ベルくんの口説き文句が冗長になったので端折りました。
アイズを年頃の女の子にしていくのが楽しいです。
「何時から、その、わたしの、こと」
「最初からです」
「……え?」
最初っ! 最初って何っ! 何で言ってくれなかったの! 悲鳴を上げる内心の幼女。
「僕は初めてアイズさんにミノタウロスから助けてもらった時、初めて会った時助けてくれた時からあなたのことに惹かれてました」
「そ、そうだったんだ」
ベルの事が気になっていたのは間違いないが、最初の頃は夢を運んでくれる可愛らしい兎のようなもので、男性への好意だったかは怪しいアイズは言葉を濁す。
心の中で、ベルといっしょじゃないなんてっ! 私の馬鹿ぁ!? と血涙を流す幼女が絶叫する。
いや、でも、あの頃の私が特定の誰かに興味を示すのは珍しかったし、ベルを見かけると何時も目で追っていたし、男性としてではなくとも同年代の男の子に興味を持ったのはベルが初めてだったし、ベルとミノタウロスとの一戦以降は違う風に見始めていたし、男の人をそういう風に見ること自体ベルで知ったし……
「気障な台詞かも知れないけど、僕はアイズさんに一目惚れしました」
「……ぁ、ぅ」
心の中で、ああでもないこうでもないと言い訳していた所に、真っ直ぐに好意をぶつけられる奇襲をくらい。嬉し恥ずかしさに耐えられなくなったアイズは、話題を少し逸らすことにした。
「……ど、どのへんが、好きなの、かな……一目惚れって、見た目だけだよね」
好きな人が自分のどこが好きなのかを知りたい乙女心の発露が、話題をもっと危険な方に向ける。
「初めて見た時は確かに容貌に惹かれました」
喋り続けて疲れた喉を、わき水をすくって潤す。アイズの口も潤す。
すくった水を口に含ませるときにアイズがペロリと自分の手を舐め、もっと頂戴とねだるように見つめてくるのを愛らしく思う。
自らの有り様に恥じらいぽっと赤くなるアイズを愛おしみながら、ベルは自分の想いを素直に言葉に変える。
「アイズさんは、本当に綺麗な人ですから」
「そ、そうかな……そうでもないと思うんだけど」
「いいえ。とても綺麗です。その絹糸のような金髪も、形のいい金色の眼も、透き通るような肌も、吸い付きたくなるような唇も、全部全部が綺麗で目を離させてくれないんです」
「…………ぅ」
ベルが自分のどこが好きなのか聞きだせる、さあ来い。と身構えていたアイズは思わず唇を隠すように鼻から下の顔を手で覆う。
「だから」
「……だ、だから」
「最初の方、僕はアイズさんが綺麗すぎて、見ているだけで照れて高揚してしまって、アイズさんを見かけると逃げて居たんです」
「そうだったんだ」
やったぁ! 最初から好かれてたんだ嫌われてなかったぁ恐がれてなかったぁと内心の幼女が踊る。
「だから、僕はアイズさんが綺麗だから惹かれたんだろう中身を見ないで惹かれたんだと言われたら、それを否定できませんでした」
情けないんですけど。と言葉を締めるベルをアイズは首を振って否定する。何度も否定する。
そんな悲しいことを言わないで欲しい。最初はそうでも自分たちは──
「でも、アイズさんと初めて会話をした時に、戦いかたを教えてくれる約束をして。それから、アイズさんと会って触れ合う時間が増えていくだけ、容貌よりも内面に惹かれるようになりました」
「……ふ、ふぅん」
私と一緒だぁ私たち両思いだぁと歓喜の咆哮を内心の幼女があげる。
「初めて会った時は超然としたような感じを受けたのに、実は天然で可愛らしいところがたくさんあって、その一つ一つが触れるたび会うたびに露わになっていくのが心地いいんです」
「ど、どのへんが」
聞くの! 聞いちゃうの!? 『理性』という名の盾を構えた内心の幼女が吼える。
「第一級冒険者なのに、全然弱っちい僕を助けてくれただけでなく蔑すまずに謝ろうとしてくれて探してくれる所が好きです」
「あ……う、うん」
「迷惑かけたからと言って、そんなことする必要が無いのに他のファミリアの僕を鍛えてくれる所が好きです」
「…………う、ん」
「一緒に通りを歩いている時、子供の遊んでいる様子や賑やかな通りの風景を見ていると顔つきが優しくなるところが好きです」
「……私、そうなんだ」
「ええ」
「ほかには、どうかな」
「恥ずかしくて逃げたりしちゃいましたけど、気絶した時に膝枕をしてくれてアイズさんの柔らかさと暖かさで心が温かくなりました。今だから言えますけど、アイズさんに膝枕をしてもらうのが好きです。とても嬉しいんです」
「……わ、私も、その……ベルに膝枕するの……嬉しいよ」
「そっか……一緒ですね」
「……いっしょだね」
「そんな風に一緒の時間を過ごしているアイズさんのことを、一人の女性として大切に想っていると確信したのは、情けないんですけどついさっきです」
「っ!? ……それも、いっしょ……だねっ」
顔を輝かせながらベルの両手を握り締めるアイズ。告白の返事を後回しにし続けておきながら、ごく自然にベルのことが好きだと吐いたことに気付いていない。
内心の幼女もいっしょだねっとスキップして踊っている。
「アイズさん」
「う、うん」
ベルはアイズを抱き締める。互いのおでこがくっつくような距離。羞恥で赤くなっている互いの体温で想いを高める。
「僕は、強くて格好よくて、優しく思いやりがあって、笑顔がとても可愛くて、頑張り屋の意地っ張りの負けず嫌いで、話し下手の不器用で、幽霊が苦手で、お酒が苦手な──そんな、ただの女の子を、愛しています」
何? どうなってるの? これ一体どういうこと? 私どうすればいいの? 返事をしないといけないのはわかるけど? どう返事をすればいいの? そうだ、指輪。誓いの指輪をつけて答えれば……ここに無いっ!?
