が、まだ『中度』です。
「あの、班長」
「何でしょうか。フロット」
ギルドの一室。
ミイシャ・フロットは、外出先から帰ってきた自身の上司であるエイナ・チュールに畏怖の想いを込めて呼び掛けた。
同期のエイナが先に出世したことには、ミイシャはどうこう思わない。正当な評価だと思う。仕事場で敬語を使うようになったのも社会人として当たり前のことだ。プライベートでは──少し変わったが──昔通りなのだから。
だから、二人きりの部屋なのに敬語を使うことは気にしない。
ただ──
「班長が、ソーマファミリアの監査に態々行く必要は無かったと思うんです。私が代わりに行くべきだったのではないかと」
「商業ファミリアに路線を変更したソーマファミリアが、取り扱おうとしている製品は重要です。現在の市場末端価格を鑑みれば、何らかの『決断』が必要となるかもしれませんでした。だから、権限がある者が行ったのです──何か問題がありますか」
「いいえ。問題ありません」
──あまりに鬼気迫る迫力が、怖いのだ。
眼鏡に手をやりながら「終わった後で何か文句つけんのか」的な静かな視線を向けてくるエイナに、ミイシャは屈服しながら、あの優しく穏やかなエイナはどこへと嘆く。
(弟君、恨むよ。本当に)
担当アドバイザーであるベルが結婚してから、エイナはこうなってしまった。
普段はまだマシなのだが、仕事中、自分と二人きりの時には今のようにピリピリしている。
初恋に破れた。それも、ベルがレイプされ、レイプしたアイズが孕んだから結婚した。そんな、あまりにあまりな理由で初恋に破れたのだから仕方ないだろうとは理解できる。納得できる。胃が痛くて仕方ない上に頭痛さえ覚えるようになったが納得しよう。
──現在の自分たちの立場よりは納得できるのだから
広々とした部家に三つしかない席の一つに腰かけるミイシャは、胃を押えて目の前の書類を片付けながら嘆息する。
今の自分たちは、独立した部屋を与えられているが受付嬢を辞めたわけではない。訳の分からない権限を与えられた受付嬢になっただけだ。
受付嬢+神ウラノス直属の特殊部隊の担当班班長。今のエイナの肩書きを端的に言えばこうなるだろう。そして、自分はその唯一の部下。
現場第一主義でありながら出世を望み出世した。
何言っているのか自分でも分からないが、そんなメチャクチャが実現した結果こうなった。こうなってしまった。
肯定されるのが恐くて聞いていないが、周辺情報から察するにベルが結婚した直後エイナが神ウラノスに「何でもするから権限を下さい」と直談判して──何で出来るの? という素朴な疑問について、ミイシャは心の中の別の棚にしまい込んでいる。これ以上深淵を覗きたくない──神ウラノスとフェルズが相談した結果「任せられる」と判断されてこうなったようだ。
ロイマンですら携われない事に携わっているエイナは、ギルド内で少しだけ浮いている。
受付嬢仲間達からは嫌われていない(筈だ)。ただ、(表向きは)自分達が何をしているか絶対に知ろうとせず見もしないという、賢明な判断をされているため距離が空いてしまっただけだ。
エイナに極秘任務を与えるために、単独で部署を与えるという神ウラノスの命令が下った瞬間、
(エイナが何処か遠くへ行っちゃう)
という直感に従って、エイナの部下として志願して受け入れられたミイシャが居なければ、少しだけなどでは済まなかっただろう。
若いミイシャが志願して受け入れられた。そして、ある程度仕事の内実が知られているこそ、其処までヤバい仕事では無いと思われている。だから、少しだけ浮いているで済んでいるのだ。
(でも、そうじゃないんだよね。十二分にヤバい仕事だよ。これ)
だって──
「それよりも、彼らの件。どうなっていますか?」
「その件なら──」
