いいのか?」
「うん、問題無いよ。ねぇ、お父さん、お母さん」
「私は問題無いと思うわ。あなたは?」
「俺か?俺は…これからも蘭を頼む、一弥」
蘭の両親に受け入れてもらった。いいのか、本当に…蘭からハート型の手作り羊羹を貰い、英里からはタイガー印の羊羹を貰った。
「さぁ、食事にしましょうね」
久しぶりの家庭料理、心が躍る。
---司波達也---
う~ん…どういうカラクリだ?アイツがまた、実刑を食らったようだ。少年Aの為、裁判記録が閲覧出来無いが、本当に裁判は行われているのか?疑問が多く浮かぶ。四葉家の研究施設であるFL情報センター…世界中の様々な情報を集めている施設である。四葉家は、この国の諜報活動を裏でサポートしている家系であるのだ。
一弥のことを詳しく調べようとするが、データが無い、若しくは閲覧制限が掛かっているのか、閲覧が出来無い。
手詰まりになった俺の頭に、閃きが舞い降りて来た。そうか、近藤一弥は偽名なのか。アイツの本名は坂本一弥なのか。
『閲覧制限 レベル5』
最高レベルの制限が掛かっていた。表に出せない情報があるようだ。アイツは、何者なんだ?
「若、どうしましたか?」
俺の所属するFLTの所長の牛山さんから声が掛かった。FTLとはフォーリーフテクノロジーの頭文字で、四葉技術研究所のことである。俺は、ここで若と呼ばれていた。叔母からの指名で、次期所長が内定しているのだった。
アイツのデータのことを話した。
「レベル5ですか…最重要機密ですね」
そうだと思う。問題はどこにとっての最重要機密かだな。
「どういう事が予想されるかな?」
「マジにヤバい情報でしょうね。あり得ないような…知れば命の保証が無いような」
そうなるよな。深い追いは危険だな。