彼ら日帰りで深層行って帰ってきてます。
最後にアンケートがあるので、良ければ投票をお願いします。
ダンジョン深層。
震える大地の中、ヒトと怪物がぶつかり合う。
抜き身の得物。爆音と共に破裂する炎雷。血潮が飛び、焼かれる肉の匂いが漂う。
「鍛練は決着に数えないよね」
「
意志疎通所要時間、コンマ2秒。
同居と同時に行われたこんな会話と共に始まった『鍛練』は、既に数十回にわたって行われていた。
ホームの庭に大穴を開け──マリィ用の池になった──て以来、主な場所をダンジョンに移して『鍛練』は行われていた。
今日も変わらず、昼食を終えてから『鍛練』は行われている。
両の手に巨大な両刃斧を装備したアステリオスが踏み込む。
小細工なしの極撃。大地を震わせ空間を揺さぶる。
技巧はあれど怪物としての在り方が結晶したように、叩き吠えぶつける。
圧倒的な力と強靭に満ちた体躯。
好敵手に比べ明らかに優れている怪物たるがゆえの長所。
激しい鍛練と戦闘の結果、アステリオスはこれこそが己に相応しい闘う手段だと定義した。
目の前の好敵手のために定義した。
膨れ上がる鋼の上腕。人ではあり得ぬ光景。
振り下ろす。
重厚な力の極致はあり得ぬことを巻き起こす。両刃斧が振り下ろされて出来た圧縮された風圧。それさえ武器となる。
圧縮された風圧が、炎雷をぶち抜きながらダンジョンに底が見えない深い裂け目を作り、ベルの髪の先端を僅かに切り裂いた。
小手先の速さや技では覆すことのできぬ圧倒的な力。
だが、そんなことで怯むようなベルではない。
炎雷を連射して風撃を緩めた隙間に体をねじりこみ、宙に踊る数本の白い髪を切り裂かれながら踏み込む。
互いの体が触れ合うほどの近距離。
笑みを浮かべたアステリオスが受けて立つ。
「「──────!?」」
体ごとぶつけるようにして受け流すことを許さぬ怪物の極撃を、いなしながら人が突き進む。
互いのぶつかり合いの余波で、空間が揺れ、大地が軋み、局所的な地震を巻き起こす。
どのような力を秘めていればそんなことが起こりえるのか。だが、一つの事実がそんな疑問さえ挟む隙間さえ与えない。
互角。
短刀とナイフと斧が無数の火花を散らすたびに、空間が悲鳴を上げ、大地が震え割れながらも、両者にはぶれ一つ無かった。
何者をも正面から粉砕する怪物の力に対し、小柄な人間が真正面から打ち合う。目を疑うような光景。
その答えは単純。重厚な力は小手先の速さと技では覆せない。
だから──速さと技の極致に至れば良い。
あまりにも単純な回答。
それをベルは実施する。
人としての極致へ至る。
目の前の好敵手のために実施する。
踏み込む。
アステリオスの目でさえ、ベルの姿が転移した。
そう幻視するほどに素早く、雷光のごとき速さで踏み込み、文字通り暴風と化した一撃の隙間を縫う軌道を描いて短刀を叩き込む。
アステリオスの角で防がれはしても、紛れもなく速さと技の極致の一撃。
「「──────!?」」
互いの想いを刻み込まれた雄二匹が笑みを浮かべ、互いを喰らわんとする飢餓の叫びが空間を震わせる。
短刀とナイフと斧が無数の火花を散らし、炎雷と風撃が中空を駆け、それらの無数の軌跡を空間に刻み込む。極限の二人の激突に、大地が幾条もの地割れを刻まれ鉱石が含まれた無数の欠片を浮かせ、炎雷と火花に照らされ地上に落ちた星のように煌めかせる。傍らから眺めることが許されるのなら、その絵画のような美しさに見惚れるだろう。
だが、そんな幻想的な光景さえ、ぶつかり合う雄二人の戦いに比べては何程のものにはなりえなかった。
