「あ……あの、もしかして勇者?」
「はい?」
俺は雨宮さんから聞き慣れた言葉を聞くとは夢にも思わなかった。
誰かが呼んでくれたのだろう、パトカーが直ぐに来て現場検証がはじまった。
幸いにも被害は自転車と大量のレトルトカレーだったので調書は早く終わった。
辺りはカレーの香りが漂っていたが。
俺がドラマばりに雨宮さんを押して助けた事になって警察から褒められた。
そして初めて知った驚愕の事実。
雨宮さんが俺の隣に住んでいたのだ。
住み始めて既に二か月経つが全く知らなかった……。
いやいや、違うって……そんな些細な事じゃなくって……。
実は雨宮さんは魔王だったのだ。
雨宮さんの素顔を見た瞬間に頭をよぎった、魔王ににているな……と。
魔王とはこの世界に共に来たから何処かに居るだろうと思っていたよ?
でも同じ学校の同じクラスで更にはお隣さん?
出来過ぎだろう?
俺はあの白い世界での事を思い出していた。
俺の部屋に招待してソファに座らせてからコーヒーを出した。
コーヒーを一口啜ってから彼女がソファの上で膝を抱えた。
「こ、怖かった……」
よく見ると身体全体が震えている。
「魔王でも怖いんだ?」
「当たり前だよ、あの世界なら死ぬ事は無かったけどこの世界はナイフで指を切っても血が出て止まらないんだよ?
あんな大きな車がぶつかったら一発で死んでしまう自信があるわ」
いくら元魔王でも今は只の人間だトラックに轢かれたらすぐに死んでしまう。
「でも、改めてありがとう。
助かったわ」
「ふふっ」
俺は何故か笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや、クラスメイトの雨宮さんと初めて喋ったなって……」
とても綺麗な声だ。聞いていて耳に心地よい。
「そう言えばそうね。
何故かしら、勇者の前ではそんなに卑屈にならずに済むのよね」
「勇者はやめてくれ。
今は畔上悠だ」
「なら畔上君でいい?」
「ああ、構わない」
俺も相手が魔王だと分かった瞬間から雨宮さんに気軽に話すようになった。
「それでだな、そろそろソファで膝を抱えるのはやめてくれないか?」
「なぜ?」
こいつ……天然か?
ソファで膝を抱える姿……必然的に制服のスカートがめくれて白い布地が丸見えなのだ。
薄い布地に陰茎が浮かび上がり張り付いている。
さっきから目のやり場に困っている。
「ならハッキリ言う。
パンツが丸見えだ」
「きゃっ!
勇者のエッチッ!」
魔王が慌てて座り直してスカートを押さえる。
いやいやお前が見せてたんだろうが?
「魔王でも恥ずかしいんだな?」
「当たり前でしょっ!
人のショーツ見て……エッチなんだから……。
ねえ、ちょっと興奮した?」
何いってるんだか、この天然痴女が。
「今更魔王のパンツ見ても興奮しないよ」
半分は嘘だ。
人間の姿の魔王は新鮮でドギマギする。
一方、異世界での魔王の格好はほとんど裸って言うくらい肌色面積の多い服? いや、下着に近い物を着ていた。
乳首が浮かび上がるブラに割れ目が食い込んだパンティを着て俺と対峙た事もあった。
魔力が多い魔王はその力を絶えず放出しなければ体内で魔力暴走する為、なるべく肌を空気に触れさせ魔力を放出していた。
魔王を見ると顔を真っ赤にしながら膨れている。
「それより、腹空いてないか?
夕食全部潰れたんだろ?
