しつこく書いて申し訳ありません。この話はダンメモのデート・ア・ライブのコラボイベントがあった世界線の話だとご了承ください。
……だったのですが、2026年6月現在、そんなんもう関係ないくらいベルくんアイズの心の純なところ鷲掴みにしてるから誤差じゃ、ゲフンゲフン
それはさておき、章が変わることを期に、本編に関係ありませんが前書き代わりに諸説あるギリシャ神話の一つを紹介させていただきます。
主人公ベルくんの祖父の妻、ヘラ神について。
ヘラは神話が創られた初期においては、神の超越視点を持った天然の美しい神様だったそうです。
初期に作られた嫉妬エピソードも、ゼウスが天然なヘラとイチャつくものばかりです。
例えばこんなエピソードがありました。
ゼウスが人形に花嫁の冠を被せて腕を組みながらヘラに声をかけ、ヘラが「私という妻が居ながら、冠を付けた女性を連れて歩くなんて誤解されます。一体何を考えているのですか」と冠に手を伸ばした時に人形だと明かす。
で、ゼウスがそのまま冠をヘラに被せるサプライズプレゼントを贈ってイチャイチャ。
そんな、誰が見ても人形だと明らかなのに人形だと気付かない天然気味のヘラとゼウスとの夫婦愛に満ちたものばかりだったのですが。
年を経るうちに、ゼウスの周りに様々な女性が追加されていきました。ゼウスは先に
何人もの女性と(強制を含めた)関係を持ち、子供を作るゼウス。
これでは、天然妻のままでは対抗しようがない、埋もれてしまう。大神の本妻がそれではいけない。それでは、男尊女卑社会?の古代ギリシャでは、女性は横暴な夫に泣くしかないではないかと、昔の人(主に女性)は考えたそうです。
で、様々な夫を優しく穏やかに嗜める色々なエピソードを追加していったところ、そもそも何で浮気相手とそのコブにこんなに優しいんだこれくらいはやっていいだろう、いややるべきだ(ファラリスの雄牛が活躍するような時代の優しさ)と昔の女性がごくごく自然に考えた結果
「私は貴方以外誰も見ません、ですから貴方も私だけを見てくれますよね。いえ、たまにはいいんです。他の女に目移りするくらいなら仕方ありません。でも、直接手を出すのは違います。そうですよね。ええ、そうよね。
ですから、あなたを誘惑して種を賜り孕むだけならまだしも、
ギリッ
まだしもっ、
私とあなたの時間を、二日と二時間十七分三十四秒もの共に過ごす至高の時間を奪い取った赦されざる盗っ人は
そんな、我々がよく知るヘラ像(まだ理性有り)に。
意味もなく遅くに帰ってきたり酔っていたり他の女性の香りを漂わせたりする夫に対して、古代ギリシャの妻たちが酌をしたりする時に聞かせて、「怖い女神様ですよね。でも、何処か分かります……ところで貴方はゼウス神のようなことはされてませんよぬ」と夫に釘を刺すための物語の題材に相応しいヘラになっていきましたとさ。
よく聞く天空神信仰が地母神信仰を征服した説と無理なく同居する、こういう面白説もあると紹介させていただきました
……本編には関係ありませんが()
「ああ……綺麗だなあ」
その声が耳に届くと同時に、心臓が高鳴る音を自覚した。
全身が快楽とは似たようで違う熱に襲われて、ベルの顔を見たいのに見れなくなる。
綺麗だと誉めてくれた。ベルが私を見て誉めてくれた。
今まで他者に優れているといわれていた自分の容姿に頓着しなかったアイズは、何時の間にか逸らしていた顔を意を決して戻してベルを見て、そのルベライトの瞳に映る自分の顔に心を初めて割く。
真っ赤になっているが確かに整っている……と思う。
ちらちらと高速でベルの様子を伺えば、自分に見惚れている……ように見える。いや、そう見えた。
(私……ベルから見て、綺麗な女の子なんだ)
理解すると、火照った顔をベルの顔に向けられなくなった。
覆い被さったベルの体から伝わる熱が、自分の熱と混じり合い心が暖かくなる。胸がうるさいほど高鳴るのが、心地いい。
