※この作品はR-18です。

プリズマ☆エルヴァ 第三部 霊脈篇   作:炭団

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95、アトラスの力強い腕

 初戦の間に私が何をしていたかと言うと、水汲みです。白いエルヴァ殿(キリツグ殿はエル殿と思っている)が、ドラム缶とバケツを出してくれていたのです。

 今夜から快適な生活を暫く望めそうもありません。そうなるとトイレやお風呂が問題になります。ですが森の中には小川があり、そこからドラム缶に水を溜めれば。

 洗面にも使えますし、濾過して煮沸すれば飲料にもできます。またドラム缶は数本ありますので、魔術で温めればお風呂にもなります。

 食料はブカレストやシギショアラで買い求めたものを、白いエルヴァ殿やエルマ殿が取り込んでいます。当然、日本からお米も持ち込んでいますし、飯盒もあります。テントもありますからバッチリですね。

 

 そんな風にして水を汲んでいますと、モードレッドと相手のセイバーが鍔迫り合いをしながらやって来ました。両者は結構手傷を負ってるようですが、マスターの治癒で治る範囲でしょう。

 それよりもドラム缶を蹴飛ばされた私は、カッと来て思わずバケツをその相手のセイバーに被せました。そしてアロンダイトを抜き、斬り付けた瞬間に霊体化されて逃げられたのです。

 

「あのバケツ、取れるのか? 宝具化してたぞ?」

「そんな事は宜しい。せっかく汲んだ水を零してしまって……」

「まぁ、それはオレも手伝うからよ」

 

 それで予備のバケツと脱いだ兜で水を汲み直す私達でした。

 

 

 

『ライダー、首尾はどうであったかな?』

『良い腕だった。それだけにちょっと惜しいな』

『ほぅ?』

『技量は特級だと思う。槍捌きだけなら俺よりやや勝るだろう。お互いに決め技を出してないから何ともだけど。けどな……』

『貴公の『鎧』には通用しなかったと?』

『ああ。けど仲間の一人、あっちのアーチャーがその『鎧』を抜いた。ランクは低いが神性のある矢だった。暫く全力では走れないな』

 

 この大英雄はそれが嬉しいのかニコニコとしている。

 

『少しは歯応えのある相手だったというところか。とは言え、何のための戦車だね?』

『だよな』

 

 左右に不死の神馬。中央にその神馬と負けずとも劣らない駿馬。その三頭立ての戦車こそがライダーの宝具だった。神馬の名はクサントスとバリオス。駿馬の名はペーダソス。現代にまで名が残る名馬中の名馬だ。

 そのクサントスを英語読みすればザンザスとなる。某バイクメーカーにそのザンザスとバリオスがあったのは余談だ。問題はこの宝具『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』の燃費だった。

 並の魔術師ならぶっ倒れるくらいに魔力を消費する。言ってみれば乗用車なのに大型トレーラーのような燃費なのだ。それだけの出力(威力)が常時あるという事なのだが。

 

『おっとセイバーが戻ったぜ。って、何だお前? どうした?』

 

 ここは『ユグドミレニア』の城砦、ミレニア城。元は城塞だったものを改装してここまで持って来たものだ。ちなみに城塞は街や村の一角にある要塞を指し、城砦は街の外の主要な場所に置かれた砦を指す。どちらの読みも『じょうさい』だ。

 そんな城砦の広間でラズヴァンはアキレウスの報告を聞いていた。しかし、そんな二人の前に現れたジークフリートの鎧の下は血みどろだったのだ。

 

『相手のセイバーの持つ剣が対竜兵装だった』

 

 ポツリと呟くセイバーに驚く二人。

 

『あの剣は危険だ』

 

 口数の少ないセイバーが二言目を話した。あの邪竜とも悪竜とも言われたファヴニールを斃した際に全身竜の血を浴び、更にはその竜の血を飲んだ事によって不滅の剣士となった。

 だがそれ以降、彼は闘いに厭いていた。誰一人として自分に並ぶ英雄がいない。そこからの悲劇は『ニーベルンゲンの歌』に詳しい。

 なおリヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』は、『ニーベルンゲンの歌』を題材にしたものではあるが両者のストーリーは微妙に異なっている。

 それはさておき、意外にもその竜から得た不滅の鎧は対竜兵装が弱点でもあった。菩提樹の葉があった事で血を浴びなかった背中の一部でなく、相手は堂々と剣士として真っ向勝負を掛けて来た。

 全身を覆う鎧に兜だったために顔はわからない。しかし、矮小と言ってもいいほどの体躯であの膂力。剣士として磨き上げた己の剣技に勝るとも劣らない、我流と王道がないまぜな、荒くとも精緻な剣。

 顔には出さないが、ジークフリートの脳裏に『好敵手』という言葉が浮かぶ。そして……。

 

『幻視でなければ、空をワルキューレの乙女達が飛んでいた』

 

 敵の層は厚い。空から攻撃する相手となるとライダー以外に対処のしようがない。『キ(・)ャ(・)ス(・)タ(・)ー(・)』は他国の組織が手を出さぬよう動いてくれている。

『アサシン』は使えないし、『バーサーカー』が戦力になるかどうか不明だ。私は頭を悩ませていた。

 そんなセイバーの三言目に驚く暇も与えてくれず、アーチャーが戻って来た。怪我こそしていないが、その表情は昏い。

 

『先生、そっちも何かあったのか?』

『……ええ。敵がうら若き乙女と年端も行かぬ少女達でした』

『嫌な相手をブツケて来るなぁ』

『ええ』

 

 女や子供?

