Dazeさん、評価付けありがとうございます。
人間独りだけで考えつめたらいけませんよね。
「………………良いんだよ」
二人だけの心地好い沈黙の中で微笑むアイズは確信する。確信してしまう。
ベルはまた同じことがあれば、アイズと戦ってでも、自分の想いを貫いて叫ぶと、アイズの英雄ではなく、誰かの英雄になると。
勿論その可能性は低い、アイズとベルの間柄から考えて万一もない、億が一もない。
(でも、ゼロじゃない)
もし、そんなことになったのなら、ベルは以前のようにアイズの名を何度も読んで、叫びを叩きつけてくるだろう。胸に秘める思いを伝えようとしてくるだろう。
意思を伴う力で証明してくるだろう。
だって、きっと、その時は。
ぴちゃっぴちゃごくん
「……私の方が……相手より……強い時、だから……」
認めたくないことを認めるために、ベルの頬を舐めて味を飲み込んだアイズは、笑みを浮かべたまま光のない座った眼差しで呟く。
ベルは我儘だから、頑固で我儘だから、誰かの痛みに気付いてくれるから、自分の大切な人が困っているのを助けようとするから。
そんなベルを想うとアイズは何時も温かい気持ちがこみ上げていたのに、その相手がアイズではないということが許容できない今はドロリとした想いがあふれだし、塗りつぶす。
ぴちゃっぴちゃごくん
「良いん、だよ……」
だから、アイズの方が相手より強かったらアイズを止めようとする。戦ってでも止めようとする。前みたいに苦悩と痛苦で顔中を染めながら、絶対に退かずに守って見せる。
だって、そうすれば大切な人たちが傷つけ合わなくて済むから。
ベルは、我が儘だから。大切な相手を幸せにしないと、大切な周りを幸せにしないと自分が幸せにならない我儘だから!
だから、弱い方に味方して戦う!
……あんなに悲しくて、痛くて、苦しくて、何より羨まむ想いをしなくてはならない可能性がある。
億が一もなくともそうする可能性がある
ぴちゃっぴちゃごくんぴちゃっぴちゃごくん
「好きで……強くなりたくてなったわけじゃ……ない、んだよ……」
ベルの体温だけでなくその味を味わうアイズは内心の嵐を押し隠しながら、二度飲み込み僅に落ち着くとベルに囁く。
何で? どうして?
取り返したいものがあって強くなったら何でこうなるの?
強くなったら、大切な人を、大好きな人を失うの? 敵にするの?
「あの時、ベルが居てくれれば……強くならなくて済んだ、のに……」
笑顔を浮かべながら苦悶の色を浮かべるという、器用なことをするアイズ。
苦しい。復讐の黒さにはなかった苦しみが胸の奥底から自分の心を埋め尽くして蹂躙する。
だって、私と戦う時、ベルが味方するのは女の子だ。
可愛い女の子だ。
ぴちゃっぴちゃごくんぴちゃっぴちゃごくんぴちゃっぴちゃごくん
「でも、良いんだよ」
表情が動かない私と違って天真爛漫で皆を笑顔にする女の子。ティオナみたいな女の子。
優しくて私のように抜けたところがない年上らしい女の子。エイナさんってアドバイザーみたいな女の人。
強くても、私と違って血塗れで歩いて戦姫なんて呼ばれることがない女の子。リューさんみたいな女の人。
時間があればお店に来てくださいサービスしちゃいます。何て上手く自然に誘えてベルに膝枕して貰う子。シルさんみたいな女の子。
私と違って金銭管理を含めて何でもサポートが出来るくらいしっかりしている子。リリって子みたいな女の子。
私と違って家事万能で日溜まりのような笑顔を浮かべる家庭的な子。春姫って子みたいな女の子。
他にも、穏やかで控えめなカサンドラって子や、モンスターなのに、異端児なのに、ベルに抱き締められたり笑顔を向けられる女の子たち。ウィーネ以外にも居る女の子たち。
私と違って、血の匂いではなく花のような香りがする女の子たち。
ベルの周りにいる女の子たち。
ベルを英雄と想う女の子たち。
ベルへの想いを自覚したアイズは、ベルの周りの女の子がどんな想いを抱いているか初めて理解した。
アイズと想いを同じくする女の子達だと理解した。
「っ」
そして、理解したアイズは互いの女子力の格差に戦慄せざるを得なかった。