特殊部隊とは人間ではないのだから。
ギルド内部で真しやかかに囁かれていた部隊。それがまさか実在して、その担当になるとは思って無かった。それが人間でないなどと夢想だにしなかった。出来るわけなかった。
勤めている部署で、人間は自分とエイナだけに成ると一年前のミイシャが聞いたら、妄想だと笑い飛ばすか、言った相手を病院へ連れて行っただろう。
だが、今、その妄想こそが現実になってしまった──室長兼上司の上司でありエイナを特殊部隊担当に推薦したフェルズは元人間らしいが、見た目ガイコツだから彼らと同じような存在だと思う。
(異端児かあ)
理知ある怪物である彼ら。
部署が出来た直後、ウラノスから「交流せよ」と命令され、石竜と竜女とリザードマンとギルドの中で直接会ったあの時、割とミイシャの価値観は崩壊した。
──何で怪物。ギルドが手を組んで。オラリオの都市運営・冒険者と迷宮の管理・魔石の売買を司る機関が、怪物と手を組んでいたとか真っ黒すぎる。神ウラノスが保護して。オラリオの柱と呼ぶべき神が怪物を保護していて。世の中どうなってんの。何を信じればいいの。そっか、私此処で殺されるんだ。食べられるんだ、モグモグ美味しく頂かれるんだ。結婚どころか彼氏もいないのに──
あまりの衝撃に、傍に第一級冒険者が居ても意識が薄くなり気絶する直前までいくくらいに崩壊した。
が、何とか持ちこたえた。
「そう、ベル君は、こんなことまで私に隠していたんだねっ! そこまで、私を信用して無かったんだっ!
(首を振った後俯く)……ううん。信用してくれなくても良かった。信用してくれなくても利用さえしてくれれば……それで、良かった。
ギルド員の私を利用してくれれば良かった。それなら、まだ、都合のいい女で居られると思えたのに。ベルくんにとって、私が──私がベルくんにとって価値がある女なんだって思うことが出来たのに……無価値じゃないんだって思うことが出来たのに……」
「え、エイナさん、な、何を言っ「ベルくん、答えて」な、何を」
「何っ! 何をですってぇ!!」
「え、えええっ……と」
「私は……私はっ! ベル君にとって、都合の良い女ですら無い、何の価値もない女だってことよ!! レイプされたことも!! 妊娠のことも!! 結婚のことも!! (異端児達を指差し)彼らのことも!!
大事なことは……いつも、いっつも、い~~っつもっ!! 私には後回しの事後報告だけっ! 私は放置!! 放っておいていいやぁとか考えているみたいに、どうでも良い無価値な相手みたいに、放置っ!!」
「え、エイナ、さ「答えなさい。ベル・クラネルっ!!」は、はぃぃっ」
「ベル君にとって、あなたにとって、わたしって──わたしってなんなのよぉぉっ!!!???」
ガックンガックン。と付き添ってくれた冒険者──エイナを巻き込むことに反対していたベルの襟を掴んで揺らしながら吼える女性。浮気されて離婚を切り出された妻もかくやとなった存在。誰もが認める恐怖の権化と化した、エイナが居たお陰で持ちこたえた。
激昂のあまり、怪物よりも遥かに恐ろしいオーラを炸裂させる身近な人間のお陰で持ちこたえた。
価値観どころか人格が崩壊していた人間がいたお陰で無事だった。意識失ってる場合じゃ無くなった。
ぶっちゃけ、トラウマになった。
まあ、エイナの暴れっぷりも悪いことばかりではなかった。
「ベルを苛めないで」と悲痛な声で泣き叫び
「よせっ、行くなぁ、ウィーネぇ」「近づいちゃダメぇっ、刺激しないでぇー」「止メロォ!? アレハ間違イナク、イカレテルッ!?」
仲良くなれたのだから。──仲良くなってしまったのだから。
その後
