---坂本一弥---
あのデートの日以来、家での蘭の行動は大胆になっていた。毎晩、寝る時に、俺のベッドに全裸で侵入したり、俺が風呂に入っていると、全裸で入ってきたり…いつか、蘭の父親に「出て行け!」って言われそうだよ。
俺が高校2年になったことで、下の妹のウザミンが高校1年生となって、入学してきた。家では見られない、才女っぷりである。因みに、コイツは家事以外はパーフェクト才女である。それに対し美優は、容姿端麗冷静沈着なお嬢様であり、才女ってイメージは無い。
学年も上がり、クラス分けがなされた。美優が掛け合ったのだろうか、俺と美優と蘭は同じクラスであった。あと、蘭の幼なじみ二人も同じクラスのようだ。美優が生徒会会長で学級委員になり、クラスをまとめている。ウザミンも学級委員になった模様だ。で、俺は相変わらずのボッチ…には、なれなかった。蘭が学校でも距離を近くしてきたのだ。蘭なら問題無いと、美優はスルーしているし。
そんなクラスに転校生が一人…
「世良真純といいます。よろしくお願いします」
色黒な少女。服部を思い出すので、苦手かもしれない。そして、放課後…
「なぁ、工藤新一君って、どいつだ?」
俺に訊いて来た世良。
「あのチャラい女に訊いてくれ」
と、園子を指差した。アイツの件には関わりたく無い。
「えっ?新一?今、学校には来ていないわよ。懲役6ヶ月だから、夏休み明けには出所するんじゃないかな?」
「工藤君って、何か犯罪をしたのか?」
「ストーカー…婦女暴行未遂よ。今じゃ、エロの権化って言われているわよ」
「まさか…あの高校生探偵が?」
ショックを受けている世良。さて、帰るか…仕事に行かないとな。この春から、安室さんは、蘭の家の下にある喫茶ポワロでバイトとして働いている。要は、俺の連絡要員って感じの潜入員であり、この辺りに潜って居る捜査員達のベース基地になるらしい。一仕事を終えてポワロに寄り、安室さんに今日の収穫物を渡した。
「結構、狩ったなぁ」
「春先は獲物が多い。俺の顔を知らないヤツも多いからね」
当面のお小遣いに困らない程度、稼げた。
「ケーキセット、ブラックで」
「毎度」
安室さんの作る手作りケーキが人気であり、女性客がチラホラいる。
カランコロン
「あっ!一弥いたんだ」
ドアベルが鳴り、蘭が来たようだ。振り向くと、園子とあの色黒少女も一緒だった。
「へぇ~、ここのケーキって有名なのか」
世良が店内を見回している。あっ?世良…もしかして…
「世良!世良って、メアリー・世良の関係者か?」
「どうして、それを…」
動揺している世良。もしかして、娘か?
「食い終わったら、一緒にきてくれ。逢わせたい人物がいるんだ」
「だ、だ、誰だい?」
「世良が、メアリー・世良の娘なら、お前の従姉妹だよ」
「従姉妹?」
驚いている世良。
「君は探偵なのか?」
「俺は只の前科者だよ」
◇
ケーキセットを食った世良を、宮野家の人々に引き合わせた。
「へぇ~、姉さんの子供なの?」
先生がガン見している。先生の圧力に怯えている世良。
「ママを知っているの?」
「うん、私は妹よ。ねぇ、姉さんはどこ?」
「えぇ…っと…あのですね…」
戸惑っている世良。言え無いのか?
