※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第三部 霊脈篇   作:炭団

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第三部の1話目です。


第一章 『霊脈大戦争』篇
94、森の中の初戦


 オレ達がホテルの部屋に戻ると、オッサン達の話し合いはまだ続いていた。なので買って来たメシをチビ達の部屋に持っていき、残りをオッサンどもに配った。

 

「キリツグ、敵は見えましたか?」

「ああ。ナタリアと獅子劫君が調べ上げてくれた。日本で雁夜君が見せてくれたリストより詳しい。セイバー、意思統一と子供達に聞かせたくない事柄もあるから、このような会議は今後英語で通してくれないか?」

『わかりました』

 

 英語もドイツ語もエルヴァならわかっちまうぜ? けど、そこは良いのか。

 それで、そのメモにはこうあった。

 

 ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────-

 ダーニック・プレストーンの遺志を継ぎし者達。ダーニックがその昔掲げた一門名、『ユグドミレニア』を名乗る。

 

 ラズヴァン・アイスコル・ユグドミレニア/55歳。

 /現ユグドミレニアを立ち上げた首魁。酷薄な黒魔術師。

 父親は故ダーニック・プレストーンの盟友だった。その父の遺志とダーニックの思想にどっぷりと浸かった男。

 

 ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア/36歳。

 /不参加の可能性あり。もしくは魔力タンクとしてのホムンクルス提供のみか。

 かつての名門で一族が多い。それ故に親族が協力している可能性がある。

 

 セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア/26歳。

 /ラズヴァンの娘。黒魔術師。父親似で残虐。

 

 混成傭兵部隊(決まった名はないが比較的知られるのは『闇の部隊』)

 /メンバーは流動的。GRU(情報総局)、アルファ部隊などの特殊部隊(スペツナズ)上がりの者を中心に、元GIGN(フランス国家憲兵隊治安介入部隊)や元SAS(英陸軍特殊空挺部隊)などの兵が揃っている、死の請負人。

 ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────-

 

『獅子劫君、やはりこの混成部隊は名がないのかい?』

『ああ。そこにあるように『闇』とか『闇の部隊』と呼ばれる事が多いな』

『『闇』だと往年の坊やや私まで含まれちまう』

『金に狡っ辛い一匹狼って意味があったからなぁ。まぁ、俺はどちらかと言えばトレジャーハンターなんで、時計塔やアインツベルンにエーデルフェルトなんて名門とも取引があるがな』

『自慢か?』

『そうじゃねぇよ。その『闇の部隊』ってのも昔は要人警護をする程度の真っ当な組織だったんだ。それが活動資金の豊富なギャングや魔術師につく事が多いと言われるようになったのには、ちゃんとその理由があるんだ。原因は現大統領に締め上げられているオリガルヒ(新興財閥)にあったのさ』

 

 ずっと残って、話を聞いていたらしい褐色の方の偽者エルヴァが頷いていた。だから訊いてみた。

 

『どういう事だ?』

『それまで前大統領の息が掛かった個人や会社組織が一手に大儲けしていました。ところが大統領が代わって、そういう癒着は良くないと大きな規制が入ったのですね。それで今まで仕事を回してくれたパトロンが次々と潰された訳です。そこから汚い仕事にも手を染め始めたと。それまでの『闇の勢力』とは表に出ない反社会的な裏組織すら恐れる『魔術師』そのものを指していたのです。それが一匹狼のハンターを『闇』と呼ぶように変化し、今はどちらかと言えば、その特殊部隊を指す事が多くなったのですね』

『なるほど。オレらの時代にもあったな。それで円卓から追い出された奴も居るよ』

 

 まぁ、追い出したのは大抵ガウェインだけど。

 

 

 翌朝、獅子劫君がボロボロのバスをホテル前に回した。動くのか、これ?

