****side???****
『この百貨店では昨日から浴衣まつりが始まりました。
……』
テレビからは頭の悪そうなリポーターが何か言ってる。
『あなたの浴衣、綺麗な水色ですよねー。
凄く似合っていますよ』
『ありがとうございます』
ん?
どこかで聞いた事がある声だな……。
テレビの中に有希が映っていた。
懐かしい……。
「あなたーっ!
早くご飯食べちゃってから、この子保育園にお願いねっ!」
奥から嫁の声がする……。
「分かってる……」
この三年間は家と会社の往復ばかりでつまらない。
有希といた頃は楽しかったな……。
気付いたら、例の百貨店に来ていた。
有希が働いている百貨店だ。
遠目から有希を見た。
いきいきと働いている……。
綺麗になった、俺といた頃よりも……。
有希は俺と別れてからしばらくして会社を辞めた。
噂で人材派遣で働いていると聞いていたが、正直自分の生活でいっぱいいっぱいで別れた女の事なんてどうでもよかった。
でも、今は有希に謝りたい。
あの頃、酷い事をしたと思ってるから……。
柱の影から有希を見ているだけで、有希の前に行く勇気が出ない。
今更謝って何になる?
でも謝りたい……。
よりを戻すつもりは無い、俺にも生活があるからな。
でも、有希がどうしてもって言うなら不倫関係になってもいいけど。
見ていると、スーツを着た男が有希の前に来た。
有希もこれ以上ないくらいの笑顔を向けている。
その男が有希の今の男なのか?
許せないっ!
俺以外の男に股を開くなんてっ!
あの胸も尻も全て俺の物だったんだっ!
「有希……」
「!!!っ!」
有希?
何をそんなに驚いた顔をしてるんだい?
「有希、お前に謝りたい。
酷い事をした……。
出来れば俺の所に戻って来てくれないか?」
「い……や……」
有希?
何をそんなに苦しそうにしてるんだ?
「お客様っ!
当店の従業員が困っておりますので、お引き取りください。」
さっきのスーツの男だ、生意気な奴め……。
「だまれっ!
有希は俺のっ……」
「どうしました?」
ちっ!
警備員まで来やがった。
今日は帰るとするか……。
翌日行くと有希は休みだった。
くそっ!
こうなったらとことんやってやる。
ヘソクリを使って探偵を雇って家を突き止めてやる……。
探偵はいい仕事をした。
大手の探偵はこう言う事はやってくれないから小さな探偵事務所だが、俺の知りたい事は全部調べてくれた。
最初の二、三日は警戒して男に送って貰ってたが、今日は一人だ。
有希の住んでるマンションの最寄駅で待ってると案の定出て来た。
今日は浴衣姿で帰宅して来た。
今日は嫁には残業で遅くなると言ってある。
有希と、とことん話し合うつもりだ。
俺の事を知って貰うために……。
しかし、綺麗になったよな……。
浴衣から覗くうなじが色っぽい。
尻もプリプリしてるし……。
我慢出来ないっ!
元々俺の物だったんだ、俺の自由にしていいんだっ!
「有希っ!」
「ひっ!」
なぜびっくりしたような顔をするんだ?
「こ……来ないで……」
なぜ逃げるんだ…。
そっちは家じゃないよ。
あはははっ!
つーかまえたっ!
ちょうどいい、この公園なら……。
「!!!っ!」
可愛いな、声も出ないんだ……。
そうだ、ハンカチハンカチっと。
俺は調べたんだ、ハンカチを敷いてたら合意があるって認められるって……。
そらっ!
そこに寝るんだよっ!
「キャッ!」
可愛いよ、今から可愛いがってや……ゴフッ!
「きさまぁぁぁっ!
俺の有希に何をしたぁぁっ!」
ゲボッ!
な……何が起こってるんだ?
体中が痛い…前が見えない……ゲフッ!
何かが俺の頭を踏み付けてる……?
アガッ!
口に靴が……。
気が付いたら病院だった。
何があったんだ?
横に制服の警官がいるし。
俺の有希はどうしたんだ……?
****side有希****
「いらっしゃいませ」
今朝のニュースを見て来てくださったお客様がいっぱいだ。
『ニュースで見るより綺麗ね』
なんて言ってくれるお客様もいて恥ずかしい。
私のセンスを信じてフルコーディネートするお客様もいた。
最近は、常連のお客様も増えて仕事が楽しくて仕方ない。
「稲垣さん。
頑張ってるね」
課長代理は店頭では有希って呼ばない。
一応、公私のケジメは付けてるみたいだ。
肉食獣だけど……。
ふふっ!