『エイナさんは大切な人です。だから、巻き込むまいと頑張っていたけど、ギルドの現場で助けてくれる人が居なければ、もうどうしようもなくなってしまった。異端児たちを助けたいのに助けられなくなってしまった──お願いします。僕たちを助けてくださいエイナさん(意訳)』
そんなベルの懇願で上機嫌になり穏やかな天使へと豹変したエイナ。
『あらそうなの、ベルくんったら本当に仕方ないんだから。やっぱり私がついてないと駄目ね(意訳)』
と、にこやかにベルと異端児達に笑いかけ、恐怖の権化から穏やかな天使への激変により異端児達に真の恐怖と混乱──石竜とリザードマンなのに青褪めていると、震えるウィーネに背後から抱きつかれていたミイシャにも分かった程度──を叩きこんだ存在を、記憶から消去しようと努力するミイシャは嘆息する。
かつてのトラウマが消えないことと、
「皆、どうしてミイシャには親しみのある口調で私には敬語なのかな? 何か、私には絶対服従しないといけないって、しゃちほこばってる感じがするんだけど、どうしてか知らない?」休憩時間のたびに、素でそう問い掛けてくるエイナを刺激せずに上手く説明できる便利な言葉は無いかと辞書をめくることが日課になっていることに。
まあ、今は日々のストレスを考えるべきでない。異端児達のこと、仕事のことを考えよう。
『耳長(エルフ)は、ごく一部の大人(アリシア)と子供を除いて、善良だけど精神不安定なアブナイ奴ら』と異端児たちの共通認識となる一端となった──異端児が他に親しく交流している大人エルフはリヴェリアとレフィーヤを始めとするロキファミリア勢なので、ミイシャは誤解を解くのを諦めた──エイナのことを気にしなければ、良い方向に向かっている。
彼らの力を借りられるようになったお陰で、塩漬けになっていた依頼も解決した。手に入る魔石やレアドロップアイテムの量も増えた。美味しいケーキを一緒に食べてくれる相手が増えた。友達が増えた。給料もとても増えた。
良い事ばかりだ。
特殊部隊である異端児──モンスター相手に、魔石やドロップアイテムの換金、クエスト紹介と報酬払い、アドバイザー等の通常業務をしている自分が危なすぎる橋を、モンスターの味方をする人類の敵一直線の橋を渡っていることを除けばだが。
(正直、私の人生はもっと平坦で平穏なものだと思っていたよ、お母さん)
人生の先行きの波乱万丈さに苦悩するあまり、何も知らなかった子供時代に戻りたいなあと思うミイシャ。
「出来る限りの手助けをしましょう。彼らには世話になっていますから」
「ええ、本当に助かっています」
だが、そんな風に思うだけで、彼らを見捨てることはミイシャには出来ない。今更見捨てられない。ミイシャには、そんな確信があった。
異端児──正確には一緒に居るベル──と共に煉獄まで堕ちる覚悟を決めているエイナを見捨てる事はできない。
何より──
「わあ、動いた。動いたよ。今っ!? アイズっ、動いたぁ」
ヘスティアファミリアの一室。
安楽椅子に腰かけるアイズの前に膝をつき、アイズのお腹に耳を当てていたウィーネは、胎動に目を見開き満面の笑みを浮かべた。
「そうなんだ」
そんなウィーネに対し、柔らかな優しい笑みを浮かべたアイズは、優しくその頭を撫でながら言葉を出す。
「うんっ」
「ウィーネが居るとこの子達も元気一杯なんだよ……やっぱり分かるんだね」
「分かるって何が」
「近くにいるのが優しい人なんだって、信じられる人だって……お姉ちゃんなんだって」
「私……お姉ちゃん?」
呆然とした顔で自分の顔を示すウィーネにアイズは頷く。
「うん。ベルと私の子供のお姉ちゃん、だよ」
「っ……うんっ!?」
ぱああっと満面の笑みを浮かべて、お姉ちゃん私お姉ちゃんと口ずさみながらアイズのお腹を優しく撫でるウィーネ。
どこまでも優しい笑みを浮かべながらその頭を撫でるアイズ。
「アイズっ」
「うん」