 

『一応、ルノーだぞ? 隣のハンガリーならチェコに近いし、もう少しマシなクルマも多少はあるが、モルドバにルーマニアとブルガリア、それと旧ユーゴの国はソ連時代からのクルマが多いんだよ。最近はダチアっていうメーカーも頑張ってるが、やっぱり東欧の中でもルーマニアは田舎だ』

 

 そこでエルヴァが、エスタフェットの後継でマスターというクルマだと教えてくれた。貨物車やマイクロバスといった商用に使われる、言ってみればハイエースのような存在なのだとか。

 80年代後半から90年代初頭頃の作りだから、まだマシだとまでいう。ヨーロッパの田舎ではどこでも走っているのだとか。今まで『風景』としか認識していなかったので、改めて驚いた。

 どう考えても4列8人乗りなんだが、座席を詰めに詰めて何とか全員で乗った。ただしナタリアとはここでお別れだ。彼女はこの後ロシアで仕事がある。

 

 運転席は獅子劫、助手席に僕。2列目にエルヴァ君(小さい方のエルヴァと混同するので、今回はそう呼ぼう)とエル君にイリヤ君。

 3列目に子供達とセイバーにモードレッド。4列目にランサーとランスロットにエルマ。良いのか、こんなので?

 だけどブカレストからシギショアラまで約300km。休憩を挟んでも午後の2時には着いてしまった。

 

『1999年に歴史地区が世界遺産になっている。典型的な観光地だ。止まっているクルマも観光客のばかりだ。そんな政府の思惑というか観光局とのイザコザがあって、トゥリファスに引っ越しったって話も耳にした』

 

 まぁ、そうだろうな。これだと冬木より条件が悪い。狙撃ポイントはあるけれど、どこの塔から撃ったかすぐにわかる。何より囲まれたらアウトだ。

 子供達は窓の外を見て喜んでいる。石畳の道路に色とりどりに塗られた建物の壁が映える。かつては城塞都市であり、ヴラド3世の生家が今も残る『ルーマニアの宝石』。これは無理だ。トゥリファスに移ったのは正解だろう。

 

「お腹は減ってないかい?」

 

 そう聞いてあげて、僕達はレストランに入って食事を摂った。ホテルの予約は済んでいる。日本円で一泊3~5千円が相場だと言うから、物価が安いなぁ。

 何より今はバカンスシーズンだ。食後の散歩ですれ違うアジア人の言語には日本語もあった。そしてイリヤ達を現地の子だと思ったのか、拙い英語交じりで『可愛い~三つ子よ~』とか話している。

 親としては鼻が高いが、どうなんだろうなぁ。日本語で返事をしそうになったイリヤを制して、エルヴァがドイツ語で受け答えしていた。観光客の夢をギリギリ壊さない良い配慮だと思った。

 そもそもエルヴァが言うには、ルーマニア人のほとんどはラテン系の血が入っているらしい。そこにハンガリー系やスラブ系、ロマニ系だ。ローマと関係があるらしく、言語もイタリア語に近いのだとか。

 不思議な感覚だが、長い歴史の中で変わったとも言えるし取り残されたとも言える、のどかでゆったりと時間が流れる国だと思った。

 あのブカレストで懐いた陰鬱な空気は、道中には感じなかった。荷馬車が走り、山羊や牛がそこらを歩いている。そんな牧歌的な風景が、そこかしこで見掛けられる国だったのだ。

 

『と言ってもトゥリファスに移ったのは、滅んだプレストーンの残党とアイスコル家だけだ。昨日も話したがユグドミレニアも寄せ集めだからな。ムジークなんてもろドイツだし、フレインもフランス寄りのスペイン系だ』

『召喚されたサーヴァントはわからないんだね?』

『地脈から大聖杯を探っているけれど、今ひとつ読めないのよ』

 

 イリヤ君がボヤいている。やはり何某かの工作があるのだろう。アサシンからの最新の情報だと、トゥリファスとは郊外にある村の名でありその村を囲む広大な森の名でもあるという。

 その森の奥に城塞があり、そこが相手の本拠地だそうだが、未だアサシンの誰一人も潜り込めていない。これはそれだけの準備をしていたとも受け取れるけれど、籠城戦にせざるを得ない理由もあるのだと読める。