想いを曲げず貫き続けるベルに、アイズはあまりにも嬉しくて幸せ過ぎて胸が張り裂けそうになり頭がくらくらしている。返事をすべきなのは分かっていても、全身を巡る想いに
私ここで幸せで死んじゃうのかな。と
結果、全身を可哀想なくらい真っ赤に染め目元を伏せてしまった。
自分の告白を前向きに受け止めてくれている。
──そんなレベルではないのだが、そういう女性の機微が分かるベルならば、自分が様々な女性から好意を得ていることに気付いている──
アイズの様子からそう判断して、ベルは目に決意を宿した。
今まで見え隠れしていたアイズの根幹。アイズの闇に切り込む決意を。
アイズを愛するなら必ず切り込まなければならないところに切り込む。
「だから……戦っている時に泣いているようにしか見えなくて、何かに怯えて、今以上の強さを求めて何時も飢えているところが危なっかしい──そんな、あなたを僕は守りたい」
「──ベ、ル……?」
自分の根幹に切り込んだベルの目は何処までも優しく、アイズに不快な思いなどを抱かせない。
「アイズさん」
ここまできてぶれることなど何一つとしてない。アイズの抱えている事情は分からなくとも、自分がすべきことしたいことに何一つぶれるはずが無い。
綺麗で天然で負けず嫌いで、強いのに危なっかしくて守りたくなる少女のことが愛しているのだから。その想いを貫く。
「僕の冒険者としての始まりはあなたでした」
「……え」
「貴方と肩を並べたくて、あなたを守れるくらい強くなりたくて、僕の冒険は始まりました」
「べ、ル……」
「僕はまだまだ全然弱くて、格好悪くて、どんな人も颯爽と救えない偽善者だけど。あなたを苦しませ悲しませていることからあなたを助けてみせる。もう、あなたを泣かせないために」
アイズが魔法を使わなければ勝負の土俵にさえ立てなくなるほど強くなった少年は、ゆっくりとアイズの頬を優しく包んで持ち上げアイズと目を合わせる。
お互いの吐息さえかかるような距離。
「あなたを幸せにする。あなたを守る……だから、アイズさんが何に苦しんでいるか。教えてください」
金の目を限界以上に見開くアイズに、ベルは誓う。アイズさえ絶望している存在に立ち向かい抗うと誓い想いを貫く。
「……どうして、そこまで、してくれるの」
ベルの想いに感極まったようにぽろぽろと涙を零すアイズ。泣かせないと誓ったのにすぐに泣かせてしまったことを、悔いるような誇らしいような複雑な思いを抱く。
「決まってます。僕がアイズさんのことが好きだからです」
「……それだけ、で?」
「それだけで十分すぎます」
「べ、ベルは、本当にいいの? 聞いたら、こ、後悔するよ……ひ、酷い話だからほ、本当に、後悔するからね」
「アイズさんの境遇に泣いても怒ったりしても。僕は決して後悔だけはしません」
「な、何で?」
「あなたが悲しみの涙を流すから絶対に後悔しない。誓います」
「────っ」
震える眼差しが大きく揺れる。あ、と声が漏れる。
自分がアイズさんを抱きしめたからだ。
自分の胸にアイズの涙を染み込ませる。悲しい涙ではなく嬉しい涙にするために。
彼女に告げる。
「アイズさん……僕は、馬鹿だから当たり前のことしかできないんです。男として惚れた女の子を助ける。そうして、惚れた女の子の英雄になる。そんな当たり前のことしかできないんです」
「……っ……ぅ」
祖父が語り聞かせてくれ何時しか己のものとなった言葉を想いとして吐き出し、最後まで見据えていた金の瞳をもう一度しっかりと見据える。
「だから、アイズさん、あなたがずっと苦しんで抱えていることを教えてください。僕に当たり前のことをさせてください」
返答は沈黙だった。
「……」
待つ。
「…………」
さらに待つ。
「…………」
突然、ふっとアイズの目から力が抜けた。重い荷物を下ろせたかのように抜けた。