アイズは愛想が無いどころか、表情さえろくに動かせない。これで会話が上手ければまだ良かったが、無口では無いかと思えるほどに口下手だ。というより、感情を発露すること自体が苦手で、我ながら可愛げが無いとしか言いようがない。
家事もそうだ。
ダンジョンに出向いている時(ほぼ毎日だった)は携帯食で済ませてしまうため、マトモに料理をすることが出来ない。出来るのは切って焼いて塩をふる。以上である。
部屋は片付いているが、それはろくな私物がないからだ、掃除が上手い訳ではない。
服さえリヴェリアを初めとするロキファミリアの女性陣に着なさいと言われた服を着ている、センス? なにそれ? のレベルである。
加えて、ベルと訓練するようになってからは無くなったが、たまに、そうたまに、リヴェリアに「ちゃんと髪を櫛で梳かせ」だの「ちゃんと口許を拭け」だの「肉片がこびりついている。ちゃんと洗い流せ」だの言われて、リヴェリアの部屋の姿見──アイズの部屋の姿見はろくに使わず手入れもしていないから曇っていて使えなかった──の前で手入れして貰っている……時もあった。
だから、アイズは知らないが、ベルと訓練し始めてから、アイズが髪を自分の部屋の姿見で梳かした日には、リヴェリアが人知れず瞳を潤ませさえしていた。
それが、アイズの女子力だ。
だから
貴女は何ができるの? 趣味は何? そう問われた場合。
アイズの回答。
腕っ節に自信がある。
趣味はベルとの鍛練と鍛練した後の膝枕とモフリ、その後一緒にジャガ丸くんを食べること。
これが、花も恥じらう年頃の乙女の回答である。
「…………」
だらだらガタガタポタポタ
不味い。
ジャガ丸君と強くなることとベルにしか興味がない自分をようやく、本当にようやく省みたアイズは、自分が恋という戦場では駆け引きどころか戦場にさえ立てないと自覚した。
比較出来ない女子力をもった少女達への危機感と劣等感と嫉妬で震えと冷や汗が止まらなかった。
そういった女子力関連を(スパルタ式で)丁寧に教えてくれていたリヴェリアに内心で謝る。強くなるのに何の関係もないと遠ざけるべきではなかった、もっと真摯に受け止めるべきだった。と後悔してもう遅い。いや、遅くない。帰ったらリヴェリアに謝って改めて教導をお願いしなければと決意を新たにする。
少し前、異端児のウィーネさえもベルに手料理を作って優しく撫でられていたのだから、より危機感を掻き立てられて止まない。
(不味いどころじゃない、ひ、酷い)
自己嫌悪さえ覚えているアイズは知るよしも無いが、今アイズが感じている危機感と劣等感と嫉妬の想いは、アイズが脳裏に浮かべた少女たちがベルの憧憬の相手を知った時に衝撃と共に感じたものだ。
尤も──
(わ、私、も、モンスターより、お、おと、劣って、る)
憧憬の対象であるアイズが一番深刻なダメージを受けているが。
だらだらだらだらガタガタガタガタポタポタポタポタ
「で、でも、良いんだよ。今は、良いんだよ」
止まることを知らない汗と震えのまま、アイズは自分に言い聞かせる。
今、ベルは自分の腕の中に居るし、ベルはアイズに憧れて強くなってくれた、英雄になってくれた。ベルはアイズを綺麗だと言ってくれた。
それに──良かった探しで思考を回転させるアイズの鼻腔に、ふと、この場に有るはずがない百合の香りがした。
理性や良識や女子力なんてくだらないモノよりも己の想いを貫きなさい、そんな風に教え励ましてくれる百合の香りがした。
その香りが思考を粘着させてくれる。あまりの劣等感によって安定しようとした思考に、より大切なことを認識させてくれた。
(私と違って、ベルの香りはしないから。あの壁の上でベルと約束をしていないから)
いやらしい独占欲の混じった優越感が劣等感を打ち消す。
その想いを味わうように、ベルに縋り付きながら自分の腕の臭いを嗅ぐ。
そう、こんな風に、ベルの香りを体から漂わせては居ない。
そう、ベルにとってのただ一人では──
──いや、待て
ベルの香りを満喫しようとするアイズの鼻腔に百合の香りが漂う。
気付かなければならないことに気付きなさい、と教えるように百合の香りが漂う。
……そういえば、レフィーヤはあの時。フィルヴィスという子が亡くなって、立ち直った時。
今のアイズと同じく、ベルの香りを漂わせて居なかったか?