 一に大聖杯レプリカが城に設置されているから。つまり『願い』は自分達だけが叶えるという意味だ。二に混成部隊であるが故に、意志の統一がままならないのではないか。

 いまだ動きが無いところを、そう分析していたけれど。こんなに風光明媚な景色を目の当たりにすると、戦場にしたくないという気持ちが良くわかる。

 結局僕達が出向いて城の周囲、あるいは城塞の中での接触しか望めないのだと理解するに至った。

 

『そのダーニックという魔術師が、大聖杯を盗もうとした動機は何だったのかわかりますか?』

 

 エルヴァがエル君に尋ねている。

 

『その第三次の頃、ダーニックは時計塔の講師だったそうです。それでこれは使えると考えたのでしょう。理由は性格とその鼻持ちならない弁舌に辟易していた第三者からの噂が気になったからですね』

『噂?』

『ええ。『血が濁っている』という噂です。それが尾ひれ葉ひれ付いたのでしょう。普通、血が濁っているという蔑み方の場合、混血を指しませんか? 犬の血とか悪魔の血とか、或いはある特定の民族であるとか』

『そう言われればそうですよね?』

『でしょう? そもそも純血種の魔術師なんて居ますか? もしそんな人がホムンクルス以外に存在するなら、お目に掛かりたいものですよ』

 

 まぁ、そうだろう。だけどそういう噂を気にしてしまった。裏返せば何か思い当たるフシがあったのか、神経が細かいのか。まぁ、大抵口のまわる奴ってのは、得てして自分の弱さを隠したい情けないタイプに多いものだ。

 

『ですけど、それに共感する人が集まったから『ユグドミレニア』なんて名を騙るに至った訳ですよね?』

『そうですね。ただ単純に烏合の衆とは言えないでしょう。ここまでこの国を見てどう思いましたか?』

『綺麗でのどかで。中々だと思います。ですけど農業国なのでしょう、工業が弱いと思いました』

『そこです。農業と工業は国家の両輪です。食べていくのに必須な一次産業、豊かさに必要な二次産業。それがあって初めて内需が潤い、三次産業が栄えるのです。そこまで行かないと国民は豊かになりません。その昔の共産主義と独裁の結果とはいえ、あまりにも国が貧しい。となると現在の『ユグドミレニア』の資金はどこから出ているのか。そこですよ?』

『つまり?』

『アインツベルンが敵対視される理由もその辺りにあるという事です。僻み、妬み。成功とは羨望の先にあるだけでなく、嫉妬と恨みも、その積み上げた階段の下にあるものなのです。そこを忘れない、見失わないためにアサシンを使ったり、人形を使ったりする訳ですよ』

 

 11歳のエルヴァには難しいと思ったが、きちんと聞いて頷いている。相当英才教育を受けているようだ。今はクロエが持ち前の前向きさでイリヤを引っ張ってくれているけど、折れた時は怖いなと思った。

 だけど3人の娘は仲良くなれたし、お互いを思いやっている。何より先駆者として、エル君やエルヴァ君がこんな風に相手の理解力に応じて語りかけてくれている。

 きっと僕は幸せ者なのだろう。だからこそこの子達をしっかり護らないと。そう決意を新たにした時、アサシンが一人の少女を抱えて現れた。

 

「この子は?」

「行き倒れていました。お連れした理由は『ルーラー』を名乗っていたからです」

 

 年の頃は18~9歳? どこかセイバーやモードレッドにも似ている美貌の持ち主だ。

 

「何か病気でも?」

「いえ、お腹が空き過ぎて動けなくなったようです」

 