「こんにちわ…あれ?真純か?」
秀一がやってきた。
「え?シュウ兄?シュウ兄なの?」
そうか…世良が明美の従姉妹ならば、秀一は世良の兄になるのか。
「母さんはどこだ?元に戻せるんだよ」
「ほ、ほ、本当に?」
「あぁ」
◇
志保の作った薬で、元に戻った世良の母親。幼児姿からは想像も出来ないくらいのダイナマイトボディであった。
「一弥…巨乳は苦手?」
志保に訊かれた。
「初めてみたよ。こんなに大きな胸…」
胸の存在感に呆気にとられている俺。あぁ、悪夢に出てきそうだ。
「姉さん、起きてしまったことは、どうにもならないわ。あの組織はもう無いんだからね」
「無い?無くなっても、実行犯はいるでしょ?私は主人の…務武さんの復讐をしたいのよ」
なんか、聞いちゃダメな話のようだが、帰る機会を逸した俺。
「そうは言うけど、組織が無くなった以上、実行犯は分からないわよ。そうでしょ、秀一さん」
「あぁ、分からない。FBIの捜査でも分からなかったよ」
秀一はFBIの潜入捜査員だそうで、潜入していた四葉銀行で明美と知り合い、付き合い始めたのだが、その後に従姉妹同士だと言うことが判明し、結婚を前提としないお付き合いをしている。今は、潜入捜査員を辞し、日本支局の捜査員になったそうだ。
手持ち無沙汰の俺に気づき、志保が俺を家から出してくれた。
「寄り道をしないで、帰りなさいね」
俺のアネキのように振る舞う、ツンデレ志保。嫌いでは無い。
◇
翌日…世良が俺に近づいてきて、
「昨日はサンキューな。ボクのことは、真純と呼んでくれていいよ」
「あの~、お兄様に馴れ馴れしくしないでくださいますか!」
美優のセンサーに引っかかった真純。美優の言葉に戸惑っている。
「美優と姓が違うが、俺の妹だ」
「そうなのか?似ていないなぁ」
「ああ、俺、養子縁組だから…」
「なるほど…」
美優のやつ、ブラコンから卒業してくれないかな?ガールフレンドが増えないんだけど…
---司波達也---
学年が上がっても、深雪はアイツのことを思い続けていた。それも病的に…
「今度いつ会えるのでしょうか?頻繁に会いに行ったら、ご迷惑になりそうだし」
「達也君、深雪さんは相変わらずのようね」
真由美さんが、大学の帰りに様子を見にやってきた。
「成績に影響が出始めているんですよ。困ったものです」
集中力が欠如している深雪。
「恋愛は不治の病っていうけど、重症よね」
「そう思います」
どうすれば良いんだ?
「そうだわ!お兄様、真由美先輩と結婚なさってください。そうすれば、私はジャマ者、一弥君と一緒に暮らす口実が出来ます」
おいおい…
「仮に達也君と結婚しても、深雪さんはジャマではないですよ。同居しましょうよ」
何故、真由美さんは深雪の戯言に乗るんだ?
----黒羽千影---
迂闊だった。私が狙われていたとは…黒尽くめの男達に拉致された。コイツらは何者なんだ?
「お前、ファントムレディだろ?」
正体がばれているのか。着ている物を脱がされていく。全裸にされた後、何かの台の上に載せられ、手首と足首を鎖で固定されていく。
「さて、特製の自白剤を何本使えば、吐くかな」
手に注射器を持つ男がヘラヘラ笑いながら言う。
「まず1本目…」
「うごっ…」
一番敏感な部分に注射をした男。一瞬で意識を持って行かれる。マズイ、聞き出す気は無いようだ。
「あれあれ、もうすごいことになっているな。2本目っと」
「うぅぅぅ~」
乳首に打ち込んできた。下腹部がエライことになっている感触がある。
「助けて…」
「なら、とっと吐けよ」
「何を?」
「3本目…」
「いやぁぁぁぁ~」
これ…自白剤では無い。媚薬系だ。悶々としていく。膣が痙攣しているようだ。
「なぁ、坂本家から盗んだ物を出せ。どこにあるんだ?4本目…」
「だめぇぇぇぇぇぇ~」
坂本家から盗んだ物?なんだっけ…思い出せない。身体が何かを求め、思考力が無くなっていく。
---黒羽快斗---
学校から家に戻ると、玄関の前にスーツケースが置いてあった。持ち上げると、結構重い。耳を澄ませて、中の音を聞くが、何も聞こえない。爆弾か?いや、俺の家の玄関に仕掛ける意味が分からない。玄関から家の中に入れて、スーツケースの解錠作業を始めた。だが、ピッキングをしても内部の錠前がピクリとも動かない。どうやって開けるんだ?
スーツケースをよくよく見ると、光の当たり具合で、文字が浮かび上がった。
『賞味期限0時まで』
と、文字が書かれている。これって、今日の0時までだろうな。今18時だから、後6時間かぁ。スーツケースを持って、隠し部屋へ向かった。ここなら、工具があり、スーツケースをバラすことが出来る。問題は中身である。重い物…なんだろうか?重量計で計って見ると、50キロ前後ある。その時、脳裏に嫌な物が浮かんだ。賞味期限…まさかなぁ。X線撮影機で中を見る。予感的中である。誰かが入っているようだ。胸の部分に膨らみがある。女性のようだ。賞味期限って内部の酸素量かっ。早く出さないとヤバいぞ。
内部には人体以外に物は無いようだ。取り敢えずは、取り出せば良いみたいだ。ケースを斬るのが手軽であるが、素材の厚みが分からない。中の人ごと斬る危険がある。どうするかな。
『奪った物を返せば、開けてやる』
スーツケースから音声が聞こえた。奪った物?