ベルとアステリオス。人と怪物。同じ鍛冶師の武具を身に纏いはしても対極の存在の者達。いずれそれぞれの種の極限に至る雄達。
その2つが真っ向からぶつかりあったとき、そこに現われるのは一撃一撃が致死となる本物の死闘。だが、そこには殺意に塗れた凄惨さはなく、子供が夢見るような崇高な意志と荘厳な想いのぶつかり合い、おとぎ話の勇壮さと華麗さだけがあった。
この場に歌を生業にしている者がいれば、この戦いの曲を書き上げることこそが己が生まれた理由だと確信し、人生をささげる。ベルとアステリオスの戦いは、一人のアマゾネスの少女だけが見守ることを許された戦いは、そんな戦いであった。
だが、激突する二人にとって、これは『鍛錬』でしかない。
──此処ではないのだから
アステリオスは思う。自分の風撃はこんなものではなかった。
今のように踏み込まれてしまえば、この首は跳ね飛ばされていただろう。それほどまでの隙があった。だが、自分の首は繋がり、今も好敵手と干戈を交えられている。
成長したからだ。この『鍛練』の中で。目の前の好敵手と同じく。
──未だ己には『鍛練』で成長する余地がある。
ベルは思う。好敵手の風撃で粉砕され背後からせまる頭大の瓦礫に、頭を弾き飛ばされる瞬間にかわしながら思う。
この『鍛練』の前、今のタイミングで自分はかわせただろうか。否、かわせなかった。
好敵手はいなせただろうか。ベルの頭で隠されていた瓦礫の弾丸を、当たり前のように角で粉砕した好敵手。否、いなせなかった。
自分と同じく、好敵手は『鍛練』で成長している。
──未だ好敵手には『鍛練』で成長する余地がある
アステリオスの踏み込みで、粉砕され巻き上がる瓦礫の山。短刀とナイフと斧が瓦礫の隙間を縫うように無数の火花を散らし合う。
──ならば
粉みじんになった瓦礫の霧。その先にある互いの眼差しを見据えながら──前へ。
──自分たちの決着の時と場は此処ではない。
「「──────!!??」」
瓦礫の霧を消し飛ばす己を賭したヒトと怪物の咆哮。一切相手の顔から目を逸らさず、殺し愛求め合い通じ合い燃え盛る意思。
激突する両雄。
一瞬で散った火花の数。九十と二。
同時に起こった九十二もの衝撃波は、互いに打ち合い増幅し巨大な衝撃波となり、周囲の壁が崩れ大地が崩落する嵐となる。
大破壊に対する免疫である
定義を。
実施を。
渇望を。
願望を。
憧憬を。
勝利を。
強さを。
誇りを。
無数の想いを至誠を互いに捧げながら散らす。
永劫の時間とも思える間、嵐を起こす。
他の誰も立ち入らせず二人きりのみで渾身を尽くす。
終わらせるのを拒みながら、衝撃波を荒れ狂わせる。
だが、この場はこの時間は『鍛練』
ならば──
この時間を永遠とするのではなく、踏み台として、相手への更なる想いを至誠を捧げ合うために。
糧とすべく更なる意思を捧げて踏み込む。
今の己では無く進化した己を、明日の好敵手に見せるために──前へ。
踏み込み斬り上げるベル。脇を切り裂かれながらの猛牛の蹴り。弾き飛ばされる。腹を庇い、足甲ごと砕けた右脚。飛び散る血潮。
両者の血煙を吹き飛ばすアステリオスの突貫。壁ごと粉砕せんとする。目には吹き飛ぶ好敵手を、耳には聞き慣れた鐘の音を、脳裏には冷静沈着な思考を。胸には溢れんばかりの想いを。
全てを加速する。
一秒に満たない時間のチャージでは、聖火の英斬であっても、一撃では己が上回っている。何の問題はない。
粉砕する。
一際加速して突貫。
──絶対死の危機に、待っていた好機に、人間は猛々しい笑みを浮かべた。
砕けた脚をクッションとし、生きた脚にチャージを終える。半瞬のチャージで壁を蹴り飛ばす。
発射。
