epilogue 〜木村side〜
7/27 5:00 東京郊外
真夏の明朝。
ガタガタと揺れる、冷房が入っているものの窓外の気温が入ってきて蒸し暑い車内。
そんな朝っぱらから、仕事なんてしないだろうと地域企画課の警官、木村正義(ジャスティス)はもっぱらにふぁぁと欠伸をした。
「おい、これから俺達は捜査の仕事に入るんだ。どんな時でも毅然としろ」
木村の欠伸を見かねてか、助手席の警官から叱咤が入った。
今回の仕事のリーダーである同じ地域企画課の先輩の、尻高久志(しったかひさし)だ。
仕事は生真面目そのもので、褒める時は褒め、叱る時は叱るタイプの優秀な上司で、木村も尊敬していた。
木村は慌てて畏ると、官給品の黒いバッグの中から防衛省から送られてきた捜査の依頼内容を再確認した。
アリシア捜査の依頼状
「アリシア・パンドミー(23)
国家融資を受けている財閥系バイオ企業、
パンドミー財閥の社長令嬢。
数日前、ロックスフィア地区全体の講演会から帰宅中、謎の集団によって連れ去られた。
アリシアを誘拐した集団の目的は不明。
だが、不可解な点にこの犯行に内部の者が関与した形跡がある点だ。
事件は機密扱いで、捜査も小人数なのは、裏切り者が今も特定出来ない事が影響している。
この状況では、防衛省の臨時特務部のひとりが掴んだ日本での目撃情報ですら、何かの罠という可能性がある。
裏切り者の発見こそ、アリシア捜索と同時にこの事件のポイントとなるだろう。
この件に関しての手掛かりはまだ少ないが、アリシアの警護に関わったメンバーや、その情報にアクセス出来た者に対しては、防衛省を通じて厳しい捜査が進められている。
たとえそれが活動中のエージェントであっても、サポート要員には異変が感知できるだろう。
裏切り者が幽霊ではない限り、じきに見つかる筈なのだが…
兎に角、此方もベストを尽くす。
警察側も捜査をじっくりと進めてくれ。
健闘を祈る。
防衛省臨時特務部特別海外調査室長 烏間唯臣」
書類に添付されている写真には、今回のターゲットであるアリシア・パンドミー本人と思わしき橙髪の女性が豪華な椅子に腰を掛けながら微笑んでいた。
どことなく、浅野に似てるなぁ…。
アリシアの容姿を木村は思わずゾクっとしつつ微笑んみつつ褒めていると、隣でタバコを蒸していた私服の婦警が茶化した。
同僚の交通課の婦人警官である、音無美奈子(おとなしみなこ)だ。
この様に軽い性格であり、志望動機も映画に出ている刑事がカッコ良かっただけらしい。尚も、刑事課には不採用になったのだが。
「綺麗だよねぇ、ネラルのお嬢様って。
あんた、綺麗なお嫁さん居るじゃないか〜」
音無はタバコを吸っては蒸しながら木村に向かってケタケタと笑った。
木村は思わず「ちげーよ!昔戦った奴に似ていたから笑っただけだ」と反論するが、音無は揶揄いを辞めなかった。
この程度の揶揄いなら、中学時代に経験しているし、自分も当事者だったから平気なのだが自分の家内の話になると、何だか心の中でもやっとした。
「二人ともいい加減にしないか。後、音無。
公共の場でタバコを蒸すんじゃない。消せ」
二人のヒートアップする揶揄いじみた口論に再び尻高が二人を厳しい声で注意をした。
特に音無の喫煙には嫌な顔をし、煙の臭いに咽せて即座にフロントガラスを開けて換気を行った。
尻高に喫煙を注意された音無は不貞腐れつつも吸っていたタバコを手持ちのブリキ製の携帯灰皿に入れて消した。
そんなこんなでわちゃわちゃしていると、黙り込んでいた運転していた警官の口が開いた。
「それにしても、不自然ですねぇ」
「ん?どうした?田村」
「何だか、活気が無いんですよ。街の」
運転席の警官、田村は街の辺りを気にしていた様だった。
確かに言われてみれば、周りは静けさだ。
幾ら明朝の5時で東京郊外とは言え、ここは大都会だ。この辺りで働いている夜勤帰りの人や、終電を逃した人や酔っ払いの連中には出会う事も多くはない。
「…確かにな。だが、俺らにはこれが好都合だ」
尻高は腕を組み直しながら冷静に答えた。
今回の仕事は誘拐された令嬢の捜査依頼。