──いや、立ち直ったレフィーヤと笑顔を交わした時。レフィーヤからは、間違いなく、ベルの、ベルの香りが……
驚愕に笑みを消して目を見開くアイズの脳裏を、つい先ほどの安全階層での一幕がよぎる。
ベルの横で食事をしていた時にレフィーヤが満面の笑みを浮かべながら私とベルの間に入ってきて、笑みを消しながらベルに顔を向けると、ベルがあははと乾いた笑みを浮かべて距離を取った。
そんなベルにレフィーヤは別のファミリアの人がアイズの横にうんぬんと言いながら、料理をそっと自然な動作で手渡したのだ。
そう、余った材料を許可を貰って作った己の手料理を。
「でも、こんなに……」
「食べれますよね。というより、食べたいですよね」
「うっ」
一瞬だけ物欲しそうな視線でレフィーヤの手料理を見たことを突かれ、ベルは息を飲んだ。
そんなベルをどこか楽しそうに見ながらレフィーヤは「ずるいです」とぼやく。
問いたげな表情のアイズとベルの視線を浴びながら、レフィーヤはどこまでも自然とベルと自分の頭に手をやり、その背丈を比べた。
慣れきった手つきだった。
「何がですか」
「何が……何がって言いましたね、今」
「あ、はい」
「あ、あんなことしたのにっ!? どうでもよさそうに、何がって言いましたねっ、今っ」
「は?」
「お、追い抜いたレベルだけじゃなく、こ、こっちは突き放したことを、ど、どうでもよさそうに」
「え?」
「どうでもよさそうに、眼中に無いみたいに、あ、あっさりと、あ、あんなことしたのにぃぃぃっ!?」
「あ、あの、レフィーヤさん。あんなこと「黙りなさいっ!?」は、はい」
「なんでですか!? 男の子だからですか!? 私は去年と変わっていないのにっ!? 伸びてないのにっ!? 増えただけなのにぃぃぃ──っ!?」
「ふ、増えたって……あぁ、いっ──っ!? れ、れふぃぁふぁん」
「こ、このハレンチ兎!? お、乙女の肌に、け、穢れのない、お、乙女の柔肌に、あ、あ、あ、あんなことしておいて、あんなことしておいてえぇぇっ!? 何を口にだそうとしてるんですか? 知ってるくせに口に出しますかっ!? このデリカシーの無いハレンチエロ兎っ!? なぁんて不埒な畜生なんでしょう、信じられません許せませんっ!? こんなハレンチなのにっ!? 男の子ってだけで、何でこんなにすぐに大きく──」
「れ、レフィーヤ、ベルの頬はそんなに、伸びないと思う、んだけど、後、ご飯が落ちそうに」
「あ……こほんっ……い、いぇ、あ、アイズさん勘違いしないで下さい! これは、お腹一杯になってもすぐにみっともなく、くうくうお腹鳴らすライバルを万全にするための……そう、施しです。た・だ・の! 施しです!」
「そ、そうなんですか」
「ええ!? そうです。そうなんです!? ……あ、そんなに不安そうにしなくても、甘いのは苦手だって知ってますから大丈夫ですよ」
「ふふっ」
「……何ですか? そんな顔して、体が大きくなったら態度まで大きくなるなんて人として最低ですよ」
「ありがとうございます。レフィーヤさん」
「……ふん。お礼を言えるようになるなんて少しはマシになりましたね。ほら、何時までも人の手を握ってないで、遠慮しないで食べてください」
「はい。いただきます」
そんな風につっけんどんにベルに手渡した後、満面の笑みで私に笑いかけながら、レフィーヤはベルが自分の手料理を食べる姿を横目でチラチラ見ていた。ベルが恥ずかしくなるくらいに真っ直ぐにレフィーヤの料理の腕を称賛し感謝しながら美味しそうに嚥下する度に満足げに鼻をならしていた。食べ終わったベルから感謝されながら食器を受け取るときには「もっと感謝しなさい」とか言って胸を張ってピクピク頬を痙攣させていた。
いつもの二人だった。
とても仲良さそうだった。