 それで困って僕達にか。アサシンと聞けば冷酷で残忍だと一方的に思いそうだが、エルマに使える彼らはとても情に厚いところがある。

 また仕事に忠実であると同時に誇りを持っている。どこが『暗殺者』だと突っ込みたくなるが、それが時代の下った『百貌』だけを重用する理由だと教えられた。

 彼らが教主だった頃は、暗殺だけではやっていけない時代でもあったのだ。情報を得てそれを売るだけでなく、吟味してより顧客の望む結果を導き出そうとする。

 つまりはマーケティングとセールスアピールが上手いのだ。こういう部分から英霊というか人材を選ぶエルマやエル君。僕も教えられることが随分と多い。

 だからだろう。相手が7騎だとして、こちらがイリヤ君を含めて6騎、エルヴァ君を含めてやっと7騎。そんな不利な状況でも何の不安も恐れもなかった。

 広範囲に情報を拾って、吟味しながら持って帰れるアサシンの存在は、単なる『暗殺者』を越えていた。例えば情報ABCDがあったとしよう。

 それぞれが出どころも内容もバラバラだ。だけどある目線からだとAとBが繋がるし、AをÅとして見たらCとも繋がるのではないかと助言してくる。

 勿論最終判断はエルマでありエル君だ。とりわけエル君の目線だと魔術的見地からだけでなく、社会構造や経済からも絡めてくるので、ABCDが全部繋がってくる。

 こういうのを聞かされればアサシンも学習する。雇用者と被雇用者がより良い関係となるのだ。これは工房に籠もり人間関係が苦手な魔術師には、まず見られない特質だ。

 

 ホテルの者に怪しまれないようエルマが取り込んで部屋に連れ帰った。そこで市場で買った食べ物を与えた。するとたちまち元気になった。

 

『魔力を使うとお腹が空いて空いて……。ともかく、助けて頂きありがとうございました』

 

 アサシンが連れて寄越したもう一つの理由がわかった。彼女の言葉はフランス語だったのだ。僕も多少は使えるが、エル君もエルヴァ君も、そしてエルヴァもペラペラだった。恐るべきはスイスだろう。

 

『憑依型のルーラー。これがレプリカの弊害ですか?』

『おそらく』

『そしてあなたが喚び出された理由は、レフェリーが必要だとレプリカが判断した?』

『誤作動の気もします。この目で見なければわかりませんが、大聖杯の予備装置が反応したのは、あなた方の陣営に『サーヴァント』が7騎揃っているからだと思います』

 

 なるほど。あくまでも反応した結果ならば、エル君が危惧していた、倒された場合に大聖杯用の薪になる心配は無さそうな気がする。

 とは言え、『レプリカ』か。僕も『聖剣の鞘』のレプリカで、アーサー王でなくモードレッドを召喚したクチだ。その誤作動が吉と出るか凶と出るか。

 

『しかしステータスが見える人と見えない人が居ますね? それとあなた方の陣営に私の令呪は効かないようです』

 

 おいおい。そんな事を話して良いのか?

 

『構わないと思いますよ。こういう情報もフェアに知らせないと』

 

 そう言われれば、そうかな。そもそも相手に大聖杯があるなら予備装置の起動は確認済みだろうし。

 

『私が何者かを訊かないのですか?』

『訊かずともわかりますとも、聖処女よ! おお! 我がジャンヌ~~~~ッ!』

『ちょっ!? ジル将軍の真似ですか?!』

 

 なるほどね。こうやってカマを掛けるのか。セイバーの辟易した顔がまた何とも……。だけどセイバーもモードレッドも、ここまで自分が何者であるかを一切語らない。こういうところはさすがだろう。

 逆にランサーは『ランサーと呼んでくれ』と平気で話している。彼にとっては『クー・フーリン』という真名の方が問題なのだろう。或いは弱点が無いという自信の表れか。

 回復したルーラーに幾ばくかの金を渡すと、エル君はそのまま送り出した。

 

『行かせて良かったの?』

『中立であろうとする姿勢が見えただけで十分です。どのみち真相までは探れないでしょうし』

『真相?』

『捕らぬ狸の皮算用ですよ。ここまで動きがないのは内部で何かが起きているからです。魔術基盤を改変するための大聖杯はある。そこに焚べるサーヴァントも揃った。残るは召喚した他の魔術師の存在です。私達を相手にする前に改変してしまえば、私達はこの世界で通り一遍の魔術が使えません。こちらに時空を超える宝具や魔杖がある事を相手は知らないでしょうし。それを押し通すために倫敦でアサシンを喚んだのでしょう。つまり時計塔のバックアップが望めないよう、こちらを孤立させてしまえば後はどうとでもなると。軽く見られたものです』