「わたし頑張るよ。良いお姉ちゃんになれるように頑張る」
「うん、頑張ろう。私も、良いお母さんになれるように頑張るから。ウィーネと、ベルと、一緒に、ね」
「うんっ。一緒に頑張ろうね」
つい先日見た光景。ヘスティアファミリアではありふれた光景、怪物の娘が冒険者の大きなお腹を優しく撫でて笑い合う光景は、通りすがったミイシャに確信を抱かせた。
──駄目だ。自分には見捨てられない。絶対に無理だ。エイナが居なくとも、あの光景を無いものにすることなんて出来ない。と。
自分の流され易いのにこうと決めれば動かない性格を読んでいたなら、周りにズルズルと引きずられ情に流されて後戻りできない決断をすると読んでいたのなら、志願した時
「フロットなら構わない」
と頷いたウラノス様は人を見る目がある。本当に。
諦め半分誇り半分で嘆くミイシャ。
そんな彼女にエイナは仕事の確認をする。
「なら、異端児受け入れ計画は順調ですか」
「人型の異端児達が、ローブと仮面を着けて裏口からギルドに普通に出入りしてるくらいには順調ですね」
「それは良かった」
秘密レベルが高い区画のみ、人型のみ、規定のローブと仮面を着けるという前提とは言え。特殊部隊の存在を知らされるだけの権限を与えられているギルド員とは、会釈したり挨拶くらいは出来ているから順調だろう。
フェルズ特製の定められたローブと仮面を被っている──制服を着けている──存在が、特殊部隊員なのだと知っていれば、区画で見かけた職員が感じるのは恐怖ではなく納得と仲間意識だ。
幸運なことに、区画に入る必要がある一般職員が特殊部隊員の姿を見てくれる。否、見せていることがある。
そんな彼ら彼女らは、一緒に居る上司に言われるのだ「彼らを見なかったことにしろ」と。
そう言われて、特殊部隊だと悟り黙れないような人間が特殊部隊の姿を見ることは無い、選別されているのだから。
彼ら彼女らは塩漬け依頼を片付けてくれる感謝と仲間意識とともに、同僚として特殊部隊の存在を心に刻むのだ。
結果、徐々に徐々に、異端児(特殊部隊)は公然の秘密となっている。
──発案者であるエイナの目論見通りに。
「危ない橋を何度か渡った甲斐がありましたね」
「未だ道半ばとはいえ、順調なのは良いことです。これからも頑張りましょう。ヘスティアファミリアだけが地上での居場所というのはあまりにも酷です」
「そうですね」
(でもなあー)
肯定しながら、心の中でミイシャは嘆息する。
最近、公然の秘密に成りすぎている所がある。
先輩受付嬢達に囲まれ、ローブ越しに頭を撫でられながらお菓子を渡されて「ありがとう」と喜んでいたウィーネちゃんとか特に。
小柄な上、明らかに子供の声質で子供らしい素直さに満ちたウィーネちゃんは知る者達の間で大人気だ。
「これ、ウィーちゃんに」と先輩受付嬢に、お菓子を渡されたことから考えて、名前を名乗ろうとして慌てて(可愛らしく)仮面を抑えたりしたのだろう。
かつて、正体がバレて酷い目に有ったのに純真さを忘れないのは凄いと思う。
「あんな子が特殊部隊なんてヤクザな仕事につかないといけないのかぁ。やっぱり世の中はクソね。あんたとエイナが頑張る気が分かるわ」と手伝えることがあれば手伝うと、お堅いところのある先輩が言うくらいに大人気だ。
まあ、あの先輩は『転ばない』判定だから、手伝わらせないし秘密のまま深くは関わらせないのだが。
世話になっている先輩に使えない判定するとは、自分も腹黒くなったなぁと思うミイシャ。そんな彼女にエイナが話しかけてきた。
「室長も今はヘスティアファミリアですか。管理者不在と言うのは組織として問題がありますが。今の状況なら、助かります」
「ギルド長は、室長を苦手としていると同時に扱き使おうとしますからね」