それが、どういうことか初めて理解した。
「勘違いなんかしないよ」
少なくともこれからは、と口のだけで呟いたアイズは深い笑みを浮かべた。ふふっと声に出すほどの笑みを浮かべた。
逃すまいと組み敷いている少年の祖父が、その見慣れすぎた笑みを見た場合。開き直るか、浮気相手とその子供を売り飛ばすか、「エエ、その殺しさえ生温いと叫ぶ顔と目がそそるっ。その顔と目のまま喘がせてやるからな。今夜は寝かさんぞ」と滾りにまかせて言い放つ、そんな笑みを浮かべた。
その表情のまま、心の中で「ご、誤解です。ち、違います」と言いながら真っ赤になって首を振り続けるレフィーヤに呟く。
「そう、そうなんだね」
ベルにしか怒鳴ったりせず悪口も言わない遠慮なくぶつかり合って深い関係を築く女の子が居た。レフィーヤが居た。
何て間抜けなんだろう。今まで気づきもしなかったなんて。
何があったのかは知らなくとも疑う余地はない。
「私を出汁にしてたんだね……ずっと」
当のレフィーヤが聞けば憤死しかねない結論をアイズは出した。
尤もアイズからしてみれば本気で疑う余地がない。状況証拠は揃いに揃っている。
共同冒険の時に、成長期で幾らでも食べたいのに遠慮する異性に手料理をふるまいながら、それを理由にして隣に座る。
それもアイズに「アイズさんもいかがですか」と言って一緒に食べさせて出汁にするなんて。それも、何時の間にか知っていたベルの好みの味付けで。
しかも、アイズがここに来るまで気付いてなかった、ベルの背が伸びていたことにしっかり気付いていながら。
疑う余地は無かった。
「でも、良いんだよ」
皆でのご飯にほっこりしている場合じゃなかった、完璧に私は出汁にされていた。
何て狡猾なんだろうか、手料理を作ってあれほど自然と距離を詰めていくなんて。
……その上、料理が出来ない私を自然と貶めるなんて。
「違います。出汁にしたのはあのヒューマンで……アイズさんが自然と違うファミリアの人間の横に身を寄せるように座っているから……い、いや、その……し、信じてください。そんな良識のないことするわけがありません。一人のエルフとしてするわけがありません! 信じてください」と心の中で叫んでいるレフィーヤに戦慄する。
「でも、良いんだよ」
危険なのはベートさんじゃなくレフィーヤだった。いや、ベートさんも危険だ。ベルに向ける視線が危険な香りがする。見どころのある後輩を奪おうとする危険な香りがプンプンしている。
レナから言われていた「寝込み襲うから手伝って」というお願いを良識ぶって断るんじゃなかった。戻ったら早急に応えて手を組まなければ、特定の相手が居る女性は安全だ。
……ついでにフィンとティオネもくっつけよう。フィンのベルを見る目付きも怪しい。何か眩いものを見るように目を細めている。とても、危険だ。
ティオネと2人がかりなら、フィン相手でも何とか叩きのめして気絶させられる。そうだ。それがいい。そうしよう。
レフィーヤに裏切られていた(アイズ視点)衝撃で良識と理性が薄れたアイズは、躊躇せずベートとフィンを売った。
ベルに師匠とか無理やり(アイズ視点)呼ばせていた白エルフ、危険を通り越して寝取りやがった悪魔に対しては、心の安寧のため心の中の別の棚に棚上げしつつ。
「でも、良いんだよ」
いや、今危険なのはレフィーヤだ。男性のフィンとベートさんはそういう危険から除外していい。
お母さんの言っていたことは本当だったんだ。恋愛が混じると女同士の友情は塵芥になる、マウントの奪い合いこそが本道だと言っていた母を思い出す。
自分のコンプレックスを可愛がっていた後輩に完璧に軽やかにされるという、裏切にあったアイズ(アイズ主観)にはもはや迷いは無い。疑いをさらに爆走させる。
(あの時の女の子も……そういえば、あの時の女の人も)