 

 だけど、こういう軽視こそが魔術師特有の悪癖であり本質だ。僕もそこを突いて今ままで勝ち抜いて来た。

 

『お手々繋いで、仲良く世界を変革とは行きません。首謀者はアイスコルでしょう』

 

 となると益々金で動く『組織』の有用性が高くなる。ムジークは以前失敗しているし、フレインは体の良い生贄だ。つまり最初から使い捨ての駒だったのだろう。

 ゴルドの名が出てこない理由はそういう部分もあるのだろうとエル君は推測していた。僕もそう思う。

 

『カタコンベで眠るって噂は本当なの?』

『本当だ。雨風はしのげるし、何より俺は『死霊使い』だからな』

 

 なるほど。『予備弾薬』の側で眠るのは、それなりに意味がある。安心感と安全を買うためだ。気分がどうこうは関係ないだろう。

 そして昔の僕と同じく、一匹狼だった彼がここまでエルヴァに肩入れするのは、ノイント老からの報酬だけではない。彼には大きな悩みがあった。

 そしてその悩みは、『並行世界の彼』も抱いている悩みだった。それをエル君は解決しているのだ。その内容をエル君は倫敦でエルヴァに伝え、エルヴァは獅子劫君に伝えた。それでその調整をブカレストで終えていたのだ。

 だから彼は帰らなかった。本来はナタリアと同じく下調べと、ホテルの手配までだったのだ。それが無報酬なのにここまで来た。

 

『あのオッサンはエルヴァの良いパートナーだ』

 

 モードレッドの感想だけど、僕もそう思う。今後は彼に頼む仕事も増えそうだ。

 こういう生きた現地情報を集められるかどうか。戦闘員としてのバゼットは優秀だが、調査員としては二流だ。こういう部分を見習ってくれれば、仕事も増えるのになぁ。

 その夜はホテルで子供達を寝かしつけぐっすり眠った。翌朝、早朝からクルマに乗ってトゥリファスだ。40分ほど走った先から少し南下して森に入った。更に20分ほど小路を走ると村があった。

 おそらくこの村の人達は。この闘いと関係ない。その昔ダーニックに連なっていた眷属の子孫達だろう。どの人達の表情も柔和で明るく、田舎そのものだ。

 だからこそ、この先の森は危険だと感じた。閑散とした森の中に入って進むと、槍を担いだサーヴァントが待ち構えていた。闘いたいと言うより斥候かな?

 

『なんでこんな朝っぱらから? 普通は夜だろ?』

『自分がそうだからと、相手もそうだと思うのは甘えですよ』

 

 かなり霊格の高い相手であるにも関わらず、エル君は堂々としたものだ。

 

『まぁな。戦場ではそうだ』

『でしょう? 夜討ち朝駆け、飯時を襲うのも手ですよ』

『とは言え、作法は通したいよな?』

『そうですね。今日のところはどういう場所かの下調べもありました』

『ま、見れる範囲は見ていけば良い。それ以外は許さないけどよ』

『当然でしょう。しかし、良い目をしたアーチャーが居ますね?』

『な!? 見えてるのか……』

『やはり臨戦時は馬並み?』

『下品な女だな? 先生はそんなんじゃねぇ』

『先生……ね』

『あ……』

『では失礼します、人参のお兄さん』

『ニンジン?』

 

 そしてすかさず僕達は村に戻った。

 

『正体がわかったのか?』

 

 ランサーだ。

 

『あいつがヴラドなのか? そういう領主様って印象じゃ無かったぞ?』

 

 ここでエル君が面白い事を言った。

 

『三気筒の1番と3番からオイルが滲んでいますね』

『バリオスとザンザス?』

『正解。律儀にクラスに括って召喚しています。ライダーでした』

 

 ここで身を乗り出した4人の英霊達だ。

 

『正体はトロイア戦争の大英雄。アキレウスですよ』

『この地が『Achilles Last Stand』ですね』

 

 そしてエルヴァ君は歌い始めた。ボーカルの人が交通事故で車椅子に乗りながらレコーディングしたから付いた、自虐的なタイトルなのだそうだ。

 だから歌詞のどこにもアキレウスは出ない。出て来るのはアトラスだったりする。

 

『では、私と姉さんで踵を射ますので、その状況をセイバー達が作って下さい。トドメはラブハートですよ』

 

 そういう聖杯戦争で良いのかな?