発射音を置きざりにした白い雷光が走る。
音を超えた速さで人の重さという重量物が動く衝撃に空間が破裂する。
ダンジョンを粉砕する巨大な衝撃波。
だが、それより瞠目すべきは、
間違いなく、怪物の全ての一撃を威力で上回る必殺の一撃。
──一撃の威力では己が上。その誇りを粉砕された怪物もまた猛々しい笑みを浮かべた。
己の首を撥ね飛ばされる確信を得て──更に加速する。音の壁を粉砕する速さへ。好敵手と同じ領域へ。
限界を越えて加速する。
激突。
規格外のぶつかり合いに、空間ごと爆砕する衝撃波が走る。
一人の人間と一匹の怪物のみが形を保つことを許される、激突点から連鎖する崩壊。
音速を超えた中にあっても、交差する視線。絡み合う意思。
あえて加速して踏み込むことで激突点をずらし、両刃斧一本と左腕一本の犠牲で己の必殺を唯の強力な一撃に堕とす技巧の極致を見せたアステリオスをベルは賞賛し。
アステリオスは、同時にチャージする手と雷霆を纏う手を隠しながら発した比類ない破壊力の必殺の一撃そのものを賞賛した。
速さは互角。人でありながら力の極致を。怪物でありながら技の極致を。本来有るべき姿とは正反対の己を交歓した両雄は、同時に猛々しい笑みを深める。
弾け別れる。
一瞬で40Mをかき消した白い雷光に、壁を粉砕した怪物は振り向きざま無事な剛腕で風撃を叩き込む。
ヘッドスリップで跳ね起き上がりかけた姿勢のまま人間は炎雷を放つ。
笑みを浮かべた両者の中間で、炎雷と風撃がぶち当たり、
「はいっ、万能薬。砕けた腕とか足には振りかけて治したから後は飲んでね」
「ありがとうございます。ティオナさん」
「感謝する」
「いいよいいよ。君たちの鍛錬見てると、何でか知らないけどあたし幸せになるんだぁ。ずっと見ていたいんだよね。それに比べれば、こんなことくらい何でもないよ」
ティオナが居なければ死んでいた傷を負っていた両者は、照れたように頬をかきながら飲み干す。
飲み干した後、無言で失われた愛斧──何と、二ヶ月もの長きに渡り好敵手と打ち合えた──を悼むために瞑目するアステリオスに合わせて、ベルとティオナも瞑目した。
「……じゃあ、これから何時も通り私がサポーターするからね。稼いで帰ろっ」
「うむ」
「いつも、ありがとうございます。ティオナさん」
「いいって、いいって、アルゴノゥト君といると、ドロップアイテムたくさん出るからこっちも得してるんだよね。だから、帰るとティオネもニッコリなんだから──よーしっ、それじゃあ、稼せごー」
「おー」
笑いながらサポーターバックを背負ったティオナに先導され、返答しながら拳を突き出した雄と無言で拳を突き出した雄二匹が、連れ立って自分たちが作った巨大なクレーターを歩く。
──ダンジョン四十三階層において蹂躙が行われる少し前の話だった。
約1ヶ月前、久しぶりのヘスティアファミリアでの『鍛練』後。ある二人の会話。
「おばあ様(そう呼べと言われた)、さっきの鍛錬、あれをどう思いますか?」
治療を終えたベルとアステリオスを、興奮する子供たちと一緒に風呂に行かせたアイズは、浮かべていた笑みを消して今回初めて鍛練を見た義祖母。鍛練時、熱の籠った誇りに満ちた笑みを浮かべていたヘラに問いを投げ掛ける。
最初に鍛練を見た時から自らに根付く疑いの根。ベルが女の子達──リリ、春姫、エイナ、ティオナ、レフィーヤ、リュー等々──と一緒に居ても根付くことが無い危機感の根。誰もが、リヴェリアさえもが、笑って否定した疑いと危機感の根。それが本当に自分だけの疑いと危機感なのか。自分だけがおかしいのか。
最も身近で、夫婦関係を構築している義祖母に聞かざるを得なかった。
