翌日、課長代理と一緒に出勤すると驚かれた。
一緒の事ではなく、私の容姿について……。
まず、従業員出入り口の警備員さんに止められ、入館証の確認と免許証の提示を求められた。
課長代理が本人だと証明してくれてやっと中に入れた。
私ってそんなに変わった?
そして、更衣室では『誰よコイツっ!』って言う目で見られ、首から名札を付けた瞬間に驚かれる。
フロアーミーティングでは、新人扱いされ男性社員から懇切丁寧な案内を受けた。
課長代理が暴露するまでは私と気づいた男性社員は皆無だった。
この日も休み前と同じ事が起こった。
各フロアーから交代交代で人が来た。
今度は男性陣が『嘘だろう。こんな事ならもっと早くに口説いてたら……』って言いながら去って行くのだった。
あんたら暇なんですか?
そして、昼休みに恒例の女子から拉致られ更衣室で尋問を受けた。
「あなたっ!
どんな整形したのっ!
一日で変わり過ぎよっ!
教えなさいっ!」
美容部員の女子連中からの突き上げがキツかった。
だから、課長代理が連れていってくれたヘアーサロン兼メイクスタジオを教えた。
すると、全員膝から崩れ落ちた。
なんでも、あそこは完全予約制で一見さんお断りの店で芸能人御用達の店だったそうだ。
課長代理って何者?
しかし、人って容姿が変わるだけで話し方や雰囲気が変わるもので、私のこの日の売り上げが過去最高になった。
今までの常連さんも変わった私を見て驚いていたけど喜んでくれた。
『あなたにもやっと春がきたのね。』って。
『今のあなたから勧められる服って私の事を見て選んでくれてるって気がするわ。』って。
涙が出た。
今まで、下を向いて来た……。
元彼からされた仕打ちを忘れようとして、自分を殺してた……。
だけど、こんな私を見てくれてる人もいたんだ……。
私は、色々な人を見ながら接客をして服を売る仕事をしてるんだ。
マイナスの気持ちをしてる人間から誰が物を買うか!
私もプラスに考えよう、課長代理のように……肉食獣だけど……。
「やっぱり有希って最高だ。
今までの有希も良かったけど今の有希も良いよ。
いきいき仕事をしてる姿は素敵だったよ。
有希の本当の実力が発揮出来る様に僕も頑張るからね」
その日の夜にベッドの上の私に課長代理が微笑みキスしてきた。
って、何?
今日も課長代理のマンションに来てるし。
ダメだ、このままだとなし崩し的に同棲させられる……。
「有希っ!
明日から浴衣まつりだよっ!」
「はい、知ってます。」
「有希も着るんだよね。」
「着ませんよ。
もう、二十八ですから流石に浴衣は……」
「えっ!えぇぇーっっ!」
課長代理がこの世の終わりの様に膝から崩れ落ちた。
この店では、毎年恒例の浴衣まつりがある。
夏の初めの一週間だけ男女問わず浴衣を着て接客をするの。
もちろん涼しさの演出と浴衣などの夏物の宣伝を兼ねてね。
でも、必ず全員が着なければならない訳ではない。
今年は、いえ最近は色々ありすぎて私自身が目立ち過ぎてる気がするからちょっと控えようと思った。
やっと最近になって課長代理とのお付き合いがみんなに浸透して、嫉妬の目も柔らかくなってきたから……。
触らぬ神に祟りなしってやつで。
「せっかく有希をミス浴衣にエントリーしたのにぃぃ。
有希なら優勝も楽勝だと思ったのにー」
そう、私が浴衣を着たくない最大の理由がコレだ。
この店ではミス浴衣って言うコンテストがある。
時代錯誤のコンテストに思えるけど意外と人気企画だったりする。
もちろん対になるミスター浴衣コンテストもある。
どちらもエントリーした男女に投票するシステムで、去年の女子は美容部の椎名さんが優勝して、男子は紳士服売り場の藤田さんが優勝した。
ちなみにそれが縁で二人は付き合っている。
課長代理は殿堂入りしてるのでエントリー出来ないそうだ。
で、それに私をエントリーした事を知ったので浴衣を着ない事にしたのだ。
「有希ぃぃ、お願いっ!
浴衣を着て下さいっ!」
「嫌です。
ミス浴衣なんかに出たらみんなに何言われるか……。
せめてエントリーしてなければ着たかもしれませんけど。」
「えっ、じゃあエントリー止めたら着てくれる?」
「えっ?
ええ…まあ……」
「やったぁー、直ぐエントリー止めてくるっ!」
えっ?えっ?
目的は私に浴衣を着せるため?
でも、店で着る浴衣ってお財布にきついんだよね。
毎日同じ浴衣を着たら一着しか持ってないってバレるから最低は三着を着回ししないといけない。
更に、アクセサリー類や小物、帯に至るまで数種類揃えないといけないんだぁっ!
この時期は女の意地の見せ合いの時期でもあるんだよ。
男連中は気付いてないけど……。
で、私の逃げ場を塞いだ肉食獣が戻ってきた。
「エントリー取り止めて来た。
これで有希は浴衣を着てくれるよね」
課長代理が嬉々として浴衣とアクセ類を抱えて戻ってきた。
遅めの昼休みの社食には少なからずの人がいる。
さっきからのやりとりを見ていたギャラリーが興味深そうにしている。
「これっ!
有希なら似合うかなって……。
全部プレゼントねっ!」
だ・か・ら・目立ちたくないんだって。
いくら、店頭ではなくても時と場合があるでしょう?
「「「「「はぁーっ!」」」」」
ギャラリーの女性は羨ましそうに、男性は感心したように溜息をついた。
翌日からの浴衣まつりに私は水色地に花柄の浴衣を着た。
もちろん店の更衣室で着替えてからだけど。
メイクは肌色薄めのファンデに水色のアイシャドー、ピンクのリップで雪女のイメージだ。
髪はアップにして纏めた。
もっと若々しいメイクも考えたけど、年相応って事で。
「綺麗っ……。
はぁーっ!
大人の女って感じですね。」
同じ派遣の
香織ちゃんって言っても私とは二つ下だけだ。
でも、プロヘルパー歴は私より長くベテランさんだ。
入った当初はかなり厳しく教えて貰った。
課長代理と付き合う事を最初に報告したのも香織ちゃんだ。
もちろん凄く喜んでくれた。
香織ちゃんもピンク地に幾何学模様の不思議な浴衣を着ている。
元々スレンダーな彼女には凄く似合っている。
ちなみに、香織ちゃんの彼氏さんは消防士さんで細マッチョだ。
いつも写メを送り合ってるラブラブカップルです。
「香織ちゃんも可愛いじゃないですか。
彼氏さんに見せないと……」
「もう見せましたよ。
直ぐに脱がされたけど……」
その先は言わなくても分かるわ……。
香織ちゃんも私も真っ赤になった。
「……そうです、この百貨店では毎年恒例の浴衣まつりが今日から始まりました。」
テレビリポーターさんがカメラの前でリポートしている。
「本当にこの百貨店って綺麗な人が多いですよねぇー。
実に華やかなです。」
リポートしながら色々なフロアーの浴衣姿の男女を写していく。
今日から定期的にテレビ取材が入る。
百貨店側も宣伝になるからある程度ならば従業員の顔出しもOKしている。
お客様はなるべく写さない配慮はしてもらうけど。