アイズは自分の容姿を好ましい相手の熱のこもった視線で眺められるという、年頃の美しい少女ならば覚えるべき誇らしさに似た舞い上がる想いを初めて覚えた。
少しでも見映え良くするために髪を撫でたりしながら、初めての想いを転がすように味わいながら思考する。
ひょっとしてベルはアイズに好意を持っているのではないか。
異性に見惚れるのはそういうことだとティオネが言っていた……とても心がざわめいた。
(少し言い換えてみよう)
ベルがアイズに好意を持っているから綺麗と言ってくれた……とてもとても心に響き渡って、ざわめきがドキドキに変わった。
在るべきところに無かったものが在るようになったような、言葉に出来ないたまらない想いをアイズは抱く。
同時に、そうかも知れない──そうだったらいい──相手のベルに自分はなんてことをしたのかという、罪悪感に押し潰されそうになった。
いたたまれないアイズを見て、ベルは宝物を見たかのように優しく口角を上げて微笑みに形作ってくれた。
あの竜女を助けた時と同じようで違う眼差しに、一層動悸が速くなり、自然と笑みが零れ、お礼を口にすることができた。
「……ア、イ……ズ、さん……無事、ですね……」
応えるために、全身を襲っている倦怠感を抑えて、頬に手を当てながらひたむきに自分を心配してくれるベル。
その姿に胸の内が洗われて透明になる。心の一番柔らかい場所が優しく包み込まれ暖かくなる。
大切な人が目覚めてくれた喜びと、ベルが自分を大切に想ってくれる幸せで頬が緩む。
ベルの温もりをもっと感じたい。そんな我儘を言いたくなるのを押し止めて、高鳴る胸を押し上げる想いによって、自然と溢れる涙に濡れていくベルの手に手を重ねる。
「……今度は……僕が……あなたを……助けることが……でき……ま、した……」
限界を超えた体でアイズの無事を確認したのだろう。
それだけ言ってベルは目を瞑って力尽き意識を失った。その途切れ途切れの言葉の意味を、籠められた想いを、今のアイズは正確に理解した。理解できた。
「……ぁ」
ベルの想いに打たれて、胸の内から溢れだす想いにアイズは塗り潰される。
裸身を隠していた衣服が手から落ちる。
息が詰まる。
体が震える。
胸の奥から言葉が溢れだして、言葉がつっかえてしまう。
「追いつこうと……助けようと……して、くれてた……の」
追い付きたい人がいる。そう言っていた。
辿り着きたい場所がある。そう言っていた。
助けたい人がいる。そう言っていた。
笑顔を守りたい人がいる。……そんなことを言ってくれた気がする。
様々な相手を疑い怪しんだそれが誰なのか、アイズは心の奥底から理解した。
「その為に……私の為に……強くなって……くれ、たの……」
冒険者の器でもない、只の純真な少年が。
黒龍の村で垣間見たように、田畑を耕し、気の合う少女を娶り、子を成し、老いて死ぬ。当たり前で幸福な尊い人生を約束されていた少年が。
一途な想いだけで、純真さを失うこと無く、真っ直ぐに進んでくれたのか。
誰よりも速く駆けあがってくれたのか。
アイズよりも強くなってくれたのか。
「その為に……あんなに、頑張って……たの……」
私に憧れて追い付いて辿り着いて助けてくれるために。
ベルの瞳に浮かぶ、アイズの幼き日の面影を宿す無垢な笑顔を守ってくれるために。
身も心も強くなって瞠目される存在になってくれたのか。
「私を、大切な相手だと、思って、くれるから……?」
震える言葉に、心が、全てが、大きく揺れて目の前がぐらつく。
「そう……なの……?」
その問いには返答はない。
疲れきったベルは、静かに眠りについている。
その姿に安堵しながらも、心は沸き立って止まらない。
歪む視界の中で延びようとする手が見える。
心では全てを理解しても、永い間アイズを縛り付ける鎖が。
