1.キリギリスは楽園の夢を見るか。
鈴虫の鳴き声が秋の訪れを感じさせる11月、僕は親戚から借りた自室で田崎さんに言い寄られていた。
「馨くん、かっこいいんやって……。それに、タコパしたらこういうの、自然な流れやろ?」
そう行って田崎さんは僕のことをベッドに器用に押し倒す。
田崎さんの距離が、普段と違って断然近い。
――――当たり前だ、僕はこれからセックスしたい田崎さんに言い寄られているのだから。
セックス。
まぐわい。
男女の契り。
肉体関係。
言い方はどれでもいいが、もし僕がバンドメンバーと、そういう中になったら、周りのメンバーはどのように言うだろうか……。
金田は間違いなく嫉妬するだろう、めぐるさんは対照的に『ふーん』と言って何も言わなさそうだ。
三日月は……、
――――分からない。同じくボーカルの水野季沙も全然読めない。
ただ、水野季沙は音楽にはとことんストイックで、それ以外は対照的にズボラなことから、あまり何も言わなさそうだ。
そう考えていると、
「ねぇ、馨くん。今はウチだけのこと見て? 考えことは……」
――――無しやで?
そう言って京香さんは、考え事をしている僕の思考を遮るように、僕の唇に優しく接吻してくれる。
京香さんのリップに塗ってあるグロスが艶めかしく薄暗い照明の中でも光り、否応無く僕に現実を突きつけてくる。
僕が京香さんに言い寄られていること。
そして……、
――――この冷静沈着な僕が、冷静な思考とは裏腹に、肉体的には発情していること。
京香さんは優しくズボン越しに僕の陰茎を撫でる。
すると、僕の肉体の興奮に気づいたように、その柔らかい表情をより嬉しそうな表情に変えた。
「お姉さん、嬉しいんやで。馨くん、こう言うこと興味なさそうなのに、私にそういう興味を持っていてくれていること……」
そう言って、京香さんはさらに僕にのしかかり、僕の肉体とは別に動く思考を無視して、僕にさらにしなだれてくる。
こうなると、僕は覚悟を決めた。
その気がそっちなら、僕もそうしよう。
だから、観念した。
毒くらわば皿まで!
だが、決して京香さんが毒、と言うわけではない。
京香さんの唇に僕もキスを仕返した。
なんだかマナーのような気がして目をつぶっているが、京香さんの動揺が重ねあわせた肌を通して伝わってくる気がする。
……直感でしかないが。
そうして、互いに唾液を交換する。
若干だけれども、田崎さんのだ液は先ほどやったたこ焼きパーティーのお好みソースの味がした。
なんだかそんなことが少し面白くて、思わず口を離してしまった。
「どないしたの?」
「いえ、思いの外キスが気持ちよくてびっくりしました」
ーーお好みソースの味がして面白かったので、思わず唇を離してしまいました、なんてことは当然言えない。
「ふふっ。こう言うの、初めて?」
そう言う田崎さんは余裕ありげにこちらに微笑んでいる。
僕は先ほどのメンバーからの評価が~……、とかそう言う思考はもう吹っ飛び、その優しい表情に胸がどきりとしていた。
僕は先の質問に対し、頷く。
「ほな、お姉ちゃんに任してな」
そう言って田崎さんは僕にバンザイポーズをさせ、あっと言う間に、ベッドに座る裸の男女二人が出来上がった。
「ふふっ」
そう言って田崎さんは僕をベッドに横たえ、田崎さんは僕の股間の上に馬乗りになった。
「そのまま、リラックスしてな」
そう言って田崎さんは僕の唇と再度軽く接吻を交わす。
数秒、あるいは数十秒か、田崎さんは僕と口づけを交わした後、その唇を離した。
僕と田崎さんの間に銀色の端がかかり、そして落ちた。
それがヒヤリ、とした感覚になって僕の肌に降り立つ、その冷感が僕の股間の上に乗っている田崎さんとの体温を著しく意識させる。
田崎さんは、僕の唇にキスをした後、だんだんと、僕の体の中心部に向かっていくように、キスをしている。
ちゅっ、ちゅっ、と言う音が静かな室内に響き渡り、僕の皮膚や耳朶すらも通して僕の性感を刺激する。
あまりに艶かしい生の感覚、これから期待をしている肉体は田崎さんのこれからに期待し、僕の意思とは別に、うぁあっ!と男なのに情けない声を上げてしまう。
先ほど自己主張をしていた僕の肉棒がさらに自己主張をするようになった。
そんな田崎さんは僕のことを嬉しそうにニヤリ、とすると、キスの方向もだんだんと股間の方向に向かっていく。
「おっきいねぇ……。馨くんも男の子やもんねえ」
そう言って、田崎さんは僕の肉棒を丁寧に舐めだした。
期待していたが、いざ舐められるとなると、実際には恥ずかしい。
羞恥のあまり、顔まわりが熱くなるのを感じる。
部屋の明かりは落としているが、この焦りが京香さんに伝わってしまわないか不安になる。
「そ、そんなとこ舐めないでいいですからっ……!む、蒸れてますし……!」
僕はそう言って京香さんを止めようとするが、
「何で?別にええやん、気持ちいいやろ?」
――――それに別に蒸れてないで?