笑顔のままで、尋常ではないプレッシャーを漂わせながら、アイズは思い返していく。
ミノタウロスを倒した時も、ベルの側には可愛らしい小人族の女の子が助けを求めてきた。彼女を守ろうとした。
18層に来たときも、ベルは可愛い小人族の女の子(ヴェルフは今のアイズの頭にはない)を抱えていた。守り抜いた。まさに英雄のように。
「じゃあ、リリだからだよ」
……彼女からもベルの匂いがした。
噂で聞いたイシュタルファミリアの時も、ベルは可愛い娼婦の女の子を、無理矢理娼婦にされた子を助け出したらしい。いや、助け出した。まさに英雄のように。
「貴方を、助けに来ました」
……彼女からもベルの匂いがした。
異端児の時は言うまでも無い。ウィーネからもベルの匂いがした。いや、ほかの異端児。異端児の女の子たち。手を伸ばす人のいない者たちを助けた。まさに英雄のように。
「──大丈夫。怖くないよ」「助けを求めてる!! 十分だ!!」「──うん。助ける」
……彼女たちからもベルの匂いがした。
ベルの担当アドバイザーのエイナさん。彼女も異端児の後、ベルとの距離感が変わった。今なら分かる。姉から雌の距離感になった。ベルが何かしたのだろう。間違いなく。何かしたのだ。まさに英雄のように。
「う、あ、ぁああああああっ……!!」子供の泣きべそではなく男性の流す悔し涙を流す少年の手を己の熱を伝えるように少女は握った。
……彼女からもベルの匂いがした。
最近、ベルが近くに居たりすると挙動がおかしくなるエルフのリューさん。今ならどうしておかしいのかわかる。ベルがまた何かしたのだ。たすけたのだ。まさに英雄のように。
「リューさんがそんな風に笑えるようになって──良かった」
……彼女からもベルの匂いがした。
その後のあの娘も、
その後のあの娘も、
その後の……そう、ティオナも
脳裏に浮かぶのは、ベルが成した偉業につき纏うように存在する女の影。は、割りと(まだ)どうでもよく、女性のためにひたむきに突っ走り、倒れても立ち上がり、這ってでも前を向いて、女を救うベルの姿。
何人もの女性の英雄となるベルの姿だった。
「そっか……」
己に言い聞かすために発していた虚ろな言葉を発することを止め、禍々しいものが溢れだすアイズの中では、レフィーヤがベルとナニかあったことは確信にまで至り、今までは気にすることが出来なかった他の少女たちとの色々なことを改めて心に刻み込んだ。
だって、香りがするのだから。ベルの香りが彼女たちからしているのだから。
「そうなんだ……」
虚ろに呟くアイズの中では、疑惑の種が事実という水を与えられ可能性という肥料を得て爆発的に育っていく。
「ふふっ……」
凄絶な眼差しで絞り出すような軽やかな笑みを浮かべるアイズからは、ベルが助けていた男の影は消えている。
ベル・クラネルという少年が、ヘスティアを人質に取って透明リンチを仕掛けた中年『男性』冒険者さえ助けるような、真の英雄だと言う事実は消えている。
その噂を聞いて、胸の温もりを抱いて柔らかな笑みを浮かべていたアイズは消えている。
女の子の英雄になるベルだけを認識していた。
結果、アイズの中では「私の英雄になると誓ったベルは、偉業を行うたびに色々な女の子の英雄となり、口説き落としてベルの匂いを女の子に染み付けている可能性がある」となっていた。
「ウィーネだけじゃ、なかったんだね」
そして、今現在気絶中のベルにとって不幸な事にその疑いはほぼ正しかった。
ベル・クラネルという少年は、出会った大切な相手(人だけではない)を助けるために限界を超え続け、ランクアップに必要な偉業を成していった。
成長促進のレアスキルよりも、そのレアスキルでの成長が頭打ちになる前に『偉業に必要なこと──本心では助けを求めているのに、心の奥底に助けてという願いを押し殺して涙をこらえている大切な相手(女の子が多い)と出会い冒険する』