諦めという名前の鎖が、心と体を縛り付けて、ベルまで届いてくれない。
「あ……う……」
起こして、問いただしたかった。
私の〇〇になってくれようとして、成ってくれたのかと。
だが、出来ない。
眠っているベルを起こし、もしそう成ろうとして成ったのだと肯定してくれたのなら──
恐らく、耐えられない。
心の奥に蓋をした全てがあふれ出し、止まらなくなる。
全てを伝えたくなる。
全てを教えたくなる。
全てを委ねたくなる。
全てを願いたくなる。
助けてと叫び──
「……っ!! ……」
止めよう。止めないと。
抑えようとした。抑えようとする。
──だが、堪えられなかった。
快楽の火照りがアイズを自縛する鎖を緩めてしまい堪えられなくなった。
手で拭おうが、溢れていく涙を瞼から頬に零れさせるまま、声が出ていく。
「何度も……助けて、くれ、た……んだ……」
ベルの前で輝くような裸体を震わせる。膝をつき手を中途半端に伸ばした姿勢で固まってしまう。
腕も動かない。全身が動かない。頬を流れる涙が止まらない。
でも、想いを吐き出すのを止められない。
遠い昔、叶わないと諦めて羨望していた存在が、今目の前に居ることを心の奥底で認識したアイズは、自分を縛る鎖の隙間から幼く儚い心の内を露呈させる。
「……」
肺に呼吸を吸い込む。それを吐き出しながら、棄てられた幼子が再び棄てられるのを恐れる途方に暮れた声で囁く。
「英雄に……なって……くれ、たの……」
発言と同時に、アイズの心の中で何かが砕け散った。
アイズが封じ込めていた唯の少女を縛り付けていた鎖が。
もう元には戻れない。
決定的なことを言ってしまった。
もし、ベルが否定すれば、アイズ・ヴァレンシュタインという存在を構成しているすべてが砕け散りそうなことを言ってしまった。
胸の内から不安が湧き出す。懸念が心を埋め尽くす。畏れが全身を縛る。
「ベル……」
ベルが自分を宝物を見るような視線で見てくれたこと、
手をあててくれたこと、
綺麗だと言ってくれたこと、
訓練の中でのひたむきな眼差しと笑顔を含めた、今まで、ベルがアイズにしてくれたこと全てにすがりつく。
自分を大切に思っていてくれると切望する。
自分の英雄に成ってくれたのだと渇望する。
「ベルっ、ベルっ」
駄々をこねる子供のように、気絶したベルの手を握って揺さぶる。
そうとは知らずといえ、金玉を潰れかねない力で握り締められた上で陰茎を扱かれるという拷問が止めとなって意識を失ったベルを、理不尽に揺さぶる。
答えてほしい。
どうかっ、応えてほしい。
「お願い……起きてっ……起きて私を見てっ、私に答えてっ」
アイズを剣姫としか認識していない者が居れば目を疑うだろう。
同じファミリアの者が居れば幻覚だと判断するだろう。
そして、フィンとガレスとリヴェリアと神ロキが居れば優しい眼差しで頬を緩めるだろう。
それほど、今のアイズは唯の少女だった。
感情を爆発させ、表情で、声で、全身で駄々をこねるように、
瞳から涙を止めどなく流す少女だった。
決別したつもりの、ありのままのアイズだった。
『剣姫』と畏怖され羨望される第一級冒険者と呼ばれながらも、助けて欲しいと泣き叫んで願っていた幼い迷子。
心の奥底に押し込んでひた隠しにしていた、唯の少女が前面に出て乞う。
「お願いっ……ベルっ……っ」
私の英雄になったって言ってっ。
瞳から雫を零しながら無言の叫びを上げたアイズは、ベルの胸にぶつかり、ベルの体温に包まれながら震える。
棄てないでと泣き叫ぶ幼子のように震えるアイズ。
そんなアイズに音が聞こえた。
ドクンとベルの心臓の音が聞こえる。
その音は優しかった。ぐしゃぐしゃになったアイズの心に僅かな落ち着きを与えるほどに。
ドクンドクン。
「ぁ……」
まるで、ベルの鐘のような音に心と体が震える。
アイズが大好きな鐘の音を生み出すベルの鼓動の音に、心が白い輝きに満ちていく。