「昨日、戦いの野が焼け落ちた時に室長がギルドに居れば、動員しようとするギルド長とぶつかって騒ぎに成るところでした」
室長と繋がっている眼晶を横目に見ながら、表向きはギルド特殊部隊の隊長としてロイマンに紹介されたフェルズが此処に居ないことを安堵する。
お陰で仕事が一つ減った。ギルド長の要請を断るという仕事が。
ギルド長が特殊部隊を否定しているわけではない。その逆、肯定しているから問題なのだ。
──自分の手駒として扱き使おうとするから
特殊部隊の中身が異端児とは知らされず、存在だけを教えられたギルド長ロイマンの特殊部隊(異端児)への評価は一言で済む。
『そんな便利な部隊が有るならもっと速く言ってくれ』である。というか、神ウラノスにそう吠えたらしい。
気持ちは分かる。怪物としての特殊能力が有る異端児達は優秀だった。極めて優秀だった。
五感も優れているし、空も飛べる者も居れば、水棲の者も居るので、何だって出来る。
無期限なのに報酬が割に合わないせいで、やむを得ず塩漬けしていたりした依頼──冒険者の遺品もしくは遺骸回収がほとんど──を片付けるなど、今まで出来なかったことが出来るようになった。なってしまった。
あれほど優秀な部隊の存在を隠すことには組織としての在り方として深く同意するが、ギルド長である自分にまで知らせないとは何事か。神ウラノスに、そう吼えたロイマンに深く同意する自分が居る。
フェルズと顔を合わせる度に、特殊部隊を自分の手駒として扱き使おうとするゴタゴタに巻き込まれることには同意できないし、したくないけど。
(そういう所が、凄い人なのに尊敬できない所なんだよなあ)
色々な意味で頭痛の種になっていても、ロイマンの能力は高い。
戦力を持たないはずのギルドに戦力が居るとバレた場合のデメリットを深く理解しているお陰で、存在そのものは全力で隠蔽してくれている。
その上、各所に手を回して特殊部隊がギルドに受け入れられるように強かに動いている。
同時に、遺品や遺骸を届けたファミリアに『貸し』を作りながら。
異端児(特殊部隊)とWINWINの関係を築きながら、自分の利益を確保する手腕にはミイシャは感嘆しかできない。
あまりにもの強かさに、ばらしてしまうべきではないかと思う。
だって──
「……まあ、ギルド長は『転ぶ』と思いますが」
「良くも悪くも利益重視ですからね」
此処まで実績と信用を作られておきながら、あのギルド長が理知有る怪物というだけで特殊部隊を解散することはないだろう。
忌避はするだろうが、ビジネスライクな関係は構築して庇える限りは庇ってのけるだろう。
……いざという時にはエイナとミイシャの二人を生贄にはするだろうが。
あのエルフは良くも悪くも大人だ。
だからこそ──
「──異端児たちがローテーションでダンジョンに居る時だけ、ギルドの仕事をしていることを知られなければですが」
「絶対に隠します。良いですね」
「勿論です」
異端児たちに、ギルドに所属しているつもりなどこれっぽちもなく。自分たちをヘスティアファミリアの一員と認識──神ヘスティアも「この子たちはウチの子だよ」と断言──していて、ファミリアのために仕事して稼いでいるつもりであることは隠さねばならない。
フェルズでさえそうだということは絶対に。
オラリオの、ギルドの、自分の利益に直結しない。と、あのギルド長が判断したらどうなるのか想像もしたくない。
今のエイナと自分のメインの仕事が、儲からなくても誰かにやって欲しい切実な依頼の異端児達に対する融通、割高での魔石・ドロップアイテム買取り等々。異端児たちがギルドの特殊部隊だと見せかけることだということは、神ウラノスとフェルズだけが知っていればいい。
いや、実は、他にも知っている神が居るのだが、彼女は知っていて「居場所が不安定な孤児であるあの子達に、