その運命力というような呪いのようなナニカこそがベル・クラネルという少年の真髄だった。
「……どうして、かな」
だからアイズが、ベルを擁護する要素を探すために、必死で様々な事象を思い出し、振り返っても、擁護する要素は無い。
欠片もない。
ベルにとって、何よりアイズにとって不幸な事に全く欠片も無い。
女の子(と大切な相手)を助けるために、心身共に打ちのめされ心が折れて倒れても、なお己の足で立ち上がり、普通は賭けない人生と命を賭けるという愚者の道を突っ走り続けたという事実だけがある。
「……みんな、わたしとであって、から、わたしにあこがれて……くれてから、だよ」
遂に、疑惑の種は綺麗な花を咲かせてしまった。
──ベルはアイズ以外にも大切な約束したことがあるに違いないという確信の花を。
「ふふっふふふっ」
自分は、
アイズ・ヴァレンシュタインは
出会った時からひたむきにベルを見続けていた私は
ベルのただ一人では無いという、確信の花を。
ブチ
「ふぅぅ──っ……ふふっ」
アイズは大きく息を吸い、もう一度笑った。頭の片隅で変な音が聞こえたことなど意に関せず、俯きながら肺一杯の空気を漏らすように小さく呟く。
「そっか……」
底知れない声で
大人の女性というにはあどけなさが目立つ美しい顔立ちにあるのは、変わらず花が咲いたような満面の笑顔。
笑みを浮かべたまま、戦慄するほどの女の情を込めた光のない瞳でベルを見下ろし、許せない事柄を口から紡ぐ。
「そうなんだね……色々な人の英雄になったんだ。私に憧れてくれているのに、関係なく色々な女の子を。
私と大切な約束をしてくれたのに。その前だけじゃなく、後でも……ティオナだけじゃなくてレフィーヤにまで」
言葉を切り、一度呼吸を吐き、最も許せないことを激情に震える声で口に出す。
「…………私を放っておいて」
この──浮気者!!
それは、とある百合の花を象徴とする女神が限定された時にだけ夫に対して下していた評価。
そんな血族さえマシに思える神々を神々の女王として相手しながら過ごさなければならない日々を過ごす女神の評価。
そんな日々が、夫が浮気し続けている日々でもあり。それでも、夫を貞淑に愛し続けているがゆえに、限定された場所と相手以外ではそのそぶりさえ見せず誰にも悟らせなかった評価。
ストレスフルな日常を耐えながら過ごしたために、
そう、普段は家で
それを、アイズは
「ふふっ」
浮気までされた(と認識している)アイズには、迷いだけでなく躊躇いも理性も良識も消えてしまった。
金色の瞳を妖しく煌めかせながら笑みを深めて、ゆっくりと優しく、凄絶な意思を込めて、ベルの頬を撫でる。
「良い──」
己に言い聞かせるために続けていた言葉はとうとう言えなくなってしまった。もう、自分を騙すことは出来なくなってしまった。
ベルの温もりを感じ、味を味わい飲み込むだけでは、耐えられなくなってしまった。
表面での触れあいでは、耐えられなくなってしまった。
「──ううん。ダメだよ、ベル……それはダメだよ。二人きりでも……浮気なんてダメだよ……私がどれだけ我慢出来るか試すなんてダメだよ」
でも、良いのだ。構わない。だって全部良いのだから、良くするのだから。
そのために、何をすればいいのかもわかる。ティオネが良く言っていたことをすればいいだけだ。
そう──―
「
あの時は具体的にどうすればいいか分からなかったが、今は違う。ベルを欲して、蠢く膣が何をすれば良いか教えてくれる。
身体の中が、本能が、魂が、教えてくれる。
「……だから、良いんだよ」
躊躇うことなく、ベルの逸物を握りしめ、自分の秘所へと照準を合わせ思う。
『ベルは、まだ、私の英雄じゃない』