心の奥底から暖かい衝動が巻き起こり、何か思い出さなければならなかったことを思い出させようとする。
今までは大切な約束をしたような気がするだけで、蓋をされたように思い出せなかった記憶。
それが、鼓動の持ち主に与えられた快楽の火照りにより、記憶を封印するために覆い被さった蓋を浮かせ、心の影の部分に日が差し込むように封じられた過去の記憶が照らされた。
そして、記憶はアイズの目の前で再現するように映る。神の祝福を与えられたようにはっきりと映る。まるで、今その場に居るように。
──『英雄』はいません。
「……ぇ」
映し出される風景には、真っ直ぐでひたむきなベルのルベライトの瞳、アイズが好きな瞳がアイズを見つめている。
思い出す。
その瞳に映る黒い自分。
思い出す。
何をしでかすか分からない存在。外見は人間でもそれはまさに怪物だった。放置すればオラリオを滅ぼす怪物。
フィンがオラリオを救うために、万一の場合は滅ぼすと決断した
思い出す。
そんな怪物の手を、
包みながら想いを叫んでくれた。
──そう『英雄』なんていない。おとぎ話のように誰をも救ってくれる英雄なんて
──強くて、格好良くて、どんな人も颯爽と救う! そんな物語の住人なんて、どこにもいないんだ! 待っていても現れるはずがない。
「ぁ……」
思い出す。遥か彼方の精霊たちと交流した日々、その日々で壁の上で黒く沈んで全てを投げだし滅ぼそうとした自分にベルが叫んでくれたことを。
願いを貫き、想いを叫んだベルの一字一句を。
──だから! 僕は貴方の『英雄』になりたい!
──僕が、貴方の『英雄』になりたい!
「あ……あぁっ……」
どうして……
──僕にはアイズさんの『絶望』はわからない! アイズさんが何に苦しんで、何に悲しんでいるのか、ちっとも!
「あぁぁっ……」
何で、忘れて……
──それでも、僕は貴方を助けたい! 僕を助けてくれた貴方のように、今度は僕が!
「……そう、なんだ……」
私は忘れてたのに……
──貴方を、助けに来ました。
「……約束、守ってくれたんだ」
心の奥底から優しくて温かい感情が灯り、手の指を探す。
──約束をしましょう。
──アイズさんが、またどこかで悲しんでる時、泣いている時、僕が助けにいくって……この指輪に。
「……ずっと、助けてくれたんだ」
誓いの指輪は、大切にしまっていて今持っていない。そのことに心が震えるほどの寒さを覚えて薬指をさする。
──僕は弱っちくて、格好悪くて、どんな人も救えないですけど……この指輪に誓って、貴方を助けにいきます。
「成ってくれたんだね……ベル……」
だから、裸身を巻き付けるようにベルに巻き付ける。
温かくて、幸せで、心が破裂しそうになる。
──いつか、『英雄』のように
「私の、英雄に」
快楽の火照りを残す裸身を巻きつけるようにして
まだ恥ずかしさがある。でもそれ以上に嬉しくて、幸せで、苦しくて、胸の奥の熱さが抑えきれない。
誓ってくれた、なってくれた、守ってくれた。
指輪に誓われるということが何を意味するか、ティオネに教わったアイズの耳に父母の声が聞こえた。
『あなたも素敵な相手に出会えるといいね』
『いつか、お前だけの英雄にめぐり逢えるといいな』
哀しみと嘆きと諦めで思い出していた声に、アイズは初めて胸を張って応えることができた。
(私も私の英雄と出会えたよ。お父さんお母さん)
求めていた出会いの相手の優しい柔らかい白い髪に顔を埋めて香りを吸い込む。失ったはずの優しいひと時が戻ったような。否、それ以上の幸せがアイズをくるむ。
苦しくももどかしくて沸き立つ、側にいるだけで冷静でいられなくなるような焼けつく気持ち。側にいると落ち着く気持ち。
自然に話せて、側にいるのが当たり前というか、心地いいというか……そう、側にいないと違和感があって、最近はベルと話せなくて気分が沈んで……