「嫁御よ。この場は、義祖母ではなく、夫の数多の浮気を見聞きした妻。男の浮気のたびに声無く涙した一人の女として、そなたが真に私に尋ねたい問いに答えよう。心して聞け……」
「ごくっ……はい」
浮かべていた笑みを消し、言葉を途切れさせると、目を閉じて懐古に浸るヘラ。その顔に、耐え難い苦痛の日々を送った女だけが浮かべられる色を見たアイズは思わず唾をのみ込む。
「間違いない
──あれは浮気だ」
「やっぱり……っ! 」
目を開けてヘラは断定する。一人の妻、一人の女、一人の先達として、アイズの疑いと危機感を開花する。
その言葉に、アイズは強く頷く。
やはり、そうだった。最初から疑って危惧していた通りだった。自分は正しかったと。
──神と人、様々な違いがあっても浮気判定ボーダーラインは同一になることがあると実証された瞬間だった。
「ああ、ベルのあの目、疑う余地がない。嫁御と子供と同列の想いをアレに対して持っている。そして、アレの眼差し。紛れもなく、ベルと同じくらいにベルのことを想っている眼差しだ。妻を放置して、否、お互い以外をすべて排除して、想い合う二人だけで楽しげに勤しむ。あれが浮気でなく、何と言えるのだ」
「くぅ……っ!」
自分の疑いと危機感を言葉で的確に表現されたアイズは、溢れる想いを抑えきれずに歯噛みする。
「もし、今ベルが死ぬことがあれば、嫁御と子供と一緒に最後に脳裏に浮かべ遺言を遺すぞ、アレに……まさか、牛とはな。主人の、あの方の孫だな。そっくりだ
……引き離すことを考えてはどうだ?」
こんなところは──牛や山羊等々だけでなく蛸にまで浮気した夫の在り方は似なくても良かったのに、どうして似てしまったのだ。良いところが沢山似ているのに。悲哀に首を振りながら、別れさせるべきだとアドバイスしてくれたヘラの言葉に、思わずアイズはベルとアステリオスを庇う。
「で、でも、あの牛は良い人で、子供達にも人気なんです。何より、あの牛と戦っているベルは、輝いていて見守りたくて「嫁御よ」はい」
何度も夫に浮気された女に、憐れみと哀しみに満ちた声で呼ばれ、アイズは直立不動となる。
「これは経験談だが。
……そういう風に思いやり見守ることは大切なことだ。本来ならば、間違ってはいない。だが、そうやって見守っていると何時の間にか自分よりも上に想われてしまう場合があるのだ。間違っている場合があるのだ。そして、その場合、後から後悔しても取り返すのは至難だ。言うまでもないが──」
「あの牛はそういう場合」
「そうだ。幾万もの夫を誑かすモノを見てきた私の目と鼻と耳と勘に狂いは無い。
あの牛から漂う香り、音、気配、意思。全てがそうだと教えてくれる。放って置けば、ベルの一番になりかねないヤツだと。妻から一番の座を奪い取ると。己が意図すること無く、想いを貫いた結果として奪い取るヤツだと。
アレが天性の略奪者だと教えてくれる。
アレに対しては良識は害でしかない。己の欲望こそを是とせよ」
「……おばあ様」
「何だ」
「(胸を強調する姿勢をとる)別れてと泣きながらすがりつけば、ベルは別れてくれると思いますか」
アドバイスに納得して、即座に女の武器を行使する案を出してきたアイズに、ヘラは誠意を持って答える。
「……率直に言おう」
「はい」
「難しいな。極めて難しいだろう……いや、不可能だ」
「そ、そんなっ、何でっ──」
「あの牛と愛し合っていても、ベルには自分が浮気しているという自覚が無いからだ」
「ひぅ……」
心の片隅で疑っていた事を突かれて、絶望の色を浮かべて息を飲むアイズ。何とか切り返す。
「な、なら、自覚させれば」