 

『相手のアーチャーの妨害は?』

『そこを子供達に翻弄して頂きます。相手はケイローンですので、子供には手を出さないでしょう。そしてアサシン達が敵の部隊を寄せ付けません。お父さんと獅子劫さんはモードレッドを護衛にして、アサシンの網から漏れた相手を叩いて下さい。これ以外のサーヴァントには第一陣としてエルマが当たりなさい。そこで相手の実力を測ります』

 

 

 そして僕達は、村にほど近い森の中でコーヒーを淹れ寛いでいた。狙撃ポイントには先にアサシン達が張り付いている。エルマがエル君に何度も報告している。

 

『現在、20名確保です』

 

 それでアサシンが連行した捕虜をエル君は、次々と取り込んでいった。

 

『『魂から忠誠を誓う』強力な暗示を掛けて、エルヴァちゃんの精鋭にしても良いですし、メヒコに行って麻薬組織をぶっ壊して来いと命令しても良いですね』

 

 自分で動かず他人にさせる。それも敵だった者に。僕は開いた口が塞がらなかった。だけど僕達の周囲にはどこの監視も付かなくなった。

 

 

 

 不思議だ。白いエルヴァはエルと同じように宝具を使っている。だけどスマート過ぎる。

 

「あなたのその宝具はエルと同じものなのですか?」

「いいえ。その術式を元に改良したものです。言ってみればVer,2.1ですね。エル様がVer,1.95です。それでエルマはリビジョンでなくリビルドなのでVer,1.423です。トロンメルはVer,1.342ですよ」

 

 リビルド……。方向性が違うのか。だけど彼女はエルと同じ方向性の最新版のようだ。やはりエルマや私が感じていた違和感は正しかった。

 まだ英霊の宝具は取り込んでいないと思うが、最大数より効率優先のような気がしていた。何というか、洗練されているのだ。

 そこで今、大会に出ているだろう自分に思いを馳せた。きっと一射一射、思いを込めて射場に立っているのだろう。私も気持ちを引き締めて、闘いの場に立とう。

 

 

 

 夜の10時。夕方に仮眠を取らせた子供達を起こした。生活リズムの狂いそうなこんな事はしたくないけれど、白いエルヴァが私を激励するために、わざとエルっぽく振る舞う心情がわかるだけに辛いところだ。

 彼女も私であるならば、ああいうジョークはあまり好きでは無いだろう。それでもムードメーカーとなって皆んなの気分を盛り上げようと頑張ってくれている。

 

「ほら、頑張って起きなさい」

 

 むにゃむにゃ言う妹達。それでもハッとして自分の頬を張り、おチビちゃんを起こすのを手伝ってくれるクロエちゃん。それを見てシャキッとするエルヴァちゃん。思わず胸がいっぱいになる。

 

 

『相手のサーヴァントはクラスに縛られている』この情報に当て嵌めるなら、4騎まではほぼ確定だ。

 

 セイバー/ジークフリート

 ランサー/ヴラド3世

 アーチャー/ケイローン

 ライダー/アキレウス

 

 そして3騎が不明。あわよくばその3騎を確認しておきたいところだ。

 

 バーサーカー/?

 キャスター/?

 アサシン/?