そしてくしゃくしゃに崩れた。ありとあらゆる感情で一杯になって表情を保てないほどに崩れた。
「……ベル、ありがとう」
そのまま、真っ赤になってベルの胸に突っ伏したアイズをベルは優しき抱きしめた。
あまりに真っ直ぐ、想いをぶつけられた心がオーバヒートしてしまった。言って欲しかったことをすべて言われた心がベルの想いに屈服してしまった。
『犯人はベル。凶器は幸福』というプラカードを持って倒れ伏しながら泣き続ける
涙が止まらない。
ベルにもう泣かせないと言われたのに泣いてしまった。だから、顔を見せるわけにはいかない。早く泣き止まなければと心は訴えるのに、もう少しこのままでいたいと心は願う。
指に誓いの指輪をしているかのように、薬指をさすりながら小刻みに震えるアイズを、ベルは落ち着くまで撫でる。
「あのね……あのね。私──」
小さな体。華奢な体。ゆっくりと吐き出させる言葉を噛みしめるように受け止める。こんな体で、抱えきれないようなものを抱えていた少女の代わりに自分が抱えて抗い勝利する望みを鷲摑みにするために。
そうでなければ男ではない。彼女の英雄ではない。
憧憬を終え、願望を抱いたまま、誓いという芯を入れ、希望を見据え、ベルはアイズの英雄になった。
「──べ、ベル……」
アイズの事情を優しく受け止めきったベルの胸で泣き終えると、アイズは幸福な笑みを浮かべて瞳を潤ませて見つめた。
「アイズさん……」
そういうとベルは一度首を振った。
「ベル?」
ベルの動作の意味が分からず首をかしげるアイズに、ベルはもう一歩踏み込んだ。
そうだ。ここまで距離を詰めたのに、事情をすべて知ったのに、敬語なんて間違っている。
「アイズ」
きょとん、かぁああぁぁぁっ
ベルに呼ばれた。初めて、ベルに呼ばれた。
脳内をその言葉で一杯にしてグルグル回転させるアイズにベルはもう一度呼びかける。
「アイズ」
びくぅ!
アイズの名をもう一度呼び捨てにしたベルは、反射的に跳びはねようとするアイズを優しく(渾身の力で)胸に留める。
「アイズって呼んでいいかな?」
もし、呼べないのならば呼べるまでこのまま抱きしめて言い続けよう。そんな決意をする覚醒兎。
抱きしめられたアイズがそれを知れば「まって、いきなりは待って、恥ずかしい」と恥じらっただろう。いや、正直なところ知ったところで何らアクションは取れない。
ベルに、よばれた。初めて、ベルに呼ばれた。ベルが敬語じゃない。
あまりの喜びに、目もくらみ全身が小刻みに震える。何とか意識が揺蕩わないのを抑えるのが、今のアイズの精一杯だ。内心の幼女が返事しなさいとウガーと叫ぶことによって何とか自分を取り戻し、アイズは言葉を出す。
「い、いいよ……」
その返答に、覚醒兎は意中の少女を呼び捨てにする羞恥と達成感を、同時に味わいながら、もう一度告白する。
「僕はアイズが好きだよ。一人の男として、アイズ・ヴァレンシュタインっていう。今、僕が抱きしめている女の子が好きだ」
「……ぁ……ぅ……」
顔を真っ赤にして涙目でプルプルと震えてしまうアイズ。顔を隠したくともベルに強く抱きしめられていて身動き一つとれない。
アイズは、己の中の内心の幼女がフラフラになりながら中、何とか言葉を捻りだす
「ベル……」
「なに」
「その、ね。もう一事呼んで」
「良いよアイズ」
ぱあぁっ。ベルに名を呼ばれるだけで心の中に明かりが照らされたように明るくなる。
「ベル」
「アイズ」
ぱああぁっ。意味もなく互いの名を呼ぶ。
「ベル」
「アイズ」
ぱあああぁっ。それだけで幸せが体を巡る。もっと、幸せにアイズはなりたくなった。
「ベル……」
「なに、アイズ」
更なる幸せを得ても良いのか迷うアイズの心を察したベルが優しく聞く。
「……よ、呼び方をね」
「アイズの呼び方を?」
正直、変に思われないかと思う。みっともなく欲望を吐き出しているのではないかとベルに受け取られるかもしれない。でも止められない。