「無理だ。嫁御では自覚させることもできんよ」
「な、何でっ」
場所が人──異端児も居るがアイズとしては既に人扱い──の気配が濃い場所でなければ、自分が妊婦でなければ、恥も外見も無くアイズは泣き叫んでいただろう。初めての浮気(現在進行形)は、それほどにアイズを追い詰めていた。
鬼気迫るアイズの様子、乱雑な態度を見てもヘラにはマイナスの感情を一切覚えなかった。覚えるのは同情と慈しみと共感のみ。初めての夫の浮気ほど妻を狂わせる物はないのだから、姉の胸の中で泣き叫んだかつての自分もそうだった。
もう少しかみ砕いて説明する。
「嫁御が嫁御ゆえにだ」
ゼウスに浮気されヒステリーを起こしていたヘラを、優しく抱擁してくれた
「???」
何を言っているのか。訳の分からない言葉に、思わずアイズは義祖母を見つめる。
そんな彼女を見ながらヘラは姉を想う。ヒステリックに暴れられても罵られても殴られても蹴られても泣き喚かれても、誰もが逃げ去っても唯一人傍に居て抱きしめ続けてくれた
「嫁御はベルと恋愛感情によって愛し合っている。ベルは嫁御を愛し、嫁御はベルを愛している。相違ないな」
「は、はい」
改めて言われて感じ入ってしまったアイズは頬を赤く染める。
ベルと愛を育んだ日々により女として成長した少女に、ヘラはもう少し分かりやすく説明することにした。
「そして、あの二人の愛は違う。恋愛感情の愛ではないのだ。この意味が分かるか?」
「!?」
瞳に理解を浮かべ始めたアイズに、ヘラは頷き言葉を重ねる。
「そう、あの二人の愛は恋愛感情によるものではない。嫁御と同じカテゴリーに分類できる愛ではなく、『好敵手愛』とでも分類すべき全く別の愛だ」
「!!!???」
二人の関係が己とベルの関係とは違う、と完璧に理解したアイズの表情が驚愕に彩られ引き締まる。
「それゆえ、恋愛感情で愛し合っている嫁御がどう言おうが問い詰めようが嫉妬しようが泣こうが通じることはない。愛の分類が違うのだからな。何を言っているのかと、ベルに首を傾げられるだけで終わるだろう。だから──」
「だ、だから」
「嫁御は妻であるが故に、男と愛し合う女であるが故に、あの二人の愛を別てない。浮気を止めるどころか、自覚させることさえ不可能。そういうことだ」
「くぅぅ……っ!」
『好敵手』なんとエゲツない関係か、妻としてのプライド、女としてのプライド、両方を粉砕されたアイズは歯を軋ませながら歯噛みする。
おばあ様の言っている通りだ。数ヶ月前にベルと浮気について話し合った時に薄々悟っていた通り、そもそも浮気しているという自覚がない。あの時、遂に、ベルにアステリオスとの浮気宣言されるのかと悲痛な覚悟をしたのに、自覚なしだと怒ることも泣くことも出来なかったじゃないか。雑談で流すことしかできなかった。
ノーマークだった。女の子──人間で無いことなどアイズには些事──では無かったから、ノーマークだった。
少し前、ベルと一緒に居た時訪ねてきたおじい様。
ベルは同じなんだ。おばあ様に会いもせずナンパして、おばあ様に通報したら「やることがある。だから今は会えん」とか言って逃げたおじい様と同じ浮気者なんだ。
浮気に関することの一生分の苦悩はダンジョンでしたと思っていたのに。何で。男同士でなんて。家族でもないのに。愛し合うなんて。あんなの聞いてない。想像さえしてない。
どうして? 私以外に一番が居るの? ううん、私以外に一番が居るようになるのは覚悟してた。望んでいた。
だって、その一番は産まれてくる子供だと思っていたから。信じていたから。
なのに、牛。
なんで、牛。
どういうこと?