一緒にいると、凄く安心する。一緒にいるだけで幸せで、自然に話せる。楽しくて幸せで、側にいるのが当たり前になる幸せがくるむ。
「ベルと居たい……」
ほころんだ口から漏らした言葉を満面の笑みを浮かべた内心の幼女が受ける。
──戻ったら、大切にしまってある指輪をつけてベルと歩こうね。
「お揃いの指輪を揃えよう」
──そうして、ジャガ丸君を食べたり、服を見たりしようね。
「自分でお弁当作った方がいいかな」
──うん。ティオネに作り方教わろう。
「そうだね。一番頼れそう」
他に浮かんだ、リヴェリア、ティオナ、レフィーヤに比べると一番正しい選択だとムンと力をいれて頷き、不安が押し寄せる。
「取り戻したい人がものがあることを言いたい……けど……」
──そんなに怖がらなくても、ベルなら手を伸ばしてくれる。
「そうだね。そうなんだよ」
──知ってたでしょ
「知ってるからだよ」
気の遠くなるほど彼方を目指す修羅の道筋に、何のかかわりもない少年に助けてくれなどとどうして言えるだろうか。
でも、ベルはとっくの前に誓ってくれていた。
助けてくれていた。
英雄になってくれた。
「言わなきゃ、駄目だ、ね」
視界が潤んで見えなくなる。
「胸が……しめつけられる……」
──ベルと何気ない時間を過ごして何気ない日常を送りたいね。
「胸が張り裂けそうで……どうしたらいいのかわからない……」
──一緒にいたいね。
「なんだか、楽しくて、心地よくて、安心する」
──ベル傍にいるとそうなるね……でも、すごく苦しいね。
「痛いよ……痛いのに……あたたかい」
──甘くて、切ないね。
「これ、なにかな。ベルの目に私が浮かんでいると、そうなる」
──恋だよ。
「こ、い……」
──こんなに心地よくて、安心できて、苦しくて、胸が張り裂けそうな痛みを感じられるのは、恋だよ。
「あ……そっか……」
──そうだよ
「そう……なんだ」
──うん。
「私は……ベルのこと……なのかな」
──そうだよ。おとうさんとおかあさんの顔よりベルの顔が頭に浮かぶようになった頃からそうだったよ。
「そう、なんだ……」
アイズは自分の想いを確かめるように瞳を閉じる。
瞼を閉じて浮かぶのは、あの陽だまりの時代、おとうさんやおかあさんと大切な人たちの顔ではない。優しく笑うベルの笑顔。ベルの純粋、ベルのひたむき、ベルの一途さが結実した陽だまりの暖かな笑顔。
そのルベライトの瞳に映る自分のはにかんだ幸福な笑顔。
急速に膨れ上がる思いに押し出されるように声が漏れる。
「ベルのこと……」
ああ、そうなのか。この想いがそうだというなら、何時かわからないずっと前から私は恋していた。
笑顔のベルを思い浮かべる。私はそんなベルと一緒に笑いたかった。同じ時と場所を過ごすのが幸せだった。ベルと出会ってから世界は大きくなった。宴会で強くならないとならないのに何をしているのかとう焦燥ではなく楽しさを感じて、ティオナ達と普段着ないような服を買い着飾るようになった。
ベルと出会ってから強くなるのが最優先では無くなった日々。
そんな日々は、きらめいていてたまらなく愛しかった。
「好き、なんだ」
ベルの温もりを味わうように裸身を擦り付けながら、奔流となって体を駆け巡る思いのままアイズは笑う。指輪に誓った誓いを成してくれた相手にあでやかに晴れやかに笑う。
想いは通じあっている──その歓びのまま、より一層ベルにしがみつく。ベルの胸に自分の胸を押し当てて、早くなる鼓動にアイズは笑みを浮かべる。
その笑みは、育ての親が望んだ、年頃の少女が浮かべる思慕の照れたような幸福な笑みだった。
「……ぁ」
笑みを浮かべたアイズの瞳が、ふとベルの顔を映して止まる。
「……」
アイズの瞳の中でベルの顔が大きくなり、恥ずかしいほど歯がなって体が震え、すぐに小さくなる。
唇に残った柔らかな感触に目を見開いて驚愕する。
「あ、あれ……私、何して……るの……」