防衛省ぐるみのトップシークレットとなっては、市民を守る警官が怪しい動きを住民に見つかる方が後々面倒な事になるだろう。
「それにしてもこんな依頼を我が警察側に…
普通、防衛省やこちら側のエージェントとかの諸管轄がやる事でしょう、尻高さん」
「気持ちは分かる。すまんな、田村。
俺から署長にボーナスは弾んどいてくれと頼んどいたから、手を打ってやいてくれ。
お前にも、家族は居るだろう?」
「…まぁ、署長直々の依頼とならば、仕方がありませんがねぇ。
それにしても、変わった依頼ですよ」
田村は依頼に渋りながらも、目的地まで車を飛ばした。
7/27 5:00 東京郊外 高級住宅街付近
「…着いた様だな。木村、音無、田村!」
近場の駐車場にパトカーを止め、先に降りた尻高が車内の3人に降りる様に号令を掛けた。ぞろぞろとパトカーから降りると、尻高から改めて注意が入った。
「良いか、この任務は極秘依頼だ。
くれぐれも住民に漏らしてパニックになる様な真似はするな。面倒な事になる。
それと、拳銃は無闇に抜くな。
此処はアメリカとは違う。住民に余計な威圧は与えるな。
後音無、この辺りは禁煙地帯だ。タバコは間違っても吸うな。1本足りとも吸ったら始末書は覚悟しとけ。良いな」
「ちぇ…はぁーい」
「はい」
「了解しました」
「よし、行くぞ」
皆、尻高の跡を着いて行った。
明朝の高級住宅街。車内の田村の言う通り、妙に静かで、人気が少ない。
やはりターゲットの誘拐と、何か関係が有るのだろうか?
木村と音無は思わず、辺りをキョロキョロした。
「キョロキョロするな。怪しく思われる」
前を平常心で歩いていた尻高に注意され、二人は落ち着いた。
暫く高級住宅街を歩き、外れ近くの曲がり角のコンビニ辺りに近づくと尻高は足を止めた。
どうやら、様子がおかしな人物を見つけた様子だった。
その人物は男性の様で、しきりに呻き声を上げながらしゃがみ込んだ様な体制を取っていた様だった。
おおかた酔っ払いか何かだろう。
尻高が令を言う前に田村が任務の事もあり舌打ちをしつつも、冷静にその男性にゆっくりと近づき、声を掛けてやった。
「あのー、すみません?巡回の方ですが…
こんな所で酔っ払わないで下さいよ」
「…」
「あの、住宅街の皆さんに迷惑が掛かりますので。最寄りの交番に届けますね」
「…ウー」
「えっ?」
「…ウー……………エゥゥゥオオオォオオオォォォ‼︎」
男性は奇声を上げながら素早く、田村に噛み付いてきた。
完全に不意を突かれた様で、鋭い牙で田村の首筋に狙って噛み付いた。
田村の首筋から血がどくどくと溢れ出す。
その痛々しい光景に音無は思わず「きゃあぁぁぁ‼︎」と悲鳴を上げた。
尻高と木村は悲鳴を上げなかったものの、冷や汗をかき、田村から離れる様に後退りをした。
「あ……あぁアァ…」
田村はいきなりの激痛にふらついたが、卒倒してしまった。
酔っ払いと思わしき男性が噛み付いた事自体信じ難いのだが、さらに信じ難い事は連続して起こった。
数分経たない内に田村が、同じ様な奇声を上げながら襲いかかってきたのだ。
この様な光景は有名なバイオゲームやゾンビ映画でも有るのだが、実際に見かけるは初めてだ。
危険を感じた尻高は二人に手持ちの拳銃の安全装置を外す様に命令し、二人には逃げる様に指示をした。
尻高は拳銃の安全装置を外すと、二人の暴徒に向かって言い放った。
「正当防衛だ。悪く思うなよ」
そう言い切ると、尻高は拳銃のトリガーを引いた。
こんにちは、そしてこんばんは。
sofuiriと申します。
遂に始まりました。ゾンビサバイバルが。
前半はbiohazard4を意識した作り方になってます。
時列では、木村正義が警察署の地域企画課に配属されてから1年後ですね。平凡に暮らしていた所に烏間先生直々の依頼を警察側に頼み込む…と言う流れです。
余談ですが、木村は矢田桃花と結婚したと言う設定になっています。
矢田桃花の安否については、後に書いていきたいと思います。
予定では原作キャラは全員生き残り、原作モブキャラ、オリキャラは死んだり死ななかったりになっていく予定です。