 

 だけどクラスの重複、或いは8騎以上存在する可能性も頭に置くよう白いエルヴァはミーティングで話していた。また、念のためと言ってかなりの銃器を取り出し、お父さんと獅子劫さんに選んで貰っていた。

 昔のお父さんのように自分のスタイルが確立している獅子劫さんは迷っていたけれど、結局敵の数を考慮してバトルライフルを選んだ。

 それは口径7.62mmのAK-103だった。現代版のAK-47でいわゆるAK-100シリーズの中の一つだ。AK-107以降のような複雑さが無いので安定感がある。

 お父さんは第四次聖杯戦争に参加する前は、バルカン半島で戦っていたのでAKシリーズには詳しい。獅子劫さんもお父さんより年下だが、東欧を中心に仕事をしている手前、AKに慣れているようだった。

 そして白いエルヴァ自らは、予想通りHK53を担いでいた。服装も既に夜間用の迷彩服だ。おまけにあのチョーカーを首に巻いていた。エルが用意していたのだろう。

 そのチョーカーがあれば、セイバー・アーチャー・ランサーの三騎士にライダーの能力が切替式で得られる。更にライダーには10分が限度だけれどバーサーカーでブーストできる。

 あちらのおチビちゃんもカードを組み合わせて同じ事ができる。だけど、こちらのおチビちゃんに私はその方法を教えなかった。リスクが大き過ぎるからだった。

 

 暗い森の中を隊列を組んで進む私達。周囲の樹々にはエルマのアサシン達が二重三重の輪を作って警戒してくれている。やはり正面にはあの槍を持ったライダーが待っていた。

 

「取り敢えず行かせてくれ」

 

 ランサーが走った。モードレッドが出なかったのはアーチャーを警戒してだが、これも予感していたのだろう。ライダーの後ろから長髪の剣士が現れたのだ。

 その手が握る剣は『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』。竜殺しの逸話があるツヴァイ・ハンダー並の大きな両手剣だ。

 

「あいつはオレだ」

 

 宝具の謂れも弱点もレクチャー済みだ。そして彼女がその手に握る剣は、『燦然と輝く王剣(クラレント)』でなく、今日本で試合に出ているエルヴァが投影した『魔剣グラム』だ。

 あの『原罪(メロダック)』を握ってから、モードレッドはブリテンへの思いを振り切った。過去に抱いた王位への執着と、父への愛憎もきちんと切り分け、自分の中で消化、或いは昇華していた。

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉ~~~~~~っ!!!!!」

 

 裂帛の気合で駆けて行くモードレッドを見送って、私は既に姉さんが潜んでいる樹と、小路を挟んで反対側の樹の下まで回り込んだ。持ち場についてから、誰ともなしに声を掛けた。

 

「姉さん、殺気が強すぎ。気負わないで」

 

 案の定、ランサーの猛攻を凌いでいるアキレウスは左後方を気にしていた。空の上を光の筋が走っていく。エルマとおチビちゃん達だ。

 

 

 

「オラオラオラオラ! どこ見てんだ!」

「チッ」

 

 イリヤも読んでやがる。その気遣いは無用だと言えねぇほど強い、コイツは。しかも硬ぇ。おまけにバカみたいに速い。たぶん筋力もオレよりちょい上だ。マジで踵を攻略しないと勝てねぇ野郎だ。

 けどよ、滾るよな。最高だ。

 

「お前は何者だ!」

「オレはクー・フーリンだ!」

「おお! 知ってるぞ。光の御子か! ならば俺は」

「わかってる。だから言うな。オレはお前と五分で闘いてぇ」

「……! よしっ! 行くぞ!」

 

 

 

 何なのよ、あの戦闘狂は! せっかく気を引いてやってるってのに。

 

『姉さん、殺気が強すぎ。気負わないで』

 

 エルヴァ……。やる事をやれって事ね。わかった。軌道修正は任せたわよ!

