婚約破棄された私を会社の上司である常務が溺愛してくるんですけど、 作:EMO
「おはようございます常務」
「おはよう土居君。
今日も頼む」
「はい、では今日のスケジュールから……」
常務の執務机の前に立ちスケジュールを確認する。
いつもと変わらない挨拶と雰囲気に私は安心した。
先週末の事が夢だったかの様に仕事が進んで行く。
常務も私に対して過度な意識をしてこないので助かった。
でもちょっとだけ残念なような気がする。
そんな日々が続き常務との事が有耶無耶になりそうになったある日、
「土居君、週末にフランス人の友人の家でガーデンパーティーがある」
「はい、存じております」
「それに君も参加してくれ。
俺のパートナーとして」
「はい?
私がですか?
何時もはお一人で参加されるのをお珍しいですね」
「ああ、今回は特別なんだ。
頼む」
「はい、分かりました。
ドレスコードはありますか?」
「そうだな、
フォーマルって事はかなりのお偉いさんが見えられるパーティーって事ね。
常務の友人って言っても殆どが取引先絡みで仕事が八割のパーティーだ。
私も秘書の役割としてこう言うパーティーにはたまに参加している。
そして、その場の私の役割は挨拶した方々の名前と役職を覚える事なのだ。
パーティー会場で名刺交換なんて野暮な事は出来ない。
そして週末になりハイヤーでパーティー会場でもある家に向かった。
その家と言うより屋敷には既に色とりどりに着飾ったゲストが多数いらっしゃった。
私もフォーマルと言う事だったので青色のアフタヌーンドレスを着て常務の隣に立った。
今回のパーティーはホストである方の婚約披露パーティーらしくおめでたい雰囲気が漂っていた。
『クロード、エマ婚約おめでとう』
『ありがとうマサ。
彼女が例の?』
『ああ、やっと捕まえたよ』
『残念だよ。
君がまだだったら強引に僕の妹を娶らせようと思ってたのに』
『だから今日連れて来たんだ』
『はははっ、負けたよ。
マサ、彼女を大切にな。
僕の妹以上に大切だって言い切ったんだから僕を失望させないでくれよ』
うーん、早口のフランス語はよく分からない。
ところどころに知ってるフレーズがあるけど何か和やかだからニコニコしてたら構わないかな?
パーティーは滞りなく進み終盤になり、
『この泥棒猫っ!』
って言われてドレスにシャンパンを掛けられた。
はぃぃ?
誰が泥棒猫だっ!
シャンパンを掛けてきたのは長い金髪のお人形さんみたいな綺麗な女性だった。
年の頃は二十二、三才?
外国人の年齢は全く分からない。
『はぁ?
誰が泥棒猫よっ!
あんたねぇ、いきなり人にシャンパンを掛けるなんて失礼じゃないのっ!』
って英語で言いながら手に持ったシャンパンを金髪女に掛けてやった。だってフランス語でのケンカはやった事ないし早口だから余計に分からないから。
『な、な、何してくれたのよっ!』
相手がフランス語で喚きながら掴み掛かってきたからスッと横にステップを踏んで避けてやったわ。ついでに足を掛けて転ばしてやった。
『ふんっ!
先に手を出したアンタが悪い』
『何をぉぉぉっ!』
起き上がった金髪女が私の腰にタックルをしてきたのでその場に一緒に倒れた。
マウントを取った金髪女が私を殴ろうとした瞬間に金髪女が背後から羽交い締めにされて私の上から剥がされた。
『ソフィーやめないかっ!
お客様に失礼だろっ!』
『ふんっ!
あの泥棒猫が悪いのよ。
私からマサを取ったんだから』
最初に挨拶したホストのクロードさんが必死になって金髪女を止めてる。
何やらクロードさんの身内の様だけど……。
で、ウチの常務はと言うとポカンとして私達を見ているだけだった。
って、今気付いた。
周りは私達二人のキャットファイトを興味深そうに観てヒソヒソ言ってる……やってしまった……。
私達と金髪女はクロードさんに案内されて屋敷内に連れてこられた。
ちょっとした客室に通された私はシャワー浴びさせて貰い用意されていたドレスに着替えてから屋敷のメイドさんに髪の毛を結い直して貰い尚且つメイクまでして貰った。
その間常務は応接室でクロードさんと何やら話していたようだ。
「お待たせしました」
応接室に入ると常務がビックリしていた。
どうせ私じゃないですよっ!
そうなんだよね。
この屋敷のメイドさんのメイク術って凄いんだよ。
なんて言うか私じゃないみたいに綺麗な人が鏡の中にいたんだ。
借り物の緑色のドレスに映えるメイクなんだよね。
「凄く綺麗だ……惚れ直した……。
改めて言う。
俺と付き合ってくれ」
「それをこの場で言いますか?
まだ保留です」
「へっ?
何よアンタまだマサと付き合って無かったの?」
金髪女が流暢な日本語を話しながら応接室に入ってきた。
「こらっ、ソフィー。
まずは謝りなさい」
クロードさんが金髪女を呼びつけてから私に頭を下げさせた。
「ふんっ!
悪かったわねっ!」
謝るからは程遠い態度だけどこのソフィーと言う金髪女に合っている態度だから何故だか許せた。
「はい、謝罪は受けましたわ。
私は土居香奈美と申します。
あなたお名前は?」
「マリー=ソフィア・ドロレアックよ。
ソフィーでいいわ。
宜しくカナミ」
ソフィーが手を出したので仲直りの握手をした。
「それでは今回の原因の常務、説明してくれますよね?」
私はソファーに座っている常務に向かって見下ろす形で睨み付けた。
「い、いや……別に……俺が付き合ってる女性だと香奈美をクロードに紹介したらソフィーが……」
「マサっ、おかしいじゃないっ!
カナミはまだ付き合ってないって、保留だって言ってたわよね。
だったらまだ私にもチャンスはあるわよねっ!」
「い、いや君は……」
「何よっ、まだ年の差なんて言ってるのっ?
大丈夫よっ、二十才差なんて関係ないから」
「ソ、ソフィーは十六才なの?」
なんと私とも一回り違うとは……外国人の年齢って……。結局は歳が離れ過ぎてると感じた常務がソフィーとのお付き合いを断ったのが原因みたいで、断り方も曖昧だったようね。
「そうよ、カナミとも少ししか違わない筈よっ!」
「あ、あのね……私……もう二十八才なの……」
なんちゅう羞恥プレイ……何故みんなの前で歳を暴露せにゃならんのだっ!
「へっ?
カナミってそんな歳なの?
羨ましいわぁー、その歳でこんなに荒れてない綺麗な肌してるし。
はぁー、叶わないわね……。
でも恋敵って事は変わらないからね」
何故かいきなり恋敵宣言されてしまった。
「はい、頑張りましょう」
「うがぁー、大人の余裕ってムカつくわぁー」
ソフィーがまた暴れだした。
「まあ、何にせよソフィーとカナミが仲良くなってよかった。
カナミ、ソフィーの事も宜しくね」
「はい、クロード様」
「しかし、カナミは強いね。
この通り気の強いソフィーに負けずに向かって行く女性を初めて見たよ」
「ははは……」
苦笑いしか出てこない……私もまさか十六才の少女とキャットファイトするなんて思ってもみなかったし。
私も元々気が強い方だしね。
そんな感じでパーティーが終わった。
そして、一部のセレブの間で私が有名になっている事はこの時の私は知る由もなかった。
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