※この作品はR-18です。

憧憬が憧憬でなくなった日   作:サリエリキキ

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お久しぶりです。
5周年記念イベントに刺激され、久しぶりに書きました。


オリンポスヘスティア神殿の日常inオラリオ

 とある日、ヘスティアは外出からホームに戻り一緒に散歩していた子供たちをあやし寝かせると

 

「ヘスティア様、あの、その「アイズくん」あっ」

「そんな顔をしちゃ駄目だぜ。妊婦さんはイチに笑顔サンシがなくてゴに笑顔さっ。誰よりも笑顔でいなきゃ。ね、リヴェリア君」

「その通りだアイズ。さあ、彼女のことは神ヘスティアに任せて、お前はいま自分がするべきことをしなさい。

 ……彼女のことをよろしくお願いします」

「任せなさい」

 

 とある部屋の前で、ものすごくいたたまれない顔をするアイズを抱きしめてから、一昨日保護したばかりの神がこもっている部屋に入った。

 

 そして、慟哭に迎えられた。

 

「ウッチは要らない子なんやぁぁ!!??」

 

 荒れ切っている部屋。

 酒樽と酒瓶と空き樽と空き瓶と様々な食べ物で所狭しと埋まった部屋は、そうとしか言えない。

 窓という窓を閉め切り戸板を打ち付けた魔石灯の明かりしか無い荒れ切った部屋。

 

「ステータス更新しか必要とされてない子なんやぁぁ!!??」

 

 そんな部屋でロキは泣き叫んでいた。

 全裸で。

 全裸で泣き叫ぶ神。

 ゴキュゴキュと音を立てて、「神も酔わせられると思うから試してくれ」とソーマにおすそ分けしてもらった神酒を含めた酒を飲み散らす全裸神。全裸の身体を飲みこぼした酒でテラテラと輝かせながら泣き叫ぶ神。

 つい先日まで垢塗れだった裸体を酒で染め上げた神。

 

「ウチはなんなんやぁぁぁっ!!??」

 

 行方不明状態から発見された主神のあまりの堕ち切った姿に、アイズを始めとしたロキファミリアの眷属たちが思わず目を背け胃痛にお腹を抱えてしまったほどの背徳的な神々しさに満ちた醜態。

 

「いや、ラウル君とアキ君の結婚式には呼ばれたよね。必要とされてるじゃないか」

 

 誰もがドン引きするほどの醜態にもヘスティアには動揺はなかった。何故か。生来のお母さん気質もあるが純粋に慣れているからだ。

 こういう追い詰められ堕ち切った神の相手をするのに。

 

 いったい誰が──

 

「ヘスティアお願い匿って!!! (出迎えたヘスティアの横をすり抜けながら絶叫するアフロディーテ)」

「退いてヘスティア、あの浮気女を殺せないわ」

「……(ヘスティア神殿の奥へ向かって無音ダッシュするアフロディーテ)」

「退かない? 退かないですって!!?? この期に及んで中立なんてお題目守るつもりなのっ!? そんなの、今の私には通じないわよ!! あのビッチを引き渡すか渡さないかハッキリしなさいっ!!」

「…………(ヘスティア神殿の最奥でガタガタ震えるアフロディーテ)」

「いいわ。妥協しましょう。アフロディーテの性器にこの焼け爛れた板金ハサミを突っ込んで中身を焼き尽くしてから引きずり出して、女として再起不能にする。それでお終いにするわ。最大限の妥協よ。これで引き渡す気になったでしょう? さあ、退いて」

「いやぁいやぁぁぁっっ!!?? ヘスティアぁ!? ヘスティアぁぁぁっっっ!!?? お願いだから私を背中から出さないで、離さないでぇっっっ!!?? (庇ってくれているヘスティアの背中にしがみつくアフロディーテ)」

「訳を聞くまで引き渡せるわけないですって……あんたってば、どうして、いつも、……ふぅ、わかったわ。言うわよ。何があったかをね……浮気したのよ。ええ、浮気したの。こいつは。今、私達が掴んでいる女はね。なら、分かるでしょう? ……え、何がって、落とし前よ落とし前。巫山戯た真似した落とし前つけさせるしかないじゃない」