 

 

 〈エルマ……?〉

 〈持ち場に着きました。現在、ケイローンの真上から爆撃中です〉

 

 良しッ! 今だ! 私は伏射で矢を3連続で射た。1本はアキレウスの右斜め前の、木の幹に刺さった。と同時にブロークン・ファンタズムだ。

 だけど殆ど魔力を込めていないので、ポッと燃える程度の矢だった。だけど同時に射た2本目はアキレウスの後頭部を襲った。

 

「こなクソッ!」

 

 槍を振り回し石突き部分で私の矢を弾きながら、ランサーへの牽制にもしている。この速さと技巧。さすがはアルさんと並ぶ最高峰の英雄だ。

 ここで私は確信した。姉さんの矢も私の矢も、まともなら躱される。そこは重々承知だけど、空間を跳ばしても六分四分で躱すだろうと。勿論、躱される確率が六分だ。

 しかもこの英霊が受けている『加護』は最高ランクだ。あの狂化されたヘラクレスは、狂化に拠って『加護(寵愛)』のランクが落ちている。だから、それなりに魔力を喰うがグラムで『魄』を12本一度に斬れる。つまりエルなら一刀で斃せてしまう。

 だけどアキレウスの持つ『加護』は、母である女神テティスの愛から来た、きちんとした手順を踏んだ『加護』だ。この踵以外の全身を覆う神聖なる鎧を突破する条件は、その神性が彼より高い英雄をあてるか、彼の持つ神性より高いランクの神造兵装を使う以外にない。

 前者ならアルさん、後者なら聖剣を握るセイバーだ。だからセイバーがランサーの後ろに控えている。そしてその瞳は戦場を見渡していた。

 モードレッドとジークフリートは、樹々を薙ぎ倒し、森の奥で闘っている。時々凄まじい地響きがあるが、村には結界が敷かれてあったので届いていないだろう。

 

 案の定、姉さんの放った矢は躱された。敢えての『赤原猟犬(フルンディング)』だ。だから私の、ステルス性を高めるためにランクを落とした矢(言い訳。この程度しか作れなかった)、『ロンギヌスの槍』は通った。

 だけどそれが刺さったのは、踵でなく脹脛だった。セイバーみたいに直感力が高いのでなく、潜った修羅場の数が生半可ではないのだと思う。

 アキレウスと言えば踵だ。それはもう『アキレス腱』という名で、最大級の呪い(弱点)として広く識られている。悪い意味で信仰度合いも高い。

 だからきっと、当時からこのウィークポイントはある程度知られていたのだと思う。そこを突かれて戦死したのも事実だろうけど、それを掻い潜ってきた実績もあったのだ。

 見落としがちだけど、やはり最高峰の一角だった。だから『分け』となったランサーも清々しい顔をしていた。

 

「そんでも悔しいぜ? 勝ちたいのもあるけどよ、負けたくない相手だ」

「向こうも認めてたよね?」

「まぁな。けど、オレの武器って弱ぇなって思った。モードレッドみたいに柄モノを持ち替えるか……」

 

 こちらも戻っていたモードレッドがピクリと眉を動かした。ランサーにしても弱音でなく、客観的事実を述べているだけだとわかっているので文句は言わなかった。

 それでも色々な思いがあって『燦然と輝く王剣(クラレント)』を置いただけに、複雑な顔だった。

 

 そこに舞い降りてきたのが、エルマのワルキューレと後ろに乗った3人の妹達だった。モードレッドが立ち上がってエルヴァちゃんを迎えた。

 

「マスター、首尾はどうだった?」

「やっぱり、正体はケイローンでした。下半身は馬の他に人の形態も取れるようです」

「なるほど。けど見逃してくれるのもこれが最後だろう」

「そうですね。けれど上空からの奇襲はありだと思いました」

「そりゃあな。神話や伝説にあるような化け物に乗らない限り、空とは無縁なのがオレ達だからな」

「それでライダーの乗り物は?」

 

 そこで皆んながエルヴァちゃんを見た。

 

「しくったぜ。それすら出さねぇって……」

 

 格下扱いされた訳ではないので、そこまで悔しがってはいなかったけれど、ランサーががっくりしていた。だけど皆んなの目はイキイキしていた。そんなにすごい相手なのかと。

 だからランサーも皆んなの質問に答えていた。あいつはマジモンだと。認めたからこそ褒め称えたい、そういう心理ってあるよね?

 

 こうして初戦は終わった。向こうもアサシンを呼び戻して陣容を整え直すだろう。こちらは敵の城塞すらまだ見ていない。それでも陣取り合戦のように少しずつ進むしかなかった。

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