 

『待ち給え。それは同乗しているマスターではなく?』

『ええ。少女達は空飛ぶ馬から離れて、自ら宙に浮いていましたよ。あれも現代の魔術ですか?』

『いや……それはあり得ない』

 

 サーヴァントの気配も、ここの大聖杯を使っていなければ感じられないかも知れない。ゴルドの報告は正しかったのだ。冬木式の大聖杯を使う召喚方法以外の方法がやはりあったのだ。

 ゴルドの報告だとあちらにはヘラクレス以上の英霊が居たそうだ。アーチャーとアベンジャーの二重召喚で、最高のパラメーターを得たギリシアの大英雄を素手で斃したという。

 それも驚きだが、何故かそのヘラクレスの召喚にもう一人のサーヴァントが召喚陣に現れたという。そういう事もあるのか?

 そしてゴルドと手を組んだ男が、そのサーヴァントに要らぬ事を言い逃げられたという。それもまた情けないが、『魔術師殺し』の手に落ちたという点が頂けない。

 当初は決闘状で誘い出し、ここでサーヴァントを召喚させる積もりだった。それはこちらの戦力を最大限に高め得る、最高の英霊を先に召喚するためだった。

 なのに相手はあの逃げたサーヴァントを今も維持し、それ以外のサーヴァントらしき者達まで引き連れてこの地まで来た。魔力供給はどうなっいるのだ?

 

 あの────廃墟となったアインツベルンの城で手に入れた数々の聖遺物。あれさえ奪えば恐れるに足らずと考えていた。何より一番乗り気だったのがゴルドだ。奴はアインツベルンの鋳造技術に惚れ込んでいた。

 そんな最高の技術を持つ家が10年前に滅びてしまった。その原因を調べ上げ、私に報告してくれたのがゴルドだったのだ。そこで私はダーニックの残した、聖杯に懸ける『夢』を叶えるのは今だと勇んだ。

 相手は『魔術師殺し』とその身内。小手調べと冬木に向かったゴルドは這々の体で逃げ帰った。それは良い。こうして魔力タンクとなるホムンクルスも提供してくれたし、サーヴァントも召喚してくれた。今も倫敦でキャスターを使って時計塔を抑えてくれている。

 例の部隊もよく動いている。まさかギャングから資金提供を受けるとは思わなかったが、時計塔が入手したマキリから流れた魔術書の翻訳書、その写しを上手く入手してくれた。それがあってのこの変則召喚だ。

 そうだ。すべての用意は整ったのだ。今更臆してどうなる。

 

『ラズヴァン?』

『おお、領主殿』

『まだ小手調べだ。相手の戦力の一端が見えただけで良い。心配には及ばんよ。これだけの英雄が集ってくれたのだ。この城には一歩たりとも入れはせん』

『領主殿……』

 

 逆恨みなのだろう。そこは理解しているし、その旨を領主にも話した。

 だが魔術協会へ送ったネゴシエーターは全員失敗した。もはや我々にはこの地の霊脈と当家の秘密であったロシアの霊地を護る以外に道はないのだ。

 そうだ。あのサーヴァントを引き連れた少女が、あの霊地を嗅ぎ付けなければ。じっくりと腰を据えて霊地開発し、魔術基盤を……。

 私は父やダーニックとは違う。基盤の独占までは考えていない。優位性を得たい、ダーニックとともに失墜した我が家の名誉を回復したい。そしてそれを娘のセレニケに譲りたい。ただそれだけだ。

 だが、運命というものは人を蟻地獄のように引きずり込もうとする。

 

『国のため、国民のため。そう信じた行いが、『吸血鬼』という悪名となってしまった。ラズヴァン、余には貴公の気持ちが痛いほど良くわかる。ともにこの地を護ろうではないか』

 

 領主殿を召喚したのは正解だった。その知名度補正の恩恵も、ワラキアとトランシルヴァニアを一歩でも出ればガタ落ちになるのは目に見えている。

 それでも気持ちを汲んでくれるサーヴァントは得難いものだ。それだけにあんな強力なバーサーカーを召喚してしまった娘が不憫だ。

 

 

 

「これってさぁ、どこで身体を洗うの?」

「あ~、そうだね。1回外に出るのかな?」

「3人だと狭い……」

「ま、いっか。先に出て洗うよ」

「あ、私も」

「やっと広くなった」

 