「それは何だ?」
スーツケースから返答は無い。きっと、内容物は母さんだ。母さんがどこからか盗んだ物を返せって言っているのだろう。それが何かを俺は知らない。ケースを開けることに専念するか。ちょっとずつ焼き切るか?ライターで炙ってみるが、表面に変化は無い。焼き切れないのか?電熱線を当てるが、変化しない。ナイフで削ってみるが、逆にナイフの刃が削れている。なんだ、この材質は…
こんな時、工藤がいればなぁ…アイツ、性犯罪で今収監中だしなぁ。後、頼れるのは誰だ?白馬…ダメだ、アイツは警察関係者だ。盗品が絡んでいるんだ、知られると厄介だ。
刻一刻と時間が過ぎていく。固い物を斬るには…そうだ!高周波ブレードはどうだ。倉庫へ行き、高周波ブレードを持ち出して来た。これでどうだ?!おぉ~、刃も削れるが、スーツケースも削れている。母さんを斬らないように、スーツケースに切れ込みを入れて…タイムアップ5分前に、開けることが出来た。
目の前にいる母さんの姿を見て呆然としている俺。拷問を受けたようだ。脈はあるので生きているが、意識は無い。下腹部が異常に濡れている。媚薬を盛られたのか?母さんを抱き上げ、お風呂場へ…隠し部屋から出ると、家の中は酷い状況だった。家捜しをされたようだ。母さんをあんな目に遭わせたのは、家捜しする時間を稼ぐ為か…湧き上がる怒りを抑えて、お風呂場に行き、母さんを洗っていく。
洗い上がった母さんをタオルで拭き、布団の上に置いた。全身を調べるが、注射痕の後が分からない。一体、どの位打ち込まれると、あんな酷い状況になるんだ?あっ!舌先に注射痕を見つけた。乳首の先端、一番敏感な部分にも…ひでぇ事をしやがって…誰だ、こんなマネをしたのは。
隠し部屋に向かい、スーツケースを調べることにした。だが…隠し部屋も家捜しされたようで、酷い散らかり具合で、あのスーツケースは無くなっていた。
完全に、俺は踊らされていたようだ。敵は、隠し部屋への入り口を見つける為に、母さんを閉じ込めたのだろう。
「くそっ!」
◇
昔、父さんの弟子だったシャロン・ヴィンヤードに連絡を取った。彼女は日本と米国の裏世界のことに詳しいからだ。その結果、米花町にある宮野医院に連れて行けと指示された。そこは、裏の世界の人間も治療してくれる貴重な医院だそうだ。俺は、母さんをスーツケースに詰め、宮野医院へと向かった。
「解毒剤は打ったわ。当分、入院してもらうわよ」
事情を話すと、診察して、治療をしてくれた。
「ファントムレディも焼きが回ったわね。こんな姿にされるとは…」
母さんを知っているような発言をする先生。
「誰がやったと思いますか?」
「復讐は流行らないわよ」
「だけど…」
「もっと、クールに生きなさいね。初代キッドのようにね」
父さんのことも知っているのか…
「母さんは何を盗んだと思いますか?」
「そうねぇ~。この手口からすると、警告じゃないかな」
「警告?」
「今後、坂本家へ盗みに入るなよって。きっと、その組織が、坂本家を狙っているんでしょうね。だから、彼女には自白剤を使わず、強力な媚薬漬けにしたとか…わかっている?君への警告だよ。二代目キッド君」
俺への警告…坂本家に盗みに入ったことは無いけど…そこにビックジュエルがあるのか…
コンコン
「一弥です」
「あぁ、入って」
ドアから、俺と同じく位の男子が入って来た。
「一弥、紹介するわ。彼は黒羽快斗君よ。今度、相談に乗ってあげてね。快斗君、彼は近藤一弥、君の相談役にするわ。今度は、彼に相談しなさいね」
近藤一弥?誰だ、コイツ。
「相談って?」
「快斗君はねぇ、命を狙われているの。一弥はガードのお仕事が好きでしょ?」
「好きってことは無いよ。快斗、よろしくな」
俺は怪盗キッドであることを隠し、近藤一弥と友人になった。
---坂本一弥---
宮野医院の庭で、真純と組手をしている。戦闘能力はそれなりにあるようだ。だけど、変化球には弱そうだ。真純のガードをかいくぐって、胸にタッチする。
「おい!お前…何を…」
隙が生じたので、膝裏に蹴りを入れ、地面に腹ばいにし、背中に乗る。
「貴様、卑怯だぞ!」
「真剣な殺し合いであれば、お前、犯されて遊ばれるぞ」
真純から離れた。
「くそっ!もう一本だ」
「一弥、妹に手荒なマネをするなよ」
俺達の組手を見ていた秀一に言われた。
「でも、弄ばれるなら生き残るチャンスは増える。男なら、あの時点で首を斬られるし」
「そうかもしれないな。真純、女であることを忘れて戦え」
秀一は俺の言いたいことが分かったようだ。戦いにおいて、動揺は死に繋がるのだ。
「わかったよ、シュウ兄。さぁ、もう一本だ」