「……呼び方をね。ちょっと変えてほしいな」
「アイズの呼び方を、どんな風に?」
そんな駄目だよ、絶対変。辞めろと首を振る内心の幼女。理性の呼びかけを振り切るように、アイズはベルに甘える。
「う、うぅ……その、ね。今みたいに優しく呼んでくれるのも良いんだけど……」
「良いんだけど。アイズはどうしたいの」
え、言うの? 本当に言っちゃうの? 内心の幼女が驚愕に目を見開く。
「へ、変だと思うかもしれないけど……も、もっと、ぞんざいに……荒っぼく……ベルの物、ベルの所有物みたいに……呼んで、ほし……いんだけど……う、ううん。ごめん、忘れ──」
「アイズ」
かぁああっ
バシバシ
より強く、身動きが出来ないほど強く抱きしめられてから、ぞんざいに荒っぽく所有物のように耳元で囁かれ、顔だけでなく全身を真っ赤にさせるアイズ。羞恥、達成感、歓喜が限界を超え、意味もなく床を辛うじて動く素手で叩く。
凄い。本当に凄い。何処までも優しい顔をしたベルに、強く抵抗できないように抱きしめられてからぞんざいに荒っぽく所有物として呼ばれる。そのギャップがたまらない。
優しい顔でお前は僕のものだと言われる。たまらない。
抵抗できないようにされてからモノにされる。とても良い。
これが、ギャップ萌え。ロキが説明していた訳のわからない言葉の意味をアイズは魂で理解した。
内心で、首輪を手にして自分の首につけようか迷う
「ダメだよ。アイズ」
「っ! ……ベルっ」
優しい呼び方に戻ったベルに、ガーンと雷に撃たれたように震える。
「アイズに怪我をして欲しくないんだ」
「……ベル」
瞳を揺らしながら雛鳥のように強請るアイズにも、覚醒兎は動じることはない。
『おなごの性癖は、ここぞという時に責めるべきであり、普段は触れないようにするかギリギリ触れるか触れないかで抑えるべきじゃ。というか深淵に引きずり込まれたくなければ、おなごの性癖に易々と触れるなよ』と、こういうことには頼れる祖父も言っていたし。
「アイズ」
「ベル……あっ……」
ベルが優しくその両手を己の手で包み込むと、もっと欲しいと強請る潤んだ目でベルを見ていたアイズが驚きに息を飲んだ。
ゆっくりと、互いの絡み合う視線の中間になるように、ベルは包み込んだ手を置く。
「アイズ」
「ベル……」
ちらちらと、視線を包まれた手とベルの顔で交互させるアイズ。その整った顔立ちが、恋慕と不安で混じりあい、頬を仄かに赤く染め、ベルの名を小さく呼ぶ。
それが、何よりも愛しく思える。包み込んで優しく抱き締めたくなる。
想いのまま、ベルは動いた。
細身なしなやかな肢体を強く優しく抱きよせて、顔を近づける。
この心の内の想いをもっと伝えるために。
恋慕を浮かべていたアイズがそっと目を閉じる。全てをベルに委ねるために。
流れるように間を置かず唇を重ねる。
しっとりと濡れてぷるんと柔らかな感触に、ベルの脳がじんじんと痺れる。
腕の中でアイズの裸体が、わななくように震えた。
(不思議……)
ただ唇を重ねただけの口付けが、意識が無いベルとしたキスとは比べ物にならないほどアイズの心から愛しさを溢れさせる。
互いの唇の柔らかさを感じ、互いの触れ合う体の体温を感じ、互いの鼻息のくすぐったさを感じる。
ただそれだけが愛しい。
閉じたままの瞼を開けることさえ億劫だ。言葉などいらない。ただ互いの温もりだけでいい。
「ベル」
「なに、アイズ」
「私もベルのこと……大好きだよ」
「うん。僕もだ」
「愛してる。私の、英雄」
──この日、憧憬が憧憬でなくなった
ベルにコラボイベントの誓いを思い出してもらうのは、帰ってからで良いとアイズは思っています。
ベルが自分の英雄になったので、指輪は最後の仕上げであるべきだからです。指輪を見せれば、必ずベルは誓いを思い出してくれると確信しているからです()
次回からはエロです。