「いゃぁぁ!? つめたいのぉぉ!? ヘファイストスの手がつめたいぃぃぃ!!?? ヘスティアぁぁぁぁ!? 手が!? 殺意が!? 殺意で手が冷たいぃぃぃ!? ハサミが熱いぃぃ!? 熱くて冷たいのぉぉっっっ!!?? いゃぁぁ!!?? ヘスティアっ!? ヘスティアぁぁぁぁ!? (両足を掴まれ股を開かれそうになりながら「そんな事したら死んじゃうだろうぅぅっ!? どれだけ怒っても怨んでも憎んだとしても、殺すなんて駄目だっ!?」と咆哮するヘスティアと必死で抱き合うアフロディーテ)」

 

 ──これが平和的に解決した例となる、ヘファイストスとアフロディーテの別れ話を始めとしたオリンポスの神々の諍いを(他に居ないから半強制的に)仲介して受け止めて緩和してきたと思っている。

 経験値が違うよ経験値が。

 

「シャアラアップ。普通に呼んでくれたラウルはともかく、アキはなんか考えとるやろうからなぁ。怖くて素直に喜べるかぁ」

 

 ぐるりと人形のように、体をまったく動かすことなく真後ろに首だけ向けてくるロキ。その瞳を、濁り切った瞳を見たヘスティアの口からは反射的に言葉が出ていた。

 

「怖いって、何処が?」

 

 合わせなければ不味い。経験値からくる言葉にロキはゴキュゴキュと杯を開け言葉を連ねる。

 

「アキはなあ。まぁ、ラウルが娼館行くっていうから自分の友達の娼婦にラウル行くからよろしくねって声かけて、ラウルが娼館で何してきたのか把握してたのはともかく「いや、全然ともかくで済ませてよくないよねそれ。まさか、そのためだけに娼婦の子と友達になったの?」…………ふぅ、ともかく」

 

 ヘスティアの突っ込みにロキの瞳に理性の光が僅かに宿る。

 ぽりぽり

 ゴキュゴキュ

 頬を一搔き。瓶一気飲み。

 一息つくとロキは語り始めた。

 内心、滝汗を流しながら見ていた行為に対しての愚痴っぽい何かを。

 

「……前にラウルの家族がオラリオに遊びに来た時には案内とかして外堀埋めとった子なんや。借家借りて泊まり込みで皆で過ごすとかしてなあ。仲良くなったラウルの母ちゃんからお袋の味を教わってたガチ中のガチなんやあ」

「恋愛にガチなことが怖いのかい?」

 

 内心、アキのあまりのガチさに引きつるモノがあったが、追い詰められ切ったロキの前では出さないヘスティア。

 その在り方に心が軽くなり、ロキは言葉を連ねる。

 

「ガチなだけなら怖ない。あん時なあ。ラウルの家族案内するから明日から三日間休むとかいうから揶揄うつもりでダメっていったら、アキは、あの猫娘はなにしたと思う?」

「(百パー君が悪いと思うけど)なにしたんだい」

「ウチの秘蔵の酒全部隠して脅迫してきたんやあ。ゴキュゴキュ」

「脅迫……」

「せや、探し回っとる時は『知らない』とか言っとったのに、ウチが疲労困憊でピクリとも動けなくなった途端に、右手にウチの秘蔵の酒のうち一本ぶら下げて『明日ラウルの家族案内するから休むわよ。なんかしたら承知しないから』とか言い放ったんやぁ。酷いやろっ。ゴキュゴキュ」

「……別に普通じゃないかな」

「左手に起請文ぶら下げた有様でかいっ」

「あ~、文書で確約迫ってきたのか」

「せやで、しかも、それが普段通りの顔やったんやでぇ。ゴキュゴキュ」

「普段通り?」

「せや、普段通りの顔っ、笑顔さえ浮かべた普段通りの優しい顔で、あの猫娘は脅迫してきたんやぁ。目ぇまったく笑わずにな。ゴキュゴキュ」

「美人がそんな顔すると怖いよねえ」

「まじチビルカト思ったわあ。ガレスもあっさり裏切りおってえ。ウチの酒、自分の部屋に隠すだけでなく、アキにアドバイスして家族旅行上手くいかせおってぇ……ゴキュゴキュ」