 妹達はキャッキャとドラム缶風呂に入っている。まぁ、まず体験しない事だからね。それに私達が見張っているので人目はない。星空の見える森の中というシチューションも楽しいだろう。でもなぁ……。

 

「あれ、私達も入るんですか?」

「入らないと。エルヴァもエルマも年頃なんだから」

「そんなエルみたいに羞恥心を捨て去った発言はいいですから。もう少しマシなアイデアはなかったのですか?」

「あれが1番手っ取り早いですよ? 私達の後、お父さん達も使いますから」

 

 彼女のモデルは本当に47番だった頃の私なのだろうか? どうもここに来てからエルっぽい。

 

「お姉様、一緒に入りましょうね?」

「嫌ですよ。それにあなたの『お姉様』は日本でしょう?」

「あ、自分でそういう事を言うんだ?」

「どういう意味ですか?」

「お姉様! 一体、イリヤさんとどういう関係なんですか!? 今日こそ吐いて下さい!」

「はぁ?」

「ですから。お、お、お、大人な関係なんでしょう? 姉妹と言いつつ、怪し過ぎです!」

「よ~~~く、わかりました。あなたがどういう目で私を見ているか。それが言えないから、私にと?」

「はい!」

「『はい』って……。そんな元気よく返事をされても……」

「エルマ、もっと押して。その子、ウケだから」

「あ~~~! お姉様ってそういうタイプだったのかぁ~~~~!」

「なんて事を。シィ~~~、声が大きい」

 

 

 

 サーヴァントでもない限り、『あなたの『お姉様』は日本』までは聞き分けられないだろう。ただ年頃の娘達が年下の娘達を肴に会話を弾ませているだけにしか聞こえないと思う。

 

『オッサン。どうした? 泣いてんのか?』

『ああ。俺って『娘』っていう存在に夢を見過ぎた気がする』

 

 いや、約一名、耳が良いようだ。

 

『衛宮さんよ。娘ってあんなに姦しいものか?』

『そうだよ、獅子劫君。君の娘さんの事も聞いたけれど、それは特別お淑やかで大人しい子だったんだよ。普通はこんなもんさ』

『……そうか』

『オッサン、娘が居るのか?』

『モードレッド!』

 

 慌てて止める私でしたが……。

 

『いや、いい。居たという過去形だ』

『す、済まねぇ……』

『良いんだ。意味はあった。出逢った事、一緒に暮らした事、悩んだ事。その全部が今に繋がっていた』

『オッサン……』

『なぁ~んてな、湿っぽいのは苦手だ。ほら、もっと呑め』

『おぅ』

 

 このカイリという好漢に何があったかは詳しく知りませんが、エルの能力を持つあの白いエルヴァが問題を解決したそうです。キリツグもとても優しい目で。弟のように感じているのでしょうか?

 

『夜更しを余りさせたくないんだけどなぁ』

『エルとエルヴァが、帰りしなに魔術で体内時計を調整すると話していましたよ?』

『そうか。それでイリヤにランサーとランスロットは?』

『周囲を警戒しています。アサシンが倫敦からまだ戻っていないなら、警戒すべきはキャスターとバーサーカーですからね』

『そうだね。もし以前の触媒と同じなら、今回はそれでアーチャーを喚んだのだと思う。となると、バーサーカーはどういう相手だろう?』

『わかりません。ただ、かなり強力な相手には違いないでしょう』

『ギリシア系かな?』

『さぁ。どうされたのです、キリツグ?』

『子供を抱えているからだろうね。不安ばかりが先に立つ』

『それは……』

 

 英語で話せといった意味がやっとわかった。アイリスフィール……あなたもこうやって、弱気になった彼の話を聞いていたのですか?

 イリヤが戻り交代の時間になった頃、彼は眠りに就いた。

 

 

 

 翌日、私達はまた前に進んだ。いよいよ遥か前方に城砦が見えて来た。アーチャーが城砦の塔の上に立った。城門前には三頭立ての戦車だ。

 

『あの戦車が宝具か。オレも戦車が欲しいところだ』

『あれは空も飛べると思いますよ?』

『やっぱりか。で、この槍なら通るんだな?』

『最低限は。ランクが低いですから』

『十分だ』

『けれど、危ない時はセイバーを跳ばします』

『その戦法を見せなかったのは、アイツが躱す可能性があるからか?』

『ええ。ライダーだけでなく』

『上等だ。敵はそれくらいでないとな』

 

 エルヴァとランサーの会話。ランサーはいつも通りだ。

 

『モードレッド』

『ああ。見ていてくれ、父上』

 

 兜で覆われているので、くぐもって聞こえるが、モードレッドも涼しい声だ。

 

『行くぜ!』

 