そう言ってニヤニヤしながら僕の睾丸と裏筋を丁寧にいじり、僕を文字通り手玉にとっている。
「それに、全然蒸れてないで? 気にしなくてええのに」
京香さん僕の焦りを全く気にすることなく再び、僕の肉棒をフェラチオしてくれる。
そうして、丹念に竿の先がわ、根元、睾丸を舐めると、僕の上にまたがる。
僕のことをじっと見つめ、
「馨くんの童貞、うちがもらったわ」
そう嬉しそうに僕の上にまたがると、片手で自分の陰唇を広げ、僕の肉棒を挿しこみ、そのまま腰を下ろした。
「んっ、んっ……!」
「うぁあっ!」
京香さんの中はすでに十分濡れぼそっており、スムーズな挿入が行われた。
普段パワフルにドラムを叩くのに京香さんの体格は小さく、体格に見合った小さい膣穴が僕のペニスを締め上げ、射精に導こうとしている。
「舐めてた時にわかってたけど、馨くん、大っきいねぇ」
京香さんはそう言って、僕のペニスの大きさを褒めてくれる。
何だか僕は雄としての優越感を覚え、まだ射精に至っていないのに、その言葉だけで精神的に大きく満たされた。
「ほな、動くからな」
そう優しく僕に語りかけた京香さんはその言葉とは裏腹に、激しい騎乗位を僕の上で開始する。
ぐっちゅ、ぐっちゅ、と僕の先走り液と京香さんから滲み出てくる愛液が僕の股をヌルヌルと滑り、こぼれ落ちていく。
ギシギシとあまりのベッドの軋みに不安になってしまうが、今日は金田と三日月は下の部屋にいないんだった。
そんなことを思いながら、目の前の京香さんに目を向ける。
京香さんはそんな僕のよそへ行ってしまった思考などつゆ知らず、僕とのセックスを楽しんでくれているようだ。
「あっ!んぁっ!あんっ、ああんっ!」
その小さな身長とは相対する大きなおっぱいが僕の目の前で激しく上下に揺れている。
もうその光景だけで眼福ものだった、それが僕のスイッチを入れたのか、僕は思わず京香さんの腰を掴んだ。
「なっ、何を……!ふぁんっ!ひぁっ!」
僕は京香さんの腰を掴み、獣のようにセックスを始めた。
ゴツゴツとした、互いの骨盤を抽送によって、バチン、バチンとぶつけ合う。
そんな荒々しいセックスに京香さんは余裕がないのか、顔が紅潮し、汗が飛び散り、愛液もより分泌量を増していた。
「ふぁっ!ああんっ、ひぁんっ!んんっ!いいっ!いいよっ!馨くんっ!う、ウチっ!イキそうっ!」
そう京香さんは秋だというのに、大変に汗をかいたその暖かい体温を僕のペニスを通じて僕の性感を昂らせながら、僕にイキそうな旨伝えてくれる。
僕はそれに同調し、性感の高まりを最大限に凝縮した後、田崎さんの中に僕の精を盛大に吐き出した。
ぶびゅーっ!どぴゅどぴゅっー!どぴゅぴゅぴゅーっ!びゅびゅびゅーっ!びゅびゅーっ!
「あっ!ふあっ、ああっ、イっ……!イクーっ!」
田崎さんも同じタイミングでイッたようだ、どぱっと、ペニスを通して田崎さんの中から一挙に愛液が放出されるのを感じた。
田崎さんはぐったりとして、僕の胸板の上に倒れこむ。
田崎さんのその大きくて柔らかい胸が僕の胸板を刺激する。
ふう、ふう、と息を整えている田崎さんは当たり前なのだが、とても女の子らしくて、素晴らしい女性とまぐわえたことに僕の雄としての満足感を満たす。
それはバンドリーダーとしての僕ではなく、一人の男としての僕の感情だった。
満足な気持ちに一方で不安を感じる自分もいる。
――――バンドメンバーを抱く
――――それによってメンバーとの関係性が変わり、音楽性が変化するかもしれない
その点だけが不安だった。
でも、先ほどのように、これはこれで悪くないのかもしれない。
僕も記事を書くのに同行するようになって気づいたことだが、ファンも含めてこうして女性を抱きたいがためにバンドをやっている人たちもいる。
そして何より人間として、雄として、女性とまぐわうというのは何一つ恥じることのないことだ。
僕の胸の上で呼吸を整えた田崎さんが僕を笑顔で見据える。
「えへへ、気持ちよかったで」
その屈託のない笑顔が、僕のバンドメンバーとの関係性や音楽性が……、といった不安を一挙にかき消してくれた。
「ありがとうございます、僕も気持ちよかったです」
「敬語、辞めたらどう? もうそういう仲じゃないよ、ウチら」
京香は前々から僕に敬語を使われるのが嫌だったようだし、これを気に変えてみてもいいだろう。
「わかったよ。……京香」
その『京香』、の一言で一気に京香の雰囲気が柔和になった。
「そうそう、それでええんやで、馨」
そう言って僕のことを呼び捨てにしてくる京香は今までで一番いい笑顔をしていた。
何だか獣のように腰を振っていた時もあったが、僕はそのように腰を振っていた点が少し後悔している。
これではただの獣ではないのか?
僕に京香への愛情の感情はあるのか?
ただ流されているだけではないのか?
そこを自問自答してしまう。
だが、人間とは獣の外張りの名前ではないのか、と考えなくもない。
先ほど僕は京香の肉体に目を奪われ、獣のように腰を振ってしまった。
一番大事なのは京香への感情だと思うが、本当にそれが自分の中にあるのか、わからない。
何しろ自分の中に何があるのかすらわかっていないまま、この音楽業界へ学校をやめて飛び込むような人間なんだ、僕は。
わからないのも当然だ。
しかし、それは京香への不義理にあたらないのか?
ならば自分の中の感情を確認することは京香への義務でないのか?
………
……
…
考えてしまうことは山ほどある。
自分でも結論が下せない、どうしたらいいのか……。
そうぐるぐると自分の中の思考が堂々巡りをしていると、
――僕は気がついたら、眠りに落ちていた。
ムジクスはいいぞ!!!!