「ふうん。良い子だねガレスくん」

「……」

「ロキ?」

「……う」

「う?」

「うらやましいわあ。ウチも子供たちの恋愛世話したいのに。どいつもこいつも、ガレス、ガレス、やぁ。

 ゴキュゴキュ

 なんでなん。なんで、ウチの『着飾って大歓迎』を鼻で笑うんやあ。新しくドレスもしたてたんやでぇぇぇっ!!??」

 

(旅の汚れ塗れの旅装の相手の前に真っ新なドレス姿でお出迎えって。ぶっちゃけ嫌がらせか。何らかの隔意を表したものだと受け取られると思う)

 

 心に傷を負ったロキには受け止めきれない発言は心の中で留めるヘスティア。

 

「なんで『綺麗なところを見せたいのは分かるが。農村からの旅装の相手じゃ。初めて会う時にあまり着飾るな。派手な綺麗さよりも生活感の中にそれと無い清潔さを前面に出したほうがいいな。だから、新しく服を仕立てる必要はないぞ。普段着で、ラウルが気付くくらいの化粧とアクセサリーで済ませとくんじゃ……そうじゃな。ラウルに気付いてもらうことが肝要じゃな』とか

『向こうの土産は、恐らく畑で採れた自家栽培の野菜を日持ちするようにした物じゃろうな。そんな土産を持って来る相手を、ラウルの両親を、アキ、お前さんはどういう風に持て成そうと思う? 一番最初に頭に浮かんだことをそのまま口に出してくれい。

 ……そうか。それでいい。それがいいんじゃ。本当じゃよ……アキ、お前さんは器量が良い子じゃ。だから変に用意せず、身構えることなく、ありのままのお前さんのままで会うんじゃ。ラウルの家庭の味を教えてもらいたい、それを一番最初に頭に浮かぶことができるお前さんのままで、な。そうすれば上手くいくとも』

 とかの、『普通に仲良くなるプラン』を採用するんやあぁぁっ。ウチの『悩殺⭐半脱ぎプラン』を鼻で笑いおってぇ。あの絶妙な透け具合の服の何が気に入らないんやあぁぁぁ!!??」

 

(何年も顔合わせてない息子の側に、水商売みたいな格好の女の子が側にいたら、息子がヤバイのに引っかかったって田舎から出てきた両親がドン引きするからだよ)

 

「それで、なんで、家族の一員としてお泊りできるくらいに上手くいくんやぁぁぁ!!??」

 

 ゴキュゴキュ

 飲み干しながら慟哭するロキにヘスティアは優しく声をかける。

 

「うまくいったんだね」

「あの猫娘。外堀埋めるどころか、塀まで作りおったわ。

 ラウルのお母さんに教えてもらいながら一緒に作った料理でぇ。ラウルはスープがアキの味付けやと気づいたんやけどぉ。それからぁ、普段から口にしてるから気付いたんすよとラウルに言わせて皆で笑いあったりしてぇ」

「お、おぅ」

「アキが身に着けとったアクセサリーがぁ。何年も前にラウルがプレゼントしたものでえ。まだ持ってたんすか。とか驚くラウルに、『ん、そうよ。持ってるに決まってるじゃない……嬉しかったんだから』とか後半の嬉しかった云々をラウルの両親にだけ聞こえる声にしたりしてぇ。ラウルの両親に似あってるって褒めってもらったりしてぇ」

「ふ、ふぅん」

「んで、買い物一緒に行った時とかぁアキが値引き交渉しているときにぃ、『アキ、確かに良い物っすけど、値引きもう少し手加減したほうが良いと思うんっす。店主のおばさん涙ぐんでたっすよ』『何言ってんのよ。いいものだからこそ適切な値段ってのがあるのよ。それに、前ラウルがリヴィアで開けた負債。まだ開きっぱなしなのよ』『うっ』『節約しなきゃ、でしょ』『う、ううぅ……分かったっすアキに任せるっす』『はいはい、いつも通り任せといてね……それとねえ』『それと?』『さっきのおばさんの涙。あれ嘘よ。嘘泣き』『え、そうなんすか』『そうよ。ふふっ、まだまだね~ラウルってば』『はいはい。アキには敵わないっす』っていつも通りの夫婦漫才みたいなことご両親の前でやってなぁ。そんでそんで(普段通りのラウルとアキのいちゃつきなので以下略」