──しちゃったね。
「え?」
──キスしちゃったね。
「き、キスっ」
──口付けしちゃったね。
「い、言い替えなく、ても……」
──今度は治療じゃないよ。
内心の幼女にからかうように言われて、あわあわと慌てふためく。
「そっか、キス、しちゃったね……暖かいね」
──幸せだね
「うん……ベルの神様に、不束者ですがよろしくお願いしますって言わなきゃ」
混乱は直ぐに収まり、喜びと幸せに満ちたいつものアイズらしくないどこか大人びた表情を浮かべた。
──だね。リヴェリアにも幸せになりますって言わなきゃ。
「そう、だね」
そうしないといけない。
何故なら、ベルは指輪に誓った誓いを成してくれた──プロポーズの誓いを果たしてくれたのだから、そうしないといけない。
ベルの誓いを、アイズは自身の持つ良識と常識で──一般的な第三者でもそうするが──そう判断した。
ならば、報告して挨拶しなくてはいけないと認識したアイズは、顔を一際紅くする。
緊張もする怖さもある。でも、何よりも、好きな人が、指輪に誓ってくれた自分の英雄がそこにいる。それだけで全てを上回る。アイズは顔を上げられなくなり、ベルの胸板に顔を擦り付け頬を緩ませた。
胸が締め付けられる。鐘のように胸が高鳴り顔がほてる。
このまま抱きつきたい。キスしたい。触れられたい。一緒に寝たい。疼く膣をベルの逸物で埋めてほしい。
でも──
「……続きは……ベルが起きてから、だよね」
そうだ。指輪に誓ってくれた誓いを、プロポーズをベルが果たしたのだから、アイズはベルの顔をみてしっかりと応えなければならない。
アイズもベルのことが好きだ伴に生きたい、と。
心を定め、唇に残った幸せな熱を振りほどく。
名残惜し気にベルの衣服を手に取り、着せようとしたときに波紋のように内心の幼女が囁いた。
──それでいいの?
「……ぇ?」
同意してくれると思っていた内心の幼女が、静かに座った眼差しをしているのを見てアイズが固まった。
──本当に、それでいいの? 後にしていいの?
「ベルは今、怪我して、その、き、気絶してるから……そ、それに、指輪に誓ってくれたんだよ。だ、だから……」
何故かしどろもどろになるアイズに、内心の幼女は優しく声をかける。
──思い出して……
「な、何を?」
──ウィーネって子を覚えてる?
忘れるわけがない。ベルが守った子だ。
あの時のことを思うとジクリと胸が痛むから思い出さないようにしているけど、忘れるわけがない。
だって、あの時、ベルは私と……
ジクリと痛み出す胸を押さえるアイズに、内心の幼女は何処までも静かに語りかける。
──ウィーネって子の時、ベルはレベル幾つだった?
……ウィーネって子の時、ベルはレベル3だったよ
──……
…………あれ?
「……ぇ?」
能面のように笑顔のまま表情が固まったアイズの喉から空気が押し出すような声が漏れる。
あれ?
……え?
……あれ?
え? あれ? え? あれ? え? あれ? え?
疑問で頭が一杯になるアイズに、内心の幼女は静かに畳み掛ける。
──異世界の精霊の時、ベルはレベル幾つだった?
……異世界の精霊の時、ベルはレベル2……だった……よ。
「……あれ?」
おかしい。変だ。絶対変。
何かが違う。
何かの順番が違う。
──そんなこと、どうでも良いよ。
そうだ。どうでも良い。
いや、良くない。
どうでも良い。先でも後でも過去でも未来でも一緒だ!
一緒じゃない!
何で順番が違う!
混乱する思考が暴走し、取り止めも無い言葉がぐるぐると意識を駆け巡る。
首を振る。何度も首を振る。目眩がするまで振る。
そして、思い出す。
沸騰した頭で思い出す。
ウィーネと名付けられた竜の少女を思い出す。
暗くて、寒い場所で独りぼっちだった少女。
私と同じ境遇だった女の子。
「でも、違う。私とは違う」
彼女は私と決定的に違う。
──どこが、違うの?