 戦端を開いたのはモードレッドだった。何kgあるのかわからないが、あの重そうな重鎧を気にもせず、疾風となって駆けて行く。そこから魔力放出で加速に次ぐ加速。

 相手のセイバーの怒涛のような剣戟を躱して一閃。だけど向こうも巧い。大剣を持ち替えずに手首の動きだけでモードレッドの横薙ぎを防いだ。

 そこからは巻き込んでいなそうとする。剣を奪う積もりだ。それを察してかモードレッドも魔力放出で軌道を微妙にずらしている。

 もうそれは見た、知っているぞと言わんばかりに鍔迫り合いで睨み合う二人。おそらく次に来るのは、肩での激突か蹴り。そうやって間合いをとっての宝具発動。

 だけどモードレッドもそうはさせじと、再度再三の魔力放出で懐に潜り込む。振りかぶる隙きを与えないので、剣にも魔力放出出来るモードレッドの方が有利にも見えた。

 

『楽しまれていますね』

 

 セイバーの呟き。これは私への問いかけではない。今の状況を指している。モードレッドはジークフリートから、遊ばれているのでなく、楽しまれている。

 まるでゲームかエンターテイメントのように聞こえるが、戦場を駆け抜けた英雄だけでなく、武道をやっている人にもわかる感覚だと思う。

 ジークフリートが正攻法の人なので、時折邪剣を交えるモードレッドの剣筋が面白いのだ。これは時間が掛かりそうだ。

 

 一方、ランサーは一度でも受ければ負け確定の中で、実に見事に立ち回っている。しかし戦車が難儀だ。そろそろかな?

 私はエルマに合図した。頷いたエルマはカードを取り出し呪文を詠唱した。

 

 

『Old King Cole was a merry old soul And a merry old soul was he; He called for his pipe, and he called for his bowl And he called for his fiddlers three. Every fiddler he had a fiddle,And a very fine fiddle had he; Oh there's none so rare, as can compare With King Cole and his fiddlers three』

 

 

 長い呪文の最中に、森が息づき綺羅びやかに輝き始めた。緑の葉はより緑に。空はどこまでも青く澄んでいる。世界は元の色より鮮やかになっていった。

 目に見えない固有結界、『マザーグース』。エルマの持つキャスターのカード、『ナーサリー・ライム(伝承童謡)』の効果だ。

 この他にも様々な効果があるらしいが、これを作ったエル様にしかわからないだろう。だけどこれだけは判明している。この童謡の世界で最強なのは3人の子供達であり、それに次ぐのがコオル老王と同じケルト系の戦士だ。

 

 アーチャーの矢はヘロヘロ~と2mも飛ばないで落ちる。だけどクロエちゃんの矢は大気を斬り裂き、ソニックブームを撒き散らして飛んでいく。

 三頭の馬は左右が鉄で真ん中はブリキとなって、前に進もうとすれば関節から嫌な音がする。そこをモードレッドとなったイリヤちゃんとエルヴァちゃんが左右から斬り込んだ。

 

『なんだと!?』

『兄さんよぉ。降りて闘いな』

『コイツ……舐めんな!』

 

 そして子供達が左右に引いた。

 

『そこだ!』

 

 ランサーの槍がライダーの胸を刺した。やはり心臓にまで届かない。だけどそのタイミングでクロエちゃんとアーチャーのカードを使ったイリヤちゃんの矢が、アキレウスの踵を貫いた。

 

『ガァアアアアァァ……よ、よくも!』

『ウルセエ! 黙って逝きな! ゲイ・ボルク(刺し穿つ死棘の槍)!!!』

 

 槍を持ち替えたランサーがきっちり決めた。次に投げ捨てられた『ロンギヌスの槍』を受け取ったランスロットさんが、槍を己の宝具と化してアキレウスの喉に突き刺した。

 

 だけど斃せたのはライダーだけだった。アーチャーは早々に引っ込み、モードレッドの相手をしていたセイバーも、令呪の発動だろう、さっと消えてしまった。

 

 

 

『どうしてあんなのが、あのギリシアの大英雄に通るんだ?』

『歴史の古さや知名度に信仰はどうなってるんだ?』

 

 お父さんと獅子劫さんへの説明は私がした。

 

『その『古さ』という時間の長さは誰がカウントしていますか? 知名度と信仰は何人以上でどのくらいレベルが上がりますか? そんな事を本気で調べ、他の事で上乗せ出来ないかと考えた者が居る訳ですよ』

 

 それの最短は他者から補正分を奪う事だ。当然エルは、以前『世界』のシステムをハッキングしている。そして固有結界で覆い、世界の干渉を防ぎ、神秘の上乗せ分をこちらだけしか利用できなくするのだ。

 キャスター『ナーサリー・ライム』のカードは、エルが子供達を護りつつ活躍する場を設けるために作り出された本気のカードだった。

 そしてエルマに預けてある理由は、その魔力消費量による。不本意だが私と白いエルヴァの交代で、一人頭20分以上のキスをした。

 唾液の交換だけでなく、性感を高める事で供給パスのシンクロ率を高めねばならない。だから、本当の本当に甚だ不本意だけど、テントの中で衣類を脱がせ、思いっきりイカせた。

 

「願いが叶いました……。またお願いします……」

 

 嫌だよ。それより、息を整えなさい。

 