「は、はぁ」

「そんで、ラウルのお母さんと二人っきりになった時には──

『アキさん、私、田舎者だからうまく言えないんだけど、息子とは、ラウルとはそういうことって、考えて──』

 もじもじと胸の前で手を合わせるラウルのお母さんの手をアキは優しく包み込んでぇ

『あなたのことをお義母さまと呼ばせて貰えますか』

 んで、ラウルのお母さんはアキの手をガッシリ包み返してえ。逃がさないとばかりにぃ。

『お義母さんで』

『はい、お義母さん。私もアキで』

『うん。アキ……これからよろしくね』

『はい、末永く』

 ──で、笑いあってラウルのお母さんと一緒のベッドに寝たらしいわあ。あの娘、初日でここまで埋めおった」

 

 詰み切った。

 ヘスティアの内心がその一言で埋まった。

 

「………………えっと、ラウルくんのお父さんは、納得したの」

「アキやぞ。アキ。あんな器量よしが息子の嫁に来てくれて、自分をお義父さんとか呼んでくれる未来がすぐそこに来とるんやぞ。『アキ、母さんと仲良くなったなあ……てか、何か、仲良くなりすぎてないかな父さん。気の所為か、何か周りに塀みたいなのが建てられて囲まれてる気がするんだけど』って、外堀どころか内堀まで埋められて塀までおっ立てられた事、気付かず素でアホなこと言っとる真っすぐすぎる息子の嫁に。

 勿論、納得したわ。気の所為だ気にするなってラウルに言い放ってな。てか、早く娶れって蹴り飛ばさなかっただけラウルの親父さん温厚やで」

「そっか」

「ん。そうや」

 

 ウンウンと頷きあう神二柱。

 その額には脂汗が浮かんでいたが、二人は見なかったことにした。

 

「ところで、アキくんのご両親は二人のことどう思ってるんだい? 多分、会ってるんだよね?」

「無論会ってるで、ここまでやるアキが、自分の両親をラウルに会わせてないなんてこと、あるわけないやろ」

「だよね」

 

 穏やかな笑みさえ浮かべて諦観を噛みしめる神二柱。

 

「アキマッマは『まあまあ、貴方がラウルね。アキの事よろしくね』とか言って大歓迎しとって、アキパッパは塩」

「塩?」

「『コイツは娘を掻っ攫う男だ』ってアキの手紙にラウルの名前が出るたんびに疑っとったのが、ラウルに直に会った瞬間、確信に跳ね上がってなあ。二人のことは理性では認められても感情が受け入れられんから、いっつも塩対応やあ。

 グビグビ

 そっからなあ、会う度に磨かれていくラウルの優良物件っぷりに、娘の相手として理性だけやなく感情でも認めざるをえなくなってなあ。男親のプライド拗らせて足掻いとるから、益々ラウルに対して塩辛くなっとる」

「……今、どんな感じなの」

「今は、ラウルと話す時には顔を合わせずに『ふんっ!?』って一度鼻息荒くしてから普通に話す感じや。落差が酷いで」

「塩いね」

「そうやろ、辛いわあ。ふぅ……で、酒飲んだらラウルの自慢話しとるわぁ。娘があんないいお婿さん捕まえられて嬉しいってな」

「………………ツンデレ???」

「おっさんのツンデレっつぅ誰得なツンデレやな」

「そっかぁ」

「そうやぁ」

 

 ぐびぐびと酒を飲み干すロキ。酒に逃避しかけていた。あ、このままじゃ精神的に潜るだろうから刺激を与えるか。

 

「でもさ」

「ん?」

「ちゃんと、何があったか教えてもらってるじゃないか。やっぱり、ロキも必要とされてる「ぜぇぇぇんぶっ、ガレス経由や恐れ入ったかぁぁんっ!!!???」あ、ハイ」

 