ぶんぶんと内面で幼女が座った眼差しのまま首を振る。違うと。
「そう、だね」
そう、違う。違うんだ。
ベルは、もう、英雄だ。
私の英雄だ。
それは誰にも否定させない。
「ただ……」
少し間違っているだけ。ささやかだけど決定的に間違っているだけ。
だから、直さないといけない。
「ぅんっ」
敏感な陰唇をベルの逸物で擦られるアイズは情欲の鼻声を上げて、成長途上ゆえの硬い弾力に満ちた形のいい乳房を淫らに揺らす。
弾けるような肌を艶かしく蠢かせながら、恐ろしいほどの熱がこもった鼻声を上げて、愛液をたらし続ける膣穴にベルの逸物を持っていく。
そのまま、挿入しようとしても上手くいかない。思い切って、柔らかくて生硬い陰唇を開いて膣穴を外気に晒す。
「んんっ……ぅぅふぅっ」
冷たい外気に敏感な粘膜を初めてさらされ、アイズはビクッと震えて熱く熱のこもった嬌声を漏らす。
(ここも、ベルは触ってくれなかった)
でも、良い。
手で触られるのは、ベルに自発的にしてもらわないとならないのだから。今は良い。
ベルと抱き合っていただけで昂っていたため、陰唇を開くと同時に溢れだした愛液をベルの逸物に塗りつけながら、アイズはゆっくりと逸物をしごいて完全に勃起させる。
そのまま、露出した膣穴にベルの逸物を手繰り寄せ、逸物と自分の膣が出来る限りまっすぐになるような姿勢を取る。
かつて母が父にしていた姿勢を取る。具体的にどうすれば良いのかまだ教えて貰ってなかったが、今までのベルとの時間で、これこそが子供を作るためにすべきなのだと本能で理解した姿勢を取る。
さっきは痛みで逃げ出した。でも今は──
「ん、んうっ」
敏感な粘膜にベルの亀頭が当たり、その熱と硬さに歓喜してアイズの膣が蠢き、自然と嬌声が漏れた。
静かに前を向いて幼女と顔を合わせて意思を疎通する。
体の痛み何てどうでもいい、浮気された心の痛みに比べれば何程のモノでもない。
「……欲しい」
ベルが欲しい。ベルを飲み込みたい。ベルを中に入れたい。ベルと一つになりたい。
情欲に呼応するように分泌される愛液で、ベルの逸物に幾つもの光る線を描きながら、アイズは荒い息を整えた。
見下ろすと、見えるのはベルの顔。アイズの英雄の顔。
熱い液を垂れ流すひくつく小さな膣穴にベルの逸物を押し当てると、アイズの本能が「それをしたら、もう戻れない」と叫ぶ。
理性と心が「戻れなくする。戻さない。戻させない。他派閥との子供はマズイなどという常識など知ったことか」と宣言する。
宣言に応じてベルを見る。
──自分の英雄の顔。
アイズの顔が幸せそうな恋をするどこにでもいる少女の笑みに彩られる。
──誰かの英雄の顔。
アイズの顔が情念を抱いたどこにでもいる女の顔に彩られる。
「ベルは、まだ──」
証が欲しい。どれだけ誰かの英雄になっても、最後には私の英雄でいてくれる証が欲しい。
お母さんが言っていたことが今なら分かる。『あなたにも素敵な英雄が――』と言ってくれた後、二人だけの時言ってくれたことが分かる。
言葉じゃなく、体と心で証明して、ベル。
『ベルは、まだ、
──幼いアイズと今のアイズの声が揃い。
「ん!? ……う、うぅぅっ」
──凄絶な眼差しを浮かべた母の声と己の裡に従って
『アイズ、一つだけ覚えておきなさい
あなたが見つけた素敵な英雄が、お父さんみたいな人な時は、
己の裡の理にだけ従って誰かの嘆きに手を伸ばすような戦士の時には
すぐ、どこかへ行ってしまう者には、帰る理由が無くては
――つながりが無くては引きとどめることさえできないわ」
――躊躇なく腰が落ちた。
ただ、いちゃつかせるプロットなのにこうなってしまいました。
全部デートオアアライブのコラボイベントのベルが悪いんや(震え声)
でも
やっぱり童貞と処女の睡眠レイプって最高ですね(恍惚)