「だって……」
だって彼女には英雄が現れてくれた。ベルが現れてくれた。
手を伸ばして笑いかけてくれた。
たから……私とは違う。
……私と同じ境遇なのに、あの子は、あの子には
「剣を、取る前に……私と……違って……」
あの時ベルたちにぶつけなかった、理不尽な想いがアイズの内面から沸きだし、力無い呟きがアイズの唇から漏れていき固まっていた笑みを強張らせながら思い出す。
オラリオで築き上げた全てを失ってでもベルが守ろうとした少女を。
物語の悲劇のヒロインのように、英雄に守られていたた少女を。
──あの時のベルは私が望んだ英雄そのままだったよね
そうだ。
すべてを失ったあの冬の日、私が哭いて叫んで助けを求めたのはあの時のベルのような英雄だ。
あんな英雄に来てほしかった。来て欲しくて声も涙も枯れても叫び続けた。
でも、来てくれなかった。手を伸ばしてくれなかった。
誰も! 誰も! 誰も!
居なかった。
私には居てくれなかったっ!
……だから、諦めた。
剣をとって、英雄譚を読まなくなり、英雄を渇望していたことを忘れた。
いや、忘れようとした。
──あの時まで忘れようとしてたよね。
そうだ。あの時竜の少女を助ける
あまりの、痛苦と、悲哀と、羨望で、思い知らされた。
自分は英雄を渇望し続けていると思い知らされた。
あんな風にして貰いたかったのだと思い知らされた。
泣き叫んでいた
敵わないとわかっていても敢然と立ち向かい
力で及ばなくとも守り切って、
願いを貫き、想いを叫び、現実に押し潰されても抗い抜き、守りきった。結果を出した。
あの時のベルは私の理想とする英雄。
いや、それ以上、それ以上の英雄、本物の英雄だった。
「なのに……」
(なのに……違うっ)
何が違うのかを心の内ですら追求出来ないアイズに、内心の幼女は淡々と声を繋ぐ。
認めろと。
──傷だらけで守ってたよね。
そうだ。傷だらけだった。倒れて意識を失っても仕方ない体だった。それを意志の力で限界を超えて体と意識を繋ぎとめて抗って守った。
誰から? あの女の子は、幼いアイズのような少女は誰から守られていた?
……
……あの少女は、満身創痍の身の
ベルは
私の英雄は
私以外の女の子を
私と戦って
まもった。
「……………………」
アイズの顔から全ての感情が消え失せた。
ギリシャ神話英雄譚恒例の地雷が炸裂しました。
ウィーネの時も、コラボイベントのアイズの時も、他の時も、誰かを助ける時のベルくんは、真の英雄です。
罠に嵌めようとした中年男性さえ助けるだけでなく、
ただ、それが仇になるときもあるだけです。
何時ものように、願いを貫き、想いを叫んだ結果
『英雄を希求する女の子の心の最も柔らかく脆い部分に的確に楔打ち込んで鎖で雁字搦めにして絡みとった後、その子の理想の英雄そのものの姿で他の女の子を助けるために戦った』
ことになってしまうことになってしまうだけです。
もう、何と言えば良いのか、何でこんなことになったと言えばいいのか、どう責任を取るんだと言えばいいのか、種まくだけまいて収穫しないベルくんは本当にゼウスの孫なんだなあと言えばいいのか――
そんなことをされたら、ベルくんを力量含めて名実共にアイズの英雄足る器にして、アイズを英雄のように助けて徹底的にアイズを堕としてから、隔離した二人きりの空間でベルくんの意識を失わせてアイズに思い出させて
しかし、やはり、何時見ても、ウィーネを護るためにアイズたちにファイアボルトして戦うベルくんには惚れ惚れします。
憧憬一途のスキル影響下にありながら、ウィーネをアイズより優先したあの姿。スキルを超克したあの姿。アルフィアでさえ、ベルと出会って「アルフィアマッマ」にならなければ超えられなかった領域を、ベルは軽々と超えてみせた。
ベル・クラネルというバケモンの在り方を良く魅せてくれました。
……『恋愛において一番大切なのは一人だけであるが、状況によってその「一番大切」は速やかに変わる』という、ゼウス的な価値観の持ち主なのかもしれませんが(疑