「神ヘスティアが、もう少し空気を読んでくれればと思うことがありますが……」
「正義感が強く極めて善良かつ誰にも平等で信頼できて価値観が人間よりの神格者。こんな神は他にほとんど居ません。これ以上を求めるのは筋違いでしょう」
「ですね」
自分の愚痴に切り返したエイナの発言に対して、頷くミイシャだが。
正直、神ヘスティアが空気を読んで「異端児は、ギルド所属でヘスティアファミリアには遊びに来ているんだよ」くらいの嘘をついてくれるならば、と思うことがある。
全ての労力を無にしそうだから、ロイマンに会わせられないんだ。と思うことがある。政治力皆無だと露呈しないで欲しい、と思うことがある。
何で狡猾がデフォルトの神なのに、人間よりも裏表が無く善良なんだと思うことがある。
家族(眷属)に対して誤魔化すのは兎も角、家族の在り方を危うくする嘘は死んでもつかない。って本当にどうすれば。
だが、それは表裏一体だ。裏表が無く善良だから怪物を家族(眷属)として迎え入れることができて、怪物からも信頼されているのだ。
ガネーシャやミアハやデメテルのような善神ですら、どこかしら神ゆえの強かさがあり実績もないため異端児たちは信用はしても信頼はしていない。「例え何があっても、君たちはボクの家族だよ」と言い、実際に全力で守った実績の有るヘスティアだからこそ信頼しているのだから、贅沢な悩みだろう。
「ミイシャ、話が、お願いが有るんだけど、いいかな?」
「──何、エイナ」
突然エイナの様子がプライベートモードに変わったが、ミイシャには動揺はない。
仕事を脇に片付けながら、ついに来たかと覚悟を決めるミイシャ。
「半月後から、ちょっと長い休みを取りたいんだ。半月くらいの休みを。忙しいのは重々承知してるんだけど……構わないかな?」
「いいよ。それくらい。何とか回しとく」
「ありがとう……でね」
「うん。どうしたの?」
「その休みの間、私が何をしても聞かないで欲しいんだ──ううん。何をしても止めないで欲しいんだけど……いいかな」
「もちろん良いよ。何も聞かないし、止めたりしない」
「……訳を聞かないでくれるの?」
「当然だよ。私たち友達じゃない。訳を聞いてほしくないんでしょう。止めて欲しくないんでしょう。なら、何も聞かないし止めないよ」
「……ありがとうミイシャ」
異端児と関わるようになり、幾つかの修羅場を潜って勘が冴えるようになったミイシャには確信があった。
エイナは絶対何かやっていると。
犯罪ギリギリを──いや、誤魔化すのは止めよう、犯罪に手を染めていると、一見して無実に見せ掛けながら手を染めていると。
弟君絡みだと。
まだまだぜんっぜん諦めてないのだと。
その為にソーマファミリアで何かしていたと。
その為にヘスティアファミリアの乙女達と手を組んだのだと。
整って欲しくなかった準備が遂に整ってしまったのだと。
ならば、黙って見ていた方が良いと。
それが、いざ、エイナ達が捕まったりした時に、一番エイナ達を護れることになると。
何も知らないからこそ庇って護れる時がある、今はその時だと。
自分にできるのは、事が終わった後出来る限り軟着陸させることだけだと。
そんな確信があった。
「本当にありがとう」と穏やかな笑みを浮かべるエイナに対し、慈愛の笑みを浮かべながら悲愴な覚悟を決めるミイシャ。
ラウルに匹敵するオラリオ屈指の苦労人と化した彼女の元に、フレイヤファミリア解散という厄介事が追加されるまで、後30分だった。
様々な秘匿されている情報閲覧権限に加えて、異端児達が「エイナさん(さん付けしない愚者はいない)とミイシャの頼みなら」と頼み事を聞いてくれるので、実権力ならオラリオ有数の存在になった二人でした。
ウィーネはアイズ的に『シロ』です。