ついでだから一緒にどうだ?」
俺は腹が減ってきた。なんやかやしてるうちに午後八時を回っている。
「そうだけど、いいの?」
「構わない。
一人鍋より二人で食べる方が美味しいからな」
今日はさっき買ったキムチ鍋だ。
自転車を放り出したが、鍋の素含めて全部無事だった。
「じゃあ、遠慮なく頂くわ」
魔王がニコリと笑う。目元が前髪で隠れているが口元だけでも嬉しそうにしているのが分かる。
俺は台所のシンク下からとって置きの石鍋を取り出した。
これは土鍋の石バージョンで近くの雑貨屋で売れ残っていたヤツをかなり安く買ったのだ。
石鍋と言えばピビンバだが、鍋物をした場合は特に冷めにくいので重宝するがこれは大き過ぎて鍋なら軽く四人前のサイズだ。
だから滅多に使わなかった。
石鍋にキムチ鍋の素を入れ沸騰したら先に豚肉のスライスをほぐしながら入れる。
程よく煮込んだら適当に刻んだ白菜キムチとニラを大量に投入して、隠し味に胡麻油を数滴入れたら完成だ。
熱々のままの鍋をテーブルに敷いた鍋敷きの上に置いた。
「さあ、召し上がれ」
石鍋の石の蓋を取るとフワッと暖かな湯気があがる。
「ふふっ、美味しそう……。
いい?」
魔王が待ちきれずに箸を出す。
ガバッと肉やら野菜やらを取り皿にいれ、レンゲで出汁を掬い入れる。
取り皿に入れた物を箸で掬い、
「はふっはふっ!
もぐもぐ……しゃくしゃく」
ゴックン
「美味しぃぃぃっ!」
いきなり魔王が叫ぶ。
「良かった。
喜んでくれて、さあどんどん食べて。
締めはチーズを入れてリゾットにするからな」
俺も箸を進める。
うん、市販の出汁でも美味しい。
手作りの出汁の方が俺好みで美味しいが手間が掛かる上に材料費が掛かるのでコスパを考えると市販の出汁の素の方が断然楽だ。
二人で締めのリゾットまでたいらげた。
「うぅ〜ん、妾は満足じゃ」
腹を押さえながらソファに身を沈める魔王。
だから恥じらいを見せろ。
パンツが見えてるから。
「そう言えば魔王、お前は料理しないのか?」
さっき見た惨劇の前にスーパーでの買い物の中身を思い出した。
「えっ?
すっ、するよっ!」
いきなり目が泳ぎ出す。
「お前の買い物って全部レトルトカレーだったような気がしたから一応な」
「えっ……まあ、私……カ、カレー大好きだから……。
三食カレーでも大丈夫な人だから……」
焦りまくりの魔王。 お前はキ◯ンジャーかっ!
「お米は?
ご飯炊いた事は?」
「レンチンッ!」
こいつ即答しやがった。
確かにレトルトのご飯も美味しいよ。
でもな、炊き立てのご飯に敵う物は無いんだ。
「よく分かった。魔王は料理が出来ないんだな。
よしっ!
明日から俺が料理を教えてやる。
将来、お前が栄養失調で死なれたら寝覚めが悪い。
明日から毎日俺のウチに来い」
「えっ?
本当に……?
いいの……?
毎日って……いいの?
そんな、いきなり……まだ心の準備が……」
魔王がぶつぶつ言ってるけど強引にOKさせた。
「ねえ、それより私が畔上君って呼ぶのに勇者は私の事を魔王はないんじゃない?
私にも雨宮麻央って名前があるんだよ」
魔王が抗議してくるが、まあ当然だな。
「分かったよ。
雨宮さんでいいか?」
「下の名前……麻央だよ?」
「い、いや仮にも同級生を名前呼びはまだ抵抗あるから……」
「仕方ない……最初は名字でいいわ」
魔王が口元だけの笑顔で頷く。
しかし、こいつ意外とグイグイくるな。学校での陰キャはカモフラージュか?
そういえば学校では声さえ聞いた事が無かったような……。
「なあ、魔王。
お前って学校じゃそんなキャラじゃないだろう?
何故だ?」
「……っ!
いっ、いや……。
……ふぅ。
やっぱり勇者なら話してもいいかな……。
あのね……私……虐められてるの……」
お読みいただきありがとうございます。
出来れば評価もお願いします。