どうすれば良い。私はどうすれば。
思わずお腹の子供を優しく撫で、母としての自分に縋るアイズに、「祖母の私が言っても自覚させられんな」と溜息交じりに吐いたヘラは最後の手段を尋ねる。
「聞くが、力尽くでは?」
「悔しいけど。一対一だと……もう、もう、かな……敵いません。勝てません」
血を吐くようなアイズの声。
力尽くで相手を破滅させる。妻として女として、至極当たり前の正義の行使さえもを封じられたアイズ。そんな彼女に、憐れみさえ抱きながらヘラは嘆息した。
「そうだろうな……女帝と呼ばれていたあの娘ですら、タイマンでは負けるぞ。あの牛。何であんなのが地上に居て、大人しく子供の世話やら力仕事やらをしているのだ。有り得んだろう、普通……いや、これも、お姉さまの慈愛と徳ゆえか。ならば、頷ける。やはり、お姉さまこそが(以下略」
ヘラの愛する姉自慢を最後まで真剣に聞き相槌を打ち続けたアイズは、最後に自らに言い聞かせるように言った。
「ありがとう……ございます。よく、分かりました……やっぱりあの牛だけが私の『敵』。私一人では勝てない『敵』」
その後、蒙を開いてくれたヘラに丁寧に礼を言い、ベルとアステリオスと子供達の着替えとタオルを持っていくアイズには、一瞬だけ何時もとは違う笑みが浮かんでいた。
結婚以来、常に浮かべている柔らかな優しいものとは僅かに違う笑みが浮かんでいた。
どこか、吹っ切れた笑みが浮かんでいた。
戦っているのではなく、愛し合っていると読めて貰えるように書けていたらいいなあ(情けない願望
ちょっと、長い解説を。
アステリオスに比べると、他の女の子はアイズに危機感を抱かせられません。
『女』として一番愛されていても、同じくらいの想いをベルが抱いている相手が居る。
それだけで追い詰められているのに。嫉妬して、戦いたくとも『好敵手』という立ち位置が違う相手なために、土俵が違うから戦えない。戦えたとしても、『好敵手』の土俵であり自らの自慢である腕っぷしでは勝てない。こんな相手と比べると他の女の子は脅威と思えません。
なので、アイズは戦力を欲しています。対アステリオスで手を組める戦力を。切実に(真顔
だから、今のアイズは、他の女の子が少しでもアステリオスからベルの意識を逸らして共闘してくれるならば。
許せる相手──対アステリオス危機を共有出来て、仲良くできる──なら、理解も納得もしませんが、妻として女として受け入れがたいことをある程度なら許します。自分からは絶対言いませんが、レフィーヤみたいな娘なら許します。そこまで追い込まれています。
ぶっちゃけ、男同士なんて有り得ないものより、そちらの方がマシ(箱入り娘感)
アステリオス(最大の脅威)が居て、自分が一番『女』として愛されているなら、ですが。
なお、浮気を許すわけではありません(とても重要
それはそれとして、今回のように、極々自然とティオナが距離を詰めて仲良くなっていたりします。七割恋慕、二割本能、一割計算で。
なお、『鍛錬』を繰り返したベルとアステリオスは、隔絶したと言いたくなるくらい強くなっています。ティオナが、ほぼサポーターに徹するくらい強くなっています。アホみたいに強くなっています。
が、強さの基準とする相手、比較している相手が、常に鍛錬する相手。自分が強くなったと思ったらそれ以上に強くなっている好敵手なので、隔絶したことに気付いていません。というかどうでもいいです。ガンギマってます。
お互いにだけ夢中です。
ベルのステータス更新をした後、アイズのお腹に手を当てて子供の胎動を感じて落ち着かなければ、ヘスティア様が惑乱するくらいに強くなっています。
それと同時に、強くなる二人に似合うだけの武具を作成更新することが出来ているヴェルフの鍛治アビリティと関連スキルと技術もとんでもないことになっています。
あなたはベルとアステリオスが浮気関係だと思いますか。
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浮気だと思う
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浮気だと思わない
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浮気なんて単語で汚せない真の愛だと思う