 ゴキュゴキュ。ぷはあ。ゴキュゴキュ。

 文字通り酒を浴びるほど飲み、全身をテラテラと酒で輝かせるロキ。

 

(空元気とはいえ元気になったなあ。一昨日まで刺激しても精神的にへこんで身動き一つロクにしなかった頃から前進してるぞ。よしよし……そういえば、ロキの所はこうなったけどボクの所は大丈夫かなあ)

 

 刺激が上手くいったその姿を見ながらヘスティアは自分の所は大丈夫だったかと軽く回顧する。

 アイズの出産までに自分たちも抱かれてしまおうとするリリや春姫を回顧し頷く。

 問題ないと。

 こういう事は、恋愛に絡むゴタゴタは、トットと爆発させた方が、自分が盾になることでフォロー出来る範囲に収まるとヘスティアは知っている。オリンポスで散々経験を積んだのだ。

 だから、今はロキのメンタルヘルスを優先できる。

 

「あのさあ」

「ん?」

「何で、アキくんはそんな回りくどいことを? 普通に告白すれば良いんじゃない? 傍目から見てもお似合いだし」

「前聞いたら、イザとなれば腹くくってくれるけど、イザという時以外は外堀埋めて塀立てて囲まないとラウルは落ちない。詰むだけ詰んでハイ以外の返事を無くさないとならないのよ……らしいで」

「えっと、アキくんってラウルくんの前に誰か好きな相手が居て何かあったの?」

「んにゃあ、ラウルが初めて好きになった相手や。恋愛に脇目もふらずに真っ直ぐに冒険者しとるラウルが初恋の相手や。で、直接告らず外堀埋めて塀で囲んどるんや。周りには付き合ってないわよとか言いながらラウルの隣をキープしといてなぁ。ゴキュゴキュ……ながぁい間」

「何年、くらい?」

「ざっと8年」

「……」

「……」

 

 どうしようもない沈黙が神々の間で落ちた。

 

「……アキくん、拗らせてない」

「前世何かあったんってくらい拗らせとるで。ゴキュゴキュ。片付くまで割と心配しとった。片付いてホッとしたわあ。でも、アキがラウルに告ったら即答でハイやったからなあ。外堀も埋める必要無かったんやん。と思ったけど、まあ、ええわあ。そうや、たぶんええんや。これでええんや。 

 結婚式の招待状から『出て祝福しないと容赦しない』オーラが漂っとるがなあっ!!??」

 

 ゴキュゴキュ

 ガタッ

 

「舐めんなやぁぁアキ! 喜んで出たるわぁ!? 出てさんっざん祝福してからかっていじり倒してやるわぁぁ! もう、勘弁してって言っても勘弁せんでェェェ!!?? 天界きってのトリックスターの名の意味、思い知らせたるでぇぇ!!!???」

 

 立ち上がり自分に言い聞かせるように咆哮するロキを、ヘスティアはウンウンと頷き杯に酒を注ぎながら穏やかに相槌を打つ。

 その姿に、ほんわかとしたロキは杯を二杯開けながら愚痴りだす。

 

「問題は。どいつもこいつも、ガレス、ガレス、なことやぁ。ゴキュゴキュ。主神のウチを何だと思とるんやぁ」

「(ボクもガレス君に相談すると思うな。ロキってパーティー初めての子にパートナーも用意せずに、着飾るだけで送り出しそうだし……確かティオナくんの時はベルくんがフォローしたんだっけ)あれ、ガレス君だけなんだ。フィン君とかリヴェリア君はどうしたのさ」

「リヴェリアはアイズの世話で忙しいママやから除外や。フィンは『いい歳して同族にしか興味持たない上に特定の相手もいないアラフォーは論外』扱いされとった」

「論外……」

 

 あまりにフィンに相応しくない評価に呆然と聞き返したヘスティアに、ロキは力なく頷く。

 