「では、お姉様の魔力が枯渇した暁には」

 

 暁って何だよ。そもそも私は女の子、ましてや妹とこんな行為をしたくないの。

 

「な? 男が良いと? だ、誰? まさか士郎さん……? いやいやいや……よ、吉川先輩?」

 

 全然違う。前者は弟で、後者は精神的なライヴァルです。

 

 テントから3人で出ると、妹達がモジモジしていた。

 

『若いって良いねぇ』

 

 獅子劫さん……? お父さんはタバコの煙が目に滲みるのか半泣きだった。

 

「だ、誰も防音結界を張っていなかったの!?」

「それはあなたが!」

「枯渇していた私には無理ですよ!」

 

 私達3人はそこらの樹に当たり散らしたのだった。きっとアキレウスも星となって呆れている事だろう。でもね、キミの敗因は、星になれても星座にならなかったところだよ。

 ヘラクレスはその知名度に星座やアニメの要素も入っている。『歴史の長さ』と『人々への浸透度』。その神秘の高みが『古さ』なら、信仰は『広さ』になり、浸透度は『深み』になる。その最高峰がヘラクレスなのだ。

『漢は星座を背負ってこそだ』と、アルさんも話していた。つまり射手座を背負う、あのアーチャーも最高の英霊なのだ。だからこそ、ステップアップとなるアキレウスの攻略は重要だったのだ。

 

 

 

『な、何故!? 何故ライダーが斃される!?』

 

 目の前で悠久の時を越えて再会できた愛弟子を殺された。援護の矢は足元にポタリと落ちるだけ。あちらのキャスターだろうか。あんな信じられない世界を限定構築出来るなんて。私はただ瞼を閉じるだけだった。

 

『ラズヴァン、あれは何だったのだ?』

『固有結界です、領主殿。信じられませんが』

『固有結界とな?』

『ええ。ある限定された範囲を術者自らの心象風景に塗り替える、禁呪とも言われる大魔術です』

『禁呪?』

『はい。余り言いたくありませんが、主にこれを使うのが高位の死徒か悪魔だとされているからです』

『死徒……つまり吸血種……』

『……はい。あの結界はこの城の城門前を中心に、視認した限り半径5km以上広がっていました。勿論、現実世界では精々1kmでしょう。ですが問題は、取り込まれてしまえば……』

『我が『極刑王(カズィクル・ベイ)』も通用しない可能性がある』

『ええ……。何よりあの空間が『誰の領土』だ、となります……』

 

 こうなると、取れる手は正攻法でなく奇襲などの手に限られる。しかしそれすらも、その手に絞らせるためだったと勘ぐらざるを得ない。

 

『バーサーカーを出すか……』

『ラズヴァン? 娘の命を危険に曝すか?』

『しかし、事ここに至れば』

『お父様。出ます』

『セレニケ、行ってくれるか?』

『はい』

 

 マスター達は覚悟を決めた。それを見た領主も私達も。

 セレニケ殿の後ろに、身の丈がセレニケ殿の二倍はあろうかという漆黒の大男が現れた。バーサーカーだ。その悠然とした佇まいは静謐だ。

 彼の狂化はランクが低いらしく、言葉こそ交わせないが、こちらの言葉は理解している。また、敵が誰であるかも。問題はその宝具にあった。

 その凄まじい宝具に、セレニケ殿が耐えられるかどうかだ。消費魔力量だけではない。その彼が懐く狂気が一気にセレニケ殿に流れ込むのだ。つまり、マスターにそれだけの精神力が求められる。

 魔力の問題は解決できた。精神汚染も魔力タンク側にある程度流せるそうだ。それでも限度はあった。強力なサーヴァントだが、強力であるが故に扱いが難しい。

 用兵とはそういうものだと軽く言えない。英霊を喚んで戦うからこそ起きる弊害だとも言えた。だが個別で当たろうとするこちらと違い、向こうは総力戦を行ってきた。

 数には数だ。彼の投入は当然の帰結だろう。

 

 

 

 お風呂に入りたいと言ったら、エルマお姉ちゃんがカードを持って歌を歌った。

 

 

『In marble walls as white as milk,Lined with skin as soft as silk; Within a fountain crystal clear,A golden apple doth appear. No doors there are to this stronghold ── Yet thieves break in and steal the gold』

 

 

 するとこんな何も無いところに白い霧のようなモヤがかかり、お風呂や私達のテントを覆い隠してしまった。こういう固有結界をポンポン使うのってどうなんだろう?

 

「それって何種類もあるの?」

「全部試してないけど、歌の数だけあるみたい」

「いくつ?」

「150以上」

「ひゃ、ひゃくごじゅう?」

 

 何だかとんでもない魔術だった。

 

「魔力は大丈夫なんですか?」

 

 エルヴァだ。

 

「うん。さっきの固有結界みたいに世界を塗り替えるなら大変だけど、いまのこれってただの結界だからね」

 

 ただの結界なんだ?

