"聖女"からコンタクトがあった。
魔王と直々に会って話したい事があると……。
あちらには俺たちのメアドを調べる術があったようだ。
まあ、ネットの世界だからメアドくらい簡単に割り出せるわな。
場所は俺たちが指定した街のショッピングモールの中にある喫茶店だ。
"聖女"からのメールはかなり焦っているような文面だった。
最近の異常なまでの異世界ブームと関係ありそうだ。
当日、指定した喫茶店に行くと何故か貸し切りになっている。
中に入っていいか店員さんに聞くと名前を聞かれ、予め符丁にしていた名を告げると中に案内してくれた。
マオを連れて中に入ると黒服のボディーガードっぽい数人の男達を背後に待機させた金髪の女性が中央のテーブルに座っていた。
見た感じ外国人で出るところは出ているスタイルの良い金髪美女だ。
彼女がリリーヌなのだろう。あの世界での姿とは似つかないがどちらも美人なのは変わりない。
『ようこそ魔王ライム様。
私は聖女リリーヌです、覚えておいででしょうか?
姿形は変わりましたが内面は変わってないつもりですわ』
リリーヌが異世界語で話しかけてきた。
『はい、リリーヌ。
覚えています。
あなたが勇者ユウを見る時の目は今でも忘れられません』
『なっ!
あ、あれは……その……そうっ! 不甲斐ない弟に対する姉の心境……ですわ……』
何を慌ててるんだか……マオの横にその不甲斐ない勇者がいると言うのに……。
『ところでそちらの男性はどなたかしら?
あなたのボディーガードですの?』
『いいえ、私の恋人のユウです』
『えっ?
ユウ……ま、まさかとは思いますが……勇者ユウ……ですか?』
リリーヌが恐る恐る俺を見る。
俺もこの世界ではあの世界の姿とは変わっている。
『ああ……リリーヌ。
久しぶりだな元気だったか?』
『……ユ……ユウ……会いたかった……あなたにどれだけ会いたかったか……』
リリーヌが泣き出す。
「……ソウカ……オ前ガ勇者カ……ナラバ死ネ」
バンバンバンバンバンバンッ!
感動の再会を無視してリリーヌの背後にいた黒服のボディーガード達が一斉に銃を懐から取り出して俺に向けて発砲した。
俺が
ボディーガードの視線に殺意が籠った瞬間に回避行動をとり奴等の死角から姿を現し、
「おいおい、随分手荒い挨拶だな」
そう言いなが発砲したボディーガード達の前に立ち全員の心臓部に手刀をえぐり込む。
一切の躊躇も手加減も無い殺人拳だ。
「ナッ……イツノ間ニ……ゴフッ……」
バタバタバタッ
その場に倒れたボディーガード達は全員が心臓を貫かれ息絶える。
マオとリリーヌは何が起きたのかも理解出来ぬまま呆然としていた。
「キ、キャーッ!」
店員の女性の悲鳴により二人の意識が戻った。
「とりあえず一旦ここを出るぞ。
面倒くさい事になったな。
リリーヌお前のせいだからな」
オシボリで手に付いた血を拭きながらリリーヌに抗議し、俺はマオの手を引いてその場を後にする。
「あっ、まっ、待って。
私も行くわっ!」
俺の後に続いてリリーヌが店を出る。
店外には野次馬が集まり出していたが、俺たちをとがめる人は誰も居なかった。
「大丈夫なのか?
アイツらお前のボディーガードなんだろ?」
「お父様が私に付けたね。
後の事はお父様が何とかすると思うわ」
本当に大丈夫なんだろうな……仮にも日本の喫茶店で銃撃をやらかし、尚且つ全員心臓を貫かれて死亡してるんだから。
その場からさっさと立ち去った俺たちの事を調べられたら一発で逮捕だ。
「大丈夫です。
あの店はお父様名義で貸切にしてありますし、あなた方二人の事くらい揉み消すのは簡単だと思います」
まあ、リリーヌの言う通りだろうな。
そうでなければいきなり俺に向かって銃撃なんかしないだろう。
リリーヌの態度からしてリリーヌの指示では無さそうだ。
そのリリーヌはアメリカの大富豪のお嬢様なんだそうだ。
日本に対してもかなり強気に出られる立場にある企業を持っているらしい。
リリーヌ曰くただのIT会社らしいが。
「それで、何故俺が殺されなきゃならないんだ?」
「それを今から説明します」
とりあえず一旦身を隠す目的で入ったラブホテルの一室でリリーヌと対峙した。
俺を含めてマオやリリーヌはあの世界では数限りない魔族や人族を殺しているので当然殺される覚悟も出来ている。
戦争の最前線でいつも死と隣り合わせの生活をしていたので感覚が麻痺しているのかもしれない。
「……勇者ユウ……あなたが発動したエンゲージリングが原因で二つの世界が融合しようしているのです…………」
リリーヌの説明によると、エンゲージリングが発動したままになっていて、あの世界とこの世界が繋がったままになっている。
そのせいで二つの世界が不安定になってしまい安定する為に融合しようとしているそうだ。
しかし、あの世界の理が拒否した。
世界の理とは世界の意識のようなものでその意思には個性の様なものもあり数多ある世界毎に違うそう。
リリーヌはその世界の理に利用されてこの世界に来たようだ。
最初は自分の意思で世界を渡ってきたつもりだったが、融合を始めた世界を見て気がついた。あの世界の理がリリーヌを送り込んだ意味を。
二つの世界の融合を阻止するにはエンゲージリングを解除すれば良い。しかし術者である勇者ユウは魔法の無い世界に行ってしまっているので解除は不可能だ。更に勇者ユウを呼び戻すのも魔法と魔力が無い為に無理。
ならばどうするか、術者であり特異点である勇者ユウを殺し世界から消滅して貰う。
そうするとエンゲージリングを維持していた力が無くなり二つの世界の融合が終わる。
しかし、完全に融合してしまうと二度と分離出来なくなる。
タイムリミットはあと一年。
「ユウは何故あの様な力を使えるの?
特殊な訓練を受けた忍者なの?」
さっきのボディーガードを殺った時の事を言っているのだろう。
リリーヌな俺が勇者の力を継承しているのを知らないようだ。
「いや、俺はあの世界での勇者の力を受け継いでいるようだ。
魔法は使えないが筋力や瞬発力はこの世界では無敵じゃないか?」
「えっ?
まさか最初から……?」
「そうだな……俺が勇者だったと気付いた時からこの力があったな」
「そんな……でも……それなら説明がつくわ……いえ……でも……」
一人の世界に入ったリリーヌがブツブツ言っている。
ああなったリリーヌは暫く動かなくなり、思考の邪魔をすると怒り出す。
「ねえ、私お風呂に入ってくるわ。
せっかく広いお風呂があるんだから入りたいわ」
「おっ、そうだな。
せっかくだから一緒に入ろうか……マオを隅々まで洗ってやるよ」
「んもぅ……ユウのエッチ♡……」
「いやか?」
「嫌な訳ないじゃない♡……じゃあ私もユウを洗ってあげる」
そして二人して風呂場に消えた。
思考の海に嵌っているリリーヌを残して。
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