「アキは恋愛ガチ勢やからなあ。フィンに対してかなりシビアな視線を向けとるんや。ゴキュゴキュ。

『指揮官として信頼してるし団長として尊敬してるけど、あの人に恋愛相談するほど私は人生投げ棄ててないわよ』やでぇ。合っとるけど、容赦ない評価に引いたわ」

「うわぁ(合ってるんだ)」

「団長として、上司としては、尊敬して敬愛しながら『論外』判定できる子なんや。アキ含めた恋愛ガチ勢はな。いや、そういう子たちも、必要なんや。組織としてロキファミリアが健全な証や。でも、もう少し、なんとかならんかなぁ」

 

 ゴキュゴキュと飲みながら愚痴り始めたロキ。

 このままでは心の闇に埋もれてしまう。決断と同時、ヘスティアは口を開いた。

 

「てか、なんで、論外扱い何だい? フィンくんって頭良くて度量もある理想的な上司じゃないか」

「ん? ティオネやティオネ。ティオネの思いにちゃんと向き合わんからや。」

「よく知らないんだけど、フィン君にも事情があるんじゃないかと思うんだけど」

「あんだけティオネにベタ惚れられてて『僕は同族しか愛せない』ってきっぱり振るなら、そう思うわな。ゴキュゴキュ」

「えっと、振って、ないの。ほら、年上の上司として熱情に浮かされた子を嗜める感じに」

 

 あれ、なんか思ってたのと違うぞ。フィン君ってもっと大人な子だったような。

 そんな思いで言葉を重ねたヘスティアにロキは鼻で笑うようにして返す。

 フィンって、良くも悪くも子供子供したところある。と

 

「まぁさかあ、たまにティオネといい感じになっとるんやぞフィンはぁ。ゴキュゴキュ」

「良い感じに……」

「せや、攫われた時助けたりして抱きしめたりしたんや。満月の夜、船の上二人っきりでなあ……ボンキュッボンの美少女となあ」

「へ、へえ」

「まあ、出会った頃は子ども扱いしとったわ。ティオネもちんちくりんやったし。でも、年取って美少女っぷりが磨かれていってくうちに対応もかわっていったんや。いや、変えられたんやなあ……フィンは全く気づいとらんやろうけど。恋愛ガチ勢の子たちとか分かる奴は分かるくらいに変わっとる」

「うわあ」

「その上でなあ、ティオネはフィンの同族への献身を理解しとること、態度と言葉で示しとるんや。ティオネはフィンに本気やからなあ。ゴキュゴキュ。お淑やかな子の方がフィンの好みやと、家事とか練習して身振りもお淑やかにしようと頑張っとるんや。

 ……健気やろ」

「健気だね」

「あんなあ」

「うん?」

「フィンの見た目とか事情とか抜きにしての話やけど……グビッ」

「うん」

40越えたいい歳して17の子にそんなことしとる男。

 

36の時に出会った10歳の子に。

 

娘くらい歳離れてる子に6年もそんなことしてる40過ぎの大人。

 

子供たちの視点で、人類の視点で見ると率直にどう見えると思う? 

 

 澄み切った眼差しのロキにヘスティアは即答した。

 

 

娘くらいの年頃の健気な女の子をキープしている不良中年

 

 

せやろ。そう思うやろ。そう思うのはウチとか恋愛ガチ勢の子たちだけやないやろっ!!??

 

 

 勢いよくしがみついてくるロキに、ヘスティアは重々しく同意する。

 

「思う。てか、それ以外の評価できないよ」

「ふぅぅぅ……せやろ。コーマック王もドン引きする畜生っぷりや」

「うん、それに、悪意的に見るとさあ」

「見ると?」

「第一級冒険者であるティオネくんを『恋愛感情』って鎖でファミリアに縛り付けてるように見えるんだけど?」

「……アキが言っとった」

「何て?」

「『今はしてないけどする理由が有れば、あの人はやるわよ。そういう組織の長として正しくて怖い決断をね。公人として信用できても信頼は出来ない人だもの。だから見張ってないと』ってな」