 

「それでも強力だよ? それとこんな風に同じ歌でも、何段階もあるのよ。さっきのなんてルビーを握っているのにあれだもの」

 

 ルビーから魔力を送られているのに枯渇した。つまり使う量と補充する量のバランスが取れていないのだ。

 

「あ~、私に貸せないって言った意味がわかった」

「はい。子供の私達じゃ使えませんよ」

 

 

 

『キリツグ殿、クルマが近づいております。同乗者にルーラーが居りますね』

 

 どこからともなく声がした。アサシンの誰かだ。

 

『セイバー、ルーラーの乗るクルマが近づいているらしい。当番に通せと伝えてえ欲しい』

『わかりました』

 

 やがて揺れるライトが見え、僕達の側で停まった。それは二軸タイプの716モデル、ピンツガウアーだった。軍用にも使われる、欧州では有名な全輪駆動車だ。

 そしてその、およそ迷彩色とは程遠いサファイア・ブルーに塗られたバンの外装には、大きく『Edelfelt』と描かれている。

 

『は?』

『エーデルフェルト?』

 

 降りてきたのはルーラーとルヴィア君、そして屈強なボディガードと、そのボディガードの助けで専用の車椅子に座り直した少女だった。

 

『ルヴィア君。君、危ないぞ。こんなところに。一体どうして?』

 

 すると困り顔のルーラーから一歩前に出たルヴィア君は、こんな事を言った。

 

『お初にお目に掛かります。エミヤさんですわね? 私はルヴィアゼリッタの双子の妹です。魔除けと家訓のために名は明かせませんが、便宜上ルヴィアで通して下さって構いません。プラハでもそう名乗っていますので』

 

 蓋を開けてみると、彼女はプラハの魔術協会に通うルヴィア君の妹さんだった。車椅子の子は親友だそうで、共同研究者でもあるという。名はフィオレ・フォルヴェッジというそうだ。

 

『どうしてここへ?』

『チャンスだと思ったからですわ。私は今まで身体が弱く、こうして表に出る事も儘なりませんでした。ですが姉を通じて送って下さった薬のお陰で、今はこの通りです。この受けました恩をお返しせねば、姉に立つ瀬が無いのですわ』

 

 それで支援すべく、武器や食料をここまで運んでくれたのだった。そして友人を連れてきたのにも理由があった。

 このフィオレ・フォルヴェッジという少女は、フォルヴェッジ家当代の令嬢で、先々代までは『ユグドミレニア』に参加していたのだ。

 だから現『ユグドミレニア』の頭首であるラズヴァン・アイスコル・ユグドミレニアを知っているという。そこで我々に情報を提供しようと、こいうやってわざわざやって来てくれたのだった。

 そこでエル君やエルヴァ君を交え、僕達はその情報を聞いた。そして様々な見えない事が見えて来た。それは運命に翻弄され、逃げるに逃げられぬ立場に追い立てられた者の悲哀だった。

 

『アイスコルの小父様はそこまで悪人ではありません。ダーニック・プレストーンの野望に巻き込まれ、時計塔に憎まれ……。ダーニックの盟友だった先代ならわかります。ですが小父様はその汚名を娘さんのセレニケさんには被せまい、他の家にも『ユグドミレニア』から逃げなさいと、一身に戦って来た人なのです』

『つまり……?』

『はい。私がプラハで学生生活を送れるのも、その汚名を肩代わりして下さったからです。魔術協会と敵対したい訳では無いと思います。目的は名誉回復でしょうから』

『では、どうしてアインツベルンに決闘状を?』

『すみません。そこだけが謎です……』

 

 僕はそこでエル君とエルヴァ君を見た。現状エルヴァが居ないこの場で、霊脈の事を話せるのは二人だけだ。だけど二人は何も話さなかった。決して他家には漏らせぬ事。その強い意志だけがあった。

 

 

 

 夏といっても、東欧の夜は肌寒い。パチパチと爆ぜる火を囲み、乙女達は語り合っていました。地面へダメージを残さぬよう、私が台座となる石を組んだんですよ。

 

『フィオレ、ここまで来ましたけれど……。アイスコル家を救えるかどうかまではわかりませんわよ? そろそろ明かして頂けませんこと? どうしてそこまであなたが肩入れするのかを』

『小父様はセレニケさんの捨て石になるお積もりでしょう。ですからそれは仕方ないのかも知れません。ですが……』

『ですが?』

『質門の答えです。その昔、私がまだ幼い頃でした。父が魔術の触媒に、飼っていたペットの犬を使おうとして。それを止めで下さったのが小父様だったのです。魔道には非情にならねばならない時もある。けれど、子供にトラウマを残さずとも済む方法があると。それで鶏の料理を振る舞ってくれたんです。〆るところからなさって』