「はい。
課長代理は暇なんですか?
しょっちゅうここに来ますが?」
「い……いやっ、ゆ……稲垣さん……たちが困ってないか聞きまわってるんだよ。
慣れない浴衣姿だから……」
焦ってる課長代理も可愛いな。
「有希……」
不意に聞き覚えのある声がした。
振り返ると忘れたくても忘れられない顔があった。
「!!!っ!」
二度と見たくない顔が……。
私を裏切ったやつの顔が……。
「有希、お前に謝りたい。
酷い事をした……。
出来れば俺の所に戻って来てくれないか?」
何を言ってるんだ、この男は?
意味が分からない。
既に結婚して子供も産まれたと聞いている。
「……い……や……」
何?
呼吸が出来ないっ!
助けてっ!
息がっ!
「過呼吸だっ!
これをっ!」
課長代理が何かをしてくれた……。
助かった……。
「お客様っ!
当店の従業員が困っておりますので、お引き取りください」
課長代理がアイツを追い返してくれた……。
「大丈夫かい有希?
裏でしばらく休もう」
課長代理が体を支えてくれてバックヤードに来て休んだ。
「あの男はもしかして?」
「はい、私を裏切った元彼です」
「そうか…やっぱり……。
あの男の様子ならまた来るかもしれないな。
明日は休みだったよね。
今日はウチに泊まって。
それから、しばらくは僕が送っていくから
」
「はい……ありがとうございます」
この日は課長代理のマンションに泊まった。
その日の晩は課長代理がずっと抱きしめてくれたので安心して眠ることが出来た。
課長代理が出勤前に家に送ってもらった。
私は休みなので家の掃除なんかをしたかったから帰った。
課長代理はずっといて欲しそうにしてたけど……。
しばらくは何事も無く過ぎた。
「有希、今日は浴衣まつり最終日だから
デートしよう。
ちょうど花火大会もやってるからさ」
元彼もあれ以来現れてない。
飽き易い人だったから、諦めたんだと思う。
仕事を定時で上がり、一旦帰宅する事にした。
課長代理はまだ少し仕事があるから待っててっと言っていたけど、ちょっと帰ってやる事があったから。
課長代理はなるべく早く切り上げて追いかけるからと言って仕事に戻った。
「有希っ!」
マンションまでもう少しのところで声を掛けられた。
「ひっ!」
アイツだ…何故私のマンションが?
い…嫌っ!
「こ……来ないで……」
思わず走り出してしまった。
どこへ向かってるのかも分からない……。
必死で走った……でも浴衣じゃ走りにくい…。
アイツの手が浴衣を掴む……。
「!!!っ!」
アイツの顔が凶悪に歪む。
笑ってるの?
怖い……。
助けてって言葉が出ない…。
ドンッ
公園の草むらに押し倒された。
怖い……。
アイツが私にのし掛かってくる……。
嫌っ!
こんな奴に犯されるなんて……。
私に触れていいのは課長代理だけなんだから……。
助けて……孝雄さん……。
ドカッ!
不意に私の上からアイツが吹っ飛んだ。
「きさまぁぁぁっ!
俺の有希に何をしたぁぁっ!」
課長代理が来てくれたんだ……。
ドカッ!
バキッ!
ガンッ!
アイツの顔が変形していく……。
鬼の形相をした課長代理が息を荒くしながらアイツを踏み付けている。
怖い顔…こんな顔もするんだ……。
私の為に怒ってくれてるんだ……。
ハッ!
止めなきゃ、アイツが死んじゃったら課長代理が犯罪者になる……。
「か…課長代理っ!
やめてっ!」
バキッ!
ドカッ!
「やめてぇーっ!
孝雄さんっ!
孝雄さんが犯罪者になっちゃうからぁぁっ!」
私は必死で孝雄さんを抱きしめて止めた。
「ふぅーふぅーふぅーっ!
有希っ、大丈夫だった?
怖い思いさせてごめん。
もう大丈夫だからね。
でも有希を泣かせたからもう一発」
ガンッ!
孝雄さんが気絶しているだろうアイツの顔を蹴った。
「もう、やめて……。
孝雄さんが犯罪者になっちゃうから……」
「そうだね。
後は警察に任せるか」
そう言うと孝雄さんは直ぐに110番して、私の涙を拭ってくれた。