「私人としては?」

「怖くて聞けんわ。恋愛絡めたフィンに、どういう評価しとるのかはよく分かっとるから、聞きたくないんや……恋愛ガチな子たちからはなあ」

 グビグビ

「ハァ~、フィンが大義の為なら個人の恋愛とかを些事として切り捨てる子やったのは認めるわぁ。27階層の悪夢ん時とか色んな時にそうやったからなあ。それを見取ったから、自分たちの恋愛事も大事の前の小事にするときはする人って見切るのは仕方ないけどなぁ。でも、最近は変わったんやからもう少し、フィンに相談、いや、フィンに相談なんていう賭けに出ることなんて考えられへんくらいラウル達お相手に本気なのは知っとるけど、でもなぁ。ゴキュゴキュ

 今回もなあ、アイズやからパニクッたけどアキ達恋愛ガチ勢がラウル達お相手を襲って孕んだんならなあ。『遂に一線超えおった、か』って諦観しとったわあ。で、二人の両親に『私の監督不行き届きでこんなことになってしまい(略)でも二人が愛し合っているのは間違いなく(略)』って詫び状兼結婚招待状を送って式の準備に移ったんやけど。アイズは、アイズはなあ。奇襲すぎんやろ。ゴキュゴキュ

 ……いや、アイズは重い娘やからなあ。ありえるわあ。でも、女の情念持つのいきなり過ぎるやろ。襲って孕んだとか、アイズがなあ。ホンマ。嬉しいけど、悲しくて、寂しくて、もう、笑うしかないで」

 

 グビグビと酒の間に愚痴を挟むロキ。

 あ、フィン君に恋愛相談するのってロキファミリア恋愛ガチ勢にとっては『賭け』判定なんだ。そんな思いを内心に封じ込めてヘスティアはロキに前を向かせるための言葉を捻りだす。

 

「……アキくんって、フィンくんによくついていってるね」

「言ったやろ。指揮官として信頼してるし団長として尊敬してるってなあ。公人としての評価は切り分けとるって」

「うん」

「それになあ」

「ん?」

「アキがついていってるというか、一緒に居たいのはラウルや。フィンは尊敬しとるし信頼してるけど、最後まで一緒に居ようとは思っとらん。仲間意識はあるけど愛情はもっとらんのや。てか、正直アキがフィンにそういう思いを抱くのは、なあ?」

「……うん、まあ、ボクはアキくんじゃないけど、私人というか恋愛相手としては、その、フィンくんは」

「うん?」

「ちょっと、無い、よね。「せやろ」でも、ロキも言った通り最近は少し変わったよね。「そうやなあ」うん。前までは仮面被ってたような感じだっけど、何か生き生きしてたし全てを切り捨てなくなったから評価も「んなもんアキ含めた恋愛ガチ勢に関係あるかぁぁぁっっっ!? ティオネに対してケリツケとらんわぁっ!? やっとることが、恋愛事に畜生なことがぜんっぜん変わっとらをやんけぇぇぇっ!!??」あ、はい」

 

 グビグビ。ぷはあ

 一気に神酒を飲み干したロキは、溜めに溜めきった感情を爆発させる。ヘスティアの狙い通りに。

 

「ウチのファミリアの恋愛ガチ勢はなあ。大なり小なり、心の中で皆そう思ってたんやあ。恋愛ガチ勢の子たちはみんな大人やから公私を切り分けて普段は普通にしとっても、にがぁ〜くおもっとたんやぁぁぁっ!!??」

「苦く、か」

「せや。相手が17の子なんやから大人が動けやとか。40超えたいい歳した男が何してるんだ、はっきり断るか受け止めるかしろよ。フィンみたいな頭良すぎて考えすぎてしまう人には、ディオネみたいな真っ直ぐ勢いよく突っ走る子がピッタリなのに。というか、まさか幼女から少女を経て美女にまで自分好みに育ててるんじゃないだろうな、だとしたらドン引きなんですけどとか。ティオネがあれだけひたむきな思いを向けてるんだから取り合えず向けとか。同族しか愛さないとか言って42にもなって特定の相手が居ないとかどうなってるんだ。ようやく目を付けたかと思えばティオネと似たような年頃とか、本当にどうなってるんだとか。それでフラれるだけならまだしも、フラれてもティオネの想いから逃げているなんて、もうどうしようもないじゃないかとか。