『それはそれで……』

『ですけど、それは日々の調理の範囲です。そう思えた時に私の魔道が始まったのです』

『姉が……』

『お姉さんが?』

『ええ。姉が日本で料理を教わっていて。今は30cmくらいの魚なら簡単に処理できるそうです』

『魚って……』

『フィンランドでは魚もよく食べますのよ。その違いでしょうね』

『ああ……』

『ですが、鶏と聞いてそれはそれでと思った私もまだまだですわ。姉なんて父についてトナカイ狩りもしていましたからね。それもきちんと解体し、腑分けして肉を切り落とし……跡継ぎに選ばれるのには、そういう部分もあったのでしょう。身体が弱かったのもありますが、今もこうして礼装ばかりに拘るのは、血を見ずに済むからですのよ』

『それは私も同じです。そしてそれでも『開位(コーズ)』を得れた。十分ですよ』

『何を仰って。目指すは『冠位(グランド)』ですわよ?』

『フフフ……そうですね。お姉さんには負けられない?』

『当然でしょう。しかもあちらは何をやったのか、時計塔を中退ですわよ? 今がチャンスですのよ』

『中退……。何かの任務でなく。それで日本へ?』

『よくよく調べれば、そういう事でしたの。今は高校に通っていて、卒業後にプラハに来るそうですわ。それまでに階位をもう少し上げておきたいのですわ』

『次の審査で『典位(プライド)』が確定したら良いですね?』

『他人事のように。フィオレ、あなたもですわよ?』

 

 実に微笑ましい会話ですね。こうして考えますと、私どもにあった『覚悟』も、その文化や風習に裏打ちされていたからだとも言えるのでしょうね。

 

『魔術師って面倒くさい生き物ですね』

『ええ。そういう家に産まれたのだとしても、その人個人が培う感性や倫理観は別物ですからね。魔道とは非道である。この先入観が自分の良心を押し潰すものなのだと』

『それは何故だと思います?』

『文化と風習でしょう。一番わかり良いのは食生活でしょうか。例えば同じ鶏を〆るなら、魔道に使おうと料理に使おうと同じな訳です。同じ一つの命なのですから』

『そうですね。そして現代の西欧人ほど人畜無害を気取って、生き物を大切にと声高に叫ぶ』

『草も花も同じ生命です。覚えていますか? 昔、東欧の、とある魔術師の前で活魚を捌いたら』

『フフフ……神経締めして血抜きしたんでしたね。腹を開いて内蔵を掻き出したら卒倒し掛かっていました。この国もそうでしょう?』

『そうです。国土の一部は黒海に面していますが、ルーマニア人に魚を食べる習慣はありません。アイスコルは残虐だ、残酷だ……それも悪口が広まっただけでしょう。トンボを鷲掴みして、羽を毟って背中の筋肉を食べたり……』

『バッタを何十匹も捕まえて串に刺し、焼いて食べたりね? エル様の方が残酷ですよ』

『そう考えると、話し合う余地はあるのかも』

『ですが、あの家もロシアの霊脈の価値に気付いていますよね?』

『そこですよね。そこをエルヴァちゃんがどう捉えるかです』

 

 こ、この二人は……。

 

『ランスロット、交代よ』

『わかりました、イリヤ』

 

 ランスロットと交代した私は、ぼんやりとルヴィアの妹達を眺めるルーラーに話しかけた。

 

『また、行き倒れてたの?』

『違います。報告を受けていませんか?』

『何の?』

『あちらのアサシンが逃亡して。それを追っていて偶然出逢ったんです。それで行く先が同じなら保護がてらと』

『逃亡? こっちのアサシンの包囲網を破って?』

『ええ。ですけどあなた方のアサシンに。思いの外、簡単に破れました。最初から戦意がなかったような……』

 

 エルマは報告を受けているだろう。それを二人も聞いているはずだ。となると、この見張りに出ていた間の事だ。どういう事だろうか。

 

 〈戻られましたか?〉

 〈ええ。ルーラーから聞いたわ。あちらのアサシンを斃したの?〉

 〈はい。こちらのアサシンとエルマが〉

 〈戦意が無かったって?〉

 〈最初から負けると信じ込んでいたようです。どうもハサンの同時代人で、教主に選ばれなかった人だったらしいです〉

 〈だから、教主だったアサシンには勝てないと?〉

 〈そうです。そしてエルマが持つアサシンのカードの元でした〉

 〈同じ能力って事?〉

 〈ええ。それで勝ったは良いですが、偶然というか何も知らずに斃してしまって。それで落ち込んでいましてね。そんな事もあって、気分転換にでもなればと子供達のお風呂の番を頼んでいます〉

 〈そうだったの……。わかった。こっちからエルマには訊かないようにするから〉

 〈お願いします〉

 

 ああ、お世話になっているカードの元を、知らずに倒しちゃったのか。それはちょっとね……。

 

『それであなたは、この先どうするの? 今回の戦いにしたって、規模は限定的だし、本当に家と家の争いよ? それに勝ってもマスターにまで手は出さないと思うわ』

『ですね。サーヴァントを倒すだけのようですし。どうして喚ばれたんだろう?』

『さぁ? サーヴァントの数で勝手にそうなる?』

『そんな気がします』

『てもさ。マスターは倒さないと言ったけど、魔力タンクにされているホムンクルスの声次第で変わるかも』

『あ~……アインツベルンですものね?』

『そう。その盗まれたかどうだか、細かいことはわからないけど。奪われた術式があるなら奪い返して記憶を消すくらいはやるだろうね』

『そこは、はい。私が感知するところではありませんので』

 