 ハッキリ言って光源氏ロリコンなんて、正直人として悲惨すぎる。とか、いろいろ、いろいろ、いろんな思いが渦巻いとった上にや」

「上に?」

 

 まだあんの? という内心のドン引きを表すことなく冷静に聞くヘスティア。

 

「何よりもなぁ……覚悟も責任も全て背負って進むフィンに特定の相手を持ってもらって幸せになって貰いたい。それから、自分たちの恋愛を祝福してもらいたいって、恋愛ガチ勢の子たちは願ってるんやぁ。フィンの恋愛事に対してにがぁ~く思うのは仕方ないやろぅ」

 

 ロキファミリアの皆は、フィンが好きなのだ。

 

「それは、仕方ないね」

「せやから、フィンは恋愛相談できんのや。論外なんや。ウチはフィンのファンやけど断言するわ。何年もフィンのお相手を待っとった恋愛ガチ勢からの論外評価は残当やとなあ。てか、フィンに恋愛相談するならウチ止めるわ。ガレスにしとけってなあ、ゴキュゴキュ。

 …………そこを、リヴェリアはつきおってぇぇ。なぁにが、ティオネの想いにフィンを正面から向き合わせて決断させる間の一時的な処置やぁ。そんなことしたら、恋愛ガチ勢は首縦にふってティオネを応援するやろがぁ!?」

「そりゃあ、裏切られるというか容赦なく見切られるね。フィン君を積極的に助けようって子が、恋愛ガチ勢の子たちによって区別されちゃってフィン君に会えない理由がよく分かったよ」

「り、リヴェリアぁぁぁ!?」

 

 ゴキュゴキュ

 最期の一滴まで飲み干してさらに感情をロキは爆発させる。

 

「言うたやん! 誓ったやん! 推移を見守ろうって、うちとガレスと三人で誓ったやんかぁ!? なのに、ノータイムで反故にしおってぇ。それとなくフィンと恋愛ガチ女子勢をとりもっとったリヴェリアはどこ行ったんやぁぁぁっ!? 

 ティオネと一緒にフィンの意識刈り取ってから、ティオネに『好きにしろ』って渡してティオネ含んだ恋愛ガチ勢に『妊娠した年若いアイズさえ決断したのだ。そのアイズを幼い頃から面倒見た大人が、フィンが決断しない。未だに決断しない。今までと同じく、何年も決断しなかった今までと同じくだ。そんなことが許せるか?』何て宣いおってぇぇぇ!!?? 人の心が無いんかぁっ!? 

 そら、ティオネも頑張るわねとか言いながら気絶したフィン連れ去るわなあっ!? 恋愛ガチ勢も頑張れってティオネを陰日向に支援して応援するわぁぁっっっ!!??

 二十年来の友人を切るのに躊躇いさえ見せんとか、どう、なっとっ、るんやぁぁぁぁっっっっ」

「(二十年来の友情と天秤にかけたのが娘なのと、フィンくんいい加減にしろって感情が混ざって爆発したんじゃないかなあ。あの子、情重いし)どうなってるんだろうねえ」

 

 よしよしよしよし。と酒まみれの顔を自分の胸の間に挟み込みながら擦れ切れた感情の赴くまま泣き叫ぶ神を、オリンポスの日々と同じくヘスティアはあやす。

 二日目で愚痴を言えるくらいに回復したことに。この調子を保ってあげれば一週間後のラウルとアキの結婚に出席するくらいに回復することに。

 そんな経験からくる安堵を心に灯しながら。

 

 

 

 窓枠にしがみつき戸板の隙間から姉を独り占めしているロキを嫉妬の眼差しで見つめるヘラに、ロキを寝かしつけたら行くから皆と一緒に料理しようねと優しくほほ笑んだ。




アキの友人娼婦は、エピローグ 娼婦の意地に出ていた春姫の先輩娼婦です。


こちらでも出していますので、お時間があればご覧ください。
https://syosetu.org/novel/283108/


アストレア様もヘスティア様の経験値の1%でも持っていればリューを立ち直らせられたのに(慨嘆)


フィアナ救済ルートのプロットは、ディム救済メインになってしまい断念しました(涙
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