 ふ~ん、優等生って感じの子ね。

 

『もう、お盆だよ? 甲子園に行ったりしないの?』

『コウ……何です? どういう意味ですか?』

『だって、史上初のチアリーダーなんでしょう?』

『え? ええ~~~っ? あなた、私をなんだと?』

『史実通りに話したつもりだけど?』

『私ってあなたの認識では、一体全体どうなっているんですか!?』

『簡単に言えば、女性応援団。旗を振ってさ。かっとばせーとか言ってるんでしょう?』

『微妙に合っているのが悔しい……』

 

 良いなぁ。思った通りの反応を返してくれる。ちょっとセイバー似の面白い子だ。

 

 

 

『だいたい、家門とかそういうのに拘り過ぎだと思いますね』

『名門だと誰かに言われれば、舞い上がってね』

『そうそう。お前は『名古屋→新門司港』かと』

『アハハハ』

『あと、物事を二者択一で決め過ぎです。洗濯カゴは一つでも、選択肢なんて幾つでもあるのに』

『3号線も丸星と丸幸以外もあるよと』

『上手い! けれどアントワネットが言ったかどうかは別として、あの言葉も正しい訳で』

『パンがなければご飯を食え。ご飯がなければお好み焼きでもヤキソバでも』

『日本って豊かだなぁ。ああ、ラーメン食べたい』

『ですよね。インスタントで良ければ作りましょうか?』

『何があります?』

『出前◯丁、サッポロ◯番の味噌と塩、ワンタンメンにチャル◯ラ、それとうまか◯ちゃん』

『それ全部、昭和から生き残っているド定番だ。しかもチキ◯ラーメンを外している!』

『あれ、そんなに美味しくないでしょう?』

『うん。3年に1回は食べたくなる時があるけれど』

『最近出力されたのに3年って……』

『うまか◯ちゃんを辛子高菜、紅生姜トッピングで』

『あなた、ドイツ系でなく肥前・肥後系?』

『はい。実のところ博多や長浜より久留米か熊本派です。博多はうどんにゴボウ天だなぁ。大分のとり天と宮崎のチキン南蛮も外せません』

『あなた、本当に私がモデル?』

『どうでしょう?』

 

 

 

 フィオレをお手洗いから連れて帰る途中、あのアインツベルンの二人が何やら食べておりましたの。

 

『いい匂いですね。何でしょう?』

『ヌードルですわね。姉のメールにありましたわ。日本のヌードルは凄いと』

『はぁ~、お腹が空いてきました』

『ですわね。少し覗いてみましょうか』

 

 歓待されたのは嬉しいのですが、何を仰って……?

 

『フィレオがトッピングされにやって来た』

『チキンでもフィッシュでもない!』

 

 何が何だかわかりませんが、ともかく彼女達は私どもにヌードルを振る舞って下さいましたのよ。これがまた美味しいんですの。姉がハマる理由がわかりましたわ。

 

『塩ラーメンに半熟目玉焼きは外国人のウケが良いですからね』

 

 そうなんですの?

 

『それとあなたの姉が1番ハマっているのはカレーライスですよ』

 

 カレー? あの香辛料の効いた、インドの?

 

『それが英国に渡り、日本でお米と恋仲になったのです』

 

 ほぅ、面白そうですわね?

 

『では、手が空いたらカレーライスをご馳走しますよ』

 

 楽しみですわ。手を取りあって喜び合う私達でした。

 

 

 

『な、何? アサシンが脱走して消えたと……?』

『はい、お父様』

『彼女は一体、何故あそこまで我々を嫌ったのだろうか』

『私達が彼女にとって異教徒だからですわ』

『異教徒……。それでも偵察には出てくれただろう?』

『はい。それは自分の置かれた状況を知るためでした。それで彼女は出逢ってしまったのです』

『誰と?』

『相手のアサシンです。信じられませんが、彼女がアサシンの教団に居た頃の教主だったのです』

『な、なんと……』

『彼女もまた、『しがらみ』に悩める者だったのですね』

『サーヴァントは召喚者に似ると言うが……因果だな……。それで真名は?』

『通り名は『百貌のハサン』。真名は歴代教主と同じハサン・サッバーハです』

『何もわかっていないのと同じか……』

『いえ、それでも『唯一手に入れられなかったザバーニーヤ』『それは分裂』との念話を残してくれました』

『そうか。セレニケには残してくれたか』

『はい、信仰に純粋だったのでしょうね。魔道における姿勢だけは認めてくれていました』

『ああ……』

 

 惜しい。能力も高く、良い英霊だと思っていただけに……。だが、我らにはまだアレがある。




マザーグースは著作権が切れています